三人のせりふ


 主な登場人物三人を、そのせりふによって振り返ってみましょう。ついでにその心理(もちろん心理はせりふだけに表されているわけではありませんが)も探ってみることにします。少し大げさに表現してみました。
 方言については鑑賞の手引き(1)分かりにくいせりふの方言などの訳を参照してください。

1日

嘉助

「ちょうはあかぐり ちょうはあかぐり。」(今日から楽しい学校だ。悩みはなーんにもないし・・。)
「なして泣いでら、うなかもたのが。」(早速一年生の前で偉そうにできるぞ。晴れがましいなあ。)
「叱らえでもおら知らなぃよ。」(一郎がいたらもうなんにも怖いことはないからな。)
「あゝ 三年生さ入るのだ。」(思いつきでも何でも言っちゃえ。)
「あゝわかった。あいつは風の又三郎だぞ。」(どうだ。オラだから分かったんだぞ。)
「わあうなだ喧嘩したんだがら又三郎居なぐなったな。」(オラが見つけたのに。)
「先生。」(みんな、さっきのこと思い出してくれよ。)
「高田さん名は何て云うべな。」(又三郎のこと聞くからな。)
「わあ、うまい、そりや、やっぱり又三郎だな。」(やった!オラの言ったとおりだ。どうだみんな。)
「そだら又三郎も掘るべが。」(その話ならオラも言わなきゃ。)
「又三郎だ又三郎だ。」(ぶち壊しにするな。ばかやろう。)
「わぁい。やんたじゃ。今日五年生ど六年生だな。」(オラは今日はついてるんだぞ。)

一郎

「何した。」
「誰だ、時間にならなぃに教室へはいってるのは。」
(ちょっと不気味だがここは踏ん張って・・。)
「早ぐ出はって来(コ) 出はって来。」
「わあい、喧嘩するなったら、先生ぁちゃんと職員室に来てらぞ。」
「先生お早うございます。」
「礼。」
「叱(シ)っ、悦治、やがましったら。嘉助ぇ、喜っこぅ。わあい。」
(早くあの子のことを聞きたくないのか。)
「先生、あの人は高田さんのお父さんすか。」(お父さんのことを聞くついでのようにしてなんとか詳しく聞き出してみよう。)
「何の用で来たべ。」
「どごらあだりだべな。」
「モリブデン何にするべな。」
「嘉助、うなも残ってらば掃除してすけろ。」
(嘉助ともちょっと話してみたいが・・。)

2日

嘉助

「うん。」(今日来ないということはないだろうな。)
「そうだ。やっぱりあいづ又三郎だぞ。あいつ何かするときっと風吹いてくるぞ。」(半分あやしかったけど、これは間違いないぞ。)

一郎

「昨日のやつまだ来てないな。」[名前で呼ばずにちょっと距離を置いているつもり]
「来たぞ。」
「うん。」
(いや、そんなことはないが、やはり正体のはっきりしないやつだな。)
「気を付けい。」(ますます不思議なやつだ。もっと観察しなければ。)

三郎

「うん。」(一郎さんも見ている。ケチだと思われたくないし、まだ自分の地を顕わす勇気がない。どうしてもここはいやだとは言えない。)

4日

嘉助

「ホッホウ。」(あんまり格好いいとこ見せようとし過ぎたぞ。)
「おらこったなもの外せだだど。」(三郎、見ろよ。オラこんなに気は大きいし逞しいんだ。)
「そいづ面白な。」(積極的に、積極的に。)
「うまぁい。」[つい口癖]
(ふん、なあに馬何処かで、こわくなってのっこり立ってるさ。)(よし、挽回だ。なんにも大変なことはなかったんだ。なんでもない顔をしてまた又三郎に顔を合わせられる。)
(あゝ、こいつは悪くなって来た。みんな悪いことはこれから集(タカ)ってやって来るのだ。)
(あゝ、悪くなった、悪くなった。)
「一郎、一郎、こっちさ来う。」
(もう助けてくれ。恥も外聞もどうでもいい。)
「間違って原を向う側へ下りれば、又三郎もおれも、もう死ぬばかりだ。」
「一郎、一郎、居るが。一郎。」
「おゝい。居る、居る。一郎。おゝい。」
(心底助かった。)
「あいづやっぱり風の神だぞ。風の神の子っ子だぞ。あそごさ二人して巣食ってるんだぞ。」(本当にそうなんだぞ。だけど何がなんだか分からない。)

