徹底解析! 重箱の隅  その7

 ククト星でまさに「やりたい放題」のクルーたち。あの陣容で、ククトニアンの収容所を解放できたということがいまだに信じられない。このことを中心に、40話までのおかしな点を上げてみた。しかし、ここで挙げた内容は、このアニメーションの根幹をも揺るがす大問題でもある。

 
 ・メルの父親が地球語をはなせているのはなぜ?(37/38)
 ・ククト軍の管理体制はどうなっているの?(37)
 ・え?!たった五人だったんだ(38)
 ・サライダの発言は、聞き捨てならないぞ!!
 ・どうして、ハーフのミューラァが軍に入れたのか?
 

 ○メルの父親が地球語をはなせているのはなぜ?
 37話と、38話は、あらゆる意味で、クルーたちのチームワークが発揮できた回である。問題のシーンは、ククトニアンの収容所に潜入できたカチュアとメルが、メルの父親という男と昼食を取っているときに起こった。メルの父親と名乗る男は、カチュアとの会話を難無くこなしているのである。
 カチュアに「地球語がお上手ですね」と聞かれると、「あまり、うまくはないがね」と応対している。さて、ここで問題になるのは、どうして、メルの父親が、地球語を話せていたのか、と言う疑問である。
 この答えになるシーンは、実は38話に用意されていた。解放された、ククトニアンたちは、反乱分子の一味である事、そして、メルの父親は、なんと軍にも所属していて、ミューラァの事もよく知っている、と言うのだ。
 言語については以前にちょっとだけ問題提起したわけだが、ジックリ解析に移りたい。まず、「日常会話が出来るほど、ククトニアンは、地球語を学習していたのはなぜか?」。日本人を例に取ってみよう。ご承知のように、会話が主体になっていなかった80年代の英語教育を受けたものは、文法や単語自体には強くなっていても、会話で意思疎通を図る事は、ほとんど出来ていないと思われる。逆に、今英米人とまともに会話できるのは、 ・その環境に、否応無しに放り込まれた人 ・苦心して会得した人 ・生まれながらにして外国育ち(帰国子女) と考えられる。つまり、回りの環境が、しゃべらせている、と言う事が言える。
 ところが、ククトニアンの唯一の公用語はククトニアン(ククト語)である。すなわち、日本人とほぼ同じような状況であると推定される。特別な教育なしに外国語であるところの地球語が話せるとは思えない。
 となると、ミューラァと、メルの父親がそれほどよどみ無く、地球語を話せている事は、彼らの関係が明らかでない限り、闇のなかであるはずだった。ところが、メルの父親は、「軍にいて、ミューラァも知っている」と証言するのである。
 ここで疑問が又出てくる。「ククト軍は、軍として、地球語取得に躍起になっていたのではないか?」と言う事である。ミューラァを知っているメルの父親が、地球語でミューラァと意思疎通を図る必要はない。なんとなれば、ミューラァもククト語は話せているからである。日本人同士が、英語でわざわざ会話しないのと同じである。ということは、地球語が流暢であればあるほど、場数をこなしている=そう言う環境下に軍がなっていたとするのが、妥当な考え方である。
 では、なぜ軍は地球語の会得をこれほどまでに真剣に取り組んでいたのだろうか?かなり前にさかのぼるが、ククト軍は、地球軍に対して、侵略を止めるよう、地球語で抗議してきたということがあった(5)。この事などから考えても、ククト軍は、遅かれ早かれ、地球軍と一戦交えるつもりがあったのではなかろうか?そうでなければ、地球語を、日常会話レベルにまで、習得する必要は感じられない。ちなみに、ミューラァは、「大宇宙のうた」(44)でも証言するが、この事については、そのときに論評したいとおもう。
 地球語自体、ククト語とは文法的にはそれほど異なっていなかったと推定される。習得はそれほど難しくなかったのだろうが、軍関係者だけが地球語を話せているのは、やはり奇異に映る。
 
