第29回  「謙虚さ」「感謝」
 
 すばらしいニュースが飛び込んでくると、陰鬱にならざるを得ない日本の国情に一筋の光明を見出せる、そんな気持ちになる。
 連日報じられている山中教授のノーベル賞受賞。今までの受賞した教授連とは違った記者会見の模様が、国民の耳目をさらった。

 そもそも、「この賞を取れたのは日本国のおかげ」「日の丸の支援があればこそ」という内容の発言をしてきた受賞者は私の知る限りいない(要旨としては、「わたしが受賞できたのは、日本という国に支えていただいて、日の丸のご支援がなければ、このように素晴らしい賞は受賞できなかったと、心の底から思いました」)。確かに一人の力や資金もなしにこのような発明や研究が出来るわけではない。基礎研究として大事であり、又本当の成果を見るまでにはまだまだ時間がかかることも考えると、いろいろな助力や援助が、「結果を伴わなくとも」下されていたことに大いなる畏敬の念を禁じえない。
 もっとも、「事業仕分け」という、最低のパフォーマンスに落としこめた、ときの政府のトップたちは、彼の成果を「自分のことのように」思っているようだ。当時、山中氏は、政府の仕分けによる研究費の減額に痛烈な批判を加えた人物でもあるはずであり、そういう過去を一切すっ飛ばして「おめでとう」などとはよく言えたものである。このあたりに今の政府の「薄ら馬鹿」さ加減が透けて見える。

 感謝を述べて舞台を去る人もいる。阪神タイガースのいぶし銀・金本選手である。
 引退セレモニーの挨拶では、冒頭いきなり、ここまでにかかわったすべての人にお礼申し上げる、と深々と頭を下げて始めた。広島の下積みの3年間がなければここにこうして立っていないとも語り、また、引退を決めてからのサインボードには「夢をありがとう」と書かれているが、そういいたいのはこっちのほうだ、とここでも又ファンをがっちりとつかむ。そうかと思えば、最終戦の対戦相手でもあった横浜の新監督を俎上に上げて「監督ばかりが目立ってちゃあだめ」と痛烈なだめだしw又、「日本一」は後輩たちへの宿題にしたい、として無念さをにじませる場面もあった。
 最終戦の彼のプレーは、本当に「あ、この人野球が好きなんだな」と思わせるのに十分すぎるほどだった。盗塁も決め、最後は暴走憤死。こんなに盛り上げられる選手が今の阪神にいるだろうか?そう考えると、精神的な面は言うに及ばず、技術的な面や肉体的な部分でも「いるだけで」参考になったはずであり、彼の喪失は阪神球団の大いなる損失になることは間違いない。その中で、今期の成績を振り返って十分な補強をしないと、金本が叱責したチームの後塵を拝することにもなりかねない。

 記者会見やスピーチで感動を呼び起こさせる人がいる。それは、まさに「人生のプロ」が放つ言葉だから、重みがあり、又、自分たちにもつながる部分があるから感動するのである。
 齢45にもなって、そういう、人を感動させるスピーチが出来ない(する必要がない、という話も・・・)小生だが、彼らに少しでも近づける、そんな生き方をしていきたい。
 

 
 コーナートップへ