銀河漂流 バイファム概論  事 象 考 察

 第7回   後半のキーパーソン・ミューラァを丸裸!

 人物考察についてはすでにバーツ/ラレドと終わらせてある。しかし、ここでこのストーリーの最も重要なキーパーソンの一人・ミューラァについての記述もしなくてはなるまい。
 後半に登場するも、クルーとかなり深くかかわっている。29話ではロディと初対峙。31/32話と機動兵器に乗りロディのバイファムと激しいつばぜり合いを演じた。それ以後、彼が「遺跡を奪回しようとしている特務別働隊」に所属していること、そして地球人とのハーフであることなどが次々明らかになっていく。
 ジェダのグループの捕虜となってからも、独力で脱出。その際カチュアを人質に、ロディとまたしても激しくやりあう。その直後から閑職をほしいままにするも、バイファム打倒の野望はついに消え去らず、宇宙空間にまで打って出るのだが、そこでようやく軍から三行半を突きつけられたことに気づき、宇宙の藻屑となってしまうのである。
 
 さて彼がこのアニメーションに果たした役割というものは実のところ少なくない。確かに敵役としてのミューラァという側面ばかりが取りざたされるわけだが、彼には出生の秘密、そして現在の軍内部での地位というものが付きまとっている。要するに、彼自身もクルーたち同様に「被害者である」という側面である(このことはいみじくもサライダが言った一言である)。ただ、そのことは大まかなストーリーの中からにじみ出てくるものであってミクロ的にかいつまんでいけば、彼の存在そのものが実に不安定なものとして浮かび上がってくるのである。

 そこで彼についてはこの3点から解析してみようと思う。
 ・地球人とククト人とのハーフという設定
 ・彼はいつ生まれたのか?
 ・ハーフなのにククト軍に入ることが出来たのはなぜか?

 それでははじめていく。

 ・地球人とククト人とのハーフという設定
 
 ミューラァが、地球人の母とククトニアンの父から生まれた、ハーフであることは、すでに明白である。ストーリー上では、遺跡の回収の経過報告をしている最中に、上役から、そのことを突っ込まれたのが最初で(33)、40話では、本人の口からそのことが述べられ、裏打ちする形でサライダが彼の出生に付いて語り始める。
 「へー、ハーフなんだ」で今まで私を含む大多数のファンは通り過ごしてしまっている。しかし、よくよく考えてもらいたい。ククトニアンは、人の形をしているとはいっても、異星人であり、地球人とはまったく違った進化の体系を取っているに違いない。となれば、間違いなく、DNAの配列も、地球人と異なっているはずである。
 とすればどうだろうか?理論上、地球人どおしであれば、どんなカップルからでも子供は生まれる。それは、DNAの配置や塩基の順番などが一致するからである。しかしDNAの配置が異なる生物同士が交配したとしても、子供が生まれるはずがない。犬とネコのハーフ?決してありえない。植物の交配作業にしたところで、他の植物の花粉をめしべにつけたとしても「ハーフ」が生まれないのと同じである。
 つまり…。
     『地球人とククトニアンのハーフが生まれる確率は皆無に等しい』
 と言う、驚愕の事実に接するのである。カチュアは、両親がククトニアンであることは分かっているので、何ら問題ないが、ミューラァは、実際問題生まれていないはずの人物であるという結論になってしまう。
 百歩譲って、「産めた」としても、あれほどまでに五体満足に活躍できるとは到底思えない。必ず染色体異常を来たし、どこかが変になっているはずである。
 しかし、現実問題としてミューラァは存在している。そこで考えたのが、「ククト星の優れた技術による遺伝子操作があったのではないか」というものである。実はこの一言ですべて解決してしまうのである。まあ、これも21世紀になってこういった基本的なことが市井にまで広がりを見せているからなんとなく導出できるものであって、このアニメーションがリリースされたときにこういった高度な医学療法が論じられていたかどうかは難しいところである。いずれにせよ、もし彼が生まれたとするなら、ただ単なる性交だけでは生まれ得ないことは確実である。

