「続・日本国の研究」/猪瀬直樹/99年、文芸春秋社

 有権者・生活者の立場から常に権力を批判する姿勢が明確で、ジャーナリスティックである。公益法人による非効率性や天下りといった、反国家的な大きな政府のひどい生態がよくわかる。筆者は、永田町(政治)・霞ヶ関(官僚)に加えて、「虎ノ門」(特殊法人・公益法人)が重要なキーワードと提唱している。

 問題は「情報の流れ」であろう。現状では、供給者側(政官業)に有利な情報ばかりが一方的に、受益者側(生活者・有権者)に流されている。一般の消費者・生活者・有権者は、自らの利益になる情報を、十分に認識できていない。皆が高速道路料金は高いと思い、メルパルクホールって何だろうと疑念を抱いてはいるが、その仕組みを知りたい欲求はあっても、理解できずにいるのが現状である。現代人は忙しい。

 さらに、本書で述べられているような事実は、内容も文章も難しいため、ますます伝わっていないと思う。これは筆者の書き方の問題もさることながら、文芸春秋社のような反権力のメディアが、ほとんど存在していないことも大きな問題である。

 従って、本書で明らかにされている情報が、よりわかりやすい形で、頻繁に流れるようなメディアの登場を願う。しかし、日経を筆頭として、筆者が指摘するように、新聞は結果報道ばかりで調査報道はほとんどやらず、行政情報の伝達機関に成下がっている。これは本来の使命とは全く逆の役割である。新聞本来の役目が詰込まれているのが本書であり、記者は深く自戒を込め、本書に記されている調査報道を参考にしなければならない。結論としては、ニューメディア登場の前提条件として、やはり規制緩和で記者クラブと再販制はなくすべきだろう。(99/7)

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 「道路施設協会はなぜSA、PAの家主でいられるのだろうか。『高速自動車国道又は自動車専用道路に設ける休憩所、給油所及び自動車修理所の取扱いについて』という建設省道路局長通達(昭和42年)があり、『道路サービスの占用主体は(略)、一括して同一の占用主体に占用を認めるものとする』と記されている。この通達のみ。要するに行政指導であり、法的な根拠はない。…道路施設協会がこの見返りに日本道路公団に支払う占用料は45億円でしかない。極端な言い方をすれば45億円の家賃を支払うだけでSA、PAの家主となって民間企業から519億円の利用料を得ているのである。しかも道路施設協会が出資している70近い子会社(株式会社)の売上げの合計は約5500億円である。パトロールやメンテナンスや清掃からチケットの販売まで6000キロの高速道路から派生するビジネスを一手に引受けていた。日本道路公団の累積債務は23兆円、毎年、財政投融資のほかに公的資金つまり税金が注ぎ込まれている。…天下りの社長がいる子会社が黒字なのに道路公団本体の赤字を減らすために利益が環流しない。こうしたおかしな構造を『日本国の研究』で指摘してから2年目の昨週、ようやく道路施設協会が分割された。子会社も整理されることになった。…98年7月1日に財団法人ハイウェイ交流センターが設立され、10月1日から業務を開始する。規模が半分になった道路施設協会は10月1日から財団法人道路サービス機構と名称が変更された。今後はハイウェイ交流センターと道路サービス機構が健全な競争をして効率化をはかる。また新しく建設される高速道路のSA、PAは、なるべく地元の第3セクターなどに運営を任せる。道路施設協会が所有していた子会社の株式は邦銀、地銀、生保、損保、ゼネコンなどに放出し、直接支配ではない関係にする。事実株式の売却は順調に進んでいる、等などであった。」

 「ところで、と僕は質問した。株式を手放したならば、子会社の社長も民間から来ているわけですね、何人いますか。答は5名のみ、消え入るような声である。残りの9割は、相変らず建設省、道路公団からの天下りなのである。…結局、公団本体を分割民営化しないかぎり経営の合理化亜はできず、利用者のための高速道路は生まれない。国鉄に可能であった民営化が道路公団に不可能、では理屈が通らない。住都公団も同じである。一刻も早く民営化しなければならない。」

「日本の巨大メディアは、記者クラブに発表されたもの、あるいは政治家や官僚がリークしたもの、それらを報じることにばかり熱心で、行政情報を伝達する機関に成下がっていはしまいか。調査報道ではなく結果報道ばかり重視して、一種のT逃げUに走ってはいまいか。国民の代理人としてのメディアの役割を放棄しているとしか思えないのである。」

