コンサルティングファームへの転職記

 99年春から夏にかけて、会計事務所系(=システム系)と戦略系を中心に計12社に応募書類を送り、8社14人と面接、そのうちの某社に転職しました。その過程と、社会人経験数年の私が転職活動を通して感じたこと、考えたことなどを記します。事実ではありますが、あくまで私見であり、また採用方式も変わことがあるので、鵜呑みにしないで下さい。

●応募書類を送った企業

 マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、ATカーニー、ベイン・アンド・カンパニー、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン、アーサー・D・リトル(ADL)、ジェミニ・コンサルティング、コーポレイト・ディレクション・インク(CDI)、モニター・カンパニー、三和総研、アンダーセン・コンサルティング(AC)、プライス・ウォーターハウス・コンサルタント(PWC)

●オフィス概況

 目に見えないものも売らなければならないコンサル業にとって、オフィスの場所や外観/内観は重要な要素の1つ。コンサルが神谷町付近の高級なニューオフィス街に集中していて、丸の内や大手町には全く存在しないのは偶然ではない。また、この現象は、皇居の東を中心に存立するトラッドエコノミーに対し、ニュービジネスが西南方面へと「遷移」していることの証左でもある。

 やはりマッキンゼーが一番高級感があった。六本木ファーストビルには他にメルセデスベンツなどが入っており、外資系の『入植地』である神谷町の高台にそびえ立っている。逆に、ダサいのは長銀の隣のビルに入っているベインや、場所は最高(青山)だが建物が古びているアンダーセン。生物学の遷移理論によれば、日比谷にあるモニターやベインは場所の時点で負け組か。あとは、似たり寄ったり。PWCはペーパーレスを徹底したサイバーオフィスに特徴あり。

●書類選考

 BCG、ジェミニ、三和総研は書類落ちした。BCGがマッキンゼーと並ぶ双璧でハードルが高いのはわかるし、ジェミニも規模が小さいから何となくわかる。だが三和総研は、通年採用を表面的にはうたいながらも、全く同じ書類を送って他の8社は面接に呼んでくれたわけで、どうも採る気が感じられなかった。「やはり口だけか」と、日系企業に対する不信感はさらに深まった。外資系と日系では人材採用に対する考え方に、まだまだ差があると思う。

●一次で筆記をやる企業

 上記のうち、マッキンゼー、ベイン、PWCで筆記を受けた。マッキンゼーだけ×。辞書持ち込み可で全文英語、論理的思考力を試す問題で、時間は2時間半。「社会人経験丸4年以上ないと新卒扱い」という他社にはない方針を持っており、新卒と同じ選考過程だった。頭が疲れる問題ではあるが、受験者にとっては、出来たかどうかの判断が難しい曖昧な問題で、これでは落とされても文句が言いにくい。ベインも似たような英語の論理問題で20分×2。時間はギリギリだが問題はそれほど難しくない。PWCは日本語でごく一般的なSPI。時間が足りないセクションもいくつかあった。

●普通でない面接

 突然偉い人が出てきたのが、モニター(日本支社長)、ATカーニー(ヴァイス・プレジデント)、CDI(取締役)。規模が小さかったり、急激な成長のためか、いずれもまだシステム化された採用過程はないようだった。モニターでは30分で筆記の「ケース」あり。資料付きで「イタリアの中規模ワインメーカーが大手メーカーの参入で経営危機に陥っている。君ならどうするか」。カーニーでは時事問題のケース(「君が日産の社長だったら」など)を問われた。

 逆に若手が出てきたのがブーズアレンで、入社3年目くらいの同年代程度の人と、昨年海外の大学を卒業して入社したばかりの人が続けて出てきた。いずれもホームページに紹介されている人で、「ミスター・ブーズ」といったところ。応募動機とケースをやるのが決まりのようだった。ケースは「石焼芋市場への参入を狙うベンチャーがいる。市場規模をどやって調べるか」「タバスコ市場への参入を狙うベンチャーから相談を受けた。市場規模や戦略を考えよ」など。複数の面接官で評価する仕組みは良いのだが、休み無しの連チャンなので頭がヒートアップ。ただ、こうしたありがちなケースについては、情報が行き渡ると試験対策が可能なので、評価の方法としては疑問を感じる。

