天ちゃんとこざるの微妙な関係
男の子編

 




 「天ちゃんっ、ケッコンしようっ!」


 「………ぶっ!」


 いきなり飛び込んできたと思ったら大音量の爆弾発言に、天蓬は飲みかけの緑茶を吹き

出した。

 「天ちゃんケッコ…─はにゃ、どしたの?」

 げほげほと噎せる天蓬の白衣をひっぱっていた悟空が、不思議そうに首を傾げる。

 その子犬のような仕草を『あぁ、今日も超ぷりちーですねぇ』とリリカルな効果付《天ちゃん

ビジョン》で眺めながら、天蓬は乱れた呼吸を整えた。

 「…悟空、ちょっと待って下さいね」

 そそくさと椅子から立ち上がり、まず悟空が飛び込んできたまま開けっ放しになっている

自室の扉をきっちり締め鍵をかける。

 そして窓のカーテンもぴっちり締め切ると、悟空をひょいと抱き上げ椅子にかけ直した。

 「で、何をしようって?」

 「だからケッコンっ!」

 大好きな天ちゃんの膝に抱っこされ、至極御満悦な笑顔で悟空が叫ぶ。

 御機嫌な悟空とは対照的に、努めて冷静さを装う天蓬の額には大きな汗が浮かんでいた。

 ケッコン…というと、やはり『結婚』のことだろう。

この子猿ちゃんの口から、なんでそんな言葉がいきなり飛び出すのか。いやそれ以前に、

誰がそんなことを教えたのか。

 天界有数の頭脳を持ってしても解けない疑問に、天蓬は素直に降参して聞くことにした。

 「悟空、なぜ結婚したいと思ったのですか?」

 「うん、あのねぇ………」

 

 悟空の話はこうだった。

久しぶりにナタクに会えた悟空は、二人で城の外に遊びに出掛けた。

 歩いていくうちに、途中できらびやかな衣装の行列に出くわした。

 赤い服を着た若い男女を先頭に、色とりどりの花や宝石で着飾った者たちが楽しげに歌を

唄い楽器に合わせて練り歩く。

 綺麗だけれども初めて見る光景に、悟空は首を傾げてナタクに尋ねた。

 「あれ、なに?」

 「結婚式だよ」

 「ケッコンシキ?」

 ますます不思議そうに首をひねる悟空をナタクが困ったように見つめる。

 ぽりぽりと頭を掻きながら、悟空でも理解出来るように言葉を選びつつ説明した。

 「えーと…つまりな、好き合っているやつ同士が『ずっと一緒にいる』ってみんなの前で約束

することだ」

 「好きあっている……」

 おうむ返しに呟いた悟空の脳裏に、ぱっと笑顔の天蓬が浮かぶ。

 なら、自分と天ちゃんもそうではないか。

 「…好きな人となら、みんなケッコンするの?」

 大きな金色の瞳が真剣な光を宿して、ナタクを見上げる。

 その強さに何故か頬を赤らませナタクは頷いた。

 「あ…ああ、だいたいはな…」

 「──じゃ、俺もしなきゃ。天ちゃんと」

 「───えっ?」

 急に出てきた──自分ではない──名前に、ナタクが目を見開いた時には既に遅く。

 天蓬の元にむけて悟空は駆け出していた。

 

 「……なるほど。そういうことでしたか」

 原因を理解し、天蓬はやれやれと納得した。

出所はナタク太子だったのだ。

 あの子もねぇ、いい子なんですけど…と天蓬はため息をつく。

 (余計な事を悟空に吹き込むのは困りものですね)

悟空が気に入っているから放置しておいたが、これは一度シメないといけないかもしれない。

 本気で思案中の天蓬にかまう事なく、悟空は無邪気に繰り返した。

 「ねっ天ちゃんケッコンしようっ!」

 零れそうな大きな瞳で見つめられ、にぱぁと微笑まれて誰が否と答えられるだろう。

 つられて頷きそうになり──すんでのところで、天蓬は踏みとどまった。

 悟空と結婚。

それは勿論天蓬の一大目標でもあるし、『いつも一緒』というのは悲願でもある、が。

 まだその為の足場は完全に固まっていない。

まず障害に絶対なるはずの二人──正確には予備軍も入れて三人を、穏便かつ速やかに

排除しなければ駄目だ。

 恋敵をにこやかに蹴落とし、頑固で過保護な養父(本人はそうは思ってないようだが)から

円満に悟空を譲り受けてこそ、バラ色の新婚生活を営めるというもの!