 ○ククト軍の管理体制はどうなっているの?
 37話で、収容所の夜襲が決行できたのには、いくつかの、クルー側に有利に働いた事項があるからである。
 ・深夜の潜入  ・早朝の紛れ込み  ・昼食  ・夕方
 このどこかで、軍のチェックが入っていれば、確実に計画は頓挫していると思われる。深夜の潜入や、早朝では、発見されていれば、とっくに計画は破綻している。ところが、昼食や夕方の点呼などを取るときに、全く発見できなかったと言うのは、どういうことなのだろう?
 人員は、それほど上下するはずも無く、むしろ出入りが毎日のようにあればなおさらチェックは厳しくて当たり前である。朝と夕方の時点で、二人のずれを確認できなかった、軍のチョンボはまぬかれない。
 もう一つの要件は、「軍が、子供たちまでも使役していた」と言う事実である。もし大人たちだけが仕事場にいるのであれば、子供が紛れ込む事は不可能である。又、「子供はなぜか収容所服を着ていなかった」と言う点も、紛れ込む事を可能にした要素といえる。
 もし、軍がきっちり管理していれば、夜襲につながる、内通はできなかったはずで、この部分でも、またククト軍の「括弧悪さ」が浮き彫りになってくる。

 ○え?!たった五人だったんだ
 収容所から解放された捕虜たちは、自分たちの移動手段として、基地に残っていた輸送機に目をつけ、これを強奪する計画をスコットに打ち明ける。結果、ロディの窮地を救う事にもなると言う助言もあり、クルーはその計画に参加する。
 しかし、私は当該場面を見て、驚いた。RVはバーツのネオファムはともかく、トゥランファムには、銃座/マキ、コントロール/カチュアという新コンビ。しかも、地上部隊は、実効5名(!!)という貧弱さなのである。
 もともと、私は、もっといただろうということから、「小銃の数がおかしい」と書こうとしていた。しかし、わずか5人で、のこる基地にいた、数十人を相手に戦うのは、どう見たって無謀である。
 また、増援部隊も来ていた事などから、襲撃側に、もう少しの人員が必要であることは察しがつきそうである。わずか5人と言う点でもビックリだが、それが又成功してしまう(死傷者が、襲撃側で出ていないのも凄すぎる!!)のも驚きである。

 ○サライダの発言は、聞き捨てならないぞ!!
 うまく、リベラリストたちと合流できたクルーたち。たまたまではあるが、ロディの好敵手でもあった、ミューラァは、囚われの身となってしまう。
 それでは、ミューラァ氏の歴史を紐解こう。初回の登場は、29話。内乱によって、もぬけの殻になってしまっていたはずのタウト星で、なぜか彼はいたのである。しばらくはなりを潜める事になるのであるが、31話で、ロディは相見えるのである。34話で、彼は、「シド・ミューラァ少佐、第三ククト星師団第二特務別働隊 隊長」と自己紹介している。そして、39話で捕虜になってしまうのである。
 ロディは、ミューラァにあってみる、と単身、基地に残る。そして、両雄がはじめて面と向かってのご対面を果たすのである。その途上で、サライダが入ってくる。そして衝撃的な事が本人の口から告げられるのである。
 「私は、地球人とククトニアンとのハーフである」と。
 さらに詳しい事を聞こうとしたロディは、サライダと会見を持った。以下が、その記録である。

 『(前略)
  地球人がベルウィックの開拓を軌道に載せたころだ。彼女は宇宙生物学の研究員の助手として、第2次調査隊に参加していた。もっとも、これは後で彼女から聞いたんだがね…。ある日、宇宙船から外に出て、サンプルを回収しているとき、事故が起きてね。戻れなくなってさまよっているところを、偶然通りかかった政府軍の偵察艇に発見され、マヌス方面軍、つまり、コロニーに保護されたんだよ。
 (じゃ、彼女はそこでククトニアンの人と…)
 あぁ。結果的に二人は結婚したが、最初からうまくいったわけではない。文明の違う異星人の中での強迫観念から、自殺を図った事も幾度かあったらしい。そういったときに、献身的に彼女を見てくれたのが、シドの父親となった人だ。彼女より年上の、若い優秀なドクターだった。
 (だった…?)
 あぁ、シドを宿すとまもなく死んだ。クレアド星に医師として派遣されたとき地球軍との戦火に巻き込まれてな…。(愛し合っていたんですね、二人は)
 もちろんだとも。人がうらやむほどね。シド・ミューラァが物心ついたころ、突然彼は孤児となってしまった。(すると、お母さんは…?)
 地球軍の進出が日に日に目立ち始めたころ、軍に強制連行されてね。彼女はついに戻ってこなかった…。むごい話しだ!ただ地球人というだけで…。』
   