「厚生年金と国民年金で120兆円もの積立金があり、96年度末では推定で140兆円に増える。これは給付総額の5、6年分にあたる。欧米では、積立金はせいぜい1年分だ。現在の高料率で徴収をつづければ2025年には400兆円に膨らむとの試算もある。そのほか道路特定財源は3兆円も余っているし、自賠責保険特別会計には2兆円余っている。NTTとJTの政府持株は時価推定10兆円ぐらいにはなる。大蔵省は『隠れ借金』を公表したが『隠れ貯金』は言わないでいる。これらを洗いざらい公表して借金と貯金を相殺し、本当の数字を報じなければいけない時期である。」

「ウォルフレンに言わせれば、日本の権力中枢はピラミッドの頂点が欠けている、のだ。僕は『ミカドの肖像』で、中心は空虚である、ということをテーマにした。たまたま同じことを別の表現で試みた者同士だから、対話はすぐにからみあった。」

「所得税は、12カ月の給料にボーナスが5カ月とすれば源泉徴収は17分の1とT水割Uになる。ところが住民税は単純に12分の1ずつ徴収される。ボーナスをたくさん貰える職種のサラリーマンほど錯覚が強く、毎月の給料明細を眺めては、住民税は所得税より多いとぼやくのである。おわかりだろうか、マスコミと銀行員の諸君。」

「日本のサラリーマンは納税者でなく担税者である。納税者であれば、カネを出すなら口も出す、そんな意識が発達するが、担税者はむしりとられるだけの存在でしかない。確定申告で税金を支払う者は年間850万人、それに対して給与所得者5200万人のうち4200万人が源泉徴収と年末調整をすべて会社まかせにしている。国税通則法という税務署方面では憲法のような法律がある。その第2条の5に納税者の定義が記されている。それによると納税者とは『国税を納める義務がある者(源泉徴収等による国税を除く)及び源泉徴収等による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう』とされている。引用の部分、カッコ内の『除く』はサラリーマンを指しているから、確定申告をする者だけが納税者の意味である。後半の部分、サラリーマンから源泉徴収してタダで税務署の代行をしている会社のほうだけが納税者である。どちらからもサラリーマンがはずされている。申告納税者は国税庁では所得税課、会社が納める法人税は法人税課である。おかしなことにサラリーマンから徴収した税金は所得税課でなく法人税課が対応するのだ。」

「アメリカでは、関係業者から20$以上の贈物をもらってはならないという行動基準があり、したがってワシントンDCのレストランには19$95セントのランチがあることはよく知られている。…ところが異なるところは、2点。例外として1機会に20$以下を認めたこと(同一人から年50$以上になれば違反)。融通を効かせている。この程度で届出義務をやっていたら事務が煩雑になるに決っている。2点目は、小さな役所だが連邦政府倫理庁を設けた。違反を見張る仕事を身内に任せていない。日本の倫理規定は校則のように非現実的でがんじがらめのくせに、実際には守ったのかどうかは不明なシステムになっている。どちらが実際的で効力があるか、すでに明らかだろう。」

「正確に述べると、政府所有のNTT株はおよそ1500万株あった。500万株はすでに売却した。残り1000万株を1株100万円とすれば時価が10兆円になる。だがNTT法では政府は3分の1の500万株の所有を義務づけられているから、実際に売却可能な株は500万株分、5兆円である。この5兆円分を一気に処分したら値崩れするので当面は売れない。政府所有のJT株の時価総額はおよそ1兆3000億円、うち売却可能分は3200億円でしかない。しかしNTT株はすでに赤字国債の償還財源とされているので二重担保になってしまう。したがって梶山発言は、一〇兆円以上ありますよ、とするアナウンス効果を狙ったものにすぎない。」

