全ての俳句を愛し、全てを抱擁して余りある無条件の熱情。俳句絶讃倶楽部は永遠に絶讃し続けます。


●最新作

 啓蟄や踏ん付けた靴履きなほし  7897ヒロ

と、と、と、とととととと・・・・とにかく出、出、出、出出出なければ。ククク靴なんかのんびりと、とと、とにかく外へ出るの!
啓蟄とはまさに何が何でも外へ出ることなり。その本質を見抜く人少なし。それ稀有の才能にあらざるべからず。
秋まで待てない作者の本質は啓蟄である。(部長)

 

●総覧

絶讃の嵐

1 就活女 面接で採つてくれろと泣く娘かな 「めんせつ」と「めいげつ」。かつてこのやうな鮮やかな捩りはあつたでせうか。ローマ字で書くと8字のうち6字が一致するのです。
(今あなたは思はず計算しましたね。)
女子大生の切実な苦悩をここまで見事に、しかも客観視して捉へるのは並の業ではありません。脱帽です。(部長)
2 匿名 東京の遙かな山影故郷くに想ふ さうです。東京には山がありません。
いつも山影とともにあつた故郷での生活・・・ そして今ふとビル街の奥に見つけた丹沢、奥多摩や秩父の山影。ああ、山が見える・・・ なんといふ詩情でせう。
遠くに山がくつきりと見えるからには断然秋です。山影でしつかり切れてゐます。着目力抜群の句です。(部長)
3 匿名 月命日蜘蛛の巣掃ひ榊切る 今朝、生き物たちの営みからお裾分けを頂くのですね。裏庭の榊の一叢は故人も日々目にしたものでせう。何よりの供養ではありませんか。
心情溢れ、清々しさが満ち満ちてゐます。字余りも計算し尽されてゐます。
これぞ人間の句といふべき秀作です。(部長)
4 さら くろねこがひなたぼっこであくびした 黒猫は悪魔の使ひ。常に遠くから一瞥をくれるだけです。それが目の前で無防備な姿をさらけ出した一瞬を活写しました。作者の目は黒々とした胴体の本質から光る艶毛の先まで透徹してゐます。
「した」は突然の驚きを表すに十分です。一物仕立ての真骨頂と言へませう。(部長)
5 匿名 雲取の汗を冷やすやヘリポート 頂上まで今少し。小休止には丁度いいが何と不思議な広場だらう。都会の喧騒の幻がフッと現はれたやうな芝のヘリポート。爽やかで、それでいて禍々しいものを見たやうな見なかつたやうな・・
「おつと、体が冷え過ぎないうちに水場へ降りてさあもう一踏ん張りだ。」
雲取山ならではのシュールな光景と心象風景を鮮やかに詠み切つた句。今季最大の収穫。(部長)
6 行夫 流鏑馬やぶさめや遠足の子らずり下がる 幼い子供の遠足集団はなぜか独特の異物感を放ちます。
子供たちは何を見、そして作者は何を見てゐるのでせう。伝統行事の一幕、不覚の一瞬にふと踏み込んでしまつた意識の迷路。「ずり下がる」の終止形がその雰囲気異化作用を遺憾なく表現し得てゐます。
微笑ましさの奥に尋常ならざる精神性を孕んで傑出した句です。(部長)
7 磯路 膝痛む堅雪絶えて遭はざりき 温暖化の影響か、いやいや偶の帰省にもこんな早朝外に出てみたことはなかつたのだ。
あの頃は毎日のやうに雪の上で遊んだものだつたが、都会に出てからはこの冷徹で厳粛な空気をすつかり忘れてゐた。ああ、自分はこれまでかう生きて来たのだなあ。
十七文字に人生の総括を籠め切つて万人に強く訴求する絶唱です。(部長)
8 匿名 めば子供思ほゆ萩と月 冷凍庫の隅にあつたメロン。恐々齧りながら一人見る月は侘しい。さういへばあの子は今どこでどうしてゐるのだらう。遠い夏の日、ふと思ひ付いて買つて帰つたメロンを食べるあの子の笑顔。もつとしつかり見ておくのだつた。
時間と空間を隔てて激しく行き来して震へるこの思ひ・・・ ああ気が付けば先人も人間、私も人間なのだ。
俳句の力の普遍性が迸る衝撃の句です。(部長)
9 磯路 冷たきとぬくきとまだらの花嵐 随分温かくなつて来たとはいへまだ四月。十分に混ざり切つてゐない空気の白々しさ。
入学の春も就職の春もかうだつた気がする。もう何十回遭遇した春だらうか。年を取る毎に肌が感じ易くなつて行くやうだ。
人生を詠ませて右に出る者のない達人の鋭敏極まる句。(部長)
10 匿名 六階の目先に列ぶアキアカネ ほう、こんなところにゐたのか。下の方は排気ガスが濃いからな。ビル街も地上を少し離れるともう別世界なのだ。空も秋色。
視線はきらきら光る羽根の列をガラス一枚隔てた空間に水平に眺める非日常感、懐旧の情、併せて現代人の越し方への悔悟に確かに及び、日本人の生き方を追及してやまない。
言はば二十一世紀初頭の示準俳句たるに相応しい名句。(部長)
11 瞳子 三日月に気付く人なき交差点 陽が沈んだとたん、急速に冷えて来た。コートを掻き合はせながら家路を急ぐ人々は目を上げる余裕もない。
私つてやつぱり世間からズレてるのかしら。でもこんな鮮烈な月を見たのはいつ以来になるか・・
巨大スクランブル交差点と人々の暮らしと私の人生と、そして悠久の時間と・・・
私に密着しながら無限に広がるといふ一種の理想形に到達し得て揺るぎない句。(部長)
