会社の脅迫(事情聴取)後に書いたメモより
 日時:98/2/17 午後一時〜深夜二時半   
		 登場人物:丹羽(編集局総務)、森(法務室次長)、守屋(西部編集部長)
		
		丹羽「君のやったことは、十分に懲戒免職にしてもおかしくないんだよ。会社の弁護
		   士とも相談したんだが、そのように言っている。去年、高額納税者番付を発表
		   (シバリ)前にフライデーの記者に渡した国税庁クラブ詰めの記者も、同じよ
		   うに我々が依願退社を勧めたら、責任を感じ、すなおに辞表を書いたんだ。あ
		   の事件は十分、懲戒免職に相当するものだった。君のホームページ問題だって
		   同じくらい重い。取材源の秘匿は、日経は業界でも一番厳格に考えているんだ。
		   君も辞表を書くべきだ」
		
		私 「そんな、追いつめるような強引なやり方はフェアではない。記者クラブによる
		   情報の独占はもっと批判されるべき問題であって、懲戒免職だと脅して辞表を
		   書かせたのは一方的な退職の強要だ。全くおかしい」
		
		丹羽「君のように、5年ぐらいで辞めるかもしれないと言っている奴を、雇用してお
		   く訳にはいかないんだよ。うちは基本的に中途をやらず、新卒採用で育ててい
		   くのが経営方針なんだから」
		
		私 「キャリアプランの立て方は労働者の自由であって、そんなことを言われる筋合
		   は全くない。労組のアンケートでも終身雇用を望んでいる若手の割合は半分程
		   度まで下がっている。時代遅れもいいところだ」
		
		丹羽「君は社内規定を読んだことがあるのか?」
		私 「社内規定には、経営方針・編集方針に反してはならない、といった曖昧なこと
		   しか書いていない。何が経営方針であって、何が編集方針なのかをはっきりし
		   て貰わないと困る」
		
		丹羽「おまえは何でもすぐマニュアル化しろと言う。そんなもんじゃないんだよ」
		私 「マニュアルじゃない。法であって権利の問題だ。このままでは、記者の権利が
		   何もないのと同じだ。反対意見を言う記者は何でも当てはめられる恐れがある。
		   どうしてセクハラ規定ができたのか考えてみて欲しい」
		
		丹羽「記者クラブ問題にしても、会社はまだ、はっきりとした答えを出していないん
		   だ。再販制度は堅持するのが会社の明確な方針だ。もし反対などしたら、関東
		   地区で読売の販売店で配って貰えなくなる。そうしたら日経はおしまいなんだ
		   から、従わざるを得ないだろう」
		私 「それじゃあ、記者は何も意見を言えなくなってしまう」
		
		丹羽「おまえ、誰から給料貰っていると思っているんだ!当り前だろう。経営方針と
		   か編集方針に従うのが社員の務めだ」
		私 「外部からも批判が多い問題について、現場の記者の意見を完全に統制するのは
		   やりすぎだ。表現の自由を守るべき新聞社として健全じゃない。今後、改める
		   べきだ」
		
		丹羽「そんなことは全く必要ない。嫌な奴は辞めればいい。取材源の秘匿なんて、取
		   材の鉄則だ。そんなものは社内規定でもなんでもない」
		私 「日本の新聞は取材源を全く明らかにしないために、読者が情報の価値判断をで
		   きないという批判がある。何でも隠せばいいというのは、経営の一方的な論理
		   だ。欧米のジャーナリズムでは可能な限り取材源を明らかにするのが常識だ」
		
		守屋「ふざけるな!」(注:大声。すぐに大声を張上げるのがこの会社の管理職の特徴)
		
		私 「記者の価値観は多様化している。読者や報道される側の立場も考えるべきだ。
		   私は取材源を秘匿せねばならないような重大な情報は書いていないし、インサ
		   イダー情報にあたるようなことも一切、載せていない」
		
		森 「それじゃあ君は、辞表は書かないつもりなのか」
		私 「書く理由がない。経営方針に反する意見を表明したのは確かだが、それが即辞
		   表だとは全く思っていない」
		
		森 「じゃあ君は残って、会社側が悪いということを立証したいのか」
		私 「そんなことは言っていない。こちらが100%悪いなんてことは有り得ないし、
		   懲戒免職にあたるようなことをしたとは思わない。もしそんなに重大ならば、
		   どうして97年の春に私が同じことをしていたのを知っていながら、始末書さ
		   え書かせなかったのか。落差がありすぎる」
		
		森 「そんなに不満があって、まだ日経新聞に雇用して貰いたいというのか」
		私 「雇用者と被雇用者は対等の関係だ。そんな卑屈になるつもりはない。いつ辞め
		   るのかは私が決めることであって、強要されるのはおかしい」
		
		森 「もう一度聞くが、2者択一になったらどうするんだ。懲戒免職と依願退職の」
		私 「だから、そんなことは今すぐに答えられる訳がない」
		
		丹羽「依願退職のほうが、後々のことを考えるといいぞ。国税庁詰の記者だってそう
		   したんだ。それが最後の日経の心遣いだ。まだ若いんだから、今後、出版社な
		   んかに再就職するにしても、自己都合退職にしておけば、こちらは理由を尋ね
		   られても答えない。退職金だって出る。みんな日経にいて良かった、と思って
		   欲しいからそう勧めているんだ」
		私 「詳しいことは知らないが、とにかく、この件を理由として辞める理由はない」