一郎

「何のようだど。」(分からないことを言われて6年生として黙っているのは・・)
「うな神さんの帯見だごとあるが。」(何と奇矯な。)
「もう少し行ぐづどみんなして草刈ってるぞ。それがら馬の居るどごもあるぞ。」(これからは僕の領分だ。僕のペースでいける。)
「兄。居るが。兄。来たぞ。」(ほーら、僕に任しとけ。)
「うん。土手の中に居るがら。」
「この馬みんな千円以上するづもな。来年がらみんな競馬さも出はるのだ
じゃい。」(すっかり僕の余裕だな。)
「あ、馬出はる、馬出はる。押えろ、押えろ。」(あ、図にのりすぎた!)
「どう、どう、どうどう。」
「早ぐ来て押えろ。早ぐ来て。」
「そろそろど押えろよ。そろそろど。」
「兄な、馬ぁ逃げる、馬ぁ逃げる。兄な。馬逃げる。」
「おゝい、嘉助。居るが。嘉助。」
「又三郎びっくりしたべぁ。」
(又三郎は悪くない、僕の責任だ。かわいそうだったな。やはりちゃんと面倒みてやらなけりゃ。)
「そだなぃよ。」(考えすぎだよ。だけど二人だけの時に何かあったんだろうか。)

三郎

「おうい。みんな来たかい。」[もう4日目で堂々としている]
「ずいぶん待ったぞ。それに今日は雨が降るかもしれないそうだよ。」(遠慮しなくてもいいだろう。少し優位に立っているかな。)
「ぼくのうちはこゝからすぐなんだ。ちょうどあの谷の上あたりなんだ。みんなで帰りに寄ろうねえ。」(自分が中心になりたいし、できるだけサービスもしなきゃ。)
「春日明神さんの帯のようだな。」[ついこんなことを言うのは来歴のなせる性癖?]
「春日明神さんの帯のようだ。」
「ぼく北海道で見たよ。」
(確かお父さんがそんなこと言ってたな。よく分からないけどこう言っておこう。)
「こゝには熊居ないから馬をはなして置いてもいゝなあ。」(みんな知らないだろう。聞きたかったら話してあげるからね。)
「怖くなんかないやい。」
「そんなら、みんなで競馬やるか。」
(よし、いいこと考えついたぞ。)
「ぼく競馬何べんも見たぞ。けれどもこの馬みんな鞍がないから乗れないや。みんなで一疋づつ馬を追って、はじめに向うの、そら、あの巨きな樹のところに着いたものを一等にしよう。」[こどもらしい軽い虚言まじり?]
「大丈夫だよ。競馬に出る馬なんか練習をしていないといけないんだい。」(ここで引っ込むと元の木阿弥。)
「そんならぼくはこの馬でもいゝや。」(馬のことなんか分からないし、譲歩の振りに如かず。)
 おう(平気だよ、大したことないよ。心配するな・・・。とはいうものの・・・) 

6日

嘉助

「行ぐ行ぐ。又三郎も行がなぃが。」(きっと一昨日のことは夢だったんだ。この面白いやつともう一度ちゃんと付き合ってみなきゃ。)
「あの家、一年生の小助の家だじゃい。」(知らない家じゃなし、何とか許してもらえるかも・・)

一郎

「わあ、又三郎、たばごの葉とるづど専売局にうんと叱られるぞ。わあ、又三郎何(ナ)してとった。」(やはり又三郎は計り知れないところがある。抜けているのか図太いのか、全然油断できない。)
「早くあべ。」(これ以上もめていてもしょうがない。ここはさっさと切り上げよう。)
「さあ、この位持って戻らなぃが。」(雰囲気もあまり乗らないし・・)
「さあそれでぁ行ぐべな。」(まずまず収まって気分は晴れた。)

三郎

「行くよ。ぼくは北海道でもとったぞ。ぼくのお母さんは樽へ二っつ漬けたよ。」(一昨日のことなんか平気だよ、というところを見せなきゃ。)
「何だい、此の葉は。」(ぼくはこんなに主体的に自由に振舞うんだ。ほら見て。)
「おら知らないでとったんだい。」(分かったよ。だからこの土地の言葉で反省するよ。)
「そんなら、おいら此処へ置いてくからいゝや。」(降参だ。これでなんとか見逃してくれ。)
「おいら栗の方をとるんだい。」(みんなの世話にはならないよ。)
「風が吹いたんだい。」(ほら、みんなぼくは風だって言ってたじゃないか)
「風が吹いたんだい。」
「やあ耕助君、失敬したねえ。」
(この辺で収めようかな。)
「失敬したよ。だってあんまりきみもぼくへ意地悪をするもんだから。」
「風が世界中に無くってもいゝってどう云うんだい。いゝと箇條をたてゝいってごらん。そら。」
(みんながそんなに風の又三郎、風の又三郎と言うのならそれを引き受けようじゃないか。)
「それからそれから。」「それから、それからどうだい。」「それから、それから、あとはどうだい。」「それからあとは? それからあとは? どうだい。」「それから? それからあとは? あとはどうだい。」「それからそれから。」「それから? それから? それから?」「アアハハハ屋根は家のうちだい。どうだいまだあるかい。それから、それから?」「アハハハハハ、ラムプはあかしのうちだい。けれどそれだけかい。え、おいそれから? それからそれから。」「それから? それから? えゝ? それから?」「そらごらん、とうとう風車などを云っちゃったろう。風車なら風を悪く思っちゃいないんだよ。勿論時々こわすこともあるけれども、廻してやる時の方がずっと多いんだ。風車ならちっとも風を悪く思っていないんだ。それに第一お前のさっきからの数えようはあんまりおかしいや。うう、うう、ばかりでいたんだろう。おしまいにとうとう風車なんか数えちゃった。あゝおかしい。」(アハハ、はっきりしたよ。完全にぼくが優位に立てたからもういさかいは解消したことにしてもいいよ。)
「耕助君、いたずらをして済まなかったよ。」[はっきりと謝る率直さ]