12 信一郎 開花日のニュースに挙手で応へけり はい!はい! 思はず声を上げてしまひました。今年初めて蕾を付けた家の桜も今日咲いたんだよーと、声を大にして言ひたかつたんですよね。
毎年十分感じ入つてゐたつもりのことが今年斯くも格別に感じられるとは・・・ 四季と共に生きる人生、俳句と共にある生活と思つてゐたものに思はず自ら活を入れてしまつた瞬間でした。
行動の力、思惟の力が拮抗した驚嘆すべき句です。(部長)
13 藤堂亜実 鰯雲息が見えるか吐いてみる そんなに寒いわけではないのです。ただ、この空気がどれだけ澄んでゐるのか確かめたかつただけなのです。息が見えたやうには思へないけれど、これで鰯雲から私までの空気は把握できたのです。
いつか一遍使つてみたかつた「鰯雲」。気恥かしいけれど今使つてみたのです。そしたら何と晴れ晴れとしたでせう。
生きてゐるものが確かに生きてゐると言つたからには何者にも負けない句が出来たのです。(部長)
14 匿名 真直ぐな道が嬉しい初歩き 今日は特別です。どこまでもどこまでも歩いて行けさうな気分なのです。くつきりと見通せる一本道は私の前途なのです。
今の私をしつかりと覚えておかう。この先の人生、真直ぐな道でさみしいこともあるだらう。そのときに今の自分を思ひ出したら涙するだらうか。と、そこまで考へ至るか至らないかの境目ぎりぎりのところで今の生の充実が勝つて句になつてゐるのです。
人生の重大契機を正面に据ゑて重くならない練達の句。(部長)
15 7897ヒロ 夏料理とか言ひながらカレー喰ふ 今のカレーつてをかしい。箱入りのカタマリを放り込むだけで味付けの工夫もないし色は黒いしカレーの香りはしないし。あの遠い日の黄色い香ばしいライスカレーはどこへ行つた。かと言つて俺は本物の作り方を知つてゐるわけではない。今日この熱いカレーを食ふのに躊躇もない。この忸怩としたざまはどうだ。いや、夏はこれなのだ。NATSUはATSUなのだ。そんな韜晦の限りを尽して俺は熱々のカレーを食ふ。
初句の切り切らずが素晴らしい。生き方の不条理を日常の一瞬に掬ひ取つて黄金の輝きを放つ一句。(部長)
16 匿名 わたくし生まれも育ちも葛飾柴又の近くです みんな言ふんです。寅さんの近くだなーつて。近くは近くですけど、寅さんあまり知らないんです。
でもずーつと言ひ続けられて慣れました。はい、あの辺りですよーつて言へば丸く収まる。
で、最近ビデオ一本見ました。良かつたです。寅さんスゴイ。私つてすごい所に近かつたんだなーつて。
口に出して言ふ日本語の力強さは限りないエネルギーを孕んでゐます。民衆の日本語の伝統にしつかりと繋がる若者の嘘偽りのない剛直な吐露。圧倒されます。(部長)
17 7897ヒロ 冬の田に集会鴉二、三十 ヒマだし。この時期子供に手はかからないし。餌はそこそこあるし。気の合つた仲間だけのこの位の集会がちやうどいいんだ。
ここは人間の邪魔も入らないし。こつち見るなアホー。
賢しらな意味づけへの誘惑をきつぱり捨て去つた写生は時として静かに静かに真実の核に迫る。
夏はただカレーを食ひ、冬はただ田んぼを見る。ただに生きることの何と偉大なことよ。(部長)
18 7897ヒロ ものの芽やそのふる芽の光こそ 遥かなる太古より人を知らず、やがて人を見、なほ人と関はらずして幾千万の春に湧き出でし命の系譜よ。
吾は限りなく親しき君よと唱ふれど汝には固より無縁の謂ならん。
しかし嗚呼、汝親しき友よ、何故に人に寄り添ひ、人を慰め、人に教へて今に至るのか。またその色の細部の人にとりてかくも好もしきか。
夏に生き、冬に生き、そして春に生きる作者は必ずや秋にも生きるであらう。(部長)
19 7897ヒロ 啓蟄や踏ん付けた靴履きなほし と、と、と、とととととと・・・・とにかく出、出、出、出出出なければ。ククク靴なんかのんびりと、とと、とにかく外へ出るの!
啓蟄とはまさに何が何でも外へ出ることなり。その本質を見抜く人少なし。それ稀有の才能にあらざるべからず。
秋まで待てない作者の本質は啓蟄である。(部長)

 初めての句、とつておきの句、悦に入る句、友人に貶された句、誰も良さを分かつてくれない句、子供の作つた句、俳句と言へるかどうか分からない句など、どんどんお送り下さい。力の限り褒めちぎることを誓ひます。
 なほ、私のスタンスは
ここに示しておきました。(俳句絶讃倶楽部部長)

 当倶楽部は有季定型、無季、自由律など、どんな形式も歓迎です。発表済みのものでも大丈夫です。匿名も差し支へありませんので奮つてお送り下さい。また、どなたでも絶讃に参加できますのでそちらの方へもご投稿下さい。
 なほ、
部長はやや思ひ込みの激しいところがありますが気持ち余つてのことですので何卒ご容赦ください。(同副部長)

 ちょっと部長が入院しました。(同副部長)

 現在休部中です。(同副部長)


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