「あまり知られていない数字を示そう。国有財産は八七兆円ある。『行政財産』と『普通財産』の二種類に分類されている。『行政財産』は四五兆円、『普通財産』は四二兆円ある。四五兆円の『行政財産』とは霞ヶ関の土地・建物、公務員宿舎、郵便局、自衛隊の装備、国立競技場などを想定してもらえばよい。他に皇室財産六兆円なども含まれる。四五兆円のうち二二兆円は不動産である。この不動産は簿価で、明治時代以来の持物が多いからかなり含みがある。含み資産がどのぐらいなのか、調べようがない。大蔵省では定期的に評価替えをしていると説明するので、それを信用したら含みは小さくなる。それでも固定資産税の評価額(公示地価の七割とされているが実際はもっと低い)に見合っていると思われるから、含みは二〇兆円以上ではないか。そうすると『行政財産』は六五兆円を超える。では四二兆円の『普通財産』とはなにか。四二兆円のうち『政府出資等』が三三兆円、特殊法人への出資金や持株である。NTT株もJT株も、さらには将来に民営化される電源開発、日本開発銀行なども民間に株を放出することができる。不動産は八兆円ある。不動産は売却を前提にしている。大蔵省は旧国鉄同様に戦前からの有休地をたくさん持っているのだ。相続税を払えずに物納された土地もここに入る。八兆円は簿価なので、含みが同じくらいとすれば一六兆円ほどか。そうすると『普通財産』は五〇兆円となる。『行政財産』と『普通財産』の合計は115兆円と推計される。といっても『行政財産』である霞ヶ関の建物や自衛隊の戦闘機を売るわけにはいかない。したがって処分可能な『隠し財産』は『普通財産』のほうであろう。『普通財産』では、赤字国債償還財源のNTT株よりもむしろ簿価八兆円、時価一六兆円以上の国有地に注目したい。この土地はただの在庫で使用計画がないまま放置されている。」

「これらの土地の払下げ状況を調べて、困った問題を発見した。3000平方メートルで三億円以上の場合は公表されている。土地を購入した相手方は、なぜかほとんどが民間ではなく地方公共団体であった。おかしな話である。しかも契約は年度末の三月が多い。売却コストもかなり低い。」

「各省庁には設置法というものがある。大蔵省なら大蔵省設置法、通産省なら通産省設置法、とそれぞれ省庁の名称を冠した法律である。…大蔵省を辞めて政策研究のシンクタンク『構想日本』を主宰している、僕と同世代の加藤秀樹が、『急がないと取返しがつかないことになる』と憂い顔でこんなことを言う。…役人に行政指導の根拠はなにか、と質問すれば必ず、設置法に権限が記されていると答がかえってくる。」

「普通財産にはNTTやJTの株、特殊法人への出資金などのほか、相続税を払えずに物納した土地などがある。この土地が簿価で8兆円ある。うち半分は米軍へ提供中のもので当面は売却が不可能であることがわかった。すると売却可能な土地は4兆円余となる。簿価だから含みも相当にあるだろう。これらの土地をさっさと売払って減税財源に充ててもらえるならよい。ところがNPセンターのようなものが出来ると、売り渋ることになりはしまいかと怪しむのだ。NPセンターの理事長は元大蔵省横浜税関長である。…NPセンターが設立されたのは比較的最近のこと、91年である。バブル経済が崩壊して土地の物納が増えた。それらを有効活用するためにとりあえず駐車場をつくり管理するという大義名分ができた。3大都市圏の国有地を大蔵省から預り駐車場を経営することになった。首都圏で9万坪弱、近畿圏で4万坪強、名古屋圏で2万坪弱がNPセンター管理の駐車場となり、それぞれ1万1千台、五千五百台、二千二百台の車を収容している。」

「運休前、乗員組合がストライキをやった全日空では、四十五才機長モデルで諸手当を含め3000万円の年収、なかには社長より高給のベテラン機長もいる。日本の航空業界も、銀行と同様にT護送船団Uでぬるま湯につかり消費者を無視してきた。」

「自衛隊も原発と同じで、認めるか認めないか、と原理主義的な議論ばかりしている間に調達実施本部のようなとんでもない暗黒地帯をつくりあげてしまったのである。」

「全国にゴルフ場は二千余、うち社団法人経営のゴルフ場は三十一を数える。…公益法人には税制上の優遇措置がある。『ゴルフの普及発達のため』が公益の根拠になっているが、現代ではとても通用する理屈ではない。…株式会社であれば37.5%の法人税をとられるが、公益法人は収益部門について27%の軽減税率が適用される。それだけでなく、地価税(国税)を免除される。地価税は固定資産税(地方税)とほぼ同額と考えて良い。普通のゴルフ場は固定資産税と地価税の両方を払う。社団法人は固定資産税のみでよいので公平な競争とはいえない。」

「公益法人は民間企業より税金が10%ほど安い。地価税を払わない。しかも土地代と建築費は特殊法人が支払っているから、財団法人には設備投資のコストがいらない。…厚生省系はこのほかに『厚生年金会館』『厚生年金休暇センター』『厚生年金スポーツセンター』『健康福祉センター』がある。労働省計は『ハイツいこいの村』『サンプラザ』など、総務庁系は『サイクリングターミナル』など、運輸省系は『青年旅行村』『家族旅行村』など、郵政省系は『メルパルク』『かんぽの宿』『保養センター』など、環境庁系は『国民休暇村』『国民宿舎』など。さらに公務員共済組合関係の施設がいたるところにある。…保養施設のタテマエなので民間とちがって風俗営業の許可をとっていない。税金面で優遇されているのだから当然である。…利用者側も、一見、低料金風に騙されてはならない。タコが自分の足を食べるようなことになる。不明朗な赤字のツケは最終的には国民の税金で埋め合せることになるからだ。」

