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仮名遣ひの歴史

概観 簡易年表 は行音の変化 その他の転呼 あ、は、や、わ行音の変遷 仮名文字の系譜

仮名遣切替

 話し言葉の発音は歴史的に少しづつ変化し続けるものです。
 平安時代、仮名が発明された当時、人々は言葉を記すときにはもちろん当時の発音通りに仮名を書きました※1。しかしその後の発音の習慣の自然変化により、別々の仮名で書かれてゐる発音が同じになってしまふことが起りはじめました。
 最初の主な変化は次の通りです。

 語頭以外で「は、ひ、ふ、へ、ほ」と書かれてゐる部分が「わ、ゐ、う、ゑ、を」と同じ発音になった。
 次いで「ゐ、ゑ、を」の発音と「い、え、お」の発音が同じになった。

 したがってこれらの仮名についてはどちらを使っても同じ発音を表せることになったわけです。
 さてそれでも動詞の活用部分や一部のイ音便・ウ音便など、文法の裏打ちにより当然に定まる仮名遣ひについては比較的誤りなく受け継がれていきましたが、例外的なものや容易には根拠の知れない部分の仮名遣ひは影響を受けました。しばらくは人々の記憶には一つ一つの語の見た目の感覚が残ってゐますから元通りの仮名が使はれたでせうが、世代を経るにしたがってそれは忘れられ、同じ発音でも語によって別の仮名を使用する意味も解らなくなりました。
 そんな中でも先人の書いた通りに書くのが正しいといふ意識は失はれず、鎌倉時代以降、藤原定家および行阿のやうに古典を範に研究する人もありましたが徹底しませんでした。参照

 仮名遣ひの混乱は続きましたが、それは何も仮名遣ひの根本が失はれたとか仮名を綴るための原理が変はってしまったとかといふことではなく、根拠が知れないために人によってあるいは時によって異なる書き方をされる語が増えていったといふ種類の混乱でした。規範を求める人は定家や行阿の作成した単語集を拠り所としました。それらは「定家仮名遣ひ」と称されました。

 その間にも発音の変化は続いてゐました。主なものは次の通りです。

 「あう、あふ、かう、かふ、・・」「いう、いふ、きう、きふ、・・」「えう、えふ、けう、けふ、・・」「おう、おふ、こう、こふ、・・」類の発音が長音になった。
 「じ、ず」と「ぢ、づ」の発音が同じになった。

 事態は江戸時代へ至りました。
 契沖は古代の文献を詳しく調べ、混乱以前の元の仮名遣ひを多くの語について明らかにしました。また、同じ発音でも語によって異なる仮名を使用する理由(仮名遣ひが古代の発音そのものに基づくものであること)も明らかとなり、理論的な裏打ちが加わりました。これが後に「歴史的仮名遣ひ」と呼ばれるやうになったものです。明治に入ってそれは学校教育にも取り入れられ、広く行はれるやうになりました。

 契沖の示した仮名遣ひがそれ以前の仮名遣ひと方式を異にするといふものであったわけではない。それまでもそれなりに由緒正しい仮名遣ひの知識は保持されてゐたが、契沖はそれに対して個々の誤りには訂正を示し、全体的には合理的な根拠を与へたのである。

 その後昭和に入って戦後の国語改革の一環として歴史的仮名遣ひを現代の発音に基いて大幅に整理した※2「現代仮名遣ひ」が制定され、今に至ってゐます。

 「歴史的仮名遣ひの読み方」ページに挙げた表を再掲しておきます。

時代 発音 表記 仮名遣ひに関する一般的説明
平安前期 アフギ あふぎ 仮名ができた頃です。発音してゐる通りに仮名を書きました。
平安後期





江戸
アウギ

アォーギ

オーギ
あふぎ
あうぎ
おふぎ
など
発音が徐々に変化し、仮名の書き方が一部乱れ始めました。

しっかりした辞書がありませんでした。

知識人の書くものは割合正しいまま推移しましたが、庶民の書くものはより乱れていきました。

江戸時代になって元通りの仮名遣ひがほとんど明らかにされましたが、広く普及はしませんでした。
日本語の発音は現代と同じになりました。仮名遣ひの通りの発音をしてゐたわけではありません。

明治・大正・昭和前期 オーギ あふぎ 学校で元通りの(歴史的)仮名遣ひが教へられるやうになりました。
昭和中期以降 オーギ おうぎ 現代の発音に近い(完全に発音通りではない)仮名遣ひが教へられるやうになりました。

