皮下機械の少女

 

第11戦「復活」

 

考えすぎだとは思うんですけど、つまり廻奈様に対する咲夜ちゃんはあまりに危なっかしくて、危なっかしいという言い方はおかしいかもですけれど、廻奈様の為なら死んじゃってもいいなんて、あまりに悲しいんです。妖孤守護としては当然の事かもしれないんですけれど。
お父様にお話したら「それは廻奈に対するやきもちではないのか?」なんて笑われてしまいました。
でも今回みたいな事があるとやっぱり廻奈様に「咲夜ちゃんを殺さないで。」とお願いしたくなるんです。
お父様以外の人に聞いてほしくて、出撃前ですけどVTPで送ります。きちんと文字に変換されているといいんですけれど。それでは、またお手紙します。

 

 

ただ、がむしゃらに前に進んでいたような気がしていた。
誰からの制止もかまわず突出して、気がついた頃には退路を絶たれ孤立したり、帰還の為の消耗品が底をついていたりする。自らの内にある衝動をおさえれば良かったと思うのは、そういう遅れた状況の時、いつもやむを得ず立ち止まった時であった。
「言ってみりゃさ、あたしの人生もそんなもんだったのかもね。ねぇ?」
心臓の鼓動の停止を六花が確認したのが数分前、腹部からおびただしい量の出血の痕があるユゥキは壁に背をまかせて地面に座り込んだ六花の問いに答える事はなかった。
「人生…か、これが人生といえるもの?あいつと別れてまで手にいれた体で…こんな所で終るのが?」
傷だらけとなったボディと同じスカイブルーに彩られた機械化された右腕を見て、自らの哀れさを考えた六化は少し笑った。右腕を失ったキリークを出しぬいて、凝縮フォトンを手に入れることには成功したが、機械が支配する洞窟エリアのさらに下層、坑道エリア深部よりの脱出は困難を極めた。
どこからかからの転送装置を利用して突然大量に出現する人型戦闘機械。二人のいる全方位より放たれる実弾・光学兵器の雨をかわしつづけるにも限度があった。必要最低限の敵を倒し、走り、敵の目をまいて今いる部屋にたどり着きはしたが、自らの体組織の損失著しく、なによりユゥキの命を失ったのは痛手であった。
死んだユーキの胸に置いていた左手を、膝より下を失った自分の左足にのせると、脇のポケットより紫色の液体が入ったシリンダーが転がり落ちた。
「ははは…今となっちゃこんな物…モンタギューに義理なんてないっていうのにさ!なにやってるんだ、あたしは!!」
自らに対する怒りのままにシリンダーを持った左手を持ち上げたが、それを投げつける事はできなかった。戦闘中に六化が落としたそのシリンダーを守ったユゥキは「蒼い悪魔」と呼ばれる機械、シノワビートの致命となる一撃を腹部に受けたのだ。
「バカだよ、ユゥキ。ほんとにバカだよ…」
同じアンドロイドとはいえ、六花はキサラのように泣く事ができない、今はその事が恨めしく感じた。涙が出るはずもない光る目を六花はおさえる事しかできなかった。左手より離れたシリンダーは機械の床をコロコロと転がる。何かからの機械音とそのシリンダーの転がる音それだけがあたりに響いていた。そのシリンダーが壁に当たって止まる。その音を聞いた時、それに加え、六花の優れた聴覚能力にはもう一つ、否、複数の機械の軋む音が左前方の通路より聞えてきた。六花は未だ自分が戦場にいるのだということを思い出した。
過酷な使用環境にあったマシンガン二挺のフォトン注送バレルは摩擦熱で半ば溶けてしまっていた、無理して使用すれば暴発してしまうだろう。しかし、それ以前の問題として、六花はすでに戦意を喪失していた。顔をあわてて上げた六花は千切れた配線が火花をあげる左足を見た。逃走も困難であった。ギルチックタイプと思われる敵戦闘機械の音は無慈悲に大きくなってゆく。六花の心はもはや恐怖だけが支配していた。
「敵…ユゥキぃ、敵だよ…起きなよ…回復してよ、ユゥキ!」
動くはずもない仲間のフォースを叱咤したその六花の眼前に、灰色の機械が姿を現した。人としてのデザインを狂わせたかのような長い手に内蔵される光学兵器。六花の存在を見とめたそのギルチックと呼ばれる機械は両の腕をゆっくりともちあげる。
「お姉ちゃん…お姉ちゃん!助けて、廻奈姉ちゃん!!」
六花の叫びはギルチックの光学兵器の発射音にかき消された。

