ないしょの誕生日

 

 

 「まったく………八戒の奴…」

 ぶつぶつと不平を綴りながら、青年は夕陽よりも紅い髪を靡かせて自宅への道を歩いていた。

 

 『悟浄、今日は大掃除をしますから出てって下さい』

朝一番の、起きぬけに。

 気持ち良く惰眠を貪っていた悟浄は、布団から蹴り落とされ、まるでたたき出されるように家から追い出された。

──居候であるはずの同居人に。

 理由が判らず、暫く扉を叩いたりしていたが、入り口は無情にも固く閉じられたまま沈黙し続け……。

 それで仕方なく町をふらついた後、こうして夕暮れの寂しい道をとぼとぼ家路についていたりする。

 「俺は家主のはずなんだかな……」

 同居当初から抱いている最大の疑問を、空しいと思いつつも呟いてみる。

勿論、それをぶつける相手が居ないのを確認済みで。

 もし聞かれようものなら、さぞ趣向をこらした毒舌で悟浄の繊細な(笑)神経をめった切りにしてくれることだろう。

なんたって彼の同居人の背には、自前の黒いコウモリ羽が生えているのだから。

 自分でもイヤ〜ンな想像を早々に打ち切り、足早に坂を駆け上がる。ここを上がれば、自宅はもう目の前だ。

 「よっと♪」

 最後の段差を上り、家の前に到着する。

(ん…?明かりがついてない?)

もう宵の口といってもいい時間なのに、窓には一つも明かりが灯っていない。

 この時間なら、夕飯の準備に取り掛かっているはずなのだが……。

 「買い物にでも行ったのか…」

 あまり深く考えずに、悟浄は扉のノブに手をかけた。

 「…はぁーっかっ…うわっ!」

 あけた途端、何やら茶色の物体に突進され思わず蹌踉めく。だが天性の運動神経でなんとか堪えて、腕の中を

覗き込めば、そこには──

 「っ!悟空……!」

 ただいま遠距離恋愛中の恋人が、満面の笑顔で悟浄を見上げていた。

 「へへっ♪悟浄、お帰りぃっ」

 にぱぁ〜と効果音つきで微笑まれ、悟浄もつい鼻の下を伸ばして「ただいま」と返してしまう。

 が、ここが自宅でしかも『悟空激ラヴ』の専属保父さんが同居人であることを思い出し、悟浄は慌てて身体を

離した。

 「お前っ、なんで此処に…八戒は…?」

 「八戒?いないよ」

 悟浄の動揺も知らず、キョトンとした表情で悟空は首を振る。

 「いないって…………?」

 「ねっ、それよりこっち来てよっ!」

 要領を得ず困惑する悟浄をよそに、悟空はせかすように中へと促す。

 「っ…って…オイッ…」

 ぎゅっと片腕を掴んで引っ張られ、よろけながらも悟浄は悟空の後をついていった。

 玄関入って直ぐのその部屋は、居間も兼ねたダイニング。悟浄の部屋の次に悟空が大好きな場所。

  「……………」

 テーブルを飾る幾つもの燭台の炎の下。

所狭しと並べられている料理の皿と、その真ん中を陣取る白く歪な物体。

 「こ…れ………」

 いくら悟浄でも、この状況が何を意味しているのかは判る。…ついでに、今日が何の日かも。

 呆然とする悟浄に、悟空は無邪気な顔で笑った。

 「誕生日おめでとう、悟浄っ!」

 心から祝って──喜んでくれる言葉に。

『誕生日』という言葉に反応して、それと気づかせぬ程度に強ばっていた悟浄の頬が、緩やかに緊張を解く。

 同時に、脳裏に閃くものがあった。

(ひょっとして…八戒に朝っぱらから叩き出されたのって、『これ』が理由か…)

きっとこのこざるちゃんに、『悟浄の誕生日に何かしたい』とでも頼まれたのだろう。

 はらわたが煮えくりまくっても、悟空に『お願い』されたら専属保父を自認する八戒が断れる筈がない。

さぞ業腹だったろうなぁ…と、恋敵ながら──勿論、悟空に愛されている自信ゆえの優越感を含んだ──同情を

八戒に感じてしまう。

 その腹黒大魔王がいま此処に居ないところを見ると、自分たちに気を使ってくれたのか。

 ──目の前で得意げに鼻の下を伸ばす悟浄を見たくないってのが本音のような気もするが。

(悪ぃな、八戒)

