蹴缶のススメ
文 よぐそとと
「美味しんぼ」という漫画がある。
過去から引き継いできた食文化を次世代に残すという名目で、山岡士郎というグータラサラリーマンが「究極のメニュー」という企画を押し進めていくという話で、なかなか面白く、人気のある漫画のようだ。しかし、わたしはこれに疑問を持った。
なぜ、食文化なのだ?
食は確かに文化と言えるだろう。しかし言い直せば「文化の一端」にすぎない。他に次世代に継承すべき文化は山ほどあると思う。日本文化に限って言えば、「日本舞踊」や「雅楽」など、行く先が危ぶまれそうな文化はある(そんなものを漫画にして面白いかどうかは別として)。それに対し「食」は「美味しんぼ」だけにとどまらず、観客の無意味な盛り上がりが素晴らしい「正太の寿司」や、中華料理の無限の可能性を知らしめた「中華一番」など、広がりを見せている。
これに対してわたしは、別の文化の継承をこのページを使ってやろうと思いついた。「このページだけでやるという事が如何ほどに文化の継承に役立つのか?」などと言うツッコミの声も聞こえてきそうだが、敢えてその声を無視して先に進める事にする。
数ある文化の中で、わたしが継承すべきと思う文化は「遊び」である。「美味しんぼ」の手法を借りて、「究極のお遊び」というものを御紹介したいと思う。
では「究極のお遊び」とは何か?
TVゲームではない、旅行でもない、ギャンブルやラジコンでもない。もちろん風俗でもない。
「究極のお遊び」それは… カンケリである。
缶を蹴り、隠れる。オニは隠れ、もしくは逃げる相手をみつけ、自らの虜とする。スリルとロマンスが同居し、戦術性と運動能力が問われるカンケリこそ「究極のお遊び」というに相応しい。カンケリにかかってしまえばゲームメーカー「四角形」の某有名ロールプレイングゲームなど、ただの紙芝居に堕してしまう。
「所詮カンケリが、どれほどのものだって言うのさ!!」
そうおっしゃられる諸兄!!あなた方は真のカンケリを知らないのだ。缶の選択から、蹴り方の作法まで…もはや子供の遊びという枠を超え、「蹴缶道(しゅうかんどう)」という芸術にまで高められたカンケリ。
子供のころにカンケリをしなかった不幸な人たちもおられるであろうことを踏まえた上で、「蹴缶道」の作法を語っていくことにしよう。
1.缶を用意する。
カンケリをするからには、缶を用意する必要があるのは言うまでもない事だ。缶が無いカンケリはそもそもカンケリなどとは呼ばない、ただの「蹴り」である。「蹴り」はK−1などでやっておればよろしい。
「缶」と簡単に言うが、どんな缶でも良いというわけではない。長時間のゲームに耐え得る強靭さと、倒れそうで倒れないバランスがカンケリの缶には要求される。そういう条件からしてまず、アルミ缶はカンケリには向かない。蹴られ、踏みつけられるわけであるから、軽いだけが取柄のアルミ缶は1ゲームも終了しない内に完全に潰れてしまうだろう。丈夫だからといってツナ缶でもいけない。ちょっとした風でも倒れてしまうような危うさがオニにスリルをもたらし、虜に希望を与えるのだ。
以上を考慮した上で最もカンケリに適した缶はロングのスチール缶となる。さらに欲を言えばプルタブの外れる缶がよろしい。外れたプルタブを缶の中に入れておく事で、倒れたときに「カラン」という音でもって知らせ、虜釈放…すなわち反撃の狼煙の代わりになるのだ。
個人的なオススメは超マイナーメーカー「ベルミー」の缶コーヒーの缶である。(今現在発売しているかどうかは知らぬ。)
2.人を集めオニを決める。
「一人でカンケリをやったが楽しかった。」という話は聞いた事が無い。
カンケリというのは戦術要素をふくめたかくれんぼと言い換えても良い、つまり最低でも、オニと隠れ役の二人が必要なわけだ。しかし二人だけでは、カンケリの一番のドラマである「虜の開放」が出来ない。一人捕まってしまえば終わってしまうカンケリなど、カンケリの面白さを80%ほどゴミ箱にポイした行為であるといってもいいだろう。
