※ジャン兄さんが上官に食われてます。
兄弟ルキジャンしか認めーん!! という方はここで
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Apres un reve



「んっ、うっ……く、ぅ」

 くしゃくしゃになったシーツの端を噛みしめて必死に声を押し殺す。

ここは頑丈な兵舎で、尉官の為の個室だ。いつ誰が横を通るかも

わからない宿営地でのテントじゃない。

 それでも声が漏れることが恐ろしくて、俺はこみあげる嬌声を喉奥で

堪える。そのくせ、続きを強請るように浅ましく尻を左右に揺らしながら。

「あ、あ、ヒッ…」

 中を穿つ肉棒が俺のイイところを掠め、腹につくほど反り返った

昂ぶりから、ずいぶん色の薄くなった飛沫がぽたぽたと零れてシーツを

汚す。

 もう許してほしい。そう何度も訴えているのに、俺を組み敷く男の腰は

止まらない。ぐちゃぐちゃに蕩けた後孔をゆるゆると捏ね回し、硬く張り

詰めた楔で濡れぼそる肉壁を執拗に擦りあげ、ぬるま湯のような

快楽で絶え間なく俺を責め立てる。まるで拷問のように。

「あぁあっ! ふあっ、ん、あ……ッ」

 入口近くを抉っていた男の亀頭が不意に最奥まで突き上げ、

すこし手前にある痼りをぐっと押し潰す。その途端凄まじい快感が

脳天まで突き上げて、俺は――熟れすぎた果実みたいにパンパンに

なった――ペニスから出がらしの精液を撒き散らして達した。

「き……きてぇッ! もっと深く、に、きっ、アッ……い、イクッ、あっ、

いっちゃ……ッ」

「ジャン……っ」

「出してッ、お、奥に、ベルナルドので……アッ、……い、いっぱいに

して……ェ」

 男に教え込まれた卑猥な言葉を口走りながら俺は全身を戦慄かせ、

中の雄を喰い締める。限界まで張りつめていた陰茎は、押し広げた

媚肉のもたらす淫らな蠕動に耐えられず、腹の奥に大量のザーメンを

ぶちまけた。

「ふぁ、あー……あ……ふ、う」

 煮えたぎる熱い滾りが散々注がれた俺の中を満たす。ビクビクと

肉壁が不規則に引き攣り、牛の乳を搾るように男のペニスから欲望の

残滓を吸い出そうといやらしく収縮する。既に受け入れられる量の限界を

超えているのに、でも止まらない。最後の一滴まで欲しい。だってこれは

俺のものなんだから。

「ん、んんっ、あ……ンッ」

 小刻みに中を擦っていたペニスが勢いをなくし、長く続いた吐精が

ようやく終わる。それとほぼ同時に結合したままの窄まりから先に

注がれた分と、今の射精で飲み込めなかった精液がごぽり、と生々しい

音を立てて噴き出して俺の太腿を白く汚した。





 ろくな訓練もされぬまま放り込まれた戦場は、いままで見たどんな

ものよりも最低で最悪だった。

 さっきまで軽口をたたいていた同期の兵士が、一瞬目を離した隙に

四肢が吹き飛び、焼け焦げた肉塊へと変わる。誰がいつ死んでも

おかしくない凄惨な日常は、人の心を容易く壊した。

 軍隊の中で横行する暴行と虐待。無能な上官や理不尽な命令に

よって死に晒されるストレスは、ぶつける捌け口を求めて次第に

エスカレートしてゆく。標的は身体的に劣る者や、軍の中でコネや

後ろ盾を持たない者、そして入ったばかりの新兵。その中には当然

俺も含まれていた。

 装備を隠されたり、間違った集合時間を教えられたり、食事を

横取りされるのなんて序の口。上の目を盗んで繰り返される暴力は

歯止めを失い、回を重ねる毎に参加する人数が増えていった。

『なぁ、こいつ女みたいな面してるじゃないか。ひん剥いて、皆で

マワしてみないか』

 暇つぶしに俺を殴っていたうちの1人がそう提案したのは、最初の

暴行からどれくらい経ったころだろうか。あの時はいろいろと悪い

条件が重なった。二週間以上続く戦闘のせいで近くの村や町に出て

女を買うことも出来ず、加えて前日は辛うじて勝利したものの、

数十人にも及ぶ戦死者が出て誰もが気が立っていた。昨夜から続く

長雨も男達の鬱屈を煽り、わずかに残っていた理性の働きを鈍らせた。

平常なら罪として忌避する宗教的な禁忌すら、あっさりと踏み越えて

しまうほど。

 男の掛け声を合図に、嗜虐の喜びに酔いしれていた兵士たちの目に

色欲の灯が点る。互いに目配せをすると、闇から幾つもの手が伸び、

蹲る俺の服を引き裂きはじめた。

 素肌を這い回る、おぞましい感触。乱暴に開かれる脚。肌を撫でる

生臭い獣の息に、俺は恐怖のあまり抵抗できない。普段なら人目に