 形ばかりの謝罪を、何処かで自分に向かって毒電波を流しているであろう同居人に心の中でそっと呟く。

 際限なく緩みそうになる口元を手で隠して、悟浄は柔らかく尋ねた。

 「お前が、作ったのか……?」

 「うんっ!」

 誇らしげに悟空が頷く。だが何かに気づいたのか、あっという様な表情を作って上目使いに悟浄を見上げた。

 「あの…でも、ちょっと…八戒に手伝ってもらったけど…」

 恥じらうように頬を朱に染め、ごにょごにょと呟く姿までも可愛いと思えるのは、自分の惚れた欲目だろうか。

胸に溢れる暖かな思いのままに、悟浄は柔らかな栗色の髪をくしゃりと撫でた。

 「ありがと、な」

 「………へへっ」

 悟浄が素直に喜んでくれたことが嬉しくて、悟空も破顔する。

 ひとしきり笑い合って、二人はテーブルについた。

 「八戒みたいに美味しくないかもしれないけど…」

 悟空自ら料理を皿から取り分け、悟浄の前に並べる。

 『悟空が作った』という事実にちょっと怯みはしたものの、そんな所はおくびも出さずに悟浄は箸を口に運んだ。

 「………美味い」

 純粋に感嘆の言葉が、悟浄の口から漏れる。

世辞ではなく、本当に美味かった。

確かに具の形は不格好だし不揃いでもあったが、味は良く染みており、文句なしに美味い。これで初めてなら

合格点だ。

 「ホントっ?」

 悟浄の感想に固唾を呑んで見守っていた悟空が、ほっと息をつく。

 口元に寄せられた小さな指に、幾つかの絆創膏を見つけ──込み上げてくる愛しさをごまかすように、悟浄は

忙しなく箸を動かし続けた。

 やがて皿は瞬く間に空になり、残すはデコレーションケーキのみ。

 それを苦戦して切り分ける悟空を眺めていた悟浄の紅瞳に、悪戯な光が宿る。

 (据え膳食わぬは男の恥っていうしぃ……?)

食欲が満たされれば、次は性欲。どこまでも忠実な自分の本能に、悟浄は低く嗤った。

 「?なに…?」

 ようやくケーキを切り分けたと思ったら急に笑い出した悟浄に、訝しげに悟空は首を傾げる。

 その小さな身体を抱き寄せて、悟浄は耳元に囁いた。

 「せっかく誕生日なんだからさ…ケーキはお前が食べさせてくれよ」

 「えっ……」

 予期せぬ申し出に、金色の瞳に戸惑いの色が浮かぶ。

 しかし僅かな逡巡の後、悟空はこくんと頷いた。

 「OK♪じゃ、俺の上に座って…」

 悟浄の膝を跨ぐ格好で座らされ、恥ずかしさに悟空の顔に朱がはしる。

 けれど今日は悟浄の誕生日…。普段甘やかしてくれても、決して甘えてはくれない筈の悟浄が自分に『おねだり』

してくれているのだ。

 擽ったいような嬉しさも手伝って、悟空は厭がりもせず悟浄の口にケーキを運んだ。

 「んっ…」

 薄い唇が開き、紅い舌が生き物のようにクリームを飲み込む。

 ねっとりと、嬲るように先で転がして。

 (…………っ)

