補講203教室

特別授業:促音の「つ」、撥音の「ん」、拗音の「や、ゆ、よ」の文字について 併せて濁音の表記について

 促音にはいくつかの発生過程がありますが、そのうち「つ」の仮名を書いて詰まる音で発音するものが代表的なものと見なされ、他の促音一般を表す符号としてもこの「つ」が当てられるやうになりました。歴史的仮名遣ひでは普通の「つ」も促音を表す「つ」も同じ大きさで書かれるのが一般的ですのでつい同一視してしまひがちですが、両者は区別して捉へる必要があります。
 古文など歴史的仮名遣ひの文章に「つ」の文字があつた場合はそれが「ツ」と発音されるものかあるいは「ッ」(促音)と発音されるものかを判断しなければなりません。現代仮名遣ひに変へる場合は前者はそのまま、後者は「っ」とします。

 「ん」の由来は、「む」の仮名が一部撥ねる音で発音されるやうになり、しばらくはこれを「ム」と読んだり「ン」と読んだりしてゐるうちに「む」に相当する仮名のうちの「ん」土佐日記参照)をもつぱら撥音専用に当てるやうになつたものです。
 したがつて古文中の「む」には現代仮名遣ひに変へる場合に一部「ん」とするべきものがあります。古語における「む」と「ん」について参照)

 拗音も古い日本語には存在しませんでした。漢字が渡来したとき、その音を「きゆう」「きよう」「きやう」などのやうに書いて表したのが拗音表記の元です。拗音の「や、ゆ、よ」もふつうの「や、ゆ、よ」も同じ大きさで書かれることが多いのですが両者は別の発音を表してゐるのですから区別して捉へるべきものです。現代仮名遣ひに変へるときは拗音であれば小書きにします。
 合拗音と呼ばれる「くわ」「ぐわ」も同じですが、これらは現代では転呼してゐますので現代仮名遣ひに変へるときは「か」「が」とします。

 なほ、現代においては促音、拗音であることを明示する必要がある場合には歴史的仮名遣ひにあつても小書きが用ゐられます。

 ついでながら、ここで濁音の表記について説明しておきます。
 古来の日本語においては清音に対立する濁音といふ概念は極めて薄弱なものでした。元々濁音は清音が語中にある時に無意識的に変化したもので、清音とは違ふものだといふ意識は生まれ難かつたのです。現代で言へば普通の「ガ」にたいする「鼻濁音のガ」のやうなものであつたでせう。したがつてふつうには両者を書き分けることも必要なかつたのでした。
 その後漢語の輸入に際して清濁の区別が意識されやうになり、また国語中にも清音と濁音の対立が目立つやうになると仮名の濁音表記も工夫されていきました。現代と同じ濁点「゛」は室町時代に生まれたと言はれてゐます。しかし、表記の見た目のがさつさを避ける意識もあつて、特別に発音を明示する必要があるとき以外は濁点を表記しない習慣は根強く続きました。


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