「日本国の研究」/猪瀬直樹/99年3月、文春文庫/初出96年11月〜97年1月

 道路公団、住宅都市整備公団、財政投融資という名の甘い汁を吸い、ぬくぬくと肥大化する官業の群れが民業を圧迫している実態をレポートしたもの。「虎ノ門」というキーワードは興味深い。行革の本質とは何か、が見えてくる一冊。

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「公共事業をやる特殊法人で財投の最大の借り手は日本道路公団である。財投五十兆円の約四%、二兆円を道路公団が借りる。正確に述べれば、道路公団は平成8年度、二兆円の財投引き受けの債権(道路債権)を発行している。道路公団の収入は四兆五千億円である。…高速道路の料金収入が二兆円。さきの財投から二兆円強。ほかに政府からの出資金、補給金、補助金の合計が二千五百億円。そのほか民間借入金など若干額を加えて、しめて四兆五千億円也。…道路公団に累積した借金は22兆円にもなる。毎年返済する二兆五千億円の内訳は、元金償還額が一兆三千億円、利息の支払いが一兆二千億円である。…元金だけでなく利息の負担の重さがよくわかる。高速道路の料金収入では返済が不可能だから、差額を政府が埋め合せるしかないのだ。」

「道路施設協会という財団法人がある。普通の人はその存在を知らない。道路公団総裁の椅子は、建設省事務次官など土木関係の省庁で栄達を極めた役人が坐るポストである。いわゆる天下りである。道路公団総裁を勤めた後には道路施設協会理事長のポストが待っている。…道路施設協会の年間売り上げは七百三十億円にのぼる。社員数は八百人。経常利益は百億円。…この道路施設協会が全国の高速道路のSAやPAを仕切っているのだ。道路公団からSAやPAの占用権を得ている。この占用権には法的な規定はない。「高速自動車国道又は自動車専用道路に設ける休憩所、給油所及び自動車修理所の取り扱いについて」という建設省道路局長通達(唱和2年)が唯一の根拠である。通達には『道路サービスの占用主体は(略)、一括して同一の占用主体に占用を認めるものとする』と記されており、道路施設協会とは書いていない。…道路施設協会は、その傘下に六十五の株式会社を従えている。各社は株式の持ち合い、役員の兼務など強い求心力で統合している。…タテマエは個人株主の集合体だが、OB集団の経営になる。…こうして設置法をすり抜けて実質は子会社となり、不当な利益を分配するのである。…いずれも黒字の優良会社である。本体の道路公団は借金漬けなのに子会社群は儲かっている。その儲けは決して本体の道路公団へは環流しない。六十五社に道路厚生会出資の子会社の道栄を加えた六十六社の売り上げの合計は五千四百五十億円、社員合計は二万六千人。九千人の道路公団の2.9倍にもなる。」

「たとえば二十億円の売り上げのあるレストランえあれば、数億円を協会に納めることになるわけだ。一定の料率、とはおよそどのぐらいのことか。…結局、料率は約二十%と判明した。…七百億円の売り上げのうちテナントからの収入、すなわち営業料率によってもたらされる金額はどのぐらいか。『だいたい五百億円くらい、残りの二百億円は直営の分になる。施設協会でもレストラン、ショップ、ガスステーションを直営している』」

「案外知られていないが、収集業務は郵便局員の仕事ではない。郵便ポストの鍵を開け郵便物を袋に詰め、またつぎのポストへと軽四輪車が走っていく。この仕事をしているのは日本郵便逓送である。年間売り上げ、七百億円。従業員は五千人。虎ノ門の本社に六十人、他のほとんどは現場で仕事をする運転手である。収集業務は軽四輪だが、長距離の輸送はトラックである。…日本郵便逓送は郵政互助会も出資しているが、筆頭株主は郵政共済組合である。社長をはじめ役員の大半は郵政省の天下りで占められている。」

「厚生年金会館という建物はよく知られている。東京なら新宿にある。北海道から九州まで各都市に二十一の会館が建っている。厚生年金スポーツセンターは全国で五ケ所ある。十六ケ所の厚生年金余暇センターは宿泊施設だけでなくテニスコートや体育館などが完備している。さらに健康福祉センターが二十二ケ所。いずれもサンピアなんとかと命名されている。休暇センターと健康福祉センターは、写真で見たところそっくりで、どこがどう違うのかわからない。これらはいずれも財団法人厚生年金事業振興団が経営している。」

「年金福祉事業団とはなにか。じつは一兆円の焦げ付きがあるのだ。そのツケは、いずれ国民が支払わなければならない。住専の不良再建処理のため六千八百五十億円の税金が使われて大騒ぎになったが、人知れずこんなところに一兆円の赤字が生じているのである。年金福祉事業団の事業規模は三十二兆円もある。厚生年金と国民年金の積立金は百六十九兆円になる。年金特別会計から資金運用部に預けられ、二百二十兆円の郵便貯金とともに財投機関の原資となっている。ただし百十九兆円のうち三十二兆円は十年前から年金福祉事業団に貸し戻され、運用を任されてきた。三十二兆円のうち一般事業勘定は九兆円で、グリーンピアの建設のほか住宅資金の貸し付けを行っている。すでに住宅ローンについては住宅金融公庫がある。住宅金融公庫の融資で足りない分に、年金福祉事業団の住宅資金を上乗せする形が実情で、貸付条件もほぼ同じ。審査も実質は住宅金融公庫がやる。なぜ、住宅金融公庫のマネごとをする必要があるのか、理解しにくい。当然、行財政改革の対象とされなければいけない。

 残り二十三兆円は自主運用(資金確保事業勘定、年金財源強化事業勘定)と称しているが、要するに財テクをやってきたのだ。たしかに二十三兆円を、より有利な形で運用すれば年金の資産が増える。だが運用に失敗すればどうなるか。国債を買う程度なら安全だが儲けは少ない。信託銀行や生命保険会社に預けて株式などで丸投げで運用してもらうことになる。結局、バブルがはじけて財テクは失敗し、評価損は一兆円に達したのだ。さらに赤字は拡大していきそうな気配である。なぜなら財投から高い利回りで借りて、低い利回りで運用する構造、逆ザヤはすぐには解消できないからである。」

「第一の問題点は、行政情報が開示されていないことにある。…第二の問題点は、日本独特のマスメディアのあり方にある。記者クラブが行政情報の宣伝機関に成り下がっている。部屋代はもちろん、電話代やファクシミリ代すら払っていない。省庁と内線電話で繋がっていることがおかしい、と気付かない。勉強不足で役人にバカにされていることにも気付かない。テレビ局が郵政省からの天下りを受け入れているようでは情けないし、現職の新聞社の幹部が役所の審議会委員になるのもやめたほうがよい。心理的な癒着を断ち切らないかぎり、国民の代弁者にはなれない。」

「行財政改革は、霞ヶ関だけでは終わらない。永田町の族議員ともうひとつ、新しいキイワードとしてあえてT虎ノ門Uを挙げたい。永田町、霞ヶ関、虎ノ門、この三者が反行革のトライアングルである。」