「88の特殊法人のうち、政府から補助金を貰っていない優等生は、営団地下鉄、日本開発銀行、日本輸出入銀行の3つだけである。過密地帯を走る営団地下鉄は南北線の工事が終れば民営化が約束されている。…今年度、道路公団に2500億円の補助金が投入された。つぶさない、となると、政府はこれからも公団にずっと税金を投入しつづけなければならず、事態は全く改善されない。」

「『日本国の研究』を書いた時点で、社団・財団法人に対する補助金が四千億円にものぼっている、とつかんだ。ところが最近判明したのだが、中央省庁所管とは別に形式的には都道府県所管とされている社団・財団法人に八千五百億円もの補助金が出ていたのだ。両方合わせると、年額一兆二千五百億円もの税金が流し込まれている。こういうデータが広く知られ、補助金をもらっている不必要な社団・財団法人が廃止されることが規制緩和であり行財政改革なのである。」

「日本では刑法で賭博行為が禁止されているのに、パチンコや宝くじは例外、また各官庁が胴元になる場合のみ許される。民間で経営し、アルコールと同じように税金を払い、その税金が地域の活性化につながる、というサイクルは閉じられている。…農林水産省が競馬、運輸省は競艇(特殊法人日本船舶振興会)、通産省は競輪(特殊法人日本自転車振興会)・オートレース(特殊法人小型自動車振興会)と、それぞれ所管しており、一般会計とは別のTへそくり予算Uができる仕組になっている。…この配分が適正に行われているか否か、誰がチェックするのか、きわめて不透明なのだ。…サッカーくじの場合、年間売上高は2000億円と予想されている。うち払戻し金、諸経費、国庫納付金を除いた三百億円が、文部省所管の特殊法人日本体育・学校健康センターの手によってスポーツ振興助成金として各団体に配分される。省庁が胴元とし。特殊法人が運営する、というパターンはサッカーくじも例外ではない。…省庁にTへそくり予算Uが存在すること自体、国会を軽視したもの、すなわち民主趣致の原則を踏外している。現在のままだと主務大臣へ報告すれば事足れり、である。たとえば行政監視決算委員会への報告義務を明記するなどの形で国会へフィードバックできる仕組を残すよう強く求めたい。」

「フランスでは原子力発電所周辺の住民に、放射能漏れ事故があった場合にすぐに服用できる錠剤(ヨード剤)が配られている。その映像をNHKの衛星放送で知って、感心した。堂々とリスクを説明するのだから。…スウェーデンでは新たな原発はつくらない、と決めた。こうしたリスクを開示したり、計画を変更したりしながらコンセンサスを形成する文化が、日本では育たないのだろうか。それは多分、不毛な原理主義的な論争に追われていたせいでもあるのだろう。賛成も反対も、T絶対Uがつきまとった。イデオロギーの空中戦が繰広げられている間に、二度のオイルショックを経験し、エネルギーの安定供給への不安から日本の発電の三分の一を原発に依存するまでに膨れ上がったのである。現在の生活水準を切下げればよい、とする意見をしばしば耳にする。精神論としては賛成で、そうした気持ちは大切だが現実には不可能だ。…原発は、世話になっているけれど怖い、と思う。だが怖いという気持ちよりもそれを忘れている時間のほうがはるかに長い。会社が倒産して自殺する人がいても原発ノイローゼ、つまり恐怖の想像力によって死に追いつめられた人のことはあまり聞かない。北朝鮮のミサイルが太平洋に落下した話題は一週間しか持たなかったことも不思議なくらいである。現代人は多忙でありながら怠惰なのだ。」

「道路公団の下には随意契約の怪しげな子会社がたくさんあって、ハイカ事件など不正がはびこり、そのため情報隠し体質になる。またすでに6000キロの高速道路ができているが、二十一世紀初頭に二倍の一万二千キロまで延長されることになっている。僕の計算ではあと三十年はかかる。それなのに、道路公団はいまだに『二十一世紀の初頭』と言張っている。できっこないのだ。必要な道路と廃止を検討する道路とに分ければよいが、一度決めたら変更しない。原発もそれと似ている。『原子力開発利用長期計画』ではあと二十基もつくる予定である。絶対にできっこないのに硬直的にそう決めたままにしている。情勢に応じたヴィジョンの変更こそが必要なのに。」