 なほ、元の歴史的仮名遣ひの使用が法律等によって禁止されてゐるわけではありませんので、現状はいはばスタンダードが二つ存在する状態です。

 参考:歴史的仮名遣ひ普及・確立の事情
    定家仮名遣ひ、契沖仮名遣ひ、歴史的仮名遣ひ、現代仮名遣ひ
    江戸時代の仮名遣ひ

※1付録「枕草子」参照
※2付録「現代仮名遣ひ」参照

 

日本語の発音と仮名遣ひの変遷についてまとめてみました。(細部まで時系列順ではない。)

奈良時代 母音数8個とみられる表記が行はれる。あ行とは別にや行の「え」の発音(イェ)がある。は行はファ行様の発音。
清濁合計約88音を多くの漢字(万葉仮名)で表す。
平安 平仮名、片仮名が発生する。
母音数5個の表記になる。は行の発音は上と同様。
「あめつちの詞」
※3ではあ行とや行の「え」の区別があり、48音の仮名。参照
「いろは歌」ではその区別がなくなり、47音の仮名。以後これが規範と考へられるやうになる。
濁音を入れて67の音節が存在し、濁音は表記されないが概ね発音に忠実な表記が行はれる。
参照
イ音便、ウ音便が現れ、「い、う」と表記される。
参照
撥音、促音が行はれる。はじめは表記されなかったり、様々に表記される。
拗音(キャ、シャ、チャ、・・・、クヮなど)が行はれるが表記法が定まらなかった。
語頭に濁音が立つやうになるが、濁音表記はされない。
参照
語頭以外のは行の発音がわ行と同じになる(ハ行転呼・兆しは奈良時代から)。
参照
わ行(「わ」以外)とあ行の発音の混同始まる。「を、お」はウォ。
鎌倉 わ行(「わ」以外)とあ行の発音の区別なくなる。「ゐ、い」の発音はイ、「ゑ、え」はイェ。
「あう、いう、えう、おう」などの長音化始まる。
参照
仮名遣ひの判らない語増える。
藤原定家、平安時代の仮名遣ひを調べた単語集を作成する。
参照
室町 行阿、定家の単語集を増補。(不徹底が残り、また「お、を」の書き分け原理に間違ひがあったが以後長く権威あるものと見なされた。)参照
「じ、ぢ、ず、づ」の発音の混同始まる。
濁音記号に「゙」が使はれるやうになる。
新語ではハ行転呼が起らなくなる。
「あう、かう、さう、・・・」の長音(開音)と「おう、こう、そう、・・・」の長音(合音)の発音の区別なくなる。
江戸 「じ、ぢ、ず、づ」の発音の区別なくなる。
語頭のは行の発音が現代と同じになる。
「ゑ、え」の発音はエ、「を、お」はオとなる。
半濁音に「゚」が使はれるやうになる。
契沖、古代の文献を調べ、混乱以前の元の仮名遣ひを明らかにする。
参照
本居宣長ら、仮名遣ひの本質を明らかにする。宣長、字音仮名遣ひを整理して示す。
「くわ、ぐわ」の発音はカ、ガとなる。
根拠のはっきりしない語については歌壇では定家仮名遣ひ、国学者は契沖仮名遣ひを拠り所とした。
庶民の仮名遣ひは基本部分も混乱してゐた。
(参照)
明治 契沖仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)が官民に広く行はれる。
変体仮名が整理される。
昭和 現代仮名遣ひが制定され、学校教育の五十音図から「ゐ、ゑ」が消える。

 ※3 付録「いろは歌等」


 歴史的仮名遣ひをよりよく知るために、日本語の発音の変化についてもう少し詳しく説明してみませう。

 大昔、ものが風にはためく音を日本人はタと発音し、そのやうな状態のもの(名詞)をタ(旗)と名付けました。
 その後、タはファタと発音が変はり、ついでハタと発音されるやうになり現在に至ってゐます。これらの変化の動機は発音の省力化です。つまり両唇をだんだんと閉ぢずに発音するやうになってきたのです。

