HONEY
いらいら。 いらいらいら……。
これ以上ないというほど険悪に顔付きで、自称『暴れん坊大将(含下半身)』 いつもは気さくな上官の滅多に見られない低気圧モードに、手伝う部下たちも 周囲のそんな態度に更に苛つきを増しながら、捲簾は自棄になって署名を書き 苛つきの大本──金目も可愛らしい、小さな想い人の事をしっかりと妄想しな
ことの起こりは、一週間前。 予てより捲簾の心を占めていた、小さな小さな彼のお気に入りに、見境なくも理性
「…うえっ!」 絞り出すような声を上げ、腕の中に抱かれていた幼子は捲簾を突き飛ばした。 「うえ〜っ、ぺっぺっぺっ…」 苦虫でも噛んだように顔を顰め、幼子──金蝉童子の養い子で名を悟空というの 「…ヲイ」 相手は、何も知らない子供。そんな子供に手を出して接吻(しかも舌まで入れて) ちびっこ相手に『ヲトメの恥じらい』とか『初々しさ』とか別に期待していたわけでは しかし、捲簾が口を開くよりも先に 「ケン兄ちゃんのおくち、ニガい〜〜〜っ!」 と、えぐえぐと泣きながら出た悟空の言葉に捲簾は眼が点になった。 「………なんですと?」 「ケン兄ちゃんの舌、なんでそんなにニガイのぉ?」 大きな金瞳いっぱいの涙を溜めた悟空に問われ、うっと捲簾は答えに窮し、無意識 (ニガい…って、やっぱ煙草のせいか?) 肺まで真っ黒な天蓬ほどではないが、捲簾も結構なヘビースモーカーである。 「あ〜…これはだな…大人はみんなこうなんだぞ?」 何処かの腹黒元帥の様な巧い言い訳が咄嗟に浮かばす、捲簾はかなり苦しい しかし直球で生きてるお子様に、そんな言い逃れがあっさり通じる筈もなくて。 「ウソだっ!だって金蝉の『ちゅう』はお茶の味がするよっ」 ぴきっ。 ごく当たり前のように切り返された言葉に捲簾の顔が固まる。体感にして数度ほど 「観音のおばちゃんのはりんご味だし、ナタクのはイチゴ味だし………」 小さな指を折り折り並べられる名前に反比例して、捲簾の表情が蒼白になって (あのケダモノ共が……) 自分も充分その『ケダモノ』に入ってるのを棚に上げ、彼は思いつく限りの罵詈雑言 「あとね、昨日の天ちゃんはモモの味っ!この前はみかんで、その前はメロンだっ 「はぁっ!?」 目の中に入れても痛くない可愛いこざる相手だというのも忘れ、捲簾は思わず声を それもそのはず、自分以上の愛煙家である天蓬が既に手を出していた──こと …っつーか、納得いかないのだ、捲簾的に。 (なんでだっあんだけ吸ってんのに……) どうにも合点がいかず、悶々と思惟を巡らす。と、捲簾の脳裏に一昨日のゴミ溜め それに…この頃あの白衣の四次元ポケットを、煙草の他に大量の飴玉が占拠して 友人とはいえ、天蓬の抜け目のなさには呆れるばかりである。嫉妬深い保護者と 険しい表情のまま遠くへ行ってしまって自分を見ない捲簾に、悟空はぷうっと頬を 「ケン兄ちゃん……?」 「………」 「ケン兄ちゃんってば」 「………」 幾度呼んでも袖を引っ張っても気づかない捲簾に、とうとう悟空の癇癪が爆発した。 「…っ!ケン兄ちゃんなんかっ大っキライッ」 「……っな、悟空っ」 投げ付けられた絶叫に捲簾が我に返った時には、もう遅く。 だだだ…っと駆け出した悟空のキツイ一言だけが誤解という脚色つき──「ケン兄
その日以来捲簾の側から煙草の類いが消え、それに合わせるように彼の機嫌が |