晒すことなとまずあり得ない排泄肛に、冷たい――おそらく安酒を

掛けられ、勃起したペニスが押し当てられる。

 犯される、おなじ男に。愛情からではなく、ただ嗜虐のために。

逃れられぬ絶望に塗り潰された俺の視界に光かさしたのは、まさに

その瞬間だった。

『貴様ら、何をしている!』

 雷鳴のような鋭い叱責と、複数のライトが小屋の奥の俺たちを照らし

出す。突然突き刺さる閃光。驚いて振り返れば、眩い光の傍らに立つ

影に、その腕に巻かれた腕章に俺を強姦しようとしていた男達は

凍り付いた。

 憲兵だ。軍隊での不正を取り締まる兵士たちが数名、此方に銃を

構えて立っている。冷たく輝く鈍色の銃口に男達はパニックに陥り、

我先に逃げ出そうと走り出す。しかし数メートルもいかず全員が

憲兵に捕縛された。

 突然拘束から解放され茫然とする裸の俺に、ふわりとコートが

掛けられる。のろのろと顔を上げれば、端正な顔が心配そうに俺を

見下ろしていた。

 誰だろう、これは。痛みで痺れた頭で目の前の男を記憶の中から

検索する。ああ、そうだ。思い出した。一週間前に赴任してきた将校だ。

眼鏡をかけた理知的な風貌に違わず作戦の計画・立案を得意としていて、

昨日の勝利もこの男が奏上した案が採用されたからだと聞いた。

ここ半年戦況が芳しくないうちの隊の為に、中央軍から直々に派遣

された中尉。大學出のエリートだというその男は、軍人にしては珍しく

伸びた髪を襟のところで括っていた。

『大丈夫かい?』 

 男が長身を屈ませ、案じるように俺の顔を覗きこむ。

 恐怖で碌な返事も立ち上がることすらできない俺をコートにくるんで

抱き上げると、中尉は副官に後を任せて小屋を出た。

 雨のなか宿営地の端にある医務室まで運ばれ、散々殴られた箇所を

丁寧に手当される。犯されそうになったショックから自失したままの

俺に、中尉は今までの経緯を静かな声で説明した。

 以前から兵士たちの間で暴行事件が問題になっていたこと。しかし、

徒党を組んでいる為なかなか現場を押さえることがてきなかったこと。

そして抜き打ちの点呼で複数の不明者がいることに気づき、憲兵と

ともに宿営地を見回っていたのだ。

 怖かっただろう、間に合って良かったと囁く優しい笑顔を見た瞬間、

俺の中で張りつめていた心の弦がぷつりと切れてしまった。眦から

溢れ出す感情のまま中尉に縋りつき、子供のように嗚咽を漏らす。

自分でもみっともないと思うのに、でも止まらない。だって初めて

だったのだ、こんなにやさしくされたのは。

 故郷を遠く離れた心細さと、誰にも頼ることができない孤独。

負けまいと必死に耐えてきたものが、突然空けられた風穴から次々に

零れて俺の頬を濡らし続ける。いつまでも泣きやまない俺に、大尉は

ずっと付き添っていてくれた。疲れて眠ってしまうまで、ずっと。

 夜が明けるとすべてが変わった。

 俺を強姦しようとした連中は厳罰に処され、除隊こそされなかった

ものの最前線の激戦地へと送られて、そのほとんどが死んだ。

「名誉の戦死」となっているが、真相はわからない。問題を起こす

兵士を前線で「処理」することは昔からよくあることだ。スパイ行為や

反逆罪でもない限り軍法会議などいちいち開いていられないし、

自分の隊から犯罪者を出すことを喜ぶ指揮官などいない。

 俺をはじめ暴行の標的になっていた者は配置を換えられて、

待遇も以前より随分とましになった。隊に巣くっていた膿を切り捨てた

こともあるが、部隊が勝ち続けているのも大きな要因だろう。この地方に

展開された師団の中でも飛び抜けて華々しい戦績は、兵士たちの

志気を大いに高揚させ、隊内に誇りと規律を再び蘇らせた。命がけで

もぎ取った成果が正当に評価されれば、人は礼節を捨てたりはしない。

たとえどんなに無学な者であっても。

 同期の兵士たちが戦果に湧くなか、俺は中尉直属の部隊に移り

後方に回された。従軍神父の護衛として死期の迫った者の告解の

補助や、戦場で散った兵士たちの弔いが主な仕事だ。痛ましい死者の

姿を見るが辛くないといえば嘘になるが、なんの恨みもない他人の

命を奪うよりはずっといい。それに田舎育ちで学もなく、医療の知識や

戦闘で役に立つ技術も持たない俺ができることなど高がしれてる。

こんな自分にもできることがあると思えば、配置換えもありがたかった。

 配属が変わって変化したことが、もうひとつある。上官となった