●一般的な面接

 残りの4社はマネジャークラスによる面接で、応募動機とケース、というのが最も一般的。「私立大学をクライアントにする方法は」「日産とトヨタの違いは」「コンサルタントになって何をしたいか」などなど。

 面接官はいずれも光って見えたが、それぞれの印象を挙げると、やはり戦略系はパワフルでスノッブな人が多い。ヒューマンウェアに優れていたのはPWC、アンダーセン、CDI、ベイン、モニター。ADL、ATカーニーは、目が鋭く頭の回転が速そうな、いかにも「戦略やります」という感じの人だったが、態度が横柄で人間性に疑問を感じた。勿論これは、たまたま私が会った、その一人についてであって一般化できないが、面接官として出てくる人間は普通、その会社の『看板』であるケースが多いから、当たらずも遠からずだろう。

●採用の受給関係

 戦略系はいずれも、社員30〜120人と、そもそも人数が少ないこともあり、大難関。私見では、以下の用件のうち1つは満たしていないと難しいだろう。MBA取得、会計士/弁護士資格取得、東大出身、国籍が日本でない、海外在住経験があり外国語が堪能、大企業の中枢で経営企画を経験、金融のスペシャリスト、システム開発経験者、同業他社で実績。

 会計(=システム)系のアンダーセン、PWCは毎年社員総数の3割程度を採用中で、2000年度にそれぞれ2000人、1000人の大台に乗せる計画。戦略系は人材の流動化が激しく企業ごとのカルチャーにも大差がないと言われるが、日系のCDIは長期雇用によって企業理念である「和魂洋才」などの浸透を目指している。ATカーニーで毎年20%が退職せざるを得ない環境に追い込まれるなど、戦略系はいわゆる『アップ・オア・アウト』が厳しい。逆に、アンダーセンやPWCといったシステム中心の会社は、企業規模の拡大に伴い『ステイ』が増えつつあり、長期雇用と年功主義など『日本企業』化も進んでいるようだ。

 ケタ違いの採用人数を誇るアンダーセンは業界で唯一、日本において早くからテレビCMを流しており、知名度は断トツ。ただ、採用時に保証人を要求するなど、外資でありながら日本企業の悪いところも持ち合わせていると思う(例えばATカーニーなどは保証人を要求しない)。2000年4月よりPWCCもテレビCMを流し始め、アンダーセンを追撃している。

●戦略系と、システム系

 「右肩上がりの経済が終わりグローバル競争時代を迎えるなか、日本においても持ち株会社解禁や連結重視の会計制度導入によって、グループとしての事業の戦略的縮小や新規参入、M&Aが生き残りのために不可欠となりつつあり、戦略のノウハウを持つコンサルの重要性が高まっている」というのが戦略系の主張だろう。

 一方、システム系(AC、PWCなど)の言い分は「情報システムなしの企業変革はありえず、システムをわからない人が企業戦略を立てても絵に描いた餅」といったところ。どちらの言い分ももっともで、それぞれが相互参入しつつある。アンダーセンは早くから、システムは勿論のこと戦略部門から情報システムのアウトソーシングまでを受け持ち、川上から川下まで一貫したコンサルに応じる総合力で、有利に立っている。

 業種別では、マッキンゼーとATカーニーが金融に強いと言われ、カーニーは「昨年の金融再編劇の半分に関わった」と豪語していた。ADLは製造業・情報通信業に強いそうだ。コンサルタント部門の人数では、アンダーセンが世界最大。システム系は「ERPの導入が3、4年後をめどに一巡する」(ACマネージャー談)と言われているものの、現在のところは戦略系よりも市場の成長力が強いようで、急拡大中。

●時宜について

 いつ応募するか、いつ転職するか、というのは重要である。例えばアンダーセンやマッキンゼーなどは、最初に応募してもし落ちた場合、その後丸一年を経ないと、再応募することができない。面接は、面接官との相性など時の運も左右するし、キャリアの中身も一年後だったら有利になっているかもしれない。更に重要なことは、リクルーティングは当然ながら人材の需要と供給で決まるので、その時の景気動向や採用意欲によっても、難易度が全く変わってしまう。既に採用数の目標値を達成している年度の終わりよりも、年度が始まってからのほうが採用意欲が高いことも往々にしてある。

