さぁ
…ちらり。 黙々と紫煙をふかす保護者に、悟空は何度目になるかわからないため息を漏らした。 夕食の後の、自由な一時。 風呂も済み、後は就寝を待つばかりの一日で最も寛げる時間の筈なのに。 先程から感じる、刺々しい空気。 間違いなく、三蔵は怒ってる。それも物凄く。 (俺、なにかしたかな…) ない知恵を絞って、今日のことを一生懸命反芻する。 今日は何も壊さなかったし、雨が降ってたから外にも遊びにいかなかった。 怒られるようなことは、何一つしていない。……はずだ、たぶん。 なのに、なんでこんなに不機嫌なのだろう。 (明日から八戒達と旅に出るのに……) そうなのだ。明日は天竺に向けて出発する予定なのだ。 優しくて頼りになる八戒と、意地悪だけど…気のいい悟浄と。三蔵と、そして自分。 大好きな人達と旅ができる。それが嬉しくて──すごく、楽しみにしているのに。 その側でこんな物騒な空気を出されては、いくらお気楽極楽の悟空といえども気分 (ちゃんと口で云ってくんなきゃ、俺、わかんねぇよ…) 大きな金の瞳に困惑の色を浮かべて、悟空は三蔵を見上げた。
黄金(きん)の瞳が二つ。 じっと自分を見つめている。…困ったように、案じるように。 それを痛いほど感じていながら、三蔵は沸き出す不快感を抑える事が出来なかった。 原因は、至極簡単。 明日からの『牛魔王蘇生阻止の為の旅』そのものだ。 そもそも、この話は初めからきな臭い感じだった。 大妖怪の復活を、何故──いくら『三蔵』の名を持つとはいえ人間の自分と悟空・八戒・ 師の形見の『経文』という、三蔵を動かす為のいわば『切り札』をちらつかせてまで。 大体、五百年前に討伐した時は闘神・ナタク太子までも使って葬ったくせに、何故 火急に対処しなければならないと口を尖らせていながら自分たちを指名するあたり、 怪しい。どう考えても、怪しすぎる。 (ぜったい、裏があるな……) 何が、あるのか。否、何をさせたいのか… 某かの謀略が透けて見えているのに、肝心の形が掴めない。 そのことが酷くもどかく、苛ただしい。 それが、第一の原因。 もうひとつは…悟空の事。 今回に限って──何故、悟空を連れていけなどと命じるのか。 よりによって『十八禁有害指定生物』と『取り扱い要注意危険人物』が同行すると 因習に凝り固まった寺に置いておくのも考え物だが、連れていくなどもっと危険だ。 これ以上馬鹿に──いや、万が一『傷物』になったら、いったい誰が責任をとるのだっ!
────────ぴと。
考えられる『最悪の事態』の妄想大爆発な三蔵の右手に、ふと温かなものが触れた。 「………悟空?」 気が付けば、心配の原因が己の側に寄り添うように立って、無言で三蔵を見上げて。 小さな両手で、無骨な彼の手を包むかの如くしっかりと握っていた。 「…さんぞぉ………」 潤んで霞みがかった金の瞳が、ただ三蔵だけを見つめる。──『三蔵』だだ一人を。 それは拾ってきた当初から、不安になると出る悟空の癖だった。 八戒や悟浄と親しくなっても、未だに三蔵だけにしか見せない、癖。 それを目にした途端、三蔵は急に悩むのが馬鹿馬鹿しくなった。 同時に、『これ』が出てしまうくらい自分は悟空を不安がらせていたのかと思うと、 まったく──どうして、自分はいつもこうなのだろう。 大事にしたい、と思う。その気持ちに偽りはない。 けっして──口に出すことはないけれど、三蔵にとって悟空は最早手放せない存在 『玄奘三蔵』ではなく『自分』を見てくれる、唯一の……存在。 残酷なまでにひたむきな視線は、時折不可解に三蔵を苛むけれど…でも、その金の光 渡さない、誰にも。 悟浄や八戒は勿論、天界とやらで偉そうに見下す『神』とやらにも。 誰が渡すものか。 ───コレハオレノダ 奪おうとする奴は、みんな殺してやる。 「……さんぞ?」 発する雰囲気が変わったことにほっとしながら、それでもまだ不安そうに見上げる悟空を、 「っ、さん…」 僅かな抗いを見せる小さな身体を抱き込み、半開きの口唇を性急ともいえる激しさで噛み 「…んんっ………!」 吐息すらも奪い尽くすような、容赦のない口づけ。 深く深く…何度も角度を変え、怯え躊躇う幼い舌に三蔵はねっとりと己を絡ませた。 「……っ…は…ぅ……」 いつもより濃厚な口づけに力が抜け、悟空は三蔵の胸にぐったりと寄りかかる。 しかし夜着の裾から入り込み身体を弄り始めた手に、綻ぶ意識を必死にかき集めて身を 「だめっ…さんぞぅっ……」 ともすれば漏れそうになる嬌声を押し止どめ、悟空はたどだとしく諌める。 「だめだったら………!」 「───何でだ」 せっかくその気になったのに、何故止める? そんな胡乱な目でねめつける三蔵に、悟空は荒い息で懸命に抗議した。 「……だ……だって…シたら…俺、あした早起き出来ないよ…」 ──明日から旅に出るのに。 頬を真っ赤に染めて、消え入りそうな小さな声で悟空は言い募る。 