悟浄の舌の動きにドキリとして、悟空は慌ててケーキにフォークを突き刺した。

 一口分にはやや多い量をすくい取り、再び悟浄の口に運ぶ。

 しかし手が震えて居た為か、微妙な均衡で突き刺さっていたそれは、目的地につく前にフォークから離れた。

 「あっ…………」

 二人の間にある僅かな透き間を撥ねるように交互に転がって、ケーキが床に落下する。

 「ごっ、ごめんっ」

 飛び散った生クリームをふき取ろうと布巾に手を伸ばし──大きな手に阻まれた。

 「俺が綺麗にしてやるよ」

 「ごじょっ…んっ……」

 躊躇う悟空の唇を悟浄のそれが塞ぐ。

無防備に開いた歯列からするりと舌を忍び込ませ、悟空の咥内を遠慮なく貪った。

 「んっんんぅっ……」

 口に広がるクリームの甘さと濃厚な悟浄の口づけに、悟空の意識は瞬く間に蕩け出す。

 長い口づけが止み、二人の間を透明な糸が結ぶ頃には、ぐったりとその身体を悟浄に預けていた。

 「はぁ……」

 霞みがかった黄金の瞳が、切なげに悟浄を見上げる。

しどけない視線にゾクゾクと背筋がざわつくのを感じながら、悟浄は鎖骨へと唇を寄せた。

 「あっ…」

 ちゅっと音を立てて、胸元の窪みに紅い跡を散らす。

そのままクリームの付いた跡を追うように、すべらかな悟空の肌の上を熱を孕んだ紅い舌が、ぬめぬめと

這い下った。

 「…うっ…」

 沸き上がる快感に少しでも流されまいと、悟空は狭い体勢ながらも身を捩る。

 だが悟浄の膝に乗りしっかりと腰を掴まれている状態では、それは無駄な足掻きにすらならない。

 逆に動いて服をはだけた分、悟浄と指を呼び込むこととなり、更なる快感が悟空の脳髄を犯すだけ…。

 甘い刺激に無意識のうちに腰を揺らし始めた悟空の内股に、舌よりも熱い手がさわりと触れた。

 「んぅっ……」

 びくりと悟空の背がしなる。

いつの間にか衣服を剥ぎ取られ、絶え間無い快楽に敏感に勃ちあがったそれを、しなやかな悟浄の指が柔らかく

掠めた。

 「やっ…やめっ……」

 「嘘つき」

 拒絶の言葉を漏らす悟空の耳たぶを、かりりと音を鳴らして甘噛みする。

 その間にも悟浄の意地悪な指は、小さな昂ぶりを好き勝手に嬲った。最初は、指の先で形を確かめるように。

 そして、やわやわと与えられる快感に先端が蜜を漏らし始めると、手のひらで器官全体を撫で摩った。

 「ひぁっ…」

 あまりの気持ち良さに、悟空の桜色の唇から甘い吐息が溢れる。

 「…ぁっ……」

 「イイんだろ?…素直になれよ」

 甘ったるい声で、イヤらしく囁いて。

節榑だった指先が、とろとろと蜜を滲ませる頂きに爪をたてた。

 「ヒッ…………っ!」

 引きつるような悲鳴の後、とくんっと淫靡な響きをともなって悟空の昂ぶりから大量の蜜があふれ出す。

 解放されたそれは暫くの間びくびくと小刻みに震え、悟浄の掌と膝をしどしどに濡らすまで止まなかった。

 「……ぁ……」

 解放の余韻に、悟空の身体がずるりと弛緩する。

重みを増した小さな身体を自分の胸元に寄りかからせて、悟浄は濡れぼそる指をまろやかな双丘の奥──前の

刺激でひくつく蕾へと忍び込ませた。

 「んっ」

つぷんと生々しい音がして、長い指が何の抵抗もなく奥へと飲み込まれていく。

 既に蕩けきったそこはそれほど解す必要もなく、更に悟浄の指をねだって絡み付いた。

 「あっああっ……」

 敏感な内壁を擦られ、悟空は咽ぶ。

其処にはもう、先程までの恥じらいに震える姿はない。

 覚え込まされた快楽が欲しくて泣く、可愛くも淫靡な獣。

 誰よりも愛しい、自分だけのケダモノ。

ごくりと、悟浄の喉が鳴る。

 「ごじょぉっ………」

 「…んだよ、ござるちゃん」

 何を望んでいるのか。それくらい判っているくせに、態とはぐらかす。求める言葉を、直に聞きたくて。

 …みっともないほど飢えているのは、自分だけではないと知りたくて。

 つれない恋人の態度に、ポロポロと涙を流しながら悟空は必死に哀願した。

 「もっ…キテっ……」

 頬を濡らしながら、ねだるようにキスを繰り返す。

今すぐにでも猛る己をねじ込みたい衝動を辛うじて押さえ、悟浄は意地悪く笑った。

 「ダメ」

 「ごじょうっ………っ!」

 「こんなトコでシたら、明日筋肉痛になっちちまうでショ」

 お前と違って、俺は繊細なのよ?