「ビルの名はアビリティガーデン、…はじめから『生涯職業能力開発センター』と名乗ればよい。ついでに『スパウザ小田原』とはなにか。誰もわかるまい。温泉はスパ、パウゼはドイツ語の休養の意味、スパ・パウゼ転じてスパウザ、造語である。こんな造語で悦にいる感覚はきわめて独りよがりで危ない。『スパウザ小田原』は、三月に小田原にオープンしたホテル兼スポーツ施設で、そういうものは何と呼べばよいのかと訊ねると、リフレッシュセンターですと労働省では説明する。四百五十億円もかかった。…どちらも労働省の特殊法人雇用促進事業団の事業である。雇用促進事業団はほかにも『中野サンプラザ』をはじめ全国にサンプラザ・サンパレスを七施設持っている。『ハイツ&いこいの村』と呼ばれる国民宿舎型のリフレッシュセンターが六十四施設もある。さらに全国ほぼどの都市にもある勤労者福祉センター、なんと千九百もの施設をつくった。…雇用促進事業団が廃止されても、福祉センター関連や雇用促進住宅の新規建設がストップし、売却されるだけで、その他の事業は新しく名称を変えただけの特殊法人へ移管されるのだ。では雇用促進事業団の主たる業務とは何か。失業保険は、賃金に対して事業主負担が1000分の4、勤労者負担も1000分の4、徴収される。これは失業したときにもらう保険の原資となる。九七年度の支出は二兆三千億円である。別に事業主は千分の3.5を負担させられ、五千億円の財源が生じる。うち二千二百億円の使い途が雇用促進事業団に任されている。」

「四十五才以上六十才未満で二十年間勤めても失業保険の給付期間は最長で三百日までだ。では諸外国はどうか。イギリスは六カ月だが、所得や貯蓄が一定額以下である限りにおいて無期限の給付が行われる。ドイツは最長で三十二カ月、約三年。フランスは最長で六十カ月、五年。アメリカの場合は州によって多少異なるが最長は約一年である。…誰も指摘しないが、失業者に還元するためのファンドを繰越して余剰資金として運用に回しているのは相当に奇妙な発想なのである。どこか考えかたの基本がズレている。雇用促進事業団が職業区訓練をして再就職の世話をする、正しいようで正しくはない。個人に失業保険をより多く手厚く給付し、その個人は自己責任において民間の研修機関で職業訓練を憂ければ職業訓練市場が育成される。私立大学に私学助成という税金を三千億円も注ぎ込むのも同じ種類の無駄。…特殊法人や社団・財団法人の存在は自己責任原則を妨げており、コスト意識を失わせて、不明瞭な世界を増殖させてきただけなのだ。」

「許認可の根拠となっている法律や政令を検索できたら行革はもっと進むと思う。霞ヶ関の各省庁には全八十二巻の法令全書が置いてある。…局や課は、この法令に定められた許認可事項を遂行するために存在する。許認可の数が減れば、局や課が減り、予算も減る。許認可を洗い直す作業を、政治家や役人は、できるならやりたくはないと思っている。だからジャーナリズムやシンクタンクや市民オンブズマンが分担を決めてチェックすればよい。要らないものが幾らでも見つかる。…行財政改革がうまくいかないのは、大学や新聞が機能せずただ無駄な人材の山を築いて役立たなかったせいだ。政治家や官僚になめられてきたのだが、さてどのくらい自覚があるのだろう。」

「政府委員制度の廃止がどれほど画期的な出来事なのか、新聞やテレビには日本の近代化の成立ちとからめて説明する思想はないようなのだ。…霞ヶ関の各省庁の局長の数を合計すると、二百七十人ほどになる。彼らが政府委員に任命され、大臣に代わって答弁するのである。当選回数が六回を超えると与党議員は派閥順送り人事で大臣になれる。…戦前は代議士よりも政府委員のほうが各上だった。内閣法制局は現在とは比較にならないほどの権限を持っていた。…戦後、憲法第四十一条に『国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である』と明記された。GHQの指導により、議院法制局がつくられた。行政府とは別に国会議員が自ら議院立法をつくる際は、議院法制局のスタッフが専門技術者として法案づくりの下働きをするのだ。衆議院には衆議院法制局、参議院には参議院法制局がつくられ、内閣法制局とあわせて3つとなった。」