海兵隊の訓練


「募集広告」
アメリカの陸軍と海軍のリクルート(兵士募集係)は、入隊すれば大学卒業者には4万ドルの報酬を与え、
社会復帰したときに特殊技術者となれる訓練が受けられると宣伝している。
これとは対照的に、海兵隊の募集コマーシャルは物質的にはあまり報われないことを強調しているのが目立つ。
 
海兵隊の代表的なコマーシャルや宣伝広告は、確かに何も約束していない。
「あなたにわれわれの一員となる素質があるか?”Do you have what it takes to be one of us?”」
この問いかけと制服姿の若い海兵隊員の映像は、
海兵隊という、一種独特な戦闘エリート集団の誇りにも思える。
海兵隊による大学への財政援助や、民間企業に就職した際に役立つ技術を学べることなどは
まったく宣伝していない。そういうことも確かに海兵隊に参加することによって得られる利益だが、
若者達はそれだけの理由で海兵隊員になるわけでないようである。
 

「資格」
海兵隊は志願者に対して、入隊資格である高校の卒業証書や過去の犯罪歴、常習性薬物の使用暦、適正検査の合格、
健全な肉体など様々な資格を要求する。それで実際の試験はかなりゆるいようで、
ありとあらゆる人々が採用されている。募集の目的は選別することではなく、入隊させることである。
海兵隊は一般社会に募集事務所より、若者を毎年4万人ものペースで
募集しなければならない。
 

「プール」
海兵隊の募兵活動が成功している理由の一つに、「プールプログラム」というものがある。
1995年度より導入されたこの制度は、厳しい訓練による心理的、
肉体的なショックに備えるための一つの手段となっている。
 
他の志願へより遅れて入隊を許された志願兵は「プーリー(poolee)」と呼ばれ、
ブート・キャンプのありのままの姿をビデオで学習する。
訓練下士官が志願兵をつばをあげて怒鳴り付ける様子を、映像で見るのと実際に自分が体験するのとは全く異なるが、
志願兵はこれから自分の身に何が起こるかを知る。プーリーは週末の時間を費やして訓練の基本や海兵隊の規則を学び、
海兵隊賛歌まで教え込む。この制度の恩恵を受けないほかの志願兵よりプーリーの方があらゆる点で、
ブート・キャンプで訓練を受けるための準備が整っている。
この制度の成果は中途除隊の数の低下によって証明されている。
 

「バディ」
海兵隊の成功している徴募構想の一つに、「バディ(二人組み)」がある。
この制度は、1人ではとてもブート・キャンプで訓練を受ける気になれない二人の友人の場合、
基本訓練期間を通して二人が一緒に同じ小隊で同じ特技区分(歩兵、機甲、砲兵、衛生など)
の訓練を受けられることを保証している。家を出て厳格な海兵隊に入隊しようとする場合、
友人と一緒ならそれほど不安は感じない。
特にブート・キャンプで死の恐怖に1人でおびえなくて済むと分かれば、
海兵隊が魅力的に見えてくるだろう。二人組み制度のおかげで恐怖を分かち合え、慰めうこともできる。
 
海兵隊は二人組制度を厳守している。
宣伝用の嘘ではなく、まさに名誉をかけて誓った約束である。
基本訓練の訓練下士官たちは、どの志願兵が二人組で入隊しているか把握し、
隣同士の寝台で寝ることを認め、出来るだけ班での任務に就かせる。
基本訓練の目的はすべて、見知らぬ他人同士の間に戦友意識を育むことにある。
海兵隊に入隊した時、すでに彼らは戦友になっている。
 
有能な海兵隊募兵担当官は、自分が採用した志願兵がブート・キャンプを卒業した後も連絡を取りを続け、
基本訓練を終えた海兵隊員とその家族に定期的に電話を入れる。こうして募兵担当官と志願兵の関係は続く。
 
募集事務所の壁にはブート・キャンプで訓練を受けた戦友や先輩達の卒業記念写真と並んで
自分の記念写真も張られている。募兵担当官の仕事への献身は徹底している。
募兵担当官が採用した志願兵は今や海兵隊リクルート基地の一員として、
後輩の志願兵に海兵隊の素晴らしさを伝える立場にある。