は行の発音の変遷

元々の発音 唇をはっきり閉ぢなくなる 唇を全く閉ぢなくなる・現在
パピプペポ※4 ファ フィ フ フェ フォ ハヒフヘホ

 これらの変遷は「は行音自体」の歴史的変遷(人が成長するに従って少しづつ顔つきが変はるやうなものです。)ですが、これとは別に次のやうな現象も起こりました。
 音がファへ変化した後、例へば「皮、川」などのやうに語頭以外にある場合には更に変化してワと発音されるやうになったのです。これも発音の省力化です。

和語の語頭以外のは行音の変遷

元々の発音 唇をはっきり閉ぢなくなる 息を吐かず、わ行に同化する 「ひ、へ」で唇をすぼめない 「は」のみ唇をすぼめる・現在
パピプペポ ファ フィ フ フェ フォ ワ ウィ ウ ウェ ウォ ワ イ ウ イェ ウォ ワイウエオ

 これはは行の仮名が、語頭以外にある時には本来の音(語頭や単独で発音されるときの音)とは異なった音で読まれることを意味します。この現象は「ハ行転呼」と呼ばれてゐます。(人がある決まったときだけ別人のやうな顔つきを見せることに喩へられるでせう。)
 ハ行転呼はすでに奈良時代にその兆候が見え初めてゐますが、顕著となったのは平安半ばを過ぎた辺りからと目されてゐます。

 さてその間の文字の使はれ方を説明しますと、まづ、といふ発音がファに変化する頃に漢字の音を日本語の音に当てて書き表すやうになりました。(あるいはファ)と発音する語には当然そのやうに聞こえる発音の漢字「波、八、方」などが当てられました。その後仮名で「は」などと書かれるやうになりましたが、それをファと読んでゐました。その頃はそれが「は」の本来の発音だったわけです。
 さて、まもなく発音の省力化(ぞんざいな発音)によって「かは」(皮、川)などの語頭以外の「は」をファではなくワと読むやうになっていきます。すると普段文章の読み書きをしない人々は、ワと発音される部分が文字では「は」と書かれるとは思ひよらず、当然のやうに「わ」と書くのだと思ひ、実際その通りに書くやうになっていきます。(ある決まったときだけの顔つきを見て、別人と取り違へてしまったことになります。)
 これは現代でも幼い子供が助詞の「は、へ、を」を「わ、え、お」と書いたり、アメリカ人でもnightをniteと書く人があるのに似てゐます。

語頭のは行とその表記

元々の発音 唇をはっきり閉ぢなくなる 唇を全く閉ぢなくなる・現在
パピプペポ ファ フィ フ フェ フォ ハヒフヘホ

-

「はひふへほ」と書かれる 他の音と紛れることがないので依然「はひふへほ」と書かれる

和語の語頭以外のは行(転呼)とその表記

元々の発音 唇をはっきり閉ぢなくなる 息を吐かず、わ行に同化する 「ひ、へ」で唇をすぼめない 「は」のみ唇をすぼめる・現在
パピプペポ ファ フィ フ フェ フォ ワ ウィ ウ ウェ ウォ ワ イ ウ イェ ウォ ワイウエオ

-

「はひふへほ」と書かれる わ行に誤記されることがある わ行、あ行に誤記されることがある

 そして現代(戦後)に至って、この種の「誤記」をすでに回帰不要なものとしていはば「追認」したのが「現代仮名遣ひ」です。現代仮名遣ひの語頭以外の「わいうえお」の多くが歴史的仮名遣ひでは「はひふへほ」である理由がこれでお分かりでせう。

※4 は行の発音としての「パピプペポ」音は奈良時代以前になくなったが、日本語に「パピプペポ」音自体がなくなったわけではなく、擬音語などには使はれ続けた。その後、漢語の一部や強調語などに使はれ、時代が下って外来語に語頭音として使はれ始めると独立した「ぱ行」として認識されるやうになった。


 歴史的仮名遣ひの「歴史的」とは、「歴史の彼方の」といふ意味でもありませんし、「厳密に歴史的に一貫してゐる」といふことでもありません。一つには「歴史を遡って今に明らかにされた」、またもう一つには「歴史を通じて概ね行はれてきた風の」といふ感じに捉へるのがよいでせう。
 前者の「歴史を遡って今に明らかにされた」仮名遣ひが狭義の歴史的仮名遣ひです。そして後者の「歴史を通じて概ね行はれてきた風の」仮名遣ひが広義の歴史的仮名遣ひです。

