究極の記録装置

 極めて記録容量が大きく、最も簡便にして完全なる記録装置があるという。しかもそれは単なる棒一本でできているという。
 その原理はこういうものである。つまり、一本の棒の適当なところに小さな印を付ける。そうすれば棒全体の長さと、端から印までの長さの比によって一意的にある小数が得られる。その数字が情報である・・・というのだ。極めて正確に印を付け、極めて正確に計測する技術があれば無限の情報を記録することが可能なのだ・・・というのである。
 なるほど、全ての情報は数字によって表すことができる。画像だろうが音声だろうが同じだ。殆ど無限に続くような長い小数が得られるなら、無限に近い情報が記録できるだろう。しかも原理が簡単で故障もしない。すごい!

 例えば1メートルの物差しの1ミリの刻みを利用すれば0.001から0.999までの任意の数字を記録することができる。つまり千個のもののうち1個を特定する情報を記録することが可能なわけだ。1000は2の10乗に近い数なので約10ビットの情報に当たることになる。1バイト(8ビット)はあるが2バイトはない。

 ビット数とは次のような意味である。

 上の物差しに付けた印(赤い線)の位置はまず全体の内の右半分に位置し、次にその内の左半分、次にその内の右、次に右、次に左、次に左、次に右、次に右に位置している。右を1、左を0と表わせば10110011と表現でき、8桁となるのでこれを8ビットの情報と言う。1ミリ刻みの1メートルの物差しの任意の位置を表わすのであれば10ビット必要になる。ふつう8ビットを一まとまりとして1バイトと称する。

 さてこのやり方を精密にしていくとどこまで行けるだろうか。印を付けるのもそれを検出するのも技術的には同レベルまで可能だろう。それは原子のレベルに違いない。特定の原子に何らかの目印を付けることもそれを観察することも現在可能のようだが、それ以上のことは出来ない。一個の原子の内部の別々の位置に選択的に目印を付けることは不可能なのではあるまいか。

 それでは原子の大きさはどれぐらいだろう。簡単に言えば、半径0.0000000001メートルぐらいらしい。では、1メートルに5000000000の原子が並ぶのでその数だけの刻みが可能ということになる。2の32乗に近いので約32ビットである。4バイトである。4バイトの情報を一個だけ記録できるのである。実用的には文字を何個か記録するぐらいか・・・・ うーーーん・・・・・

 棒の長さを伸ばすしかない。なまなかのことでは追いつくまい。地球の直径ぐらいに伸ばしてみよう。

 地球の直径は簡単な計算上約12732400メートルとなった。

 その長さの棒には約63661977309500000個の刻みが可能となる。2の56乗に近いので約56ビットである。7バイトである。

 極端に宇宙の端から端まで伸ばしてみるとどうなるだろう。

 宇宙の直径を400億光年としよう。380000000000000000000000000メートルである。

 約1900000000000000000000000000000000000の刻みが可能となる。

 2の120乗に近いので約120ビットである。約15バイトの情報(実用的には複雑な数値を1個示す程度の情報)が1個記録できる程度なのである。たとえば普通の記録装置なら朝飯前のこの情報を記録するのにこんなとてつもない長さの棒が必要になるのである。

 

 ここまで来たついでなので全宇宙に何個原子が詰まるか計算してみよう。 

 宇宙を球体と仮定すれば

 3分の4×π×950000000000000000000000000000000000の三乗=

359136400000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000

 である。

 0の数は102個である。

 3.591364×10の108乗である。(実際に宇宙にこれだけの原子が存在するわけではない。80乗ぐらいのオーダーだろうと言われている。)

 この数字は2の360乗と361乗の間にある。

 つまり棒の代わりに、原子をぎっしり詰め込んだ宇宙自体を道具にしてその一点に印を付けると、360ないし361ビットの情報となることがわかる。全宇宙中のある一点を指し示すだけの情報量である。しかしそれはほんの45バイトの情報である。

宇宙をケーキのようにナイフで半分また半分と切っていけば360回で原子ひと粒の大きさになってしまうとは、悲しいような・・・。(このことに関係する話がここにもあります。あとで併せてお読みください。)

 しかしここで今度は逆に、ほんの限られた空間で構成された普通の記録装置やコンピューターがなぜ楽々と全宇宙の空間に匹敵するもの、いや、それをはるかに超えるものを内包することができるのか、不思議というほかはない気持ちがしてくる。コンピューターの頭脳を構成する全原子に番号を振ったとしても上の数字にははるかに及ばない。それなのになぜそんなことが可能なのだろう。

 

 どうも棒の記録装置は効率が悪すぎるのではないか。
 冒頭の1メートルの物差しで言うと、1,000個もの刻みがありながら記録できる情報量はたった10ビットであった。しかし、例えば

 1011001101

 という10ビットの情報を記録するのになんで1,000個もの刻みが必要なのだろう。

 

 のような物差しさえあればそれに印を複数個つけることによって

 

 という形を表すことができるではないか。すなわちそれは10ビットの情報である。

 このように複数個の印を自由に付けることができるなら、簡単に刻みの数だけのビット数が得られるのだ。

 そうすると、ぎっしり原子が詰まった宇宙の大きさのメモリーは

359136400000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000ビット

 つまり

448920500000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
000000000000000000000000バイト

 を有するということになる。これなら納得できる。

 

 

 一本の棒に付けた一個の印はくその役にも立たない。全宇宙の一点に付けたとしてもロクなものではないのだから。
 しかし今、棒に微細な印を一個ではなくたくさん付けることにしたらどうか。またそれに加えて印の配置を時間的に自由に変化させていけるという仕組みを付け加えたならどうだ・・・

 と考えていくと、これがメモリやコンピューターの原理になる。現に存在する今のコンピューター技術が、この原理をスマートに実用化したものであることはお分かりと思う。

 つまり冒頭の棒の話はお伽噺なのであった。好意的に言えば、コンピューターの原理を説明する中途半端な例え話なのであった。

 

 もう一つついでに、せっかくだから上の大きな数字を読んでみよう。

 地球の直径は 1273万2400メートル。

 その長さには 6京3661兆9773億950万個の原子。

 宇宙の直径は 380禾予(ジョ)メートル。

 その長さに 1澗9000溝の原子。

 宇宙に詰まる原子の数は 3591無量大数3640不可思議の10澗倍

 としか言いようがない。

 (漢数字の定義に関する別説によれば3591万3640無量大数の10兆倍となる。)

 参考:億、兆、京、垓、禾予(ノ木偏に予)、穣、溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数。

 

  注 このページの計算は有効桁を無視しています。


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