 新卒で入るよりも、大企業の現場で実務を4、5年経験してから中途で入る方が良いとの意見もあるし、年令が35を過ぎると急激に厳しくなるとも言われる。これらを勘案した上で、長期的なキャリア設計のなかにおける「コンサル業界に身を置くこと」の位置付け等も含め、総合的な決断をするのが望ましいだろう。

●業界印象

 これはこの業界全般の特徴だと思うが、「棚上げ体質」がないところが気に入っている。つまり、自らが見本を示しているから、その主張は説得力を持ち得る。だからクライアントも信頼して頼める。これは当たり前の論理であるが、世の大半で偉そうなことを主張している人間は、これを実践していない。

 証券会社は、顧客に上がる株をアドバイスして株の売買手数料で儲けるが、本当に上がるという確信があるなら、自社の全資金を投入して売買すれば最も利益が出るはずだ。個人客など、彼等のリスクヘッジに協力してやっているようなものである。経済学者は、偉そうに景気の先行きや株価の見通しを力説するが、本当に経済のことをわかっているなら、皆が大金持ちになっているはずだが実際はそうではない。経済学は「鈍器」に過ぎないことを認めた上で論を張る野口悠紀雄氏のような謙虚さはあまり見られない。この「棚上げ体質」が最悪なのが新聞社で、紙面に書いてある一見先進性を装った主張は、すべて自分が反省すべきことばかりと言って良いくらいだ。人権侵害や癒着に腐敗、時代遅れの人事・報酬制度やオフィス環境など、日本が抱えるあらゆる問題点が凝縮されているのが新聞社である。

 コンサル業界には、これがない。企業体質は健全で合理的だ。自社の経営もろくにできていない会社に、経営のコンサルタント業務を頼む訳がないからである。だからこそ、情報システムも報酬制度もオフィス環境もビジネスの進め方も、最先端のなかで仕事をすることができる。これは見逃せないポイントだろう。

 

●日本語URL

マッキンゼー    http://www.mckinsey.co.jp/
ボストン      http://www.bcg.co.jp/recruiting/
CDI         http://www.cdi-japan.co.jp/
ブーズ       http://www.bah.co.jp/japanese/tokyo/join.html
モニター      http://www.monitor.co.jp/top.htm
ADL        http://www.adl.co.jp/recruiting_carrer1.html
ベイン       http://www.bain.co.jp/index.html
アンダーセン    http://www.ac.com/jp/careers/whowehire/who_exp_faq.html
プライスウォーター http://www.pwj.co.jp/
デロイトトーマツ     http://www.dtcg.tohmatsu.co.jp/
三和総研      http://www.sric.co.jp/
野村総研      http://www.nri.co.jp/index-j.html

Consultant転職     http://www.movin.co.jp/firmlistframe.html
外資系リンク集        http://www.nikki.ne.jp/~nikki/link/gaishi/

プロジェクト2つを経験して感じたこと

 第一に、実力主義であること。年令や時間はほとんど関係がない。二〇代のプロマネは当り前。本当に仕事ができる人は、どんなスキルであれ、自らより優れた点については、必ず評価するものだ、とつくづく感じた。時間については、とにかく流れるのが速い。部内のあらゆる対応・決断が迅速かつ適切だ。リソースを生かそうという意識が強い。

 第二に、ヒエラルキーが少ないこと。意見は、それが正しいものであれば、ちゃんと聞いてくれるし、言う機会もある。それを生かして部内ルールを改善していこう、という意識がある。出る杭を生かそうという素地があるのだ。管理職がちゃんと管理能力を持っているとも言える。前職の日本企業では、若いおまえには言う資格がない、と一蹴されたものだった。

 第三に、キャリアプランやモチベーションの管理がしっかりしていること。やりたいことを持っている人にとって、非常に良い環境である。それを伝える場もあるし、実力が認められれば、やりたいことを尊重してくれる。逆に、何をやりたいのかはっきりしない人にとっては、余った仕事が回ってくることにもなりかねない。 

 もちろん、日本人がやっている以上、日本的なところも散見される。ウエットな人間関係、年功的な人事などは、確かにある。しかし、全体で見れば、贅沢な悩みと言うべきなのだろう。転職して良かった、というのが率直な感想である。


1999/9より  →報道に興味のある方は、こちらにもどうぞ