存在意義のない御用組合

 以下が、99年9月に私が公式に本件および組合の姿勢について話を聞きに行った際の記録である。(録音済)

日経労組の見解
【諏訪・本部書記長(制作局出身)】

――日経労組は、組合員の処分に対しどう考えているのか

 「処分については、解雇の場合以外は全て事後報告となっている。事前に労組の承認は必要ないし、今後も知る必要はないと思っている。今回の件で執行部に処分の報告があった時には、特に異論はなく議論にもならなかった。処分を含む人事権は、経営権の範囲内と考えており、経営側に任せている。私の知る限り、過去に処分について『重すぎる』などと組合が異論を挟んだことはない。」

――あるべき新聞の姿について話し合う場はないのか

 「組合内に『新聞研究部』があるが、名ばかりで活動はしていない。新聞労連が主催する『新聞研究集会』(年2、3回)に執行部から数人が参加するくらいだ。

――記者クラブや再販といった世間的な批判に曝されている問題についての見解は

 「組合としては公式な声明は出していない。再販堅持などは労組として(雇用維持のためには)当然であり、基本的に議論も起こらないといった状況だ。」

――公益企業としての新聞社に固有な問題(接待や記者クラブ問題など)を話し合う場はないのか。制作局や広告局などとは別に、編集局固有の問題があるはずだが。

 「編集局内に定常的な組織は存在しない。『編集局懇談会』が年に数回、不定期に開かれ、執行委員や代議員約20人が出席して局長らと懇談するが、これは定常的に課題を設定して議論するものではない。あとは、現場ごとの対応ということになっている。記者クラブや取材に関する倫理、取材上の秘密の定義、ホームページなどの問題について、組合で議論したことはここ数年、全くない。」

――それでは、経営側にフリーハンドを与えているようなものだ。公企業としての振る舞いは、経営の論理と真っ向から対立する。例えば、接待を受けたら費用を折半するより相手に払わせたほうが儲かるし、記者クラブで情報を独占し続けたほうが都合が良い。再販維持もそうだ。現場の記者が疑問に思っても、人事権を持っている現場の部長に楯つけば、私のように処分されるからみんな黙っている。組合として、このままで本当にいいのか。

 「確かに、そういった問題を解決する場がないのは問題だと思う。難しい問題だ。今のところ、新聞労連の新聞研究委員会くらいしかない…。」


【影井・東京支部書記長(編集局出身)】

――組合員向けのニュースには重要なニュースが全て落ちている。数字がない。これでは茶番劇もいいところだ。48ページ体制や編集組版についての投資額や減価償却費などについて、もう少し詳しく知りたい

「ダメだ。個人的に教えると、組合員間の公平性が失われる」

――知りたくない人は放っておけばいい。私は知りたいんだ。理由はそれだけか

「数字を出すと、それが一人歩きする恐れがある」

――紙面ではいつも他企業の数字を一人歩きさせているじゃないか。どうして労組幹部だけが情報を独占するのか

「何度も同じことを言わせるな!」(注:大声。冷静な議論ができないところなど、部長にそっくり)

――経営側と、ここまでなら組合員に教えて良い、という協定でも結んでいるのか

「そんなものはない。組合の自主規制だ」

――どうして隠す必要があるのかわからない。全く民主的な組合とは言えない。情報がないのでは、ボーナスや給与の妥当性を判断できるわけがないし、安心して働くこともできない

「だから、我々が代表してやっている。交渉結果については、いつも○×をつける形で信任されている」

―みんな、何となく○をつけているだけだ。情報をオープンにすべきかどうかを組合員に問うたことはあるのか

「ない」

――経営情報がないのでは、山一と同じことになりかねない。山一は粉飾されていても、決算が細かく公開されていただけましだ。どうして日経は公益企業なのに組合員にさえオープンできないのか

「日経は株式の非公開企業だから、社内の株主以外にオープンにする必要はない」

――日経の総人件費を知りたい。それを社員数で割れば平均賃金がわかる。外部に公開しろと言っているのではない。組合員として知りたいと言っているのだ

「ダメだ。一般の組合員には教えられない」

――そんな基本的な情報がないのでは、チェック機能が働かない。経営側にフリーハンドを与えているようなものだ

「君はすぐそういうが、我々は常に対決しているわけではない。労使強調が基本だ」

――賃金レベルがわからないのでは、自分の将来設計さえ立てられない。これは基本的な問題だ。その程度も知ることができないなら、年間七万円弱も組合費を払っている価値がない。脱退したい

「ダメだ。労働協約で日経はユニオンショップ協定を結んでいるので脱退はできない」

――管理職になるか、会社を辞めないと抜けられないのか。嫌ならやめろ、と

「そういうことだ」

――私がしてきたことは、労連が定めた「新聞人の良心宣言」に基づいた行動だと思うが

「そんなものは関係ない。単組としては、労連が作ったものに縛られることはない」

――日経の就業規則に「新聞人の倫理綱領を守ること」と書いてあるが

「それが何を差すのかはわからない。少なくとも社内に倫理綱領があるとは聞いていない」

 ほかに、組合の委員選出プロセスについては、経営側の承認はいらないと言っていた。記者クラブや再販、取材上の秘密の定義、ホームページなどの問題について、組合で議論したことはここ数年、全くないそうで、従って、組合としての態度表明もしていないそうである。そうかといって、組合員が経営の論理に反する公企業としての問題について、どこかで議論できるわけでもない。組合は、カネと休みと福利厚生にしか興味がないわけで、これでは、他の製造業と何が違うんだかわからない。ただの純粋な正真正銘の私企業である。それなのに公益企業だからと再販規制の維持を政府に陳情している。

 編集出身の人間も、経営側と全く同じ思想の持ち主であり、そういう人間が選ばれている。官僚的でどうにもならない。よらしむべし知らしむべからず、という感じである。経営内容はヤミの中だ。新聞社は、自分たちだけクローズしていて、組合員にさえクローズしていて、大企業や政府には情報公開を迫るというわけで、やはり「裸の王様」なのである。


新聞労連の見解
【大手勉・新聞研究部/機関誌部担当】


――本件について労連として何か対応できるか。

 「あなたから聞いて、初めて知った。労連は現在、委員長、副委員長ポストが空席で、求心力の低下に悩んでいる。基本的には、労連の憲法である『新聞人の良心宣言』に沿っている行動だと思うので、どちらに正義があるかは明らかだ。しかし、良心宣言は、加盟85社が採択したものとはいえ、規約上、単組に対する強制力がないために、実際にできることは限られている。ただ表面化していない同様の問題は多いので、今回のケースを宣言の『実行』への試金石にできたら、と思う。これから労連のOBなどに働きかけてみる。いきなり裁判に持ち込むよりも、まずは業界内で支持を集めたほうがいい。どういう方法があるのか考えてみるので、8月中まで、もう少し待ってみて欲しい」

 労連は表面的には協力的な姿勢は見せたが、日経単組とのねじれを生じさせることは事実上できないため、影響力は全くといって良いほどない。これでは、解散して別の組織をゼロから創り直したほうが良い。