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新規参入のアイデア
以下、大前研一氏著書より引用

 私が注目しているのは、新聞とか雑誌の記事が映像付きで(サーバーからパソコンに)落ちてくるシステムである。技術的にはそうした活字のメディアがかなりの解像度でばさっと落ちてくることが可能になる。朝の新聞や電車の吊革に雑誌の広告が出ているが、それを見て一冊のすべての記事を読みたいと思う人はまれであろう。あの記事を読みたいとか、あのグラビアだけを見てみたいという人の方が多いに違いない。このシステムができれば、週刊誌、月刊誌併せて何百冊の中から自分に必要な情報だけを自分のパソコンに落としてくることが可能になる。これは、商売として成立するに違いない。

 これが実現すると、どういうことが起こるのか。たとえば、今なら「週刊ポスト」80万部とか、「週刊現代」60万部とか、毎週売れる部数はほぼ決まっている。ところが、このシステムの会員数が増えてきて、今言ったような読まれ方をすると、幕の内弁当のようになっている雑誌は50万部止まりだが、あの論文を読んだ人は1000万人いた、ということが現実になる。

 料金体系は、たとえばグラビアページなら1円、論文は3円というふうに決めておく。論文の場合、著者が1円、出版社が1円、メディア会社が1円とすると、1000万人のひとがこれを利用すれば、それぞれなんと1000万円。著者も出版社も1000万円。一つの読み捨て週刊誌の中の一つの記事でこれだけ儲かるわけである。

 いま出版社は60万部の雑誌の部数を一万部増やすのに四苦八苦しているが、このシステムができれば雑誌としての売り上げの他に記事ごとの収入が得られるので、確実に収入増になる。著者の方も、原稿料だけだと400字一枚いくらの世界なので、雑誌が売れても収入は変わらない。ところがいいものを書けば何十万人、何百万人のひとが読んでくれるとなれば、これは大変なインセンティブとなって、いい論文や記事を書く努力を惜しまないだろう。結果的に掲載原稿の質が飛躍的に向上するに違いない。

 読者側も一つの記事が三円程度となれば、毎週いろいろな記事に目を通す。それでも十冊の週刊誌から10ずつの記事を選んでも300円。一冊分の値段で済むのである。これだけ安ければ多くの人が利用するので事業として十分成り立つ。ものすごく大きなビジネスになる可能性さえ秘めているのである。