 ・彼はいつ生まれたのか?
 ミューラァに付いては、出生にまつわる謎が極めて重大である。もともとはこのねた−−いつ生まれたのか−−しか頭になかったわけだが、もっと重大なミスが出てきて、この論点ですらかすんでしまいそうである。第一の結論としての重箱の隅をまずは見ていただきたい。
 
 壁になっているのは
 @ベルウィック入植スタートは、実はそう古い話ではない(17年前)
 Aクレアドの地球軍侵攻は、どんなに遅くても13年前。
 Bミューラァの父親がクレアドで死亡しているのは明らか。
 の、3点である。特に@は致命的である。つまり、ミューラァの表面上の年齢(25歳程度)を実現することが不可能だからである。かくして、捏造にも似た、無理やりの解釈が必要になってくるわけなのだが、そんなことをしたところで別のところから疑問が出るのは当然である(カチュアとミューラァが生まれたのは同時期という驚愕の事実を捻じ曲げることになってしまった)。
 仕方なしに、物理学的見地から・ククトニアンの年齢の重ね方 ・星の公転周期という可能性を考えた。前者が種族的な見方、後者が環境に根付く見方としている。しかし、実のところ、一時採用していた「環境面」がここにきてクローズアップされているのである。
 なぜか?何度も書いているように、カチュアはクレアドで置き去り同然のところを地球人夫妻に拾われそこで育ち、ミューラァは、ハーフとはいえククト星で生活している。そうはいっても「ククトニアン」という血は変えようがない。だから、種族的な見方というものは、どちらかに都合がいいとどちらかに不利に働くのである。「重箱の隅」では、結局生物学的見地で考えてしまい、最後の結論で破綻を喫してしまっている。でも、環境という見方をすれば、「地球時間の12年」はククト星での「25年」程度かも知れず、さらに言えば、地球時間と同一の時の流れがククト星で刻まれていた(一年=365日)というのも妙な話である。
 結局のところ、分かりにくいのだが、
 ・ククトニアンは、『ククト星において』比較的早く年を取る。
 ・ククト星の一年は、地球の1年の1/2〜1/3である。
 とすれば、何とか収まる話ではある。とはいえこれでも「無理矢理」感は否めないのだが・・・。


 Bハーフなのにククト軍に入ることが出来たのはなぜか?
 「生まれてしまっている」ことがこれからは前提になるわけだが、どんな科学的操作をしたのか知らないけれど、ミューラァは、地球人とククトニアンのれっきとしたハーフである。そして、そのことは、彼が軍に入る前に分かっていたことなのである。そのことをサライダはこう証言している。
 『地球軍の進出が日に日に目立ち始めたころ、軍に強制連行されてね。彼女はついに戻ってこなかった…。』
 当時、ククト星にいた地球人は、ミューラァの母親一人だったと断定できる。換言すれば、彼女以外に地球人はククト星には到達していないのだ。父親を地球軍との戦闘で失い、母一人子一人の慎ましやかな生活を送っていたはずの一家に、突然訪れた官憲たちの手。彼女一人だったから、このことは、ミューラァを不憫に思っていたサライダの知るところとなったのである。
 当然のように、彼女が子持ちであり、その子供がミューラァであることも軍サイドはわかっていたはずである。しかし、志願にせよ、徴収にせよ、ククト軍にミューラァは入り、そこそこの地位も獲得しているのである。
 ここがなぜおかしいのか?理由は、「敵星人とのハーフ」というミューラァの設定である。旧日本軍を例に取ればいい。純血主義をとっていた当時の帝国軍は、決して混血児に徴収令状は送っていないはずである。むしろ、「敵国民」扱いされるのが落ちである。ところが、ククト軍は彼をエリートの道に乗せている。
 もしすべてのことが事実とするならば、「ハーフを承知で入隊させ、働かせていた」ということになる。ある意味、開かれた軍隊といえなくもないが、社会情勢から考えても、彼が入隊できるには何らかの「軍にとっての利点・計算」が必要だと思われる。
 そこで浮上してきたのが、「地球側の情報収集」という役割である。地球人の母親直伝の、地球語が難なく話せるミューラァに、この役は適任である。そうであれば、彼がタウト星にいた理由も分かるような気がする。彼は捕虜となっていた地球人から情報を仕入れよう、もしくは仕入れることができたとするものだ。なかなかいい推理である。
 しかし、最終的に彼は、地球型の戦艦に積み込まれていた「装置」の奪還を担当することになるのである。もし仮に配置換えがなされたとしたら、それはまさに、ミューラァが基地に戻ったその日のうちということになる。確かに急を要する案件であるとはいっても、この短期間での役割の転換は異常である。ミューラァが適任でなおかつ彼しかいないわけでもあるまいに…。また、ミューラァは、自陣を持っていたこと(35)も分かっており、だとしたら、突然の配置換えで動揺を隠し切れないはずの彼の動きがギクシャクするはずである。それがないということは、もともとこの使命を帯びていたのだろうか?
 「ハーフなのに入った」ことを理由付けしようと試みても、どこかが釈然としないのである。

