雨飾山

3度目の正直

尾根に笹原広がる 信越国境の山

 新潟県糸魚川市と長野県小谷村の境に聳える雨飾山(あまかざりやま 標高1,963m)は妙高山・火打山や高妻山・戸隠山と連なり、西端に位置する。
 以前から山の名前に惹かれていて、今まで2度山麓まで出向いているにもかかわらず、登ることができなかった、敷居の高い山。新潟県というと近畿からは遠く、気合いを入れなければ運転だけで疲れてしまう(^^;。

 で、今回梅雨の中休みを利用して3度目の正直に挑むことにした。
 登山日:2007年7月7日(土) 晴れ時々曇り


 コース:雨飾高原キャンプ場駐車場 5:37 〜 5:52 2/11地点(斜面への取り付き点) 5:55 〜 6:47 ブナ平 6:56 〜 7:45 荒菅沢 7:45 〜 9:36 笹平 9:36 〜 10:20 雨飾山頂上(昼食) 11:10 〜 12:53 荒菅沢 13:00 〜 13:40 ブナ平 13:40 〜 14:15 2/11地点 14:15 〜 14:30 駐車場
 最初に雨飾山へ挑んだのは、一昨年の夏であった。戸隠連峰の高妻山(標高2,352m)へ登った翌日に計画していたが、高妻からの下山途中で土砂降りの雨に遭い、疲労困憊して中止した。
 その翌年に2度目のチャレンジを試みたが、山麓の小谷温泉前で工事による県道通行止に遭った。強い陽射しが照りつける中、登山口へ向かって車道をテクテク歩いているうちにバテてしまって、ブナ平手前で撤退してしまった。


 。。。それ以来、登りたいが、なかなか手に届きそうにない山になってしまっていた。

 3度目の正直は。。。実は、前日から頭痛と腹痛が続いていた。前夜、自宅を出た時も心配だった。また途中でリタイヤしないだろうか。。。。

 何とか順調に高速を走り、長野自動車道を豊科ICで降り、小谷村へ向って国道147号、148号線を北上した。

 ところが国道の電光案内板で、県道144号線小谷温泉前で夜間通行止を知った。去年の夏の道路工事はもう終わっているものとばかり思っていたのだが。小谷温泉手前の工事現場へ到着するとやはり通行止のバリケードが敷かれていた。
 でもよく読むと、通行止は午後7時20分から翌朝5時までの間であり、それ以外は通行できるとのこと。ひと安心した。

 午前1時半。路肩に駐車して仮眠を取った。


通行時間規制


登山口(車道とトイレの間)
 朝5時に警備員が単車でやって来て、バリケードを外した。先客の2台に続いて、雨飾高原キャンプ場へ向かった。

 空は曇ってはいるものの、雨の心配はなさそうだ。

 トイレと水場のあるキャンプ場駐車場へ車を停めた。しばらくして後から2台、3台と車が到着する。単独男性に続いて出発した。
 キャンプ場へ向かう車道とトイレの間を緩やかに下ると、木道が現れた。ここからしばらく湿地帯の中を歩く。大海川に沿って、いくつかの支流を渡る。

 5枚の葉が鯉のぼりの矢車のように見えるヤグルマソウに出迎えられる。


湿地帯の中を


ヤグルマソウ


湿地帯
 早朝の清々しい雰囲気よりも、ジト〜ッとした湿気の方が気になった。それと体調も。頭痛は治まっていたが、腹の具合はまだ完治していなかった。

 平坦な湿地帯は草が生い茂っている。何度か渡る支流には魚とかは見られない。
 登山口から頂上まで400m毎に9枚の標識があるそうだ。。2/11地点。登山口から800m歩いたことになる。ここで平坦な湿地帯とは別れて、斜面を登って行く。

2/11地点で
 左から沢の音が聞こえている。滝があるようだが、草木でよく見えなかった。

 急登が始まる。鮮やかな緑に慰められるが、喘登は自分との戦いだ。
 
 後ろから来た単独男性に道を譲った。かなり健脚そうだ。順調な足取りであっという間に姿が見えなくなった。


ブナ


急登


ブナ平
 段々大きなブナの木が目立ってきた。2/11地点から小1時間程で傾斜が緩み、木道が現れた。道がぬかるんでいる。何故かブナの林にはぬかるみが多い。標識にブナ平と書いてあった。
 その名のとおり一帯は大きなブナに囲まれている。見上げると鮮やかな緑の葉で空が覆い尽くされていた。