軽口をたたいて、細い腰を支えていた手を離す。

 もちろん、ひくつく蕾を嬲る指はそのままに。

 「おねがっ…もっ…おれ……っ」

 「だぁーめ」

 「ごじょっ…お………」

 狂おしいほど、悟浄を求めて泣いているのに。

この黄金の瞳が求めるのは自分だけだと判っているのに、それでも悟浄は応えない。

 この先が、見たかった。

自分に焦がれて、何処までも堕ちていく様を。

 まっさらな悟空の心が、『悟浄』という色彩に塗りつぶされる瞬間を。

 ふと、悟浄の目にあるものが止まった。

燭台の下に無造作に置かれたケースの中には、様々な長さのキャンドルが未使用のまま収まっている。

 悟浄はそのうちの一つ── 十センチほどの長さの紅いキャンドルを掴み、自分を求めて震える蕾へとあて

がった。

 「な…に………?」

 「ベッドにつくまで、コレで我慢しろよ」

 上気した頬に掠めるように口づけ、キャンドルの下の部分を蕾に押し入れる。

 ずりっ……

 「ヒッ…やあぁぁ────っ」

 固く冷たい異物が、敏感な壁を擦るように内部へと飲み込まれていく。

 望みのモノとは違う…しかし確かな質感に、悟空は身悶えた。

 「やっ、ごじょっ…レッ…取って……っ!」

 激しく首を振り、悟空は己を犯す異物から逃げ出そうともがく。

 だが、悟浄によってしっかり固定された腰は僅かすら浮き上がることも出来ず、自らの蜜で濡れぼそる花弁は

ゆっくりと侵入してくるキャンドルをすべて銜え込んだ。

 「はっ…あぁ……」

 獣じみた悲鳴をあげ、荒い息を吐く悟空の耳元で密やかに囁く。

 「俺のベッドまでコレを落とさずにいられたら、お前の欲しいモンをやるよ。たっぷりとな…」

 その言葉に、悟空の肩がぴくりと震える。

乱れた呼吸を整えることも出来ず切なげに自分を見上げる悟空に小さく口づけ、悟浄は勢いよく立ち上がった。

 「ヒッ………!」

 急に襲った衝撃に、悟空の頬が引きつる。

悟浄はそれにかまう事なく、丁度幼児を抱き抱えるような格好で悟空を抱えて、自室へと足を進めた。

 「…っ」

 悟浄が一歩歩く毎に、生み出される振動が悟空を襲う。その度にキャンドルに刻まれた螺旋文様が中を擦り、

狂おしい熱が悟空を苛む。

 居間から悟浄の部屋までは、ほんの数秒。

なのに抱かれて運ばれる間は、悟空にとっては何時間にも匹敵する長さに感じられた。

 「よっと…」

 たてつけの悪い扉を足で開け、悟浄は己のベッドに悟空を降ろす。

 ゆっくりと…丁寧に横たえられたというのに。

 「っ…あっ……」

 シーツに沈む瞬間、僅かに感じた振動にすら、おあづけをくらったままの身体は過敏に反応する。

 そんな様子さえ、悟浄には好ましくて。

震える悟空の口唇に、そっと自分のそれを重ねた。

 「…んっ……」

 互いの舌が激しく絡み、ピチャリと濡れた音が耳朶から鼓膜を侵す。

 二人の身に燻る熱そのままの口づけに、悟空はひたすら身をまかせる。

 「よく、我慢したな…」

 いい子だ…と腰に響く低い声音で囁いて、悟浄の指が悟空の双丘の窪みへ滑る。

 僅かに顔を出すキャンドルの頭を摘まんで、ゆっくりと引っ張った。

 「あっああっ………」

 その頬を濡らす涙よりも熱い呻きが、悟空の喉を震わす。

恐ろしく緩やかに引き出されるキャンドルが、温む内部を刺激して摩擦を生み、蕩けるような快感を生む。

 貪欲に快感を欲する悟空の内壁は刺激を逃すまいと壁を収縮させ、悟浄に抵抗するかのようにキャンドルを

締めつける。

