「ビザか善意か」      テヘラン(イラン) '95.11

 金曜日はイスラムの休日。本当に全ての店が閉まっているのだが、バザール周辺を歩いていたら、またまたポリスに捕まり、ポリスボックスまで連行され、パスポ−トチェックだ。不審に思われるとすぐにパスポートの提示を求められる。夜行バスの中でも、検問所でポリスが入ってきて、私だけパスポートの提示を求められる。見るからに1人だけイラン人ではないのだから仕方がないのだろうが、何か差別されている気がして気分が悪い。

 それにしても、ポリスが沢山いる。カンボジアのプノンペン、ホッタール(ストライキ)中のバングラデシュのダッカなど、街中がポリスだらけの風景は見慣れている私であったが、それに次ぐくらいの多さだ。

 しかし、時として、ポリスは助けにもなる。テヘランで、タクシーが捕まらなくてさまよっていると、ポリスがタクシーを捕まえてくれた。行き先を継げて乗り合うタクシーなので、イランでは乗車拒否も珍しくない。言葉がわからない外国からの旅行者は利用しづらいのである。 

 電話をかけるのに必要な小さいコインがなくて困っていると、ポリスがやってきて、道行く人に声をかけては両替してくれるのだった。

 私の印象では、要するに、彼等は暇なのだ。暇だけど、権力は持っているから始末が悪い。勢い、乱用したがる。彼等の多くは、ポリスといっても、強制的に兵役につかされている若者である。大抵が、私よりも若いくらいだ。

 やはり、つい数年前まで戦中であり、陸続きの国である以上、必要なのだろう。一般の人も、常に身分証明書を携帯しており、例えば航空券のチケットはそれがないと買えない仕組みになっている。荷物検査も厳しい。スパイ活動を防ぐ狙いもあろう。

 ただ、ポリスの多さに関しては、単に政権の維持が目的というだけでなく、やはり公共部門で少しでも職を与え、若年人口の雇用不安を拭いたいという思惑があるのだろう。これは中東地域一般で起こっている現象だそうだ。新聞によれば、「乳幼児死亡率が低下し、若年人口が多くなり、多くの国で20歳以下が人口の半数を占めるに至っているが、それを公共部門では吸収できず、そうかといって低率の経済成長で雇用の受け皿もない」のだそうである。

  ◇ ◇ ◇

 シラーズで、ペルセポリス遺跡を見に行くために、タクシーの運転手を雇った。名をドリスという。ぺルセポリスは、ちょっと人為的に直し過ぎではないか、と思えるくらいにしっかり保存されていた。回りには何もないので、唐突感もあり、まるで、よく出来た映画のセットのようだ。

 ドリスは、弟がアバダンにいるから案内して貰え、と勧めて来た。芋づる式に案内者が出るので、非常に都合が良い。この弟、アミルと名乗った。アミルは自分が英語をしゃべれないので、友人を連れて来た。友人は、イタリア風の顔立ちで、来月からアメリカに留学するそうだ。アバダンからアフバスまで、2時間ほど、高原地帯を車で飛ばして貰った。回りは一面の砂場。山もない。木もない。草もない。高原独特の風景。

 アフバスは工業都市で、マッチをすったら火がつきそうなくらいオイルが臭った。オイルカンパニーなどを案内して貰い、結局、二人は、テヘランに行く手配までしてくれた。こんなに一日中つきあってくれて、彼らは一円も請求しない。悪いので、50$あげることにした。「君は必要ないのか?」なんて言う。ずっと、いくら請求されるかと思っていた私は、少し驚いた。本当にイラン人はいい人が多い。

 ただ、よくわからないケースもあった。ペルセポリスで、イラン人と友達になった。彼は盛んにテヘランまで車で一緒に行こう、と誘って来たが、私はアバダンへ行くので、断った。彼もやはりビザを取りたがっていた。ほとんどみんなが、ビザを求めている。ビザ目当てかと思うと、少し興ざめだ。

 イラン第2の都市、イスファハンでもそうだった。市の中心であるメイダーネ・イマーム(王の広場)で壮大なパノラマを楽しんでいる時に出会ったイラン人。テレビの修理工だが、休みなので半日ほど案内してくれるという。マイナーな奥地にも入り、昔ながらの街並を見る。ずいぶん歩いた。彼は結局、バスターミナルまでお世話してくれたが、最後に、やはり日本に来たいと言い出した。ビザをとるために保証人が必要だという。

 イラン人と聞いて日本人がまず思い浮かべるのは、日本に大量に出稼ぎにきている外国人労働者だろう。カルバーニが車の中で、ふと私に言った。「あの家の人は、日本に働きに行って、機械に手を挟まれて手を半分切り落として帰ってきたよ。ボスが入院費用などをすべて払い、お金いっぱい貰って、帰ってきた。5百万円くらい。」

 日本に出稼ぎに行けば金持ちになれる。現地では、皆そう思っているようだ。若年層の増加と雇用不安がある現地では、特にそう思うのだろう。私が接した人の中でも、マシャール(55才)は13人の子供がおり、カルバニー(30才前後)は13人兄弟(死者を除く)だった。カルバニー自身には4人の子供がいる。これだけ子供が多い上に、医療の発達は年々上昇するのだから、人口ピラミッドは、まさに綺麗な末広がりのピラミッド型になる。

 そんなイラン人たちが、逆に女性が生涯で1.5人未満しか子供を産まない日本を目指すのは、当然の経済原理なのだろう。しかし、日本でも同様に失業率の上昇が問題となっており、またNation Stateという近代国民国家の枠組みが人口の移動を封じている。人間とは、勝手なものである。

 


全体のHomeへ 旅ページのHomeへ 国別のページへ