奥の細道全句集

一行目は西村本による。(曽)は曽良作。(低)は低耳作。
二行目は歴史的仮名遣ひによる仮名表記。
大原則によるもの。はそれを超えるもの。は注意すべき字音。
便宜上分かち書きをした。
三行目(右寄せ)は参考。

 

草の戸も住替る代ぞひなの家

 くさのとも すみかるよぞ ひなのい

 

行春や鳥啼魚の目は泪

 ゆくはるや とりなきうの めはなみだ

 

あなたふと青葉若葉の日の光

 あなたふと あばわかばの ひのひかり

たふと(尊)し

剃捨て黒髪山に衣更 (曽)

 そりすてて くろかみやまに ころもが

 

しばらくは瀧にこもるや夏の初

 しばらくは たきにこもるや げのはじめ

 

かさねとは八重撫子の名成べし (曽)

 かさねとは やなでしこの ななるべし

 

夏山に足駄を拝む首途哉

 なつやまに あしだをがむ かどでかな

 

木啄も庵はやぶらず夏木立

 きつつきも いはやぶら なつこだち

 

野を横に馬牽むけよほとゝぎす

 のをよこに うまひきむけよ ほととぎす

 

田一枚植て立去る柳かな

 たいちまい うてたちさる やなぎかな

 

卯の花をかざしに関の晴着かな (曽)

 うのはなを かざしにせきの はれぎかな

 

風流の初やおくの田植うた

 ふうりうの はじめやおくの たううた

奥の

世の人の見付ぬ花や軒の栗

 よのひとの みつけぬはなや のきのくり

 

早苗とる手もとや昔しのぶ摺

 さなとる てもとやむかし しのぶ

す(摺)る

笈も太刀も五月にかざれ帋幟

 おもたちも さつきにかざれ かみのぼり

 

笠島はいづこさ月のぬかり道

 かさじまは いこさつきの ぬかりみち

 

桜より松は二木を三月越シ

 さくらより まつはふたきを みつきごし

 

あやめ草足に結ん草鞋の緒

 あやめぐさ あしにむすばん わら

 

松島や鶴に身をかれほとゝぎす (曽)

 まつしまや つるにみをかれ ほととぎす

 

夏草や兵どもが夢の跡

 なつくさや つものどもが ゆめのあと

 

卯の花に兼房みゆる白毛かな (曽)

 うのはなに かねふさみゆる しらがかな

 

五月雨の降のこしてや光堂

 さみだれの ふりのこしてや ひかりだう

 

蚤虱馬の尿する枕もと

 のみしらみ うまのばりする まくらもと

 

涼しさを我宿にしてねまる也

 すしさを わがやどにして ねまるなり

 

這出よかひやが下のひきの声

 はいでよ かやがしたの ひきのこ

飼屋

まゆはきを俤にして紅粉の花

 まゆはきを おもかげにして べにのはな

眉掃き

蚕飼する人は古代のすがた哉 (曽)

 こがする ひとはこだいの すがたかな

 

閑さや岩にしみ入蝉の声

 しかさや いにしみいる せみのこ

 

五月雨をあつめて早し最上川

 さみだれを あつめてはやし もがみが

 

有難や雪をかほらす南谷

 ありがたや ゆきをからす みなみだに

かを(香)る

涼しさやほの三か月の羽黒山

 すしさや ほのみかづきの はぐろさん

 

雲の峰幾つ崩て月の山

 くものみね いくつくれて つきのやま

 

語られぬ湯殿にぬらす袂かな

 かたられぬ ゆどのにぬらす たもとかな

 

湯殿山銭ふむ道の泪かな (曽)

 ゆどのさん ぜにふむみちの なみだかな

 

あつみ山や吹浦かけて夕すゞみ

 あつみやまや ふくうらかけて ゆ

 

暑き日を海にいれたり最上川

 あつきひを うみにいれたり もがみが

 

象潟や雨に西施がねぶの花

 きさがたや あめにせいしが ねぶのはな

 

汐越や鶴はぎぬれて海涼し

 しこしや つるはぎぬれて うみす

鶴脛

象潟や料理何くふ神祭 (曽)

 きさがたや れうりなにく かみまつり

 

蜑の家や戸板を敷て夕涼 (低)

 あまのやや といたをしきて ゆ

 

波こえぬ契ありてやみさごの巣 (曽)

 なみこぬ ちぎりありてや みさごのす

越ゆ 越える

文月や六日も常の夜には似ず

 ふみづきや むかもつねの よにはに

 

荒海や佐渡によこたふ天河

 あらうみや さどによこたふ あまのが

横たはる 横たへる

一家に遊女もねたり萩と月

 ひとつやに いうぢよもねたり はぎとつき

 

わせの香や分入右は有磯海

 わせのかや わけいるみぎは ありそうみ

 

塚も動け我泣声は秋の風

 つかもうごけ わがなくこは あきのかぜ

 

秋涼し手毎にむけや瓜茄子

 あきすし てごとにむけや うりなすび

 

あかあかと日は難面もあきの風

 あかあかと ひはつれなくも あきのかぜ

 

しほらしき名や小松吹萩すゝき

 しらしき なやこまつふく はぎすすき

しをらし(「しほらし」も)

むざんやな甲の下のきりぎりす

 むざんやな かぶとのしたの きりぎりす

 

石山の石より白し秋の風

 いしやまの いしよりしろし あきのかぜ

 

山中や菊はたおらぬ湯の匂

 やまなかや きくはたらぬ ゆのにほひ

手折る

行行てたふれ伏とも萩の原 (曽)

 ゆきゆきて たれふすとも はぎのはら

たふ(倒)れる

今日よりや書付消さん笠の露

 けふよりや かきつけけさん かさのつゆ

 

終宵秋風聞やうらの山

 よもすがら あきかぜきくや うらのやま

 

庭掃て出ばや寺に散柳

 にはきて いでばやてらに ちるやなぎ

 

物書て扇引さく余波哉

 ものかきて あふぎひきさく なごりかな

 

月清し遊行のもてる砂の上

 つききよし ゆぎやうのもてる すなのう

 

名月や北国日和定なき

 めいげつや ほくこくびより さだめなき

ほくこく(読み仮名としては「ほつこく」も)

寂しさや須磨にかちたる浜の秋

 さびしさや すまにかちたる はまのあき

 

波の間や小貝にまじる萩の塵

 なみのまや こがにまじる はぎのちり

 

蛤のふたみにわかれ行秋ぞ

 はまぐりの ふたみにわかれ ゆくあきぞ

 

参考:「奥の細道」の仮名遣ひ


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