 だがそんなささやかな抗いも、悟浄には何の障害にもならない。

 悟空の締めつけよりも更に強い力で、悟浄は蕾から半分ほど姿を現したキャンドルを一気に引きずり出した。

 「っ……ヒッ…!」

 高圧電流のような衝撃が悟空の背筋を一気に駆け上がる。

 それが合図のように──蕾の刺激からいつの間にか硬く張り詰めていた──悟空の昂ぶりが、勢いよく爆ぜた。

 白く迸った蜜が、いたるところに飛び散る。

自分の口元にかかった蜜をペロリと嘗めとり、悟浄はくつくつと笑った。

 「おいおい…イくのは、まだ早ぇだろう?」

 仕方ねぇなぁ…と。

悟浄は形の良い唇をいやらしく歪める。

 だが、その瞳は微塵も笑ってはいない。

ごりっという鈍い音がして、悟浄の掌にあったキャンドルが粉々に砕ける。

 さっきまで悟空の裡にあって、悟空を嬲りつづけたモノ。それを悟浄の双眸が冷ややかに見下ろす。

 こんな紛いモノで達した悟空を責めるかのような、不穏な紅い眼差し。

 そうしたのが他ならない自分だということも忘れて、悟浄は微かな嫉妬の炎を灯したまま、悟空の腰を引き寄せる。

 「さぁ…本番はこれからだぜ、こざるちゃん」

 意地悪くそう呟いて、硬く張り詰めた自身を泥濘む秘孔へとあてがう。

 「──いくぞ」

 先端を蕾に押し当て、悟浄はやや荒々しい動作で一息に貫いた。

 「─────っ」

 衝撃に、金の瞳が一際大きく見開く。

太くて巨大な楔が、狭い内部を圧迫する。

 熱い…灼けつくように熱く強烈な圧力に、悟空は力無く呻いた。

 「は……ぁ… 」

 完全に悟浄を呑み込んで、ようやく悟空の口から深い吐息が漏れる。

しかしそんな悟空にかまう事なく、悟浄は注挿を始めた。

 「ヒッ…ごじ…ょっ…って…」

 「ヤダ」

 激しい突き上げをうけて、悟空は顔を歪め絶え絶えの息で呻く。が、にべにもなく却下して、悟浄は強く腰を揺らした。

 「うっ…く……」

 悟浄の容赦ない挿入に、抱えられたまま宙に浮いた悟空の足が苦しげにばたつく。

 だが──変化は、すぐに現れた。

 「……はぁ…ん…」

 ひそめられた眉が、ぴくりと震える。

苦悶から恍惚とした色彩へ───。

 古い殻を脱ぎ捨てるような変貌は、次の悟浄の一突きで更に露になった。

 「やあぁっ………っ!」

 奥まった一点を突かれ、悟空の背が弓なりにしなる。

瞬間、投げ出されていた細い脚が悟浄の腰に絡み、怒張をくわえ込んだ内壁がきつく締まった。

 「……くっ……」

 あまりの締め付けに、悟浄の息が一瞬詰まる。

苦痛と紙一重の、溶けるような快感。

 何度味わっても飽きることない快楽を求めて、悟浄は再び己を押し込む。

 一方悟空も、悟浄を少しでも奥まで受け入れようと、自ら腰を使い始めた。

 もともと散々焦らされ飢えていたのだ。たとえ受け入れに苦痛を感じても、一度快楽を見つけてしまえば、後は

貪欲にそれを追い求めるだけ…。

 くちゅっ…ぐちゅ……

繋がりあった部分から、淫らな水音が絶え間なく漏れる。

 それに触発されるように、二人の腰の動きも忙しなく叩きつけるものへと変わる。

 「ごじょ…ごじょぉっ………っ」

 まるでそれ以外の言葉を忘れたかのように、悟空の唇が悟浄の名を紡ぐ。

 涙で煙る金色の瞳に、既に理性の光は見えない。

あるのは、自分を責め立てる恋人が与える快感への、淫蕩な渇望。

 ふっと悟浄の口元に柔らかな微笑みが浮かぶ。

自分の紅い瞳に宿るモノと同じ輝きを見つけ、悟浄はようやく安堵した。