 さて、このことをくわしーく見てみよう。そうすると、すごい矛盾が明らかにされてしまうのである。
 @ミューラァの父親は、当初の母親の相手ではない?
 日本語にしにくいので、とりあえずはこう書いておく。さて、ここからは話しがややこしくなるので、A、Bとか、代名詞で進めて行く。
 サライダの発言の6行目まででわかる事は、ミューラァの母親(地球人、A)は、コロニーに拾われて、そこで結婚する事になる(もちろんククトニアン、B)。ところが、この結婚は『最初からうまくいったわけではない』。ということで、『献身的に彼女(A)を見てくれたのが、シドの父親』(C)が登場してくる。
 サライダの言い方に注目したい。もし、BとCが同一人物だったら、こんな、持って回った言い方をするだろうか?「シドの父親となった人だ」と言う言い方は、明らかに、BとCは同一人物でない、しかも、BよりCの方が後に登場している事の証しになる。
 つまり、最初に結婚した相手と、シドの父親は別人である事がわかってしまうのである。当初、「これは不倫か?!」と色めきたったが、不倫である証拠はつかめない。最初の結婚は、途中で挫折した、そして(C)にあった、と見るのが、正しい見方であろう。

 Aちょっと待った!ミューラァは幾つや!!
 まず、私は、サライダの発言の中でミューラァ出生にまつわる部分を抜粋してみた。
 『シドを宿すとまもなく死んだ。クレアド星に医師として派遣されたとき地球軍との戦火に巻き込まれてな…』(再掲)。
 ミューラァがこの世に誕生した瞬間である。正確に言うと、受胎し、その後しばらくして生まれる事になる。
 それでは、ミューラァが生まれた時期を特定していこう。まず、そもそも、ベルウィック星への地球人の入植は、17年前、つまり、2042年ころのことなのである。これは、第1話でクレアド星の司令が、漏らした言葉である。で、あるならば、開拓部隊に所属していた、ミューラァの母親は、これより以前にベルウィックに来ていなければならない。ここまではなんとか説明できるのだが、サライダのあの言葉が、最後に邪魔をするのである。
 サライダが言った言葉を解析してみる。ミューラァの父親は、地球人の母親と情事におよび、ミューラァを受胎、その後で父親は、クレアドでの戦火に巻き込まれて死亡している、と言う事であろう。
 続いては、おのおのの要素について解析していく。クレアドでの戦闘が最初に勃発したのは、ラレドの証言と、カチュアの年齢から考えて、12年前の事であると思われる。つまり、当時「ククトニアンの移住実験プロジェクト」を立ち上げていたクレアド星に、地球人が武力で制圧、ここにミューラァの父親もいたものと推定される。そして、その途上で、ククトニアンの両親から産まれたカチュアが育ての親に預けられているからである。
 もうこのあたりで、「オヤ」と思える状況証拠が見え隠れしている。ということは、ミューラァは、いつ産まれたのだろうか?サライダは、ミューラァを取り巻く家庭環境について、時系列に則って話しているはずである。ということは、「ミューラァの母親が政府軍に救助された」時では無く、「父親がクレアド星に行く直前」、もしくは、「父親がクレアドに行った直後」でないと、話の整合が取れない。ということは、どういうことか?最も遅くとも13年前にミューラァは生まれていることになってしまうのである。つまり、彼の表面上の年齢からは想像もつかないような結論になってしまうのである。
 しかし、私には、彼・ミューラァが、12、3歳の子供にはどうしても見えないのである。彼は立派な青年であり、年端も行かない子供が部隊を指揮できようはずもない。何か見落としている事はないか?
 そして、私は、物理的な、この項目にはたと気付いたのである。
              『地球人とククト人では年のとり方が違う』
 人間(地球人)の「1歳」とは、生まれてから1年経ったときに加算される。しかし、同じ1歳でも、動物では考え方が変わってくる。馬を例に取ると、馬の1歳=人間の約10歳分といわれている(現行国際表記での考え方)。犬も約3〜5歳分といわれている。要するに早く年を取ってしまうのである。
 もし仮に、ククト人の一歳が、地球人で言うところの2〜3歳だったとしたら…。12年前に生まれたミューラァは地球人の年齢に換算すると、24〜36歳と言うことになり、見事に表面上の年齢と一致する。
 しかし、ミューラァのことが解決してしまうと、このことが疑問として頭をもたげてくる。
 「カチュアも本当はそれくらいの年頃?!」
 ここで大きく躓く結果になってしまうのである。何度も言うように、ミューラァとカチュアは、生まれた場所こそ違え(ミューラァ:ククト星、カチュア:クレアド星)、生まれた「時期」はほぼ同一なのである。ククトニアンは、動物的な年の取り方があるのだとすると、当然カチュアも、「お年頃」でなくてはならないと言う、とんでもない結論が見出されてしまうのである。
 しかし、生まれと育ちが違うということに、私は着目した。つまり、ククト星でもしカチュアが生まれ、育っていたとしたらこのくらいの年齢になっていたはずだが、クレアド星で生まれ、育ったので「表面上」12歳のままだったのではないか、とする仮説を打ち立てたのである。
 もっともこの仮説、証明する手立てがないのである。唯一、原因としてあげようとした、星の公転周期にしても、クレアド自体が地球と違うはずで、その周期がわからない以上、証明のしようがない。もっと言えば、他のクルー全員の年齢だって、基準がばらばらのはず(育ったところによって変わっている筈。地球時間で年齢を表記することは実質不可能)で、なぜミューラァがあれほど年を取っているのか、理解に苦しむ。
 ミューラァはいつ産まれたのか?「バイファム」史上の謎として、この事も加えられる事になるであろう。

