ひみつの誕生日
「え─────っ!今日って八戒の誕生日だったのっ」 最後の一個である月餅を呑み込んで悟空は絶叫した。 そんな彼にすかさずお茶を差し出して、『えぇ』と青年は曖昧に笑う。 「そんな…どうしよう。俺、何も用意してない……」 さっきまで幸せ気分でお菓子を平らげていたのも束の間、しゅーんと悟空は項垂れて 「いいんですよ、そんなこと」 「でもっ、誕生日って特別な日なんだろ?去年悟浄の誕生日の時『お祝いくらいは 「……悟浄が…そうですか………」 悟空を優しく見つめていた浅葱色の瞳に、一瞬殺気が過る。 だがすぐにかき消すと、八戒はまた悟空専用の極上スマイルをはりつけた。 「誕生日だからって、何かしてもらわなきゃいけないという事はないんですよ、悟空。 実際、今日が自分の誕生日だった事などすっかり忘れていたのだ、八戒は。 それに女性と違い、男にとって生まれた日など二十を過ぎれば何の意味もなさない。 それでも敢えて意味を見つけるとするなら、免許の更新か還暦くらいだろう。 八戒にとっては悟空が側にいる『今』が大事なんであって、それ以外はどうでもいいのだ。 そんな瑣末な事柄で悟空との蜜月時間を消費したくなくてさりげなく話題を変えようと やや俯いたまま、『でも…』と繰り返す。 「ちゃんと、お祝いしたかったんだもん。八戒の誕生日は…」 「悟空……」 「俺…八戒のコイビトだし…二人で、『特別』なコトしたかったのに……」 憮然とした表情で、ぽつりと呟く。 頬を膨らませて駄々をこねる姿は……惚れた欲目を差し引いても、凶悪に可愛かった。 そう、八戒の悪戯心をピンポイントで刺激するくらいに───。 (…たまには、変わった趣向もいいですね) コンマ数秒の間に、八戒の脳にヤバい資料映像が早送りで浮かぶ。 口元に笑みをひく頃には、『危ない妄想』だったそれが既に『決定事項』に書き換え 「…じゃあ、二人でバースディケーキでも作りますか?」 「…ケーキ?」 「ええ。生クリームとフルーツをたっぷりのせたケーキを」 「うんっ!作るっ!」 言葉巧みな八戒の提案に、ぱっと顔を輝かせて悟空が快諾する。 見る人(例:悟浄)が見ていれば、きっと命を張ってでも悟空を止めていただろう。 はしゃぐ悟空を見つめる八戒の背中に、教育的指導級の妄想テロップとドドメ色の波動が ─────────────合掌。(ちがうって)
用意されたモノを見て悟空は首を傾げた。 テーブルの上あるのは、泡立てた生クリームと奇麗にカットされた色とりどりのフルーツ 肝心の土台となるスポンジケーキが何処にも見当たらない。 焼いているのだろうか?だが、オーブンには何も入っていない。 それとも、今からつくるのだろうか…。 料理好きの八戒が出来合いを買ってくるはずがないし── 「八戒、スポンジケーキがないけど…」 おもいきって尋ねると、八戒は穏やかに返した。 「えっ?此処にあるじゃないですか」 「????」 八戒が悟空に向かって指をさす。その先を辿って振り返ってみるが、やっぱりテーブル 「やだなぁ、悟空。ココですよ」 そう云って、八戒は再び指さした。…今度は、悟空の胸元を。 「悟空が、ケーキの土台なんですよ」 …………………………………………。 「ってっ、えええええええええっ─────っ!」 それは、つまり……… 「《女体盛り》というやつですね」 あ、悟空は男の子ですから《少年盛り》でしょうか。 恐ろしい科白をにこやかに吐く八戒に、悟空はぱくぱくと唇を戦慄かせた。 「だっ…ダメッ!駄目駄目駄目ぇ────っ!」 ブンブンと、狂ったように首を振る。 想像しただけでも恥ずかしくて、悟空は耳元まで真っ赤になって力いっぱい拒絶した。 「ぜったい、だっ………」 「駄目ですか?」 「……………」 「だって悟空が『お祝いしたい』って云ったんですよ?」 「う…………」 「せっかく二人きりで祝えると思ったのに──」 ふぅとため息をついて、八戒が項垂れる。 本当に哀しそうに呟かれ、悟空の心がぐらりと揺れた。 確かに、言い出したのは自分。だけど……… 「…だ………」 「…………………」 「い……いじわる、しない……?」 「……」 「痛くしたり…しない………?」 「悟空」 ぱぁっと。 花のような微笑みが、八戒の顔に広がる。 不覚にもその笑顔に見惚れたまま、悟空は八戒の腕に力強く抱き締められていた。 「僕が貴方に酷いことするはずないでしょう…」 甘い囁きが、朱に染まる悟空の耳を密やかに擽る…が。 ──夜の八戒のいじわる加減が身に染みているだけに、どうしても素直に信じられない