 手間を惜しんでは、せっかくの幸せ(確定)をみすみす逃してしまうことになる。

 黙ったまま頷いてくれない天蓬に、悟空の顔が見る間に曇る。

 「天ちゃん…おれのコト、きらい?」

 ふぇっ…と今にも泣き出しそうな悟空に、慌てて天蓬は首を振った。

 「悟空のことは大好きですよ。天ちゃんも悟空と結婚したいです…」

 「じゃあ………」

 「でもね─────」

 ちょっと困ったような笑顔で天蓬は続けた。

 「結婚する為には、まずおとーさんに許してもらわないといけないんですよ」

 「おとーさん?…金蝉のこと?」

 「ええ。それにね、結婚というのは約束するだじゃなくて……」

 大きな手が悟空の頬に添えられる。

近付いてくる秀麗な顔にごく当たり前のように悟空は目を瞑った。

 「………んぅ」

 小さな唇が薄い口唇に塞がれる。

子供らしい柔らかなそれを舌でつつくと、すぐに歯列が開き甘い味のする幼い舌先が天蓬を

誘う。

 応えるように中へ入り込み、戯れかける悟空の舌を優しく絡めとった。

 「……ぅ…ふっ…」

 交じり合う唾液が合わさった口の端から一筋、淫らな跡を残して流れる。

 天蓬から与えられるそれを、悟空はねだるようにひたすら呑み込んだ。

 幼い子供には似つかわしくない、背徳の匂い漂う行為。それはすべて、天蓬が仕込んだ

モノ。

 教えた通り応える悟空に、明らかな愉悦の光を双眸に宿して天蓬は薄く微笑んだ。

 「──こういうコトをするのも、『結婚』していることになるんですよ」

 「じゃあ、おれもう天ちゃんとケッコンしてるんだね…」

 だって、いっつもしてるもん、と。

安心したように悟空が笑う。

 その応えにクスリと笑って、天蓬は囁いた。

 「ええ。…だから、今日もシましょうか」

 囁いた耳にふっと吐息を吹きかけ、軽く甘噛みする。

 「あっ………」

 とたん、悟空の肩がぴくりと震えた。

 「気持ちいいですか?」

 「……うん……」

 「じゃ、ここは?」

 大きな手が服の裾をたくしあげ、固くなった悟空の胸の突起をきゅっとつまみ上げた。

 「……っ……!」

 びくんと悟空の背筋がしなる。

 「悟空……?」

 ころころと親指の腹でこね回すと、その度に悟空の身体が何度も跳びはねた。

 「気持ちいいですか」

 「うんっ…いい…よぉっ…」

 荒い息を吐いて幼い手が天蓬の白衣を強く握り締める。

その反応に気をよくした天蓬は、愛撫の手を更に下へと伸ばした。

 「ではココはどうでしょうか…」

 ぴっちりとした悟空のズボンの透き間から、やや強引に内部へ手を差し入れる。

まだまだ未熟なはずの男の象徴はしっとりと汗ばみ、濡れた感触を天蓬に伝えた。

 「おや…すこうし、湿ってますね」

 これじゃあ気持ち悪いでしょう?