中尉との関係だ。危機を救ってくれた命の恩人と、犯罪の被害者。

そこから始まった繋がりは、やがて上司と部下という位置を踏み越えて

秘密の愛人へと行き着いた。公になれば、どちらも破滅。けれど、

そうと知っていても俺たちは、俺は中尉を拒むことはできなかった。

 なにくれとなく世話を焼いてくれる、年上の男。地獄のような戦場で

出会った唯一の頼れる存在を、どうして手放すことができるだろう。

日常のさりげない気遣いの中に滲む彼の愛情に、まるで宝物のように

大事にされる心地よさに、俺は瞬く間に籠絡された。その好意が肉欲を

ともなったものであることを薄々気づきながら。

 ある日酔った勢いで抱き寄せられてキスされた時も、突き飛ばす

どころか、気がつけば自分からその胸に縋りついて。頭の芯まで

痺れるほど甘い口づけに溺れ、夢中になって彼の唇に吸いつき

忍び込んできた舌肉を飢えた犬のように貪った。仕掛けたはずの男が

目を剥いて驚くほどいやらしく。

 それを切欠に中尉は俺を抱くようになった。

時間さえあれば昼夜を問わず行われる性交は極上の蜜のように

甘美で、目眩がするほど気持ちがよくて。親父に対する反発であまり

経験のなかった俺は、中尉から与えられる愛撫になす術もなく翻弄され、

ひと月も過ぎた頃には町の娼婦たちよりも淫らに男を誘うようになった。

 求められれば、すぐさまズボンを降ろして尻を突きだし、組み敷く男を

受け入れる。雌犬のように浅ましく腰を振り、咥え込んだペニスを締め

付け、中に欲望を注がれて歓喜に咽び泣く。三日とあけず抱かれ

続けた体は、中尉の匂いを嗅くだけで何処でも何時でも発情できる

ようになってしまった。ただ彼を喜ばせる為だけに。

 周囲にひた隠しながらの情交が一年ほど続いた、そんな時だ。

ルキーノから3通目の手紙が届いたのは。



『兄さん、元気ですか。俺も弟たちも元気です。3人とも無事進級

できました。父さんも最近は真面目に働いています。去年生まれた

子牛も大きくなって、先週の競市で一番の値で売れました。今年は

弟たちにもクリスマスプレゼントを買ってやれそうです。もちろん

兄さんにも贈ります』



 平凡な、けれどなによりも得難い平和な日常が綺麗な文字で

綴られている。なつかしい故郷の匂いのするそれを指でなぞり

ながら、俺は暗記できるほど読んだ手紙を読み返した。

「誰からの手紙だい?」

 先ほどまで煙草を弄っていた指先が、ふいに頬をなぞる。

寝そべって手紙を読む俺の背にかかる、たしかな重み。冷たい

男の肌が情事で火照った体に心地よい。

「……故郷の弟から。みんな元気にしてますって」

 抱かれる前にふるまわれた酒がまだ残っていたせいだろうか、

普段はけして話さない家族のことをつい漏らしてしまう。探るような

目で俺を見つめていた中尉は、返ってきた答えに低く喉を鳴らした。

「ああ、だからか」

 納得した、というような口ぶりに今度は俺のほうが訝しげに彼を

見上げる。なにが「だから」なのだろう。困惑する俺に男はますます

笑みを深める。

「気づいているかい、ジャン。家族からの手紙を読むときの君は、

まるで恋人からの便りを待つ令嬢のように蕩けそうな顔をしてるよ」

 嫉妬してしまうくらいにね、と。意味深な科白を囁いて中尉が俺を

正面から抱き直す。間近に迫る、端正で怜悧な顔。いつもの眼鏡を

はずしたそれは、普段の優しげな容姿からは想像もつかないほど

猛々しい雄のもので。肉食獣を思わせるその表情に、俺は牙を突き

立てられた兎のごとく身を竦ませた。

「……っ」

 本能的な恐怖で怯える俺の掌から、するりと手紙が引き抜かれる。

あっと息をのむ間もなく中尉はルキーノの手紙を床へと投げ出した。

「なに、を……」

「――今は俺だけを見て、ハニィ」

 拾おうと伸ばす俺の手を搦め捕って取って頭上て戒めると、中尉が

再びのしかかってくる。自分より一回りも大きな体躯に押さえ込まれる

怖ろしさと、貪欲に求められる心地よさ。噛みつくように激しいキスと、

硬く滾った熱に窄まりを貫かれて、俺は戸惑いながらも彼が与えて

くれる快楽に呑み込まれていった。



 それから半年後、長く続いた戦争が終わり俺は故郷の村に帰った。

徴兵前とは確実に変わってしまった心と身体を持て余しながら。


  
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2010/11/09