 

特殊テクニックはできる限りその消費を押さえたかったが、相手がシノワビートではそうも言っていられなかった。電撃系でも使用するのに疲労が少ないゾンデを使用し、「蒼い悪魔」の右腕をショートさせて使用不能にするとそのまま右手に回り込み、得意の跳躍からの一撃を機械装甲の隙間から内部へと加える。シノワビートの肩を蹴り、その力で刺し込んだ黄紅双剣を抜くと、一回転し着地、バランスを崩したシノワビートはその巨体を倒し、爆発した。
そう問われれば本人の性格からして否定するであろうが、シェルティがかつてそう思ったように、廻奈もまた私事の戦闘に他人を巻き込みたくなかった。廻奈は一人で激戦区・坑道エリアへ来ていた。
「まったく、世話をやかせる。」
双剣の発光を止め、ドレスにさしこむ。廻奈は「ふぅ」と一息つくと、左手首に巻いてある腕時計と見まがう小さな物体のスイッチをいれた。赤い光が小さなディスプレイに表示される。六花米穀店の番頭を殴りつけて手に入れた六花内部からの発信信号を捕える装置、それはさらに目的地まで距離がある事を示していたが、気になるのはそのパルス発信間隔が少しずつだが長くなっていることであった。六花の駆動機関とは別の内蔵電池が少なくなっているときにこういう反応をすると番頭から聞いていた。内蔵電池の消耗、それは六花の駆動機関がなんらかの理由で作動しなくなった時、最も考えられる理由は六花自身の破壊である。急がなければならなかった。
「急いでいるときに限って敵がわんさかでる…やれやれ、どうにかならかいものかね。」
まるで廻奈の足止めを狙っているかのように廻奈の進路をギルチック数体が塞ぐ。そのギルチックの後ろには小型浮遊砲台とでもいうカナディンが控えていた。
「シノワがやられたから次は質より量ってわけ?なめるんじゃないよ!」
いままで使っていた黄紅双剣ではなく鎌・ソウルイーターを手にした廻奈は敵照準の定まらぬスピードで前進。最も近い一体を腰部から真っ二つにした。
「なんだこいつら?あたしを見てないじゃないか。」
廻奈の言う通り、進路を塞ぐギルチックは仲間が斬られてからようやく存在に気付いたように一斉に廻奈のほうをみた、が廻奈へむけて攻撃態勢をとったのはその中の半分ほどであり、もう半分ほどは再び逆の方向を向きなおした。妙な事に敵には一種のためらいのようなものが感じられた。しかしそれでも攻撃してきた数発の光学兵器を避け、さらに立ち尽くす機械に鎌を叩きこむ、四散していくギルチックの向こうから敵戦闘機械ではない二人の小さな影が見えた。
「かいなさまぁぁぁぁぁ!」
その二人のうちおさげ髪の一人がそう叫び、もう一人の黒い鎧、桃色の髪の少女が長物の銃の引金を引いていた。廻奈がその二人を見間違えるはずもない、咲夜とキサラであった。キサラの銃から放たれるフォトンには特殊な細工がしてあるらしく、一発当たっただけで、ギルチック、カナディンともにその身体から光を失い、地へと転がっていく。キサラは咲夜から廻奈までの進路を確保し、咲夜はその確保された道を走ってきた。
「うぇぇぇぇぇん。廻奈さま、置いてかないでって言ったのに…」
咲夜はそう言って廻奈のドレスにしがみついた。
「ふぇぇぇぇ、廻奈様ごめんなさぁい。でも、心配だったのー。」
後から来たキサラも怒られる事を覚悟したかのようにそう言って下を向いてしまった。
「バカな!二人だけで来るなんて、ここがどういう所か知っているのか!」
「二人だけじゃないの…」
「なに?」