 ○どうして、ハーフのミューラァが軍に入れたのか?
 ミューラァが地球人とククト人とのハーフである事が完全に明白になったのは、本人の口から明らかになった、40話とみていい。しかし、その前に一度、それらしい事を軍の上司からほのめかされているのだが、その部分では、取り上げるほどの強さを持っていなかった。
 さて、この事は、実はククト軍の謎でもある。当時の社会情勢から鑑みても、地球人とククトニアンとのハーフが生まれるとは、考えにくい状況だったはずである。
 しかし、ミューラァは、地球人の母親と、ククト人の父親の間に生まれた、れっきとしたハーフなのである。であるならば、当然のように、いじめや嫌がらせがあったに違いない。しばらくサライダのところで厄介になっていたようだが、幼少期のこのトラウマは彼に付きまとったに違いない。
 そして、どういうわけか、彼は軍に志願し、入隊、少佐にまで昇格している。さて、ここも、ククト軍の妙なところが見え隠れする。
 一般論から言えば、少佐の地位を得ようと思ったら、二等兵→一等兵→軍曹→少尉→中尉→大尉→少佐と、これくらい、ランクアップしなければならない。すなわち、ミューラァが、一兵卒で入ったとするならば、恐ろしく長い期間…最低でも5年、10年くらいはかかったはずである。
 もちろん「士官適」と言う、エリートで軍に入ったとするならば、少尉くらいからのスタートだっただろう。それでも、あれほどの機動兵器のエキスパートになろうと思ったら、2年や3年と言う期間ではないだろう。
 つまり、軍にいる期間が長ければ長いほど、彼は、ハーフと言う障害に苛まれたはずなのである。それどころか、入隊時の選考で落とされていても文句の言えない「血筋」だったのである。
 そのハーフの人間に軍の上層部は、少佐までの地位を与え、しかも、遺跡奪還と言う重要任務まで与えている。ところが、うまい結果が得られないと、「ハーフ」と言う事を突っ込まれ、嘲笑の的になっていく…。それでも耐えるミューラァがいたのである。
 
 そもそも、ハーフの人間を入隊させた事から解明して行きたい。彼が出生の秘密を漏らさなかったにせよ、軍に母親が捕えられている段階で、彼の「血」は明らかになっていたはずである。となれば、むしろ危険人物視されていてもおかしくない。なんとなれば、敵国民とのハーフだからである。もし、仮に第二次世界大戦中の日本であれば、ハーフには決して召集礼状は届かなかっただろうし、ましてや外国人は捕虜にする事はあっても、自国の兵隊として使うなど、考えるにいたっていなかったはずである。
 ということは、どういう意図があって、ミューラァは入隊を許可されたのか、が焦点になってくる。軍に、ミューラァを利用する「隠された計画」があったかもしれないのである。
 その計画自体は姿をあらわさなかったが、それより早くに、彼は、機動兵器のスペシャリストになってしまう。この結果は人並みはずれた努力と、ハーフと言う、混血が成せる技ではないだろうか?そして、本来なら入隊もままならないはずの彼が少佐にまで駆け上がれた、唯一の特技だったように思う。