 それと同時に、悟浄の楔が最も深い最奥へと引き寄せられる。

 望んだ熱を一番深い場所まで招き入れ、悟空の裡が激しく痙攣した。

 「くっ……っっ!」

 これ以上ない食い締めを感じて、沸騰寸前だった悟浄の怒張が弾ける。

 勢いよく叩きつけられた噴出に、悟空の快感も頂点に達した。

 「あぅっ、……アァァッ……!」

 悟空の小さな昂ぶりが、三度目の解放に震える。

いまだ繋がったままの部分からは、受け止め切れなかった悟浄の熱の残滓が滲み出し……悟空の吐き出した濁液と

交じり合い、シーツに幾つもの染みを作った。

 

 

 

 

 

 ぴりぴりと。

肌を刺すどころか肉を五寸刻みに切り刻まれる様な険悪な雰囲気に、給仕を務める小坊主二人は内心戦々恐々と

していた。

 原因の一人──この寺の最高僧である玄奘三蔵は、不機嫌を過ぎて無表情に煙草をふかしている。

 もう一人──三蔵の知人であるという訪問者は、彼の真向かいに座り、にこやかに微笑んで茶を啜っていた。

 一見すると、仏のように非常に穏やかな笑みであるのに。

しかし、この片眼鏡の青年の発する雰囲気はともすれば三蔵よりも底知れぬ毒を含んでいて、背筋が震えるのを

押さえられない。

 運の悪い日に当番に当たってしまったと、小坊主達は今更ながら我が身の不運を呪った。

 「…そういえば、昔本で読んだのですが──」

 青年が唐突に口をひらく。

その瞳には、なにやら意味深な光が瞬いていた。

 「冥府には『蝋燭の間』というのがあって、現世の人間たちの寿命が一本の蝋燭の形をしているそうです」

 「………」

 ピクリと、三蔵の眉が吊り上がる。

 「その上で灯っている炎が命の灯火で、蝋燭が溶けて火が消えると人間は死ぬのだそうです」

 「……ほう」

 「普通は蝋燭が溶けるまで燃え続けるそうなのですが、不慮の事故などで、まだ蝋が残っていても火が

消えることもあるんだそうですよ」

 にこにこにこ……。

そら恐ろしいほどの笑顔を貼り付けて、不穏な話題をさも楽しげに青年が話す。

 彼の意図がまったく掴めない小坊主達はただ困惑して聞いていたが、何か感じるものがあったのか、三蔵は

うっすらと唇を歪めた。

 「…さて、僕はそろそろお暇しますよ」

 「──もう、帰るのか」

 「ええ。だって……」

 無駄の無い動作で立ち上がり、青年はきっぱりと答えた。

 「これから、不埒な有害生物の蝋燭の灯を消しにいかないといけませんから」

 それではごちそうさまでした、と軽く会釈をして青年は扉へと向かう。

 小坊主の一人が慌てて寺門まで案内しようとして──だが、鋭い声がそれを止めた。

 「まて、八戒」

 「はい?」

 名を呼ばれ、青年が振り返る。

そこには愛用の銃を装填した三蔵が、不気味な微笑を浮かべていた。

 「…俺も付き合ってやる」

 「おや…お気持ちはありがたいですが、こちらは宜しいのですか?」

 ちらりと、浅葱色の視線が小坊主たちを撫でる。

 「少々居なくても、困りはしない。それに──」

 僧衣の懐から煙草を取り出し、火をつける。

ふっと紫煙を吐き出すと、三蔵は短く言い放った。

 「たまには害虫駆除でもして鬱憤を晴らさんと、こんなかび臭いとこではストレスが溜まる」

 とても最高僧の発言とは思えない科白に坊主達は青くなり、青年はくつくつと喉を震わせる。

 「そういうことなら…お付き合い願いましょうか」

 二人揃って毒を孕んだ笑みを浮かべ、三蔵と八戒は標的の待つ家へと踵を返した。

 

 

 ────悟浄さん、ピンチ?