 ちょっとゆっくりしたいところである。


林立するブナ


ギンリョウソウ


サンカヨウの実


平坦な道が続く
 先は長いので重い腰を上げて出発する(笑)。ブナ平を過ぎると、平坦な道が続いた。山腹を巻いているようだ。

 沿道には、ギンリョウソウ一族(笑)、ブルーベリーのような実をつけたサンカヨウが見られた。図鑑か何かで、サンカヨウの実は食べることができて、甘酸っぱい味がすると読んだことがあるが。私は口にしたことがないので何とも言えない。
 他にも少しずつではあるが、いろんな花が見られるようになって来た。ズダヤクジュ、イワカガミ、ツマトリソウ、マイズルソウ等。
          

左からズダヤクシュ、イワカガミ、ツマトリソウ
 ユキノシタ科のズダヤクシュ。漢字で『喘息薬種』と書くらしい。長野県の方言で、ぜんそくのことをズダと呼ぶそうだ。何でもこの草がぜんそくに効くかららしいが。

 マイズルソウとツマトリソウのペアも面白そうだ。


マイズルソウとツマトリソウ


布団菱(左上)と荒菅沢(右)
 段々右下から沢の音が近づいて来る。平坦な道に展望が開けた。前方左上に荒々しいピークと岩壁が見える。布団菱と呼ばれる岩壁だ。それと荒菅沢。上部にはまだ雪渓が残っている。

 登山道は荒菅沢へ向かっての下りとなった。
 沢の少し手前で残雪があった。もう随分と縮小し、土埃で汚れていた。もっと気温が上昇する8月には全て融け切って消えているだろうか。

 残雪の傍にはサンカヨウがまだ花を咲かせていた。トラバース道では既に実がなっていたのだが。朝露に濡れて瑞々しい。まるで新鮮な野菜のようだ。
 それと黄色い花で群生しているオオバミゾホオズキ。


残雪


サンカヨウ


オオバミゾホオズキ
 荒菅沢へ下り立った。少し上の河原で夫婦が休憩している。見上げると雪渓が上の方まで続いている。
 雪渓を撫でてくるのか、吹く風が冷たい。沢の水も驚くほど冷たかった。


冷たい清流


荒菅沢


荒菅沢で
 沢の対岸へ渡って支尾根へ取り付く。見たところ、ここからかなり急傾斜が尾根まで続いているようだ。

 ここまでで約2時間掛っている。ここから雨飾山頂上まで1時間半らしい。。。。頑張ろう(^^;。
 急登が始まった。短いハシゴやロープが垂れていたりするが、危険な箇所はない。

 腹に力が入らないので休み休み登る。




マイズルソウ


ヨウラクツツジ


ビタミン補給
 沿道のマイズルソウやヨウラクツツジに見送られる。

 途中、ザックを下してビタミンと水分を補給する。冷たい喉越しの良いものはいくらでも体内に入る。


支尾根より布団菱と雪渓


林が途切れる
 標識8/11を過ぎた辺りから、林が途切れて視界がよくなった。上空には青空が広がり、強い陽射しが照りつける。
 左側には布団菱の岩壁や雪渓が見える。段々アルペンチックな景観になってきて、ワクワクする。

 石の割れ目にクモマニガナが咲いているのを見つける。何と黄色い花に交じって白い花のバージョンも。


クモマニガナとシロバナクモマニガナ


荒菅沢を見下ろす


登りは続く


雨飾山頂上
 荒菅沢の渡渉地点は遥か下になった。駐車場は尾根筋の向こう側に小さく見える。。。。ここまで遠い(^^;。心配なのは周辺の山に雲が掛かって来たこと。午後、雷雨にならないことを祈った。

 登山道はガレ場の登りになった。ハシゴの次に長いロープが垂れた箇所を登る。雨でなくても滑りやすいところだ。
 。。。やっぱり腹の調子が悪い。何度も立ち止まって休み休み登るので、稜線がなかなか近づかない。左上に雨飾山頂上が現れた。あそこまでまだ遠いように思える。