にっこり笑うと、天蓬は慣れた仕草で悟空のズボンを──下着ごと取り払った。

 「…ひゃんっ…」

 真っ白な素足が薄暗い部屋の中にほの白く浮き上がる。

 乱れているとはいえ未だ服を纏ったままの上半身と、何一つ隠すものもなく晒された

下半身と。

 そして両膝に挟まれ所在無げに震える悟空自身の姿が、天蓬の裡にある昏い情欲を

淫らに煽った。

 恥ずかしそうに怯える小さな昂ぶりのいただきを、形の良い指先がさわりと撫でる。

 「やぁっ…!」

 びりっと痺れるような快感に悟空は可愛らしい悲鳴を上げた。

 「やっ……てんっ…ちゃ……」

 「気持ちイイですか…?」

 ぐりぐりと弧をえがくように先端を弄ると、悟空が潤んだ目でこくこくと首を振る。

 「て…ちゃん…もっとぉ……」

 いささかの躊躇いもなく悟空は更なる快楽を求めて天蓬を呼ぶ。

 目眩がするほど可愛くて、淫靡で蠱惑的な痴態に。

ごくりと天蓬の喉が鳴った。

 「大好きですよ、悟空…食べちゃいたいくらいに…」

 ちゅっ……

 「…ひぁ………っ」

 幾分身を屈めた天蓬の口唇が、先走りの蜜を零す悟空の昂ぶりに軽く口付ける。

 ちろりと先端を舐めあげ、そのまま根元まで深く呑み込んだ。

 「はっ…にゃぁ…っ…」

 生温かな咥内の感触に悟空の腰が小刻みに揺れる。

強すぎる快楽を受け止めきれず、悟空はいやいやとかぶりを振った。

 しかし天蓬は容赦しない。

いったん口を離したものの唇は先端に吸い付いたまま、ぬちゃりと音を鳴らして舌を幹の

根元まで這わせた。

 「うっ…ぁあ……」

 悟空の中で渦巻く熱が、解放を求めてどくどくと脈打つ。

けれど天蓬の人差し指と親指が根元を軽く摘まんでいる為、自分だけでは達することが

出来ない。

 かといって天蓬の愛撫は微妙に的をずらしているので、悪戯に煽りはしても決定打とは

なりえなかった。

 いつまでも自分を嬲り続ける天蓬に、悟空はとうとう泣き出した。

 「天ちゃんっ…いじわるしちゃっ…やぁっ…」

 透明な雫をぷるぷると振り撒いて、舌たらずな声が解放を哀願する。

 流石にこれ以上焦らすのは無理かとため息をつき、天蓬は幹の下──根元に並ぶ小さな

二つの袋に軽く歯を立てた。

 「やあぁんっ!」

 鋭い嬌声を上げ悟空は絶頂を迎えた。

 「はっ………あぁ……」

 透明な薄い蜜が戦慄く先端からとめどなくあふれ出す。

それは熱棒に添えられた天蓬の掌を伝い、余韻に震える奥の蕾までしどしどに濡らした。

 ……ぬるり。

 「ひっ………っ!」

 弛緩していた悟空の身体が、突如襲った刺激に激しく振動する。

 天蓬の指がまるで休む間すら与えぬとでも云うように、無遠慮に蕾を犯した。

 ぐいっ…と。蜜の助けを借りた指先が内部を抉る。

ぐりぐりと裡(うち)を嬲られ、敏感な内壁が次第に蕩け始める。

 「……くぅっ……」

 天蓬の指が轟く場所から、悟空の全身になんとも言い難い快感がさざ波のように次々と

溢れる。

だけど、何か欠けている。これでは、イけない。

 (…コンナノジャ…足リナイ…)