キサラが指差した方向からさらに二人の人間が走ってきた。
「シェルに…るるりんか!?」
デートに出かけるといって休日をとっていたシェルティがその相手と共に息を切らせて廻奈の前に立った。
「なんでここにいる?休みをとっていたはずだろぅ?」
「無事会えた事を喜ぶのと、説明は後にしてくれ。いいか廻奈、今の状況はそう喜べたものじゃないからな。」
眼前の敵は全滅したにもかかわらず、るるりんが発光させたラヴィス・カノンをそのままにして言うと
「廻奈、いい?ここは進む事より生きる事を考えて。このメンバーじゃちょっと辛いから。」
とシェルティが補足した。
「まて、ここのエリアならあたしとシェル、いやあたしだけでも十分だ。そのくらいお前たちでもわかるだろぅ?」
「ここの敵がここ相応のものだったら、たしかにそうだけどさ、そうじゃないのよ。るるりん、来たわよ!!」
るるりんが珍しく緊張した面持ちで先ほどまでギルチックのいた方角を凝視する、みればシェルティの顔も強ばっていた。
黒い大きな影が不意に突進してきた。
「散開して!!」
敵の正体を掴んでいるらしいシェルティが誰より早く指示をだし、全員が左右へとわかれる。そこへ走りこんできたのは、人の上半身に馬の下半身を持つ虹色の怪物だった。その怪物は避けられたと知り、反転し後ろ足で二度三度地を掻くと、さらにシェルテイの方へむけて突進してきた。シェルテイの持つ大剣のような右腕で、地を薙ぐようにシェルテイに襲いかかる、その剣を止めたのはるるりんの紫光剣ラヴィス・カノンであった。
「なんでこいつがここに…キサラと咲夜は退け!こいつは普通じゃない!シェル、二人の護衛を頼む!」
敵を視認した廻奈がその脅威に対し鎌を握りしめ、後方で怯える二人の少女と大剣の少女に指示を出した。
その脅威、ギリシャ神話に登場するケンタウロスに良く似た怪物、カオスブリンガーは、通常はさらに下の階層である「遺跡エリア」で、しかも最下層にのみ出没する生物であった。その戦闘力は比類なく、ラグオルにおいて最強ともくされる生物の一体であった。
「るるりん一人じゃブリンガーは無理よ!」
シェルは廻奈の命令に反論し、るるりんに剣での圧力をかけるカオスブリンガーの背後をとった、しかしカオスブリンガーはその馬と化した後足を持ち上げると、まるで馬がそうするかのようにシェルティを蹴りつけた。大剣でその蹴りを防いだとはいえ、その衝撃に思わずあとずさる。
「くぅ…やるっ。」
シェルティは現在対峙している敵の感想を簡潔に述べたが、その強大な敵はそれ以上の評価を受けるに十分と言えた。ブリンガーは現在地につけている前足二本をまるでコマの軸のように考え、そのまま反転した。ブリンガーの大剣をカノンでうけていたるるりんは、力を受け流されると同時に、後方からの後足の襲撃をまともに食らい、数メートルの距離を飛ばされた。
反転した事により、シェルティを正面に捕えたブリンガーは、次は後足のみでその巨体を支え、前足と大剣をシェルティにむけて落下させた。
るるりんの無事を確認する間も無く、凄まじい落下速度で襲い来る大剣をシェルティは自らの大剣の切っ先を地につけ、支えとしてかろうじて受けとめたが、そのまま第二撃、三撃がシェルティの大剣にふりおろされた。
「うわああああああ!」
上下左右からくる圧倒的な力に、シェルティは叫ばずにはいられなかった。押しきられるのは時間の問題である。
「お前の相手はあたしだぁ!」