 長いロープをクリアしたところ初めて下山者とすれ違った。、2/11地点辺りで追い抜かれた単独男性だった。早い。


笹平で


笹平  ガスに隠れる頂上
 傾斜が緩やかになり、目の前に笹原が広がった。標識で確認すると笹平だった。

 前方のくぼ地には残雪がある。左から右へと風が吹き、ガスが流されて行く。神秘的な光景。やんわり暖かい風に時折冷気が交ったような不思議な感覚。

 穏やかな笹平の中を登山道が蛇行し、登山者が頂上を目指しているのが見える。頂上が時折ガスに隠れる。まるで幽霊船でも眺めているかのような。。。これも不思議な感覚。


 笹平にはいろんな花が咲き始めていた。ハクサンチドリ、ハクサンフウロ、アカモノ、ヨツバシオガマ。どれも高山植物。道の両側にはロープが張られていて、植生保護のために立ち入られないようになっている。


ハクサンチドリ
        

左から  ハクサンフウロ、アカモノ、ヨツバシオガマ
 

梶山新湯(雨飾温泉
新潟県側)への分岐
 笹平の鞍部のようなところへ下りると、右から登山道が合流していた。新潟県糸魚川市の梶山新湯(雨飾温泉)方面からの道である。下りは小谷方面でなく、このコースを下れば面白いと思うが、単独登山では車のデポの関係で無理な話。
 ここで2人目の下山者とすれ違った。


梶山新湯(雨飾温泉 
新潟県側)への登山道


笹平より雨飾山頂上
 
 ゆっくりと頂上が近づいてくる。よく見ると右と左に人が分かれて立っているのがわかる。雨飾山は双耳峰なのだ。ここからだとそうは見えないが。
 ちなみに向って右半分が新潟県、左半分が長野県側である。だが、最後の登りが急で辛そうだ。


ミネウスユキソウ
 ミネウスユキソウが咲き始め、薄黄色のイワオウギやシシウドに似たオオサカモチも見られる。


イワオウギ


オオサカモチ
 最後の急登に差し掛かった時、左下に荒菅沢が見下ろせる。遥か下に渡渉地点があるはずなのだが。長い時間を掛けて造り上げられたカールを見下ろしていると、何か大きな力によって引きずり降ろされるような気がする。。。。

 下山者達は皆、展望は駄目だったと口を揃える。

 。。。私はただ急登に足が上がらずもがいているだけ(^^;。


 最後の力を振り絞って両峰の鞍部へ登り立った。 


頂上手前より 荒菅沢カールを見下ろす


雨飾山南峰


雨飾山頂上(南峰)で


雨飾山北峰  南峰より
 鞍部に立って、雨飾山の頂上が目前に迫った時、いても立ってもいられなかった。足早に頂上へ。そして三角点に触れた時、言葉では表現できないほどの感激が体中に溢れた。


 ついに!

 3度目の正直が成就された。実を言うと、昨夜自宅を出る時、夜中高速道路を走っている時、通行止解除を待っている時、腹痛を引きずって登っている時。。。今回も登頂できるかどうか不安だった。また途中で挫折してしまうのではないかという不安が心のどこかにあった。
 でもついに登った。雨飾山へ。嘘みたいだ。


 石が敷き詰められたような、三角点のある頂上は南峰。長野県側だ。対して向こうに見える石仏があるピークは北峰。あちらは新潟県側。こうして見ると、双耳峰であることがよくわかる。

 残念なのは展望がよくないこと。


北峰で


雨飾山南峰  北峰より
 何と、登山口から頂上まで5時間近くもかかってしまった(^^;。

 容易に登れる山ではないなあ。自宅から登山口まで遠かったし、登山口から頂上までもさらに遠かった。

 駐車場で会わなかったパーティーがいることから、新潟県側から登ってきたのだろう。


笹平を見下ろす  左後方に鋸岳と鬼ヶ面山  南峰より
 ここから見下ろした笹平の風景は素晴らしい。登山道が草原の中を蛇行していて、登山者達が蟻のように動いている。

 くぼ地の残雪が傷痕のよう。

 笹平の両側から谷へ向かって急峻に稜線が落ち込んでいる。千切れ雲はその下を浮遊する。
 背後に連なるのは鋸岳と鬼ヶ面山のシルエット。


八百平方面を望む
 周囲の風景をかみしめるように目に焼き付ける。展望の悪さなんか、もうどうでも良かった。


 後日で知ったことだが、この山を日本百名山のひとつに定めた深田久弥自身も3度目で登頂できたらしいが。。。


昼食


デザート


笹平へ下る
 笹平から次々と人が登って来る。南峰の片隅に腰を下して、早い昼食にした。中央自動車道の恵那峡SAで買った朴葉寿司とぬか漬けとペットボトルの茶。朴葉寿司は素朴な味だった。