悟空がホシイのは─────。

 「…てんちゃ……ん……」

 掠れた声が、天蓬を呼ぶ。

 「…天ちゃんが…ほしいよ…ぉ……」

 濡れた黄金の瞳が、天蓬を誘う。

 「…キ……テ……」

 戦慄く唇が、天蓬の僅かに残っていた理性を悉く焼き切った。

 残ったのは、獣じみた熱情と──加虐心。

愛しいと思う者を心ゆくまで自分に染め上げて、壊してしまいたい。

 躊躇う必要はない。だって悟空自身が望んでいるのだから。

 カチャリと小さな音をたてて、ベルトを外す。

戒めを解かれ顔を出した天蓬のそれは信じられないほど固く張り詰め、天に向かって

起立していた。

 濡れぼそる幼い蕾に、天蓬はどう見ても大きすぎる自分の楔を添える。

 「いきますよ、悟空」

 優しく囁くとひくつく花びらを押し開くようにゆっくりと貫いた。

 「…ひっ…いっ…………っ!」

 激痛が悟空の喉に絶叫を促す。

しかし自らの小さな手で口元を覆い、悟空は必死に耐えた。

 「うっ……くぅ…」

 いま声を出してはだめだ。

この痛いのをもうちょっと我慢して、天ちゃんがキスしてくれたらさっきよりもっと気持ち

ヨクなれるのだ。

 (だから我慢しなくちゃ)

 「…くっ………」

 慣らしたとはいえ相変わらずの狭さに、天蓬の柳眉が心持ち歪む。

 それでも漸くすべてを収めると、荒い息を吐いて悟空を呼んだ。

 「……ごくう………」

 自分を呼ぶ声にぎゅっと瞑っていた悟空の瞼がうっすらと緩む。

 「…てん…ちゃ…ん」

 涙で霞む視界に綺麗な天蓬の顔を見つけ、悟空は手を伸ばす。

 その小さな手を己の首に巻き付かせ、天蓬は血の気を無くした悟空の唇を覆うよう

に塞いだ。

 どちらからともなく舌を絡め深く貪る。

 「……んっ……」

 ぴちゃり、と何度となく繰り返す水音に誘われるように。

弱々しかった悟空の吐息が、徐々に熱を取り戻す。

 それに合わせて、天蓬もゆるゆると腰を使い始めた。

はじめは優しく、悟空を怯えさせないように…。

 だがそれも二人を包む熱のせいで、やがて激しく屠り尽くすものへと変化していった──

 

 

 

 暗くなった空に反応するように、悟空のおなかが切ない声をあげた。

 「はらへった……」

 悟空らしい、けれど色気の無い呟きに天蓬の喉が小さく震える。

自分を抱き締めたまま肩を揺らす天蓬に悟空はぷうっと頬を膨らました。

 「もうっ、天ちゃんのせいで俺はらへってるんだよっ!」

 ぽかぽかと己の胸を叩く仕草さえ愛らしくて、天蓬は益々笑みを深める。

 ひとしきり笑いおえた後。

僅かに身を屈め、すっかり拗ねてしまった悟空の耳に密やかに囁いた。

 「…じゃあ、天ちゃんが何か美味しいものを作ってあげますよ」

 「──ホント?」

 その一言で憮然とした悟空の表情が、ぱっと笑顔にすり替わった。

 「えっとねぇ、それじゃ…にくまんでしょ、はるまきと、それと………」

 きらきらと目を輝かせて、悟空は食べたい物を思いつくかぎり連呼する。

 そんな悟空を優しく見つめていた天蓬の表情が、急に真剣なものに変化した。

 「悟空」

 「…にゃ?」

 名を呼ばれ顔を上げると、真摯な光をたたえた浅葱色の瞳が真っすぐに悟空を捉えた。

 「──今は、内緒のままですけど………」

 天蓬の大きな手が、艶やかな悟空の髪を何度も撫でる。

それはおよそいつもの彼に似つかわしくない、何かを迷っているような動作で……。

 なんとなく、不安な気持ちになった。

 「天ちゃん……?」

 何か云わなきゃいけないような気がして、悟空は天蓬の名を呼ぶ。

 逡巡していた薄い口唇が、悟空の声に思い切ったように動いた。

 「悟空が十八歳になったら、ちゃんとみんなの前で『結婚』しましょうね」

 一瞬、なにを云われたのか理解出来ず悟空はぽかんとしたまま天蓬を見上げる。

 しかしうっすらと朱に染まった天蓬の顔に──ようやく、思い至って……

 「………うんっ!約束だよっ!」

 

 心底嬉しそうに破顔した。