ひやり。 木製のテーブルの冷たさが、剥き出しになった悟空の背中を刺激する。 石製ほどでないとはいえ、表面を樹脂で加工されたテーブルは素肌で横たわるには 刺すような蛍光灯の光の元で晒される、染み一つない裸体。 うつ伏せになったその胸から局部にかけて、甘い匂いを放つ生クリームと瑞々しい その装飾は職人が作ったように正確で技巧に優れていた。そのまま店頭に並べても …そう、それが普通のケーキであるならば。 程よくやけた健康的な肌に描かれたそれはひどく淫らで。 匂い立つような淫靡な雰囲気に、唯一のギャラリーであり作品の制作者でもある八戒は 「それでは…悟空、いただきます」 言葉とともに、熱を孕んだ舌が悟空の胸に落ちてくる。 肌に浮かぶ羞恥の緋と白く輝くクリームの絶妙な色彩の上を、ざらりとした舌の感触が 「…んっ……」 いつもとは違う違和感に、悟空は過敏に肩を震わす。 しかし、その度に 「駄目ですよ、悟空。せっかく飾った果物が落ちちゃいます」 と、やんわりと──だか有無をいわさぬ手で押さえ付けられ、僅かな身動きも出来ない。 それが余計に快感を煽っていることを、はたしてこの小さな恋人は気づいているのか… そんなことを思いながら、八戒は一際堆く盛られたクリームとその頂きにチョコンと鎮座 クリームを軽く払い、果汁で膨らむチェリーを舌先でぐいと押し潰す。 「…はっ…う…」 フルーツを挟むようにして胸の蕾を摘ままれ、悟空は弓なりに背を反らせた。 咀嚼されたチェリーの果汁が八戒の唇から漏れ、クリームの嘗め採られた肌の上を音も その僅かな動きさえ激しく感じてしまい、悟空は湿った吐息をはきだした。 細い胸板から、無駄な肉一つない腹部───と、八戒はじっくりと時間をかけて自分が 舌が茂みのない幼い局部へと到達する頃には、そこは恥ずかしげに立ち上がり、ささやか 浅葱色の双眸が、眩しげに細められる。 長い指が、つんと先端を軽くつついた。 「悟空のココ…触ってもいなかったのに、もうこんなですよ…」 「やっ………」 仄かな情欲を滲ませたからかいに、悟空は真っ赤になって両手で顔を覆う。 そんな仕草さえ愛らしくて、八戒は益々笑みを深めた。 「ふふ…じゃ、ここもいただきますね」 形のいい唇がクリームにまみれたそれをゆるゆると呑み込む。 アイスキャンデーでも舐めるようにちろちろとなぶり、クリームごと吸い上げる。 「…んっ…うっ……」 腰がとろけそうな快楽に華奢な身体が何度も反る。 やがで先端から生クリームとは違う苦みを伴った蜜が滲み出すと、八戒は一層舌を激しく 「ひっあぁぁぁ………!」 八戒の喉全体からかかる圧力に、絶頂はすぐにやってきた。 濃厚な愛撫に未熟な悟空の昂ぶりは、あっけないほど簡単に白い蜜を弾き出す。 迸るそれを八戒の喉は一滴も漏らす事なく全て飲み干した。 「はぁ……あ……」 くったりと悟空の身体がテーブルに投げ出される。 額に髪を張り付かせ肩で呼吸する恋人の頬に、八戒は優しいキスをおくる。 解放の余韻からか、ぼんやりと自分を見上げる黄金色の瞳に優しく微笑んで。 「ごちそうさまでした」 さられとのたまわれ、悟空は一瞬で紅潮した。 「おいしかったですよ」 にこにことそんなこと云われても、どう反応しろというのか。 恥ずかしさに、悟空はこぼれ落ちそうな瞳をうるうると潤ませた。 「…ううっ…八戒のウソつきぃ……」 「えっ?やだなぁ、僕イジワルなんてしてないじゃないですか…」 気持ち良かったでしょ? へらりと告げられる科白が本当なだけに悔しくて、悟空は半泣きになりながら力の抜けた ぽかぽかと胸を叩く悟空の拳を受け止め、八戒が楽しそうにいいひと仮面全開で笑みを と、楽しそうに見つめていた浅葱色の双眸が、意味ありげに細められる。 「…じゃあ、お詫びに今度は悟空が僕を味わって下さいね」 云いながら、八戒の指が優美なラインを描いて悟空の背をなぞった。 「っ…あっ………」 「貴方の…ココでね」 するすると降りた指先が、柔らかな双丘の間──息づく小さな蕾につぷりと押し入る。 溶けた生クリームと悟空が昂ぶりから吐き出した蜜の残滓のせいで、そこはいつの間にか 八戒がほんの少しかき回しただけで、そこはヒクヒクと震え、ねだるように指をくわえ込む。 「………ぃ…やぁ……」 「ああ、もう準備は整っているようですね」 悪戯な指を引き抜き、名残惜しそうに収縮する蕾に己の楔を静かに差し入れた。 「…あっ……あぁぁ……ぅ…………」 固く張り詰めた八戒が、じらしながらゆっくりと押し入る。 息苦しさともどかしい快楽に、悟空は自ら腰を揺らして八戒を奥へと誘った。 「ひっ…ぁ……っ」 揺さぶられる度に。 突き立てられる度に、八戒の熱が膨らんでいくのを直に感じる。 「はっ…くっ……」 突き上げる度に。 蹂躙する度に、腕の中の恋人が淫らに変化していくさまに、八戒は正気のまま酔いしれた。 「…くっ…ぅ……っ」 せわしなく内部を犯し犯され、二人の熱が際限なく膨張する。 互いの身体をきつく抱きしめ合い─── 眩しいほど輝く向こう側へ、二人一緒に飛び込んだ。
胸にかかる心地よい体温。 八戒はしみじみと幸せを噛み締めながら、眠りかけている悟空の耳元に小さく囁いた。 「今度の悟空の誕生日には、悟空が僕を食べてくださいね」 ぴくっ。 うとうとと降りかけていた睡魔が、一瞬で霧散する。 だらだらと冷や汗を流して、悟空はぼそっと返した。
「……………………………………ヤダ」
悟空の呟きが八戒に届いたかは、謎である。
その日深夜になっても帰って来ない養い子に逆上した某三蔵法師が、寺院をことごとく |