銀河漂流 バイファム概論  事 象 考 察

 第2回  闖入者・ラレドも不思議がいっぱい

  「重箱の隅」では、様々なストーリー上の疑問点を解析してきた。だが、今までの軌跡を振りかえったとき、どうしても避けて通れない、「チェック・ポイント」のようなものを見逃しているような不安感に襲われたのである。
 それは、マラソンで言えば、10キロ地点のようなものである。書き足りないと思ってそのままにしていたものが噴出してきたのである。
 というわけで、まさにストーリー上、10キロ地点に登場した、ラレドを徹底的に洗い出してみる事からはじめてみたいと思う。

 ここで、まず、ラレドの身分的なものから解明を進めていく。ラレドは、14話で、地球軍の小型艇に乗って漂流しているところをジェイナスに発見され収容されている。このとき、彼がどういう立場であったのか、は誰一人明かそうとしていない。そこで私は、まず、彼が軍服を着ていないことを前提条件にして「彼は民間人/ゲリラの一員である」とのスタンスをずっと取り続けて来た。すると噴出してくるのは矛盾ばかり。民間人だと仮定すると、・軍人しかいないクレアド星域には達していない ・地球軍所有の小型艇に乗り込むことは不可能 ・軍内部の最新情報を知るすべがないはずなのに知ってしまっている などなど。結局「ラレドは二重スパイではないか」といった結論まで飛び出してしまった。
 しかも、40話でリベラリスト・ジェダは「ラレドは自分たちの仲間」だったと証言している。このことで彼が「軍人でない」ことははっきりしてしまったわけである。しかし、「知らぬが仏」。もしジェダのほうがラレドのことを何も知らなくて、ラレドは自分の身分を包み隠してリベラリストのグループにもぐりこんでいた軍人だとするならば・・・。今まで謎だった部分にいくばくかの光明が当たるのではないか、と思ったのである。
 ところが残念なことに、彼が軍人であったという証拠を見出すことはできないままである。そこで今回、彼については、「2つの立場」を元に、解析を進めていく。

 @ラレドはクレアドに来ていた?−−ラレド軍人説
 まず、この大前提がある。『この小型艇は軍用機である』。すなわち、軍艦であるジェイナスに載っていたのと同型なのだから、軍用機、少なくとも軍が管理・所有している機体であることには疑う余地はない。
 であるにもかかわらず、地球人でもなく、軍人でもないラレドが乗り込んでいる事実は明らかに矛盾しているのである。しかも、彼は明らかにククトニアンとして登場している。当時のクレアド星域には異星人は、軍人以外にいなかった。もし仮にククトニアンの民間人がいたとしても、彼らはククト星から来ているはずである。と言う事は『ククト星で作られた』飛行物体に乗り込んでいなければつじつまが合わない。
 しかし、「もし彼が軍人としてククト軍に所属していたとしたら」という側面については全く論じてこなかった。確かに服装は平服的であったが、それは何らかの事態が起こったときに軍服を着ていると拿捕等されたときに不利になるとの考えがあったからという説は飛躍しすぎだろうか?

 つまりである。彼が軍に所属していたことが事実としてどこかで述べられていれば、地球軍所有の機体をどういう形ででもゲットできるのである。しかし、彼は、そういったことは全くといっていいほど口に出していない。が!よく考えて欲しい。われわれがラレドの発言を聞いたのは間違いなく「全文」ではないはずである。彼の話したと思われるテープの内容は、一部は視聴者であるわれわれとクルーたちには伝えられたわけだが、ケイトしかしらない内容があることは十分に考えられる。その中に彼女が思い悩む内容−−酒に逃げなくてはならない−−があったのではないだろうか?
 
 さて、もし、彼・ラレドが「軍人であった」と仮定するならさまざまなことが解決していくのである。
 ○重傷を負っていたが生きながらえた→日ごろの訓練の賜物
 ○クルーたちの両親の居場所を知っている→軍にいたのだから当然。
 ○ロディに銃を突きつけ病室から脱走→護身用に隠し持っていた!
 
 とは言え、軍人であったとするにはやや弱い部分があることも事実である。そこでもう一歩進んだ見方をしてみた。
      「彼は軍に随行していた後方支援の民間人」
 この説はちょっと面白い。ラレドが地球への「平和のための特使」として、ほとんどリスクなしにクレアド星域まで到達することができるからである。もちろん軍についていっているときはそんなことはおくびにも出さない。軍の動きが落ち着きだしたころにたまたま転がっていた小型艇にのって単身地球に向かったものと考えられる。つまり、途中で脱走に近い動きをしたわけである。だから「軍が追っているのは私だ」という、自分なりの結論−−−脱走兵を粛清する−−−も導き出されて当然なのである。