 ここまでが彼のバックボーンに関する謎であり、当方なりの解釈である。しかし、彼の動きや地位に関してはそれこそまだまだ書いても書き足りないところである。
 ・なぜ、彼はタウト星にいたのか?
 ・「少佐」の地位をこの若さで?
 ・命令無視がまかり通るククト軍

 
   T.なぜ、彼はタウト星にいたのか?
 実は、いくら深読みしても解決しないのが、このテーマである。
 一応、当該放送回を見直してみよう。回は29回。とらわれていた反政府ゲリラたちの暴動によって、タウト星は解放され、なぜか、星の内部の施設関係に詳しいカチュアとロディの案内でクルーたちは沈黙した内部を探索するのである。偶然出会ったリーダー・ジェダと会見を持っているさなか、ミューラァはどこかへ連絡を取っているのである。ローデン近づくの報に際し、ロディ達も会談を切り上げジェイナスに戻ろうとする。ここでロディが、ジェイナスを見ているミューラァを発見、単身追跡を開始する。そして…。生身のロディVSミューラァという「初の対決」が実現するのである。しかし、この部分、たいした収穫は得られずじまいであった。強いてあげるなら、舞い上がったロディは、相手が地球語で返答していることに気づいていない様子なのだが・・・。
 ククト星に帰還しようとしたジェダ達を追うような形で脱出するミューラァ。なぜか、ジェイナスとジェダ達の無線を傍受して聞いている。
 と、ここまでがミューラァ初登場のあらすじである。
 さて、ロディは、ククト星に強行着陸した31話に、早くもミューラァに会っている。そして、この時点でも、彼の役割は、全くといっていいほど、見えていなかった。下士官を使っていることから軍の中での地位はそこそこあるものと推察されるのだが、ジェイナスの落とした部品の検分にやってきただけとも受け取れる動きにしかなっておらず、遺跡奪回という任務を背負っているとはとても想像つかない。

 ここまで細かく見ても、ミューラァがタウト星にいる必要がどこにあるのか、全く見当がつかないのである。もし仮に、ロディがとらわれた時点でいたとするならば、地球語のわかる(すらすらしゃべられる)ミューラァが取調官の筆頭になっていたであろうことは想像に難くない。また、地球人が捕虜としてタウト星にいたことも事実なので、「彼らの通訳」的な役割でもあったと言うのなら、彼の存在意義も見出せる。しかし…。当の本人もこのことに付いて発言していないことはいうに及ばず、周りの軍関係者もこのことには一切触れていないのである。
 もうこれ以上の考察はすべて推測の域をでないので止めざるを得ない。逆を言えば、罪作りな設定/ストーリーである。