 「歴史的仮名遣ひの原理」ページの冒頭で述べたやうな「語の表記の歴史的一貫性」は過去、継続して貫徹されてきたわけではありません。まづ定家仮名遣ひが回復を試み、次いで江戸時代に至って遅ればせながらほぼ正しく回復することに成功したのが契沖仮名遣ひ(後の「狭義の歴史的仮名遣ひ」)であったと言へませう。その意味で歴史的仮名遣ひを「復古仮名遣ひ」と呼ぶのは当を得てゐます。
 しかし日本人は歴史上一貫して仮名を「昔から書かれて来た通りに」書かうとして来ました。実際には間違へて伝へられたり分らないままに適当に書かれたりしましたが、意識は「昔から書かれて来た通りに書くのが当然」でした。
 具体的には「ゐ、ゑ」の使用、「ぢ、づ、を」の一般的使用、ハ行転呼・長音化転呼前提の表記、この三つが現実の発音の変化に関はらず行はれ続けてきたからこそ、(広義の)歴史的仮名遣ひが日本語表記の長い伝統であるといふことができるのです。つまり、昭和に至って、元々どう書かれたかは関係なく「今自分が発音する通りの仮名で書くのが正しい」といふ意識で書き、読むやうになったのは日本人にとって(仮名普及当初を除けば)歴史上初めてのことであったのです。
 仮名の使ひ方をざっくりと二つに分けると、歴史的仮名遣ひ風の書き方・読み方と、現代仮名遣ひによる書き方・読み方といふことになります。そして、過去・現在のすべての日本人はこのうちのどちらを使ふかといふ観点でやはり二つに分けることができ、その後者に含まれるのは昭和中期以降の現代人だけといふわけです。何でもよいのですが例へば「いはず」といふ文字を見ると日本人は千年もの間、誰しも自然に同じ語、同じ意味を読み取ってきたのですが、現代人だけはそれができません。何か仲間外れに遭ってゐるやうな気がします。














元の書き方の時代(平安中期まで)
発音が変化したために元の書き方を少しづつ忘れていった時代 (平安後期から江戸時代まで)

仮名遣ひ辞書の試み (定家仮名遣ひ・行阿仮名遣ひ)

契沖の研究 (元の書き方の再発見)

しっかりした辞書ができ、元の書き方で教育が行はれた時代 (明治から昭和前期まで)

元の書き方よりも現代の発音を主な規範とする時代 (昭和中期以降)

 歴史的仮名遣ひによる学校教育が終了して三分の二世紀経ち、現代仮名遣ひが完全に定着した現在においてもなほ歴史的仮名遣ひを使ってみようとする人々が、若い人を含めて絶えないのは、このやうに日本語の長い歴史の流れから現代人だけがある意味で隔絶されてゐるための疎外感のやうなものによるところが大きいのではないでせうか。現代において歴史的仮名遣ひを使用する最大の意味は、古い感じを出せるからとか文章に深みを与へるためとかにあるのではなく、先人達と同じ言語感覚、意識に添ってみるための強力な手段だから、といふところにあるのだと思はれます。
 国語辞典を引くと、例えば「あう 会う (アフ)」などのやうにわざわざ歴史的仮名遣ひでその語の大元の形が併記されてゐるのに気付きます。これは、もしさうしないとその辞典が単なる現今の表層を集めただけのものに過ぎず、日本語の有機的総体を体現しようとしたものではないことになってしまふからなのです。今、どの国語辞典にも必ず歴史的仮名遣ひが併記されてゐるといふことは、今日私たちが使ってゐる日本語が単なる根無し草ではない、歴史を通じて生きてきたものであることを確かに意味してゐるのです。
 このことに気が付けば、ではその大元の形で書いてみたいといふ気持や、安易に簡略化※5されたものではいやだといふ感情が沸き起こってくるのはごく自然なことでせう。

「今日」の歴史的仮名遣ひが「けふ」だと分かれば「今朝」の「けさ」と関係があることが知れる。
「たわけもの」を「先祖代々の田をバラバラに分けてしまった馬鹿者」と説明する説があるが、歴史的仮名遣ひが「たはけもの」であると分かれば「わける」といふ語とは関係ないことが知れる。
簡略化
※5された「現代仮名遣ひ」ではこのやうな理解の機会は阻却されてしまふ。歴史的仮名遣ひが本籍表示であり、現代仮名遣ひが現住所表示であると言はれる所以である。