その恥じ入るような表情(かお)が、何よりも三蔵を煽り続けているとも知らずに。 「…だったら、朝まで起きてりゃいいだろ」 無自覚に色気を振り撒く子猿の耳を甘噛みしながら、三蔵は意地悪く微笑んだ。 「んぅっ……」 鼻にかかる、甘い悲鳴。 赤子のようにすべらかな肌に咲く、無数の紅い痣。 そのどれもが、三蔵の──男の欲情を掻き立てる事を、腕の中の子供は気づいている 組み敷いた悟空の媚態に、三蔵は夢中になって溺れた。 「…ゃあっ……」 たぎる劣情のままに、柔らかな肌に所有の刻印を刻む。そのたびに悟空の口からは、 「ひゃぁっ……」 下肢を辿る手に、悟空の背が弓なりに反る。 大きな手に包まれたそれは、幼いながらも存在を主張し始めていた。 「元気だな」 クスリと口の端を吊り上げて、三蔵はその小さな昂りを躊躇いもせず口に含む。 「やあっ…!」 びくんと悟空の細い腰が跳ね上がる。 三蔵の口内に囚われたそれは、執拗に施される愛撫に瞬く間に絶頂に達した。 「ひああぁ──っ」 びゅくびゅくと溢れる滴りを、三蔵は一滴も漏らすことなく飲み干す。 身の内の熱を一気に解き放たれ、悟空はくったりとシーツに身体を沈めた。 すっかり弛緩した腰を持ち上げ、秘奥の蕾へと三蔵は舌を這わせる。 桜色に色づく花弁は前の解放の余韻からか、その花びらを微かに綻ばせていた。 つぅ…と、花弁の一筋を三蔵の舌がなぞる。 刺激に促され全ての襞が花開くまで、三蔵は常にない熱心さで丁寧に丹念にほぐし続けた。 「あ……あ………っ」 柔らかな舌から確かな質感を持つ指へ──変化した愛撫に、悟空は切なげに悶える。 充分に緩んだところを見計らって、三蔵は内部を嬲っていた指を引き抜いた。 「んっ……」 ずるりっ…という音が、蕩けかかった悟空の意識を僅かに引き戻す。 間近に迫る三蔵の顔と──蕾に当たる固い感触に、悟空は身を強ばらせた。 「…そんなに緊張すんじやねぇよ」 ……やりにくいじゃないか。 あきらかに固くなった身体に、紫電の瞳が不快そうに曇る。 詰るように見つめる三蔵に、悟空は半泣きになりながらもたどだとしく応えた。 「だって……さんぞぉの……おっきいし…痛いよ…」 思ってもみなかった言葉に、三蔵はぴしりと固まる。 確かにやや細みの体格に比べると、三蔵のは大きい…かもしれない。逆に、年のわり 華奢とまではいかないが、十八の規格からみればやはり小さい。 いくらほぐされても──その後に悶えるような快楽が待っているとしても、まだ未発達な …軽い目眩を覚えつつ、三蔵は説き伏せるように囁いた。 「──とにかく、力を抜け。」 痛くないように、優しくしてやるから。 日常(いつも)よりほんの少しだけ優しい声に。 悟空はこくん頷いた。 「………う、ん」 ゆっくりと息を吐き、広い三蔵の背に腕を伸ばす。 細腰を軽く持ち上げ両手で蕾を押し広げると、三蔵は震える蕾の内へと自身を差し入れた。 「……っぅ…ぁ………」 迫り上がる圧迫感と鈍い痛みに、金の双眸から大粒の涙が流れ落ちる。 ゆるゆると侵入している為思ったほどの痛みはなかったが、それでも三蔵が押し入る 「っ…やっぱ狭いな……」 自身のすべてを悟空の内に収め、三蔵は小さくため息をつく。 あいかわらず狭い内部は、呑み込んだ三蔵を食い千切らんばかりにぎちぎちと締め 「…いた…ょ…さんぞぉ…」 ぽろぽろ、と。血の気の失せた幼い頬を透明な雫が幾筋も伝う。 それを一つ一つ丁寧に拭いながら、色の褪せた唇に三蔵は自分のそれを重ねた。 「……っ……」 啄むように幾度も重ね──舌を絡めて、悟空の抵抗を根こそぎ奪っていく。 あやすような口づけに強ばりが緩んだのを目ざとく見つけると、三蔵はゆるやかに動き 「…は…ぁあ…………」 熱い楔が壁を擦る毎に、痺れるような快感とぴりと刺すような痛みが交互に悟空を襲う。 けれどそれを繰り返すうちに痛みは解けてゆき、次第に快感だけが悟空の感覚を支配 同時に、責め立てる三蔵にも快い愉楽の波がさざ波のように押し寄せる。 「んっ……ぃい………」 甘い声が、三蔵の耳を擽る。 悟空の顔に、既に苦しみの色はない。あるのは、淫らがましい悦びだけ。 苦痛に萎縮していた腰は、いまは更なる快楽を求めて自ら揺れていた。 「……いい…よぉ…さんぞっ……」 激しく突き上げる腰に足を絡め、悟空はただひたすら貪欲に『三蔵』を貪る。 どちらがより相手を食らっているのか……もはや判別すらつかぬほど、お互いを食らい 「────くぅっ!」 「っ、ああぁぁ────っ」
同時に、二人は絶頂に達した。
しらじら、と。 東の空が茜色に染まる。 それをぼんやりと見つめながら、三蔵は咥えた煙草に火をつけた。 胸にかかる心地よい重みは、絶対の存在。 それを、しっかりと腕の中に閉じ込める。まるで、朝の光から隠すように。
──コイツは誰にも渡さない 俺以外の誰にも。
───昏い決意を双眸に宿して。 旅立ちを告げる無粋な朝陽を、三蔵は冷たく睨みつけた。 |