 Aラレドにとって不可能だらけの登場−−ラレド民間人説
 @では彼は軍人か、軍よりの民間人だと述べた。生粋の民間人だと仮定するなら、「できない」サインが目白押しなのである。まず、そもそもククト星を脱出することは不可能である。これは素人が考えてもわかりそうなものである。リベラリストでない一般人はコロニーに避難していたし、ここから飛び立つことは100パーセントないし、できない。リベラリストだけがいるククト星からとしても、ここから飛び立ったところで、軍にすぐさま捕捉されるのが落ちで、撃墜/拿捕されているだろう。うまくことが運んだとしても、彼が乗ってきたと思われる地球型の小型艇は当時地球軍がいる場所にしか存在していない。乗り込めないという決定的な事象があるのだ。「乗ってきた」ということは動かしがたいとするなら、@の後半で述べたような特殊な事情が無いことには無理である。

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 かくして、彼・ラレドが登場し、ほぼ矛盾無くその立場を証明しようと思い立ったときに、「完全なる民間人」では具合の悪い点が多すぎると結論付けることが出来る。もちろん、軍の関係者であるという決定的な証拠はないが、状況証拠は彼が軍人/軍関係者でないと説明の付かないことだらけだからである。

 というわけで、ここからは、彼は「軍よりの人物だった」という推論の下書き綴ることにする。

 ・ラレドの全発言から導き出されること
 ラレドは、ジェイナスのクルーたちに救助された後、ケイトに自分の知っている情報をいろいろ語っている。その一端を紹介してみよう。 
 ・@
 これが我々の母星 ククト星です。しかし、人口の増加などにより、我々の周辺の惑星に移住計画を進めてきました。あなた方がクレアド星と呼ぶ星もそのひとつです。はじめに科学者たちが移住実験プロジェクトに取り組みました。だが、そこへ突然地球人が入りこんできたのです。
 調査していたのは軍人ではありません。科学者とその協力者たちです。だが、地球の軍隊は武力でそこを踏みにじったのです。(不明)
 しかし、我々ククトニアンの中にも平和を願うグループがあります。この忌まわしい戦闘を一刻も早く止めさせるよう、あなたからも地球の指導者に呼びかけてほしいのです。
 ・A
 それから、カチュアという娘ですが、彼女は間違いなくククトニアンです。
 (ケイト:まさか…!!あのこの両親はれっきとした地球人です)
 だとしたら、地球人に育てられたのでしょう。彼女はククトニアンに間違いありません。(ケイト:カチュアが…)
 証拠がほしいなら、多くの点があります。(以下略)

 ・B
 わたしは、ククトニアンのラレドと言うものです。まず、あの、青い髪の少女の事ですが…(カチュアの事ですか?)
 彼女は間違いなくわがククトニアンです。カチュア…。わたしの推測ですが、彼女の母も移住実験プロジェクトチームの一員だったのでしょう。地球の軍隊によって、ククトニアンの移住実験プロジェクトプランは破壊され、全滅してしまいました。おそらく、その後にやってきた地球人の心有る人に拾われ、地球人として育てられたのでしょう。
 我々は、地球人のベルウィック星移住は黙認しました。しかし、地球人はクレアドにまで手を伸ばしてきたのです。この事件まで、我々ククトニアンは争いを避け、何とか地球人とも話し合っていこうとする考え方でした。しかし、地球の軍隊の不意打ち攻撃から、我々の考え方も変わり始めました。力による侵略には力で戦うほかはない…。ククトニアンの、戦いを主張する勢力が強くなっていきました。
 (その結果、地球とあなたがたの星は交戦状態になったわけですね)
 残念ながら…。しかし、わたしをも含めて、平和を願う勢力も決してないわけではありません。(わが地球でも同じ事ですわ)
 わかります。戦争は結局、我々にとっても、地球の人々にとっても不幸以外にもたらすものはありません。あなたがた地球の人々に、ククトニアンにも平和を望むものがいる事を伝えていただきたい。そして、この不幸な戦争を一刻も早く止めるように…。
 平和こそ、生き残ったもの、又、この船の子供たちのためでもあるのです。
 (よくわかりましたわ)
 それともうひとつ重大な事があります。実はベルウィック星など、植民星から地球へ向かったほとんどの船が、ククトニアンの軍隊によって、囚われています。
 (なんですって!!)
 一応全員無事ではあるのですが、悪魔の星と呼ばれている、ククトの衛星タウトに収容されております。(タウト星...)
 そうです。何とか助けてあげたいのですが...

 これらが、ラレドが遺したテープの内容である。
 ここで我々視聴者は、かなりの情報を得ると同時に、どうしてそんな事をラレドが知っているのか?という疑問点も知ることになる。
 
 α.「避難民がタウト星に囚われている」
 まず、ラレドが、この事を口走るために、知っておかなくてはならない情報はいくらでもある。
 ・地球人の避難民がいたということ
 ・タウト星に囚われている事
 ・全員無事である事

 一介の民間人では知りえない情報を持っている。しかも軍の最新情報だ。このことだけを切り取っても、ラレドが軍と全くコンタクトを取っていない人物とはとても思えない。
 
 β.後で発覚する、タウト星の資料を持っていた
 23話で、タウト星への攻撃準備に入ろうと、資料を探すクルーたち。「ククトニアンがおいていったって言うビデオ」。見せてもらったというマキが口走ったこの一言で、彼・ラレドがこの資料を持ち歩いていたことが判明する。もっとも、ケイトはクルー全員でタウト星を攻めるとは考えていなかったようで、収めていたケースにはタイトルを記入していなかった。
 内容は他愛も無いものだが、彼がこの資料を持ち歩く理由がはっきりしない。地球人とコンタクトを取ろうと思い立ってのことだとしても、タウト星の資料は必要だろうか?
 
