逐語解説(手紙文)

仮名で表記された部分において歴史的仮名遣いが現代仮名遣いと異なるものについて解説を施しました。
現代仮名遣いにおける語頭以外の「わ、い、う、え、お」とすべての「じ、ず」についても触れました。

1 拝啓 新緑の美し季節になりました。 「美しい」の「い」は形容詞末の「し、き」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
2 間ごぶさたしてりますが、 「長い」は1参照。
「を(居)ります」は「ゐ(居)る」との関連でわ行であると覚える。
3 先生にはお健やかにお過ごしのことと存ます。 「存じ」は 存+動詞「す」→存ず→存じ とザ行であることを理解する。また「じ」が多く「じ」である原則に従っている。
4 おかげさまでわたくしも元気に通学してりますので、どぞご安心くださ 「をります」は2参照。
「どうぞ」の「う」は「ど」が延びた音を表すもので「ふ」とは関係がない。したがって「う」と書く。
「ください」の「い」は「れ」または「り」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
5 もので、こちらの大学院に入つてからも一か月半もたちました。 「早い」は1参照。
「もう」の「う」は「も」が延びた音を表すもので「ふ」とは関係がない。したがって「う」と書く。
6 入学当初は、キャンパスに学生があふれ、四方からスピカーの声が押し寄せる活動的な学園風景にほんたうに驚きました。 「スピーカー」は外来語。仮名遣いは問題にしない。
「ほんたう」は「本当」の字音。
7 けれども、今ではすつかり慣れて、あたりがひつそりした時など、かつて落ち着かながするほどです。 「かへつて」の「へ」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
「落ち着かない」は1参照。
「感じ」は3参照。
8 授業は朝の九時から夜の九時まで、一日に七時限ありますが、今年のわたくしの科目は二限から五限までの間にさまりました。 「をさまり」は「をさ(長)」との関連で覚える。
9 あき時間にはた図書館で調べものをします。友達とおしやべりして時間をつぶすこともあります。 「たいてい」は「大抵」の字音。イ音で終る二拍の漢字には「- ヒ」や「- ヰ」となるものはなく、すべて「- イ」であることを覚えておく。
10 中学時代から、ひまがあれば飽きにピアノやキーボードをひりましたが、 「飽きずに」の打消しの「ず」は古語動詞「す」との関連でザ行であると理解する。
「キーボード」は外来語。仮名遣いは問題にしない。
「ひいて」の「い」は「き」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
「をりました」は2参照。
11 大学の三年に編入してから、音楽好きの仲間を集めてバンドを組み、学園祭に参加したりしてまりました。 「まゐ(参)りました」は「目居(ゐ)る」との関連で覚える。
12 今でも授業の終つたあと、そのサークル活動に顔を出すこともあります。 「終はつた」の「は」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
13 高校時代にシャーロック・ホーに夢中になり、自分でも下手な作品を書てみたこともありました。 「ホームズ」は外来語。仮名遣いは問題にしない。
「書いて」は10参照。
14 今でも夜下宿で推理小説を読むのが何よりの楽しみです。でも、このところ忙しくて、娯楽の本を読んだり好きなクラシックを聞たりする趣味の時間がなかなか思ふやうにとれません。 「聞いたり」は10参照。
「思ふ」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。また「う」で終わる動詞はなく、すべて「ふ」であると理解する。
「やう」は「様」の字音。
15 語学の予習や復習をしたり、受講してる科目の参考文献を読んだりするのにかなりの時間がとられますし、来週は発表があたつてて、この週末はその準備にかからなくてはなりません。それに、週に二回、家庭教師のアルバトで、受験生の勉強を見てあげてますので、うちでのんびり過ごすのが最近の夢です。 「してゐる」は「を(居)る」との関連でわ行であると覚える。
「あたつてゐて」、「あげてゐます」も同上。
「アルバイト」は外来語。仮名遣いは問題にしない。
16 でも、あと二か月もすれば夏休みに入りますから、すこしはゆつくりできるかと思ます。 「思ひます」は「思ふ」の活用であるからは行。語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
17 将来は外国で日本語を教と考りますが、 「教へたい」の「へ」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
「教へたい」の「い」は「し、き」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
「考へて」の「へ」は「教へたい」と同様。
「をりますが」は2参照。
18 そのためには、ま、自国の歴史と伝統をよく知つておかなければなりません。 「まづ」は「ず」が多く「づ」である原則に従う。
19 先生もご存知のやうに、わたくしは日本人でありながら外国生活が長く、その点で常識が不足してります。 「やうに」は14参照。
「をります」は2参照。
20 そこで、休暇を利用して京都や奈良の方面に足をのばし、古い文化にどつぷりと浸つて、大に見聞を広めてみようといつもりでります。 「大いに」の「い」は「き」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
「みよう」は「み+よう」。(「よう」は「せむ→せう」の転呼発音「ショー」などにより生じた助動詞なので「やう」でも「よふ」でもない。)
「いふ」は14の「思ふ」参照。
「をります」は2参照。
21 その折は、旅先での印象やら感想やらを率直に記して、またお便りを差し上げたと思ます。 「差し上げたい」は1参照。
「思ひます」は16参照。
22 てみますと、わたくしが日本語と日本文化を専攻するやうになつたのは、先生の比較文化に関する英語の講義を聴講したのが、そのきつかけであつたやうな気がいたします。 「考へて」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
「やうに」、「やうな」は14参照。
23 いつか先生のお宅におやまして、奥様のお手製のアップル・パなどごちそになりながら、 「おじやま」は「邪魔」の字音より。
「パイ」は外来語。仮名遣いは問題にしない。
「ごちそう」は「馳走」の字音より。
24 国による考方の違につていろいろお話をうかがつた時のことをなつかしく思出してります。心のこもつたご指導に深く感謝いたします。 「考へ方」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
「違ひ」も同上。「違ふ」の活用であるからは行。また「う」で終わる動詞はなく、すべて「ふ」であることを理解しておく。
「ついて」の「い」は「き」がぞんざいに「イ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ひ」や「ゐ」とは関係がない。したがって「い」と書く。
「思ひ出して」は16参照。
「をります」は2参照。
25 こちらは間もなく梅雨に入ります。御地も朝晩はまだ寒日もあらうかと存ます。 「寒い」は1参照。
「あらう」は元「あら+む」。「う」は「む」がぞんざいに「ウ」と発音されてできた新しい語形(音便)なので「ふ」とは関係がない。したがって「う」と書く。
「存じます」は3参照。
26 くれぐれもお体をお大切に。末筆ながら、奥様はめご家族の皆さんによろしくお伝くださませ。 敬具 「はじめ」は「じ」が多く「じ」である原則に従う。
「お伝へ」は語頭以外の「わ、い、う、え、お」が多くは元々ハ行音であった原則に従う。
「ください」は4参照。

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