弁護士によると、争点は以下の通り。


第一本体
 1会社が個人のHP作成を規制することの可否(会社は一年超にもわたり全面閉鎖を強要した)
 2新聞記者の自社批判の自由の有無・限界
 3取材源秘匿義務は約束がない場合にも及ぶものか
   (新聞労連は秘匿約束がない限り取材源は明らかにすべきとの見解)
 4懲戒処分の承認の有無(上申書の効力)
 5退職後の懲戒処分取り消しの利益の有無
 6懲戒の量刑論

第二慰謝料
 1懲罰的配転の立証
 2慰謝料の額


 過去の判例はほとんどないに等しい。特に大新聞に所属する人間はすぐに骨を抜かれ洗脳され、「会社人間」となってしまうためか、経営陣と戦う姿勢がないようである。ジャーナリズムと商業主義がマスを相手としたマーケットではトレードオフの関係であることを考えると、これは民主社会にとって深刻な問題と言わざるを得ない。

 私が重要な争点と考えるのは、「取材源を秘匿しなければならないのは、どういう場合か」(上記第一の3)である。新聞労連は「秘匿の約束がある場合のみ」との見解であるが、私は、それに加え、「情報提供者が権力に対して弱い立場にある者であり、取材源がオープンになるとその人の立場が危うくなると考えられる場合」と定義できると考えている。私が書いている対象は、すべて「権力そのもの」についてであり、勿論、秘匿の約束などしていないため、この点で負けるはずはないと考えている。

 会社側は、全ての取材源を秘匿することを「取材の鉄則」などと勘違いしているが、これは重要顧客である権力(大企業や行政・警察、それぞれに設置された記者クラブ)と癒着して権力の広報役をしている証拠と言える。読者は情報源を知ることで情報の意味を判断するのだが、それがほとんどの場合に隠されるため、どうにも判断できない。それは権力にとっては都合が良い。広告が記事として出ることで広告効果が大きいからだ。この裁判で、「日経にとっての客は、読者ではなく権力なのだ」ということが明らかになるだろう。

 上記第一の1の、会社がHP作成を規制する、については、一年もの間、全面的な閉鎖を命ずるなど、話にならないことである。社内規定さえなかったのだ。HP開設は重要な市民権の1つであり、特に新聞社のような表現の自由・言論の自由を守るべき組織は、その規制に慎重にならねばならない。


過去の判例
(類似の判例はない。以下は、山陽新聞社の労組が経営方針を批判するビラをまいたことを理由に解雇された事件→仮処分として決着)

1.報道機関において会社の信用を害する内容のビラを配布してもその内容が労使関係に関し真実を伝える限り正当な組合活動といえる
2.解雇が協約の人事承認条項に違反して無効であるとされた事例

(地位保全仮処分命令申請控訴事件、広島高裁岡山支部昭39(ネ)10号、昭43・5・31二部判決、控訴棄却、原審岡山地裁)

【主文】本件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。
【事実】「…企業が公共的性格をもつ場合にはその営業方針は直接・間接に国民生活に影響を与えるものであり、その企業内事情を暴露することは公益に関する行為として、それが真実に基づくかぎり企業はこれを受忍すべきであるし、…」(判例時報547号より)