 ところで、現在学校教育や公的文書、新聞その他のマスコミにおいてはほぼ完璧に「現代仮名遣ひ」が行はれてゐますから、ほとんどの日本人のふだん読み書きする文章は当然ほぼすべて「現代仮名遣ひ」によってゐます。したがってまたほとんどの日本人は現代において「現代仮名遣ひ」以外の仮名遣ひの存在する余地について意識することはありません。
 一方、「歴史的仮名遣ひ」は過去数十年以前に書かれた近代の文書、小説などを読む機会の他はごく限られたケースにおいてのみ読み書きされてゐるにすぎません。
 このやうに現在の私たちの言語生活における「現代仮名遣ひ」と「歴史的仮名遣ひ」の実際的位置には大きな差異がありますが、しかし、このことは両者の「法的地位」に大きな差があることを意味するものではありません。
 「現代仮名遣ひ」とは、「内閣告示」によって公文書やマスコミなどのために推奨された仮名遣ひの「よりどころ」――ですが、それは口語体現代文にのみ適用するものであり、また、科学、技術、芸術などの専門分野や、個々人の表記にまで及ぼさうとするものではないと規定されてゐます※6。したがって公文書やテレビ、新聞の一般記事などの現代口語文に「歴史的仮名遣ひ」を使用することは内閣告示の精神に反することになりますが、その他の場面において「歴史的仮名遣ひ」を使用することには法的には何ら問題はないことになります。原理的には現在二つの仮名遣ひが並立してゐるといってもよいでせう。
 なほ、このことは私たちの漠然とした常識とはかなりずれてゐるやうに思はれます。いはば一国の公用語正書法といふべきものに関する規定がこのやうに緩いものであったことに気付いて相当不思議な気がする方も多いのではないでせうか。

※5歴史的仮名遣ひの簡略版である現代仮名遣ひ
※6
付録「現代仮名遣ひ」参照



1: ハ行転呼以外の転呼(ここでは歴史的仮名遣ひにおいて綴り字通りの発音と異なるものを一括して「転呼」とする。)

あう、あふ、かう、かふ、・・・

元の発音     開音と言はれた長音 現在
アウ、アフ、カウ、カフ アウ、カウ (アオ、カオ) アォー(アーとオーの中間)、カォー(カーとコーの中間) オー、コー※7

※7動詞「あふ、かふ、・・・」は現代標準語では「アウ、カウ、・・・」である。)

いう、いふ、きう、きふ、・・・

元の発音   現在
イウ、イフ、キウ、キフ イウ、キウ ユー、キュー

 

えう、えふ、けう、けふ、・・・

元の発音     合音・現在
エウ、エフ、ケウ、ケフ エウ、ケウ (エオ、ケオ) ヨー、キョー

 

おう、おふ、こう、こふ、・・・

元の発音   合音と言はれた長音・現在
オウ、オフ、コウ、コフ オウ、コウ オー、コー

 

漢字音の きやう、しやう、・・・

元の発音   開音と言はれた長音 現在
キャウ、シャウ (キャオ、シャオ) キャォー(キャーとキョーの中間)、シャォー(シャーとショーの中間) キョー、ショー

 

漢字音の きよう、しよう、・・・

元の発音 現在
キョウ、ショウ キョー、ショー

 

漢字音の くわ、くわい、くわく、くわつ、くわん、ぐわ、ぐわい、ぐわつ、ぐわん

元の発音(合拗音) 現在
クヮ(・・)、グヮ(・・) カ(・・)、ガ(・・)

 

完全に転呼し切ってゐないと思はれるもの

えい、えひ、けい、けひ、・・・

元の発音     現在
エイ、エフィ、ケイ、ケフィ エイ、エウィ、ケイ、ケウィ エイ、ケイ エイ、エー、ケイ、ケー

 

殊な転呼と見なせるもの

あふひ(葵)、あふ(扇)ぐ、あふむ(仰)く、あふ(煽)る、たふ倒(す) など

元の発音 現在
アウ、タウ アオ、タオ

 

あをみ(青海)、あをめ(青梅)、あかほ(赤穂) など

元の発音 開音と言はれた長音 現在
アオ、カオ アォー(アーとオーの中間)、カォー(カーとコーの中間) オー、コー

 

古語助動詞・助詞中の む

元の発音 唇を開けない 唇、舌は任意・現在
[m:]

([m:]は唇を閉じたままの「ン」)