キサラたちの安全を確保した廻奈が走り、手にした鎌を投げつける。円を描いて飛ぶ鎌は正確にブリンガーへと向かっていた。やむなくシェルティを襲わせていた腕を引き、廻奈の鎌をかわす、シェルティは重荷となる剣を捨て、反転して敵との間合いをとった。
素手となった廻奈ではあったが、そのまま走りつづけていた。ブリンガーは再び後ろ足で、地を二三度掻くと、新たな敵、廻奈へ向けて駆け出した。
ふいに廻奈が止まった、
「そのクセの悪い足、とめてやるよ。」
廻奈の右腕のテクニックドライブではすでになんらかのディスクが回転しており、そして走りながらも廻奈はテクニック発動のための精神集中を終えていた。いままで鎌を握っていた右手を突撃してくるカオスブリンガーへ向ける。
瞬間、あたりの空気が止まる。廻奈の掌を起点として空間の異常が発生していた。空中の水分が一気に凝固し、氷の粒となって機械化された地に降り注ぐ。氷結系特殊テクニック・ギバータ。フォースとして十分な経験を積んだFox Shrine兵長のそれは水滴の凝固だけに留まらず、氷塊をもこの地に呼んだ。が、それでもなおカオスブリンガーの突進は止まらなかった。通常の生物なら動きをとめ、凍結してしまう気温の中を、衰えぬスピードで走りつづけ、氷塊を右腕の大剣で打ち砕いていた。
「な…に…」
勝利を確信した廻奈に隙ができた。新しいテクニックで迎撃する事も、腰の黄紅双剣で迎え撃つ事も間に合わない間合いとスピードだった。「血の気が引く」という状態を、廻奈は初めて体験していた。
突然、カオスブリンガーの前足付近が爆発した。よろめいて前のめりになったその上半身へ光の弾が廻奈の脇をぬけ、向かっていく。フォトンの弾丸であった、そのフォトン弾はカオスブリンガーに着弾すると、そのまま体内へと侵入、その弾丸は生体フォトンを壊死させる効果があった。廻奈の上位テクニックでも止まらなかった下半身が完全に停止した。カオスブリンガーは轟という音と共にその身体をよこたえた。
「き…効いたのーーー!」
廻奈が後ろを向くと、長銃を片手に跳ねてよろこぶキサラと、テクニックを使用したらしく、杖をもったままの咲夜がいた。
「やったよ、咲夜ちゃん!」
「さすがキサラちゃん。強いなぁ…」
「咲夜ちゃんのテクニックも早くて助かったのー。」
守る対象と考えていた二人に守られたと悟った廻奈は、額に浮き出た汗をぬぐい、勝利を喜ぶ二人の元へと歩いていった。
「お前たち…」
そう廻奈に言われてキサラと咲夜は、シェルティたちを連れてここまで来た事も含め、余計な事をするなと怒られるのではないかと思い、身をすくませる。が、次の廻奈の言葉は二人にとって意外そのものだった。
「Fox Shrineに相応しい見事な腕だ。よくやった。」
廻奈は腰をおとし、緊張する二人の目線に自らのそれをあわせると、右手を咲夜、左手をキサラの頬にあて、健闘を称えた。キサラと咲夜にたちまち笑顔が戻る。
「ほんと、今回は二人に感謝しなきゃね、廻奈を助けるってきかなかったんだけどさ、でもそれが結果的に正解だったんだもん。」
気がついたるるりんをつれて、シェルティも廻奈のもとへと戻ってきた。
パイオニア2へ帰還したばかりのハンターから「坑道エリアに一人で向かう廻奈をみた。」との情報を得た咲夜とキサラは、途中で会ったデート前のシェルティ・るるりんの制止を珍しいワガママと思われるかのようにふりきり、逆にその二人をつれて坑道エリアに赴いたのだった。
「だって、だって…廻奈様が死んじゃったら、わたし…」
咲夜の目に涙がたまる。キサラは少しだけ笑って咲夜の頭を撫でた。