 γ.脱出を試みようとしたときに持っていた銃の存在
 病室に臥せっていたはずのラレドが、どこから手に入れたのか、短銃をロディに突きつけたのである。
 ご承知のとおり、クルーはもともと武装していない。軍人でないからである。ジミーが持ってくる台車にちょっとした銃は入っていたが彼の隠し場所を、戦艦に入って間なしのラレドが知っているわけがないし、誰も教えていないはずである。
 また、彼が病室を脱出し、自分の乗ってきた飛行艇の格納場所(実は、一発で辿りついてるのよね。ここも変といえば変)に向かおうとしたのはわずか数分の間。この短い時間の間に、着替え、銃を見つけ出し、引きずるような足取りで向かわなくてはならないのである。
 銃を探す時間が全くないことは画面上からも明らかである。また病室に護身用といえども銃を放置しておくことは考えにくい。となると、ラレドは「銃を隠し持っていた」としなければ、全くつじつまが合わないのである。
 民間人が持っているはずのない銃。しかも、本来であれば、自分の服に隠し持っていても脱がされる段階で没収されているはずだし、ましてや病室においておくはずのないものである。でも彼は持っている…。
 まさしく、彼はどんな窮地に立たされても、任務を遂行する、秘密工作員…スパイではないのか?とまで、かんぐってしまう。

 V.ラレドは、二重スパイだった可能性について検証する
 これだけの情報を持ち、そして、乗り込むことは不可能であるはずのものにまで乗り込み、重傷は負っていたとはいえ、強靭な生命力でジェイナスとの遭遇まで生き長らえ、さらに、誰も手渡していない短銃を持っていたラレド。当時のケンツではないが、「なんか怪しい」と思わずして、なんであろうか?
 そもそも、彼は知りすぎているのである。軍内部の事、タウト星のこと、地球人をいざなうかのようにタウト星の資料を持っていた事。彼が単なる地球に向かった特使と見るにはおかしい部分が多すぎるのである。
 そこで、表題にした仮定を検証してみようと言うのだ。
          『ラレドは、二重スパイだった!!』
 すごい仮定である。しかし、例えば、軍の情報にも明るい=軍の人間でないと知り得ない情報を持っている 事実は動かし様がない。それも最新の情報である。確かにラレドはゲリラグループなのでそこそこ軍の情報を持っていてもおかしくないが、「最新」となると状況は変わる。
 だから、軍の情報を取る事が出来ると言えば、ジェダのグループにもぐりこんだ軍のスパイであると言う仮定が俄然有力になってくるのである。実は、ラレドは自分の身分に付いては明らかにしていない(和平派のジェダの名前くらい出てきても良かったはずなのにそれすらない)。身分を明らかに出来なかった理由も、二重スパイという自分の置かれた状況の不安定さがそうさせているのだとすると納得できる部分でもある。
 又、ラレドは「追われていた」事実もある。軍に追われていたわけだが、不穏分子の生き残りであったにしては、その命まで奪ってしまうやり方は余りに強引、唐突過ぎる。そして、忘れてはならないのは、近くにジェイナスがいたということである。ククト軍はジェイナスには見向きもせず、ラレドの小型艇を攻撃する。それは、ラレドの存在の方が軍にとっては脅威だったからである。
 これらの事から、ラレドが二重スパイであった可能性はどんどん高まっていく。最終判断は、彼が地球語をそれ程なまらずに、流暢にしゃべっている事である。28話以降でクルーが遭遇したジェダは、うまく地球語が使いこなせていなかった。にもかかわらず、ラレドはなんの苦もなくケイトと会話している。と言う事は、どこで地球語をこれほどつかいこなせるほど訓練したというのだろうか?ご存知の通り、スパイの存在条件には、いかに自分がおかれた環境に順応するかと言う事がある。その際たるものが言語である。ジェダとラレドを比べてみたとき、どうしてもラレドは特別な教育/訓練を受けていると考えたほうが納得いくことばかりなのである。
 二重スパイと言うには状況証拠しかないのだが、逆にいうと、ただの民間人、一介のゲリラとするにはおかしい点も多すぎるくらいある。ラレドも謎に包まれたまま、宇宙の藻屑と化してしまったのである。

 バーツ登場時と同じくらい、謎と疑問点の多いラレド。たった1話の登場ながら、ここまでねたにされる内容があるとは夢にも思わなかった。