キス×キス×キス
「悟空、寝る前にちゃんとトイレに行きましたか?」 「うん」 「三蔵と悟浄に『オヤスミナサイ』って云いました?」 「うん、云ったよ」
お布団を敷きながら、八戒が尋ねる。 お母さんみたいな科白に、俺は元気よく頷いた。
一日の終わりの、寝る時間。 俺はそれが、いっとう好き。 ゴハンの時間も、もちろん好き。だって八戒のゴハンは、すっごくうまいもん。 でも一番好きなのは、この時間。 寝る前に、『おやすみなさい』って八戒がキスしてくれるんだ。 あ、ちゃんと唇に、だよ。
寂しい時に、おでこにちゅってしてくれる三蔵のキスも好き。 悲しい時に、『二人にはないしょだぞ』って頬にしてくれる悟浄のキスも好き。
でも、こうして寝る時にしてくれる八戒のキスが、一番好き。 だって、『ココロ』がぽかぽかするんだ。 八戒に抱き締められているときみたいに。 イヤなコトがあっても、八戒がキスしてくれたら、ぜんぶ消えてなくなっちゃう。 時々キスの後にする、『ちょっと痛くて気持ちイイコト』は胸がドキドキして、まだ慣れないけど。 八戒のキスは、優しいから好き。 だからねぇ、八戒。 今日もシテ。 俺がもっともっと八戒のこと、好きになるように。 八戒が俺のこと、もっといっぱい好きになってくれるように。
「さ、悟空。もう寝ましょうか」 「うんっ」 待ちに待った言葉を聞いて、俺は八戒に抱き着く。 そんな俺を、ゆっくりと布団に降ろして八戒は云った。 「おやすみなさい、悟空」
八戒の優しい笑顔が、俺の顔を覆って─── うっとりして、俺も目を瞑った。
そっと重なる、俺と八戒の唇。 心臓がばくばくいってるの、八戒に聞こえちゃいそう…
ふいに、触れていた温もりが消えて。 びっくりして目を開けると、ちょっと怒った顔の八戒が俺を見下ろしてる。
「…悟空、歯磨き忘れてますね。駄目ですよ、虫歯になっちゃうでしょ」
───八戒なんて、大っキライっ! |