  U.「少佐」の地位をこの若さで?
 機動兵器のエキスパートとして、専用機まで与えられていたミューラァ(ガンダムのシャアとは違い、専用機とはいえ、汎用機だった。一定の役職以上はこの機体に騎乗していたのかも)。彼は自身の身分について、34話で、「第三ククト星師団第二特務別働隊 シド・ミューラァ少佐」とボギーに自己紹介している。表面上、30歳いくかいかない彼が、すでに少佐を名乗っているのである。
 一般論から言えば、少佐の地位を得ようと思ったら、二等兵→一等兵→軍曹→少尉→中尉→大尉→少佐と、これくらい、ランクアップしなければならない。すなわち、ミューラァが、一兵卒で入ったとするならば、恐ろしく長い期間…最低でも5年、10年くらいはかかったはずである。
 もちろん「士官適」と言う、エリートで軍に入ったとするならば、少尉くらいからのスタートだっただろう。それでも、あれほどの機動兵器のエキスパートになろうと思ったら、2年や3年と言う期間ではないだろう。
 要するに、彼は出世街道をひた走っていたはずの人材なのである。「ハーフ」という、特殊な生い立ちがあるにもかかわらず、である。もちろん、機動兵器の操縦振りから見ても、明らかに他のものとは切れも業も違う。頭角を現せてしかるべきともいえるが、ここまでの地位にのし上がるまでに、「ハーフ」という障害は余りに多大だった可能性は考えられる。
 ちょっと推論の域を出ないのだが、ククト軍そのものが成果主義を元に役職を決定付けていたものとしないと、ミューラァがここまでの地位にのし上がることは不可能である。もう少し詳しく言うと、純血主義に傾いているはずの軍が、ハーフの彼にここまでの地位を授けていることの理由付けが、このことくらいしか思いつかないからである。
 ククト軍が彼をどう扱っていこうとしていたのか?ここでも書き足りないがゆえの問題点が残ったままになってしまうのである。
  
   V.命令無視がまかり通るククト軍
 自陣に再生装置を奪還し、意気揚々と戻ってきたミューラァ。基地には司令とその副官がすでに待機していた。彼らに報告するミューラァ。しかし司令は、それには耳を貸さず、労をねぎらおうとする。まだ戦えると主張するミューラァに、「くどいぞ、君は!」と一喝。ここでまたしてもハーフであることをつつかれ、「休暇」、要するに隊からはずされてしまうのである(42)。隊からはずされたミューラァは閑職を縦にする。しかし、ごみ同然となった再生装置を前にバイファムへの敵対心をよみがえらせるのである。そしてロディたちが宇宙空間に舞い戻ったのと時を同じくして、司令たちがゲリラ掃討作戦と称して追撃する戦艦の中にミューラァは紛れ込み乗船していたのだった(44)。
 まあ、そもそも、この司令がミューラァの直属の上司かどうかは疑わしい部分が多い。仮にそうだとしても、唐突な除隊命令はやはり腑に落ちない。彼がよほどの失策をしたというのなら話は別だが。そしてなによりも気になるのは、隊から外れた人間が、戦艦に乗り込めるのかという疑問である。
 乗り込んで、ブリッジに志願してくる場面を見直してみた。戦況はククト軍不利で第二次攻撃隊の出撃を議論しているさなかにミューラァが入ってくるのである。気づいた副官が「連れて行け」というが、司令はバイファムを撃破するといって聞かないミューラァに理解を示し「処分は撤回だ、君に行ってもらう」といい、指揮を命じたのである。
 この二人から、彼が乗り込んでいることをとがめる言葉は何一つ聞かれなかった。だが、ミューラァは、ブリッジに一人で入ってきたわけではない。抱えられていたかのように二人の兵士を両側に引き連れていた。いや、部外者のミューラァが乗り込んでいることに気づいた兵士が、ミューラァを捕らえて司令の元に引きずり出そうとしていた可能性のほうが高い。
 「乗り込んだ」時点で軍規を乱しているミューラァ。それほどまでにバイファムを倒したくなったのかもしれないが、乗ってきていることを何もとがめず、「標的扱い」にしてしまう司令も司令である。挙句の果てに最後の最後で「反乱分子」呼ばわり。こんなことで軍が運営できるはずもない。そもそもこの回で大多数の機動兵器を出しておけば、地球軍とコンタクト取る前に撃沈できていたはず(45話では、あと一歩のところまでクルーたちは追い詰められていた)で、戦略もろくに立てられない司令では、最後に敗退して当然である。まあククト軍自体の戦い方がいつものことなのでこの件についてはやめておく。
 命令が気分で変わるククト軍。命令そのものの重みが無かったからミューラァも「乗れば何とかなる」と思っていたのだろうか?