7日

嘉助

「又三郎、水泳びに行がなぃが。小さいやづど今ころみんな行ってるぞ。」(昨日のこともあるしオラがさそってやらなけりゃ。)
「発破かけだら、雑魚(ザコ)撒かせ。」(やったやった。みんなで又三郎も混ぜて遊びはいつものように大成功だ。)
「又三郎、うなのとった煙草の葉めっけだんだぞ。うな、連れでぐさ来たぞ。」(やっぱり来た。やっぱり又三郎がことの中心だ。)

一郎

「わあ又三郎、何(ナ)してわらった。」[ どうしても気になるのは又三郎のちょっとした言動]
「又三郎何してわらった?」(ちゃんと話を通じさせたい。)
「うわあい。」(こん畜生、ドギマギ・・・。いや、不覚だった。やはり又三郎は俺達と違う。)
「石取りさなぃが。」(いつものペースに戻そう。)
 おれそれでぁあの木の上がら落すがらな。
「さあ落すぞ、一二三。」(又三郎も見てろよ。)
「おゝ、発破だぞ。知らないふりしてろ。石とりやめで早ぐみんな下流(シモ)ささがれ。」(さあ僕の出番だ、独壇場だ。)
「さあ、流れて来るぞ。みんなとれ。」
「だまってろ、だまってろ。」
「みんな又三郎のごと囲んでろ、囲んでろ。」(当然守ってやるぞ。まかしとけ。)
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから一二三で叫ぶこだ。いいか。あんまり川を濁すなよ、いつでも先生(センセ)云うでなぃか。一、二ぃ、三。」

三郎

「この川冷たいなあ。」(しまった。ここは遠慮するべきだった。余計なこと言わずにごまかしちゃえ。)
「おまえたちの泳ぎ方はおかしいや。なぜ足をだぶだぶ鳴らすんだい。」(じゃあ言っちゃうよ。どんくさいなあ。)
「魚返すよ。」(ぼくはずるいことが嫌いなんです。立派でしょ。みんなもほら見て。ぼくは大人なんか怖くないんだからね。)
「何だい。こわくないや。」(怖い。それにみんなに無様なところを見られることになったらどうしよう。)
「何だい、ぼくを連れにきたんじゃないや。」(怖かった。だけどみんなは今どう思ってるのだろう。憐れんでるのだろうか。)

8日

嘉助

「又三郎、来(コ)。」[ついいつものお調子者に]
「おいらもうやめた。こんな鬼っこもうしない。」(手を出し過ぎたんだろうか。又三郎の加減というものがまだよく分からない。)

三郎

「吉郎君、きみは上流(カミ)から追って来るんだよ。いゝか。」(よし、ちょっと考えてそのうちにカッコのいいところを見せてやろう。)
「ようし、見ていろよ。」[無我夢中]
「いま叫んだのはおまえらだちかい。」(一体どうしたんだろう。まさかみんながとてつもないことをやらかして見せたのだろうか。)
「何だい。」(ぼくはどうしてしまったんだろう。ぼくはだまされているのだろうか。)

12日

嘉助

「いまごはんだべて行ぐがら。」(早く学校へ行くのは何か不安だ。もう急いでも追いつかないような・・。)
「先生お早うございます。」
「先生、又三郎今日来るのすか。」
(来るはずがないんだ。)
「先生飛んで行ったのすか。」(もうこう訊いてもいいだろう。)
「そうだなぃな。やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」

一郎

「うん。又三郎は飛んでったがも知れなぃもや。」(お母さんに言ってみてもしょうがないけど、なぜか口に出して言ってみたい。)
「うん。又三郎って云うやづよ。」(お母さん、もうあまり聞かないで。)
「嘉助、二人して水掃ぐべな。」(考えていたってしょうがないよ。)
「先生お早うございます。」(先生、何か言うことあるんじゃないんですか。)
「何して会社で呼ばったべす。」(本当にそうなんですか。違うんじゃないんですか。)


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