第15回 変えるべきもの・変えてはいけないもの
「風の谷のナウシカ」が公開されて、もう30年近くになる(1984年製だと記憶しているので、来年が30年目。という事は、それを記念してまたテレビ放映ですかwwwww)。
当時のわたしは、といえば、「うる星やつら」の研究・分析に躍起になっており、今でもたまに当時のノートを読み返すことすらあるほどである。またその一方で今のアニメーションの基礎的な部分を作った作品たちも勃興していた時期であり、当方が「アニメーション爆発期」と銘打った数年間に、多感な時期を過ごせていたことは本当にめぐり合わせでしかない。
この当時から、「監督をしていた宮崎氏は大物になるよ」と予言していた小生。実際、「ラピュタ」で冒険活劇をやってのけ、「トトロ」でファンタジーを映像化。興行収入こそ振るわなかったものの、まさに「絶賛」の嵐が宮崎氏に訪れる。それ以降はまさに右肩上がり。「千と千尋の神隠し」ではなんと、2300万人超を動員する奇跡までやってのけた(アニメーション単体でこの観客動員を抜ける作品は登場していないどころか、日本の興行史上最多を未だに維持している)。
しかし、それ以後の凋落振りは目を覆うものがあり、振るわない状態を今も続けている<前作は「コクリコ坂から」の355万人。1000万人超は「ポニョ」以来2作連続でない>。
そんな中で今回渾身の一作と話題になっているのが「風立ちぬ」である。戦前の日本が舞台であり、零戦の設計者にまつわるストーリーが原点になっている。言わずと知れたことだが、飛行機系に造詣の深い宮崎氏ならではの取材テーマだといわれていて、当方もちょっと期待していたのだが、主役にあろうことか、同じアニメーターの庵野氏を起用するなど、相変わらずのキャスティング振り(既に試写の席上酷評が続出している)。当然お子様向けではなく、ジブリの作風にそういったものを求めている層には総すかんを食らうだろうし、結果的にそんなに多くの人が見に行くとは考えられない。ところがそこへもってきて、彼の政治信条・憲法解釈が公表され、既にネット上では大激論になっている。
わたしも読ませてもらった。「愕然」とするほかなく、彼ほどのクリエーターでも、ちょっと図に上るとこんなことまで言い放ってしまうのか、と悄然とせざるを得ない。
突っ込みどころは満載なのだが、タイトルである「憲法を変えるなどもってのほか」だけで十分だ。憲法の成り立ちを見ずに現状だけを評価し、しかも、9条に代表される、戦争をしないでこれたことに対する他国の深謀遠慮や日米安保による回避が効いていることすら念頭にないような筆致を見るにつけ、「門外漢が、齧りさしの歴史認識をふりかざして悦に入り、周りから袋叩きに会う」典型例としか映らなかった。日本人が作ったものならいざ知らず、占領時代に当時のアメリカに作ってもらったものでも「変えるべきではない」とは、日本人を、日本国をどう考えているのかを自己紹介してしまっているのと同じだとは考えられないのだろうか・・・。さらに慰安婦問題にまで言及しており、どこぞの某市長並みの不勉強ぶりでそんな間違った考えなら言わなきゃいいのに、と気の毒にすら思えてしまう。彼ほどのアニメーターでも「0点」を取ってしまう回答が書けるものだと正直信じられないのである。
当方は既に何度も書いているように「速攻改憲」派である。日本人が作る憲法ではじめて、日本人は日本国に恭順の意を唱えることが出来るのである。「帝国憲法にまで戻るべき」という論を掲げる人もいるが、帝政でなくなっている以上、ここまで時代を巻き戻すのは無理がある。勿論、それをモチーフに現代に沿うように改定するのは大賛成である。
確かに憲法を神格化してしまっている宮崎氏の論から言えば、「触るなんてとんでもない」となるのはよくわかる。だが、それ以上に変えてはいけないものが他にあるはずである。それはアニメーションという映像手法であり、宮崎氏自身である。別に監督が真っ白の純粋無垢である必要はないものの、こんな風な信条を持っていることがスクリーンに垣間見えてしまうことを恐れるのである。何も考えずに見ていられた黎明期のジブリ作品と、スポンサーに左右され始める中期、そして一種傲慢とも受け取れるここ最近の作品と、まったくその顔立ちは変わっている。もはやトトロのころの純粋な作風は取り戻せるはずもなく、この新作に、政治的メッセージが内包されているとさえ想起させてしまう今回の発言は、マイナスに作用するはずである。
当初「歴史を知らない老人のたわごと」でスルーするつもりだったが、余りに国家感のない発言に驚いてしまい、結構な長文になってしまった。ブログでは「君は黙って隠居でもしてろwwww」とこの上ないほめ言葉を送っている。老害が顕著になりつつある宮崎氏と、加齢臭漂うその作品。期せずして終焉の二文字を見ることになろうとは思わなかった・・・。
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