九 月

 

*  *

 私は一瞬、実験が何かとんでもない事を引き起こしたのではないかと思いました。それほど不気味な空の色だったのです。
 しかしもっと私を驚かせたのは、まるであらぬ方向から聞こえてきたあの最初の声でした。それは決してみんなが発したものではありませんでした。その瞬間、何かとてつもなく大きな恐ろしい物がこの世界の上に覆い被さっているのが見えた気がして、私は心底恐怖に震えたのです。
 みんなと一緒に我を忘れて思い切り遊べた興奮と訳の判らない恐ろしい物に遭った恐怖とで、私は家に帰ってもしばらく震えが止まらなかったように思います。
 私はそれまでいかにも迷信くさいみんなの言動を一定の距離をおいて見て来たのでしたが、そういう私に対してみんなが、いや何かこの世界が一気に正体を現して逆襲して来たような気と、もう一つ、自分は本当のこの世界の子供になってしまったのではないのかという気と、私にはこの二つがしていたのですが、本当はどっちがどっちだか判らない状態だったのです。
 
は本気で風の又三郎に興味を持ちました。父はこの時期遠く日本海を通る台風が巨大な力で南から吸い寄せた大気をこの地方の空気もろとも遥か北の海床の果てまで吹きさらしていく様子など様々な風の話と、人々が大昔から圧倒的な風の力に寄せてきた思いについて話してくれました。私は次の日学校で自分から風の話をしました。みんなは熱心に聞きました。私は風の歌も歌ったのです。

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