古語における ま行の前の む、その他若干の む

(元の発音) 往時の発音 現在
種々 [m:] [m:]

 

多くの漢語中の ・・きか、・・きき、・・きく、・・きけ、・・きこ、・・くか、・・くき、・・くく、・・くけ、・・くこ

(元の発音) 「き」「く」を促音に変へる
(・・キ・・、・・ク・・) ・・ッ・・

 

一部の漢語中の ・・んあ、・・んい、・・んう、・・んえ、・・んお など

(元の発音) あ行をな行に変へる
(・・ンア、・・ンイ、・・ンウ、・・ンエ、・・ンオ) ・・ンナ、・・ンニ、・・ンヌ、・・ンネ、・・ンノ

 

その他、綴り字と発音が一致しないもの若干例(省略)(参照

 

●詳しくは転呼のメカニズム参照

用語について

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参考2: 、は、や、わ行音の変遷(概略) (太字は「いろは歌」ができ、仮名のシステムが安定した頃の規範的発音)

  奈良以前 平 安 鎌倉

室町

江戸 現代
語頭 パ  ファ         ハ
語頭以外 パ  ファ  ワ
  
語頭 ピ  フィ          ヒ
語頭以外 ピ  フィ  ウィ イ
ウィ        イ
  
語頭 プ  
語頭以外 プ     ウ
  
(あ行) エ     イェ      エ
語頭 ペ  フェ         ヘ
語頭以外 ペ  フェ  ウェ イェ  
(や行) イェ   
ウェ       イェ  
  
       ウォ   
語頭 ポ  フォ         ホ
語頭以外 ポ  フォ ウォ      オ
ウォ            オ

考3: 仮名文字の系譜

奈良時代以前      平  安  時  代         明治時代    昭和時代     現在

万葉仮名(楷書・行書)─┬ - -
            │
            ├草仮名┬ - -
            │   │
            │   └平仮名(多くの変体あり)───標準体制定──現代仮名遣ひ制定─
            │                   │      │
            │                   └変体仮名× └「ゐ・ゑ」×
            │
            │
            └片仮名┬───(変体少なし)─────標準体制定──現代仮名遣ひ制定─
                │                      │
                └多くの変体 - - ×             └「ヰ・ヱ」×

付録「土佐日記」参照


参考4: 国語審議会仮名遣い委員会試案(昭和6136日) 改定現代仮名遣い()前文〔仮名遣いについての認識〕 一 仮名遣いの沿革

 国語を仮名によって表記するということは、漢字の表音的使用、すなわち漢字を万葉仮名として用いたところから始まったが、初めは、音韻に従って、自由に漢字を用いたのであって、それを使い分けるきまりが立てられていたとは認めがたい。九世紀に至って、草体及び略体の仮名が行われるようになり、やがて一一世紀ごろ、いろは歌という形での仮名表が成立したが、その後の音韻の変化によって、「いろは」四七字の中に同音の仮名を生じ、一二世紀末にはその使い分けが問題になり、きまりを立てる考え方が出てきた。藤原定家を中心として定められていった使い分けのきまりが、いわゆる定家仮名遣いである。定家仮名遣いは、ときに、その原理について疑いを持たれることもあったが、後世長く歌道の世界を支配した。次に、一七〇〇年ごろになって、契沖が、万葉仮名の文献に定家仮名遣いとは異なる仮名の使い分けがあることを明らかにし、それ以後、古代における先例が国学者を中心とする文筆家の表記のよりどころとなった。一方、字音については、その後、中国の韻書に基づいて仮名表記を定める研究が進んだ。この字音仮名遣いと契沖以来の仮名遣いとを合わせて、今日ふつうに歴史的仮名遣いと呼んでいる。
 明治の新政府が成立すると、公用文や教科書には歴史的仮名遣いが主として用いられるようになり、それ以来約八〇年間は、歴史的仮名遣いが社会一般の基準であった。しかし、その間には、表音主義による仮名遣いの改定がしばしば論議され、また、字音については小学校教科書に表音式の仮名遣いが約一〇年間実施されたことがある。そして、昭和二一年それまでの歴史的仮名遣いに代わる「現代かなづかい」が「大体、現代語音にもとづいて、現代語をかなで書きあらわす場合の準則」として制定され、これが、その後四〇年近く、官庁、報道関係、教育その他の各方面に広く用いられて今日に至っている。


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