「プレスから見るカンボジア」     プノンペン(カンボジア)  '95 . 9

 ベトナム、カンボジアとも、思ったよりプレスは自由のようだ。両国とも、母国語の新聞が7紙くらい、英字が2紙といったところで、街角のキオスクのような店に並べられている。

 残念ながら私は英字新聞しか読めないが、両国の新聞記事の中味には、かなりの違いがある。端的にいうと、ベトナムが「活況、成長」、カンボジアが「犯罪、復興」といった印象だ。

 例えば、日刊の"Vietnam News"には、"VN Need not fear ASEAN trading competition" といった経済成長著しい記事が明らかに多いが、"Phnom Penn Post" にはshooting , kidnapping といった文字が並び、暗い話題が多い。明るい話題といえば、教育システムを確立する計画がEU、UNICEF 、UNESCOの協力によって動き出した、といった「復興」ニュースだ。

 "Phnom penn Post" という新聞の一面に面白い記事が載っていた。

 "Einglish teachers told not to discuss politics with students"なる見出し。the Royal Government の新しい命令である。教育省のコメントが載っている。「多くの教師が、プノンペンポスト、バンコクポストといった新聞から引用するが、それは大抵、政治的なもので政府を批判している」「政治・腐敗・政府批判を禁止し、調査員が学校を徘徊するらしい。違反者は法廷に送られる。」

 要するに、政府が教師の人権侵害をしている、という要旨の記事であるわけだが、確かに、いわゆる先進国内の人権基準でいえば、批判したくもなる事実だ。

 しかし、必ずしも、「教師が言論の自由を奪われること」を批判するだけでは、賢明とは言えない。物事には裏表がある。まず、こういった記事が出版されていること自体が進歩だ。それに、国連が入って選挙をやり、やっと安定してきたところに、安易な政府批判で安定を崩され、振出しに戻されたくないというのが政府と援助している先進国外務省の考えだろう。

 経済成長と政治の安定は不可分の関係にある。戦後の日本も、事実上、自民党という一党支配であったし、台湾、韓国もそれに近い。ベトナム・中国も共産党支配だ。

 しかも、カンボジアは、明らかに経済の安定以前の段階で、政治が安定しかかっているのが現状だ。こうした一方的な報道には、疑問を感じてならない。どうして裏表の主張が紹介されないのか。ディベート的思考で物事の表裏を明らかにし、読者に良い判断材料を与えるのがプレスの役割ではないのか。

 一面だけを伝える記者にはなりたくないものである。