溜まる一方の置き傘

 私は2年前から都心の仕事場に置き傘をすることにしている。それが今日は6本にもなった。さすがに家にはもうめぼしい傘がなくなったので、晴れているにもかかわらず1本持って家に帰って来た。(以前にも何本かゴソッと持ち帰ったことがある。)
 最初置き傘を始めたときは漠然と「家から差して出る回数と仕事場から差して帰る回数はほぼ同じだ」と考えていた。だから2〜3本は溜まるかもしれないとは思っていたのだが、6本とは許せない。

 もし殆んどの日が雨で、晴れているほうが珍しいという気候の世界なら、殆んどの日が一本の傘の往復になるだろう。たまに置き傘が発生するとしても多く溜まることはないだろう。
 だが実際は晴れている日が圧倒的に多く、たまに降るだけである。一旦置き傘が発生したらそれは長引く。次の雨の機会まで置いておかれる。しかし、だからと言ってそれで置き傘がそんなに溜まることになるだろうか。ならない。後日、朝降っていなかったのに帰宅時に降っているという日が来れば置き傘は解消するではないか。

 待てよ、雨というものはそんなに降り続くものではない。降り出してから24時間も続くということは少ないではないか。平均はもっと短時間だろう。そうだ、朝降っている雨は約10時間後の帰宅時には上がっていることが多いのだ。だから置き傘はどんどん溜まるのだ。
 しかしなんだかおかしいな。帰宅時に降っている雨も翌日の朝には上がっていることが多いのではないか。すると置き傘は減っていくではないか。これではオアイコになる。
 いや、家にいる時間は仕事場にいるより長い。休日だってある。仕事場にいる間に雨が上がってまた次の雨が降り出す確率よりも、家にいる間に雨が上がって、そしてまた次の雨が降り出す確率のほうが高いのだろうか。
 なんだかバカバカしいことになってきた。

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 単純に考えることにしよう。置き傘が増える機会(朝降っていて帰宅時晴れている)と減る機会(朝晴れていて帰宅時降っている)が同率で発生するとしたら、置き傘の数が0本から(増える一方で)6本に増えるということは丁半賭博に6回連続して勝つようなものだ。まああり得ない。
 もちろん私の場合は増えたり減ったりしながら6本になったのだろう。それならば、増減しながらついに6本に達することは考えられる。

 広場の真ん中にいる酔っ払いがランダムな方向に一歩ずつよろけ続けると、酔っ払いの位置はどうなっていくだろう。真にランダムならいつまでたっても中心の近くにいるだろうと推定されるだろうか。いやいや酔っ払いは次第に広場の中心から離れていくだろうと数学は教える。
 置き傘の場合は0本になることはあってもマイナス本になることはないから、この場合は「狭い廊下の突き当りからよろけ始めた酔っ払い」に相当する。突き当りからの距離は増減しながらも次第に大きくなる傾向を示すだろう。傘は増減しながら次第に増えていく傾向にあるはずだ。

 それでは傘が増減しながら0本から6本に達するにはどれぐらいの回数の機会が必要なのだろうか。
 相当必要だろう^_^; 月日もかかる。
 果たして私の実感のように「増える一方で」6本になることはあるのだろうか。あきれるほど着実に増えたという実感は間違いなくしている。本当にそんなことが起きるのかどうか確かめてみなければならない。

 もしこの可能性が否定されるならば、私は次のように納得することにしよう。
 雨というものは日中よりも夜間に降り出すことが多く、また午後に上がることが多い。天気予報でも「朝のうち雨が残りますが午後には晴れるでしょう」ということが多いではないか。だから置き傘は一方的に増えていくのだ。(いや、「午前中は持ちますが午後には降り出すでしょう」というのも聞くなあ。全く自信がない。)

 シミュレーションによって確かめてみよう。
 パソコンの乱数発生機能を使って、0本から1本ずつランダムに増減させることにする。左端の0本のところが廊下の突き当たりに相当するのだから、グラフの赤線はこの位置より左へは行かない。増減回数100回まで見よう。

 やった!56回目には6本に達している。
 しかも44回目から56回目の間を見ると連続4回増えた後、しばらくしてまた連続3回増え、たったの12回のうちに6本に達している。こうして見ると連続4回ぐらいの増加は(減少も)ざらに起きるのだ。だから増えるときは一気に増え、減るときは一気に減るのだ。
 また、40回を過ぎる辺りまでは0本で停滞することがあるがその後は0本での停滞は見られない。折れ線が平均してやや右方へ偏移しているのだ。まだまだこれぐらいの回数では大したことはないが、長い目で見るとこのあとグラフがもっともっと右方へ偏移してとんでもない数まで達することがやってくるであろう。

 これで雨の降り方に時間的な癖がなくても置き傘が短時日のうちにどんどん増えることがあるのは分かった。6本も溜まったと言って腹を立てたのは見当違いであったと反省しよう。
 本当はこれに加えて雨の降り始めと上がる時刻に偏りがあるかどうかを気象データによって調べてみる必要があるだろうが、まあ、いい。(調べてみる気持ちは失せてしまった。)

 丁半賭博に4回連続して勝つことがざらにあることは憶えておこう。(注意:連続して負けることもざらにある。)


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