 食後は湯を沸かしてコーヒーを飲んだ。


 寒くも暑くもなく、まったりと頂上で過ごす。


 いつまで経ってもガスは晴れず、これ以上長居しても無駄だったと思ったので下山する。
            

笹平の花  左から オオバギボウシ、ヨツバシオガマ、ハクサンタイゲキ
 垂直に近いような斜面を下る。帰りもいろんな花を鑑賞する。花が咲く前のオオバギボウシなんて初めて見た。茎の色が黒っぽく毒々しい。実際は食べられる植物なのだが。

 ハクサンタイゲキも初めて見た。もちろん日本海側に多く分布しているらしいが。トウダイグサ科。


カラマツソウ
      

左から  ゴゼンタチバナ、サンリンソウ、ミヤマダイコンソウ


笹平より雨飾山頂上を振り返る
 笹平の端まで来て、雨飾山を振り返る。これほど時間と労力を費やした山は。。。他にない。もう2度とここへ登るかどうかわからないので、しっかりとこの風景を覚えておこう。


長い支尾根を下る


ハシゴあり




荒菅沢
 やっぱり激下りだった。まだ入れ違いにドンドン登って来るが、みんな表情が苦しそうだ。長いロープが垂れた箇所では、3人連れの先頭が落石を起こした。ラグビーボール大の石が下の2人目がけて転がって行く。とっさに「ラク!ラク!」と叫ぶ。
 2人の反応が早かったので直撃されずに済んだが、冷や冷やものだった。

 林の中に入ると蒸し暑い(−−;。涼しい風が吹かない。

 荒菅沢へ下り立ち、沢の水を口に含んでみると、とても冷たかった。見上げると頂上付近はガスに覆われ始めていた。
 対岸へ渡って見晴らしの良い場所で振り返ると、支尾根の上部までガスに覆われ出した。


荒菅沢と布団菱を振り返る
 後は快適なコースだった。帰りもブナ平の立派なブナを鑑賞する。見上げると、本当にでかい。
 ブナの森の中にいる。手袋を外して幹に触れると、冷たくて気持ちが良い。上空を覆う鮮やかな緑色も、熱く火照った体や心をクールダウンさせてくれるかのよう。


ブナの巨木


ブナ平付近


2/11地点へ
 ブナ平を過ぎると、また急な下りとなった。段々沢の音が大きくなって、2/11地点へ下り立った。

 後は湿地帯の中を歩くだけ。ガスは湿地帯にも立ち込める。草ばかり伸びて、花は極めて少なかった。


ガスが立ち込める湿地帯


駐車場へ
 下りは3時間20分掛かった。結構きつかった。

 駐車場に着くと、キャンプ場の売店でアイスクリームと山バッヂを購入した。店の前のベンチに座って、アイスクリームを食べる。甘酸っぱい山ブドウと濃厚なバニラアイスがマッチしている。美味い。

 でも本当は冷たい生ビールの方がいいに決まっている(^^;。


小谷村産山ブドウのアイスクリーム
雨飾山の山バッヂ(右)


駐車場


村営 雨飾荘
 少し下ったところにある村営雨飾荘で入浴した。内湯は5人ぐらいしか入れない狭さであるが、露天風呂は30人ぐらい浸かれる。

 ただ味も素っ気もないコンクリート製で、まるで養殖鱒になった気分(^^;。

 さっぱりした。

 腹痛も何度かトイレへ行くうちによくなっていた。


国道148号線  右は姫川


北陸自動車道
 帰りは日本海経由で。国道148号線を北上し、糸魚川市へ向かう。姫川沿いは大きな岩がゴロゴロしていて、対岸の険しい崖も大雨が降れば崩れそうな。。。ここで暮らすには常に災害と向き合わねばならないのだろう。

 糸魚川から北陸自動車道を走った。すぐに富山県へ入る。海が迫っているが、曇り空で寒そうな色だ。期待していた立山連邦への展望もなし。

 途中のPAで夕食を取った。富山名物のホタルイカの酢味噌和え、鱒寿司、カニ汁がセットになった定食を食べた。カニ汁はダシが効いていてとても美味かった。。。やはりここでもビールが欲しかった(^^;。


越中名物定食
 3度目の正直で登頂した雨飾山。自宅から遠かったし、体調が万全でなかったのでさらに頂上までも遠かった。でも、雪渓が残る荒々しい山容、高山植物が咲く穏やかな笹平、2国で山を分け合うような双耳峰等、登って良かった。

 雨飾山、好きな山のひとつになった。

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