くせのある亜麻色の髪が、さらさらと指の間をすり抜ける。頭を撫でる手が
心地よいのか、くる……と微かに喉を鳴らして仔猫はライの胸に頬をすり寄せた。
まるで母親に甘えるように。
そんな無防備な仕草さえ好ましくて、ライは抱きしめる腕に力を込める。自分
以外のぬくもりが、こんなにも快い。触れあう肌から伝わる熱に安らぎすら感じる。
心が求める相手と体を重ね、ともに眠りにつくことがこれほど幸せなのだとは
知らなかった。そんなこと、いままで誰もライに教えてはくれなかったから。
少し前まで己の目的以外に興味が持てず、過度に接触してくる輩には嫌悪しか
感じなかったのが嘘のようだ。もはや一匹で生きることなど考えられない。自身の
変わりようにライは戸惑い、ゆるく首を振る。いや、違う。そうじゃない。
他の誰でもない、コノエだから。
どんな時もけして逃げ出さずライに真向かい、すべてを受け止めてくれた唯一の猫。
彼が与えるぬくもりだから、心地よいのだ。叶うのならいつまででもこうしていたい、と
思うほどに。
尽きることなく胸を満たすこの想いを、なんと呼べばいいのか。まだライには
わからない。コノエと共にいることで生まれる感情はそのどれもが未知のもの
ばかりで、自分でもどうしていいのか解らず混乱することもままある。
けれど、ただひとつ。次々に溢れては消える迷いや葛藤の中にあっても、けして
見失うことのない思い。どれほど激しい感情に浚われても色褪せぬ誓いをライは
心に刻む。
たとえ、この先どんな運命が待っていようとも。我が身に宿る狂気を消すことが
できなくても、もう二度と自ら死地を求めようとは思わない。最後の一息まで
足掻いて、抗ってみせる。いま腕に抱く仔猫が命を懸けてライに教えてくれたように。
いつか訪れる死が、二匹を別つその日まで。コノエを側に留め置く為なら、自分は
どんなことでもするだろう。それこそ、何を引き換えにしてでも。
世界も未来も、コノエがいなければ意味を成さないのだから。
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