 

「どうなってんだい、ここは?遺跡の敵だらけじゃないか!」
カオスブリンガーを倒した後も遺跡エリアにのみ存在する敵が襲いかかってきた。苦戦の後もまた苦戦であった、辛くもディメニアンと呼ばれるブリンガーに似た色彩の人型の生物の一群を全滅させることはできたが、このまま全員無事に戦い続けるのは無理であった。
「断定はできないんだが…」
疲れて座り込み、天を仰いだるるりんが話し始めた。
「なにか知ってるのか?るるりん。」廻奈が問いかける。
「ダークファルスが活動を再開したと考えられる。」
「ダークファルス?リコのメッセージにあったダークファルス?結局わたしらが遺跡最奥に行った時にはダークファルスのダの字も見つからなかったよな…でもなんでダークファルスなんだ?」
「たしかに遺跡エリアにリコの残したメッセージがあってダークファルスに関する警告があった、しかし俺らが行った時にはダークファルスは影も形もなかった。」
「ねぇねぇ、そもそもさー。ダークなんとかって何なわけぇ?」
シェルティも会話に参加してきた。その言葉にるるりんは少し考え、
「よくわからん、というのが本当の所だ。ただ、先遣艦隊パイオニア1はこいつの所為で全滅したという推測はおそらく正しい。」
シェルティは意味がわからぬといった風に顔をしかめた。るるりんは話しを続ける。
「ラグオルに生息する全ての生物はどれも空中に浮遊するフォトンの恩恵をうけているのは知っているな?そのフォトンが変質し、生物が狂暴化したのがパイオニア1からの交信が途絶えた時と一致し、なおかつそのフォトンは遺跡最深部にあるダークファルス・オベリスクを中心に拡散していて、濃度も中心に近づく事に比例して増えて行く。」
るるりんはここで、一息つき、そして残りの言葉を一気に口にした。
「そして、そのフォトン濃度が最近になって突然増大したんだ。」
「あぁ、それでわかったわ。遺跡の奴らがここでも活動できるほどに、空気中のフォトン濃度が増えてるって事ね?」
首をひねっているシェルティの横で廻奈が理解したという風にるるりんに問いかける。
「その通りだ。なにしろ遺跡の敵の体細胞の生体フォトンの割合は90%オーバーだからな…」
「それじゃーそのダークなんとかをやっつけちゃえば、大団円で万事解決じゃないの!」
シェルティがはしゃいで見せる。
「ダークファルスの活動が活発化している今なら、もしかしたらその本体を見つけられるかもな、それが即ち倒せる、という事にはならないが…仮に倒す公算があったとしても下手に刺激すれば、パイオニア1の二の轍を踏む事にもなるかもしれん、それが実の所一番恐ろしい。何故今になって活動しだしたのかも解ってはおらんしな。」
「むーー、じゃあどうしろってゆーのよ!」
シェルティは次にはむくれて言った。
「今は、とりあえず生きて帰る事だな。廻奈…冷たい事を言うようだが、この戦力編成と今の状況では六花救出は無理だ。」
廻奈は一瞬だけ険しい顔を見せたが、冷静になればるるりんの言っている事は正しいと解った。
「六花の事、知ってたの…」
「ラグオル派遣ハンター監査役というのをやってると、けっこうな情報通になるのさ。」
「ごめんねー廻奈、あたしも聞いちゃった。でも言ってくれればいいのにぃ。仲間でしょお?」
るるりんとシェルティがならんで廻奈の顔を見る。廻奈の左腕の六花からの信号受信装置はまだ作動してはいたが、やはりそのパルス発信間隔は格段に長くなっていた。廻奈は六花がいるであろう方角を凝視したが、そこに六花の姿が見えようはずもなかった。
「あーあ…フィルナがいたらなぁ、昔のメンバーなら遺跡だって攻略できるのにさぁ。」
シェルティが両の手を頭にあててうろうろと歩き出した。まだ「妖孤守護」も編成されてなく、四人で活動していた時に遺跡最深部まで行って帰ってきた事もあるのだった。
「俺がどうしたって?」
突然声がして、皆がそちらを振り向いた。そこには黒い上掛けを羽織ったハンターが虹色の光剣を手にして立っていた。
「フィルナ!!」
「お父様!」
皆の声と、キサラの声はほぼ同時であった。かつての廻奈たちのメンバーであり、キサラの養父・フィルナがそこにいた。駆け寄ってきた皮下機械の少女の肩に手をやり、のこる四人のもとに歩いてきたフィルナは
「久しいな、廻奈にシェル。生きてたか。」
「あははははは!!フィルナも元気そーだねぇ。」
フィルナの声にシェルティは答えて喜びをあらわにし、るるりんは笑顔でフィルナの肩を叩いた、ただ廻奈だけが不満そうな表情であった。
「どうした廻奈?」
「るるりんもそうだけどさ、何?勝手に辞めてった奴が今ごろ仲間気取り?フン、キサラを迎えに来たんでしょ?さっさと連れて帰りなさいよ。」
冗談とも本気ともとれぬ口調で廻奈はまくしたてた。
「まったく…廻奈は変わらんな、助けて欲しい時はそう言えよ。」
「出戻りの手なんかいらないわよ!」
「まーまー廻奈ぁ、いいじゃん。これで六花も探せるんだしさぁ。ねぇフィルナ、ちょっとだけ手伝ってよ。」
廻奈とフィルナのやり取りにシェルティが水を入れた。
「まぁいいわ、昔以上に使ってやるから覚悟なさいな。」
フィルナに代わって答えた廻奈は背をむけて歩き出した。フィルナはその言葉に対して、次は微笑むだけだった。

「なぁ、昔のはやらないのか?」
るるりんの何かの提案にシェルティは顔を明るくし、
「あ、それいいかもー。ねぇやろうよ。ほら、フィルナも、廻奈も!」
三人が円陣を組んだのを見て、「やれやれ」と言わんばかりに廻奈も三人と向かい合う。
廻奈が黄紅双剣を。
シェルティが二挺のマシンガンH&Sを。
るるりんがラヴィス・カノンを。
フィルナが虹色の剣「デュランダル」を。
それぞれ円陣の中央へ向けた。
「神霊照覧。破陣在前。」
「天の加護と敵の撃滅を願いたもう。」
廻奈が口火をきり、残る三人が合わせる。
「Fox Shrine始動。宜しく任を遂げん事を。」
「応!」
四人がそれぞれの武器を軽く合わせる。軽い音がかすかに響く。今のFox Shrine出撃前の発声はここからきていたものであった。
誰のチームより早く進軍し、誰のチームより確実に戦果をあげ、誰のチームより名声を得た「旧制Fox Shrine」がここに復活した。

 

つづく

 

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