では何人でやるのがベストか?5人くらいは欲しいところだ、5人から12人くらいまでが、オニにしても逃げ役にしても程よい緊張感が味わえる。
ここで気をつけて欲しいのだが、各人がゲームに参加する人間の名前を覚えておいて欲しいのだ。理由は後述するが、知らぬ人間とゲームをする場合、後のつきあいを考えても名前を覚えておく事は悪くない。
つづいて、最初に地獄を見ることになる人間、すなわちオニを決める。
カンケリがオニゴッコやかくれんぼなどと違うところは、オニは一人でなくてはいけないというわけではない点である。とくに10人以上など人数が多い場合、1ゲームが3時間たっても終わらないという場合が高い可能性で起こる、こうなると地獄を見つづけているオニはスネて帰ってしまうのが関の山である。8人以上でやる場合はオニを2人にする事を考えたほうが良いだろう。
オニの決め方については伝統の決戦方法「ジャンケン」できめる事。その際、親指人差し指中指を同時に出し「最強」とのたまう奴や、「最初はグー」でパーを出す輩は即座にオニ決定と心得よ!!ジャンケンは神聖にして不可侵である。
3.ゲーム開始。
オニも決定し、いよいよゲーム開始である。
オニは缶を慈愛を持って立て、任意の蹴り人が蹴る。その蹴り方だが、ただなんとなく蹴るだけでは、これから始まる地獄の饗宴に相応しくない。時代漫画「無限の住人」に次のようなくだりがあった、
「隼が鳥を取る如く只一刀…」
そう、正にこのような意気込みで、風を切るような一蹴りを期待したいものである。
缶が蹴られると同時に、逃げ役は逃げるなり隠れるなりし、オニは蹴られた缶を持ってきて、所定の位置に立て、毎秒一のペースで二十数える。そして戦争が始まる。
オニは移動ないしその場に留まり、逃げ役の姿を確認、個人が特定できたら、
正確に「OOちゃんみーーーっけ!!」と叫び、缶を軽く踏む。その際、缶を倒したり、見つけた人間に先に缶を蹴られてはいけない、カンケリにおいて、缶が倒れるという事はオールリセットと同義、すなわち「オニはそのまま、全て最初から。」になってしまうので、缶を踏む際には嬉しさのあまり、力がかかり過ぎないようにしたい。
そして見つけられ、缶を踏まれた逃げ役は捕虜となり、缶の近くで虜囚生活を余儀なくされる。
前章で「名前を覚えておいて欲しい。」といったのは、「名前を呼ぶ&缶を踏む」が、逃げ役を捕虜にするための必要事項だからである。
「あの赤い帽子のひとみーっけ!!」では、その逃げ役は、帽子を脱いでしまえばいいだけの話ではないか…
前述したが、缶の倒れ=オールリセットである。つまり、捕虜は缶が倒れれば、釈放されるのだ。だからといって捕虜が缶を倒しては当然いけない。他の逃げ役が蹴ってくれるのをただひたすら待ち、逃げ役はオニに更なる地獄を見せたい一心で、缶をうかがう。そして、見つかることなく蹴る!オニにとって地獄の瞬間とはこの時をおいて他にない。苦労して捕まえた捕虜は歓声を伴って逃げ出し、オニの二十を数える声が朗々と続く。大漁の日のクールボックスを風で海に落とし、ひねた気分になるのと非常によく似ている。
運良く逃げ役全員を虜囚にする事が出来たなら、オニを慎んで最初に捕えられた捕虜に譲り、前オニが缶を蹴り、2ゲーム目スタートとなる。
4.最後に。
以上でカンケリの大まかな流れを御理解いただけたものと思う。しかしこの文でカンケリの素晴らしさ全てを伝えられたとは言い難い。やはり、実践に勝るものはない。仲間内の集まり、パーティ会場、飲み会の二次会など、人の集まる機会に是非カンケリを楽しんでいただきたい。
最後にカンケリの変わった楽しみ方をするグッズを御紹介して終わる事とする。いささか長い文章ではあったが、「遊び」文化の次世代への継承に、少しでも役に立ったのなら、これ以上の歓びはない。くわえて、御付合いいただいた皆様に感謝の意を表する。
・エアガン 缶狙撃用であるが、持っていることは極秘にせねばオニに取られる事は必至である。
・スコープ 戦術性を高めるアイテムとして効果覿面である。
・コピーロボット 「パーマン」に出てきたヤツである。用意できれば最強。