機能性構音障害指導の重要項目

(1)

機能性構音障害指導の新しい考え方

日本音調教育研究会

 当会では、従来多くの純粋な「機能性構音障害」が本来別種の障害用であるはずの機能検査による、瑣末で本質的でない結果に引きずられ、別種の障害向けと同様の迂遠な基礎機能訓練や無効な反復訓練などによって不当に長期の指導に拘束されて来ているという分析に立ち、成人の純粋な「機能性構音障害」指導についての新しい考え方を提唱しています。
 「機能性構音障害」はその研究の歴史的経緯から、当初もっと重篤な運動性・器質性・難聴性などの構音障害の周辺に位置する「障害」としてとらえられがちで、指導法もそれら別種の障害のものからの準用で済まされてきたきらいがあります。従って、「機能性構音障害」の指導の初めには基礎的訓練と称する、各器官の偏位の矯正、舌の盛り上がりの解消・安定化、息の通り道の筋の確保、舌の運動、時にはアクロバチックな舌の形作りといった「苦しい」メニューがつきものとなってしまっています。(児童対象の場合には更に耳の訓練と総称されるものが過度に加えられる傾向があります。)
 自転車に乗れない人には身体バランス訓練などを課すのではなく、すぐに自転車に乗せること。正しい箸の持ち方が出来ない子には指の機能訓練などは必要なく、すぐに正しい持ち方を教えること・・・。つまり多くの日常運動の練習には基礎訓練は意味がなく、そしてもし何らかの機能に弱点があったとしてもそれらは正しい動作の練習の中でこそ当然に強化・改善されていく・・・というごく当たり前の考え方が「機能性構音障害」の指導には生かされて来ませんでした。
 また、東京発音教室のアナウンス部門では過去多くのアナウンサー志望者及び現役アナウンサーの口の中を見て来ましたが、舌の長さ、幅、厚み、舌尖の形状、中心線のくぼみの有無、舌を丸める(凹形にする)能力などは正しい発音にとって全く無関係であることが判明しており、同時に微妙な訛りや発音の違和感の矯正には具体的で精密な構音運動の修正が唯一不可欠の方法であることも確認しています。
 これらのことから発音矯正部門でも、関連病変・顕著な運動性障害のない、いわゆる「機能性構音障害」に対しては一貫して新しい考え方、つまり諸器官の安定化や機能強化などの準備的訓練は一切行わず、直接構音運動そのものを物理的に制御してやり、短期に固定化・般化を進めるという方法で指導を行って来ており、これまで極めて良好な成績を収めて来ました。長年医療、福祉、スピーチクリニック、話し方教室などを渡り歩いてきて成果がなかったという成人にも「すぐ治ります。」、低学年の児童には「すぐではありませんが必ず治ります。」と言えるのが現在到達している指導法のレベルです。「機能性構音障害」は「病気」でも「障害」でもなく、「誤った学習」、あるいはせいぜい「極めて広い意味のディスアビリティーの一種」と見なければならないという認識の正当性が改めて強調されなければならないと思います。
 成人対象の基本的な指導方針、平均的な成績は以下の通りです。

 代表的な「機能性構音障害」の各例に共通するメカニズムの本態、つまり舌の前部の浮き上がりや硬直にターゲットを絞り、舌尖の位置付け、前舌の弛緩を重視する。また、その他の生理的音声学の知見を重用する。口内図による感覚説明で微調整と精密化を図り、視覚的・感覚的漸近法その他により完全な音質に至るまで妥協しない。録音機による確認で内部モニターを修正し、明らかな治癒感を得させ般化を容易ならしめる。
 「側音化」及び「サ行」では(つまり概ね全般に亘って)一個の問題音についてふつう一回(50分)の指導で正確な単音から単語レベルまで進むことが可能で、総じて問題音が一個の場合は1〜2回、複数の場合は2〜5回程度の指導で般化の段階に入る。あるいはその時点で既に実用的な般化を達成している。



(2)機能性構音障害指導の重要項目(抜粋)                            日本音調教育研究会

側音化のメカニズム

  生理的音声学における側面音・側面外破

  異常構音としての側音化
    環境・舌・矯正の方針
      正中線外破流路ブロックとその解除
      (典型例では持続部において舌が正中線沿いの外破気流路を硬口蓋から歯茎にかけて長い距離に亘ってブロックしている。構音点を維持し正中線沿いの外破を容易ならしめるために、ブロック距離を前方から大幅に削減する。)

  予備訓練の問題
    基礎機能訓練・耳の訓練・「イ」の訓練は必要か

歯間性・接歯性サ行音
  メカニズムと矯正の方針
    流路ブロックと歯擦音生成スペース
     (典型例では充分な正中線気流路がなく、且つ上歯裏のスペース自体がつぶされている。前方からブロックを解除しつつ充分に閉鎖されたスペースを作る。)

前方の舌摩擦がないサ行音
  メカニズムと矯正の方針
    舌先使用と歯擦感覚の習得
     (可能な摩擦音からの変形が有効。)

歯茎硬口蓋音の不正
  メカニズムと矯正の方針
    舌尖位置不良による構音点前進
     (典型例では舌尖位置を移動し、前舌全体が歯茎硬口蓋音の形状を取れるようにする。)

音の作り方

  口腔内感覚・舌尖感覚・舌基本位置・内部モデルと発音意図・中間音

  「キ」
    舌尖位置 構音点比較 舌面形状保持 発音意図 中間音 舌圧子 舌出し 漸近(視覚的・聴覚的) 融合 鼻音から 摩擦音から 「ケ」も側音化している場合

  「リ」
     舌尖位置と発音意図 「ディ」 漸近

  サ行子音
    舌尖位置 舌圧子 代償 微調整 破擦音から 後方音から 母音付加 前方の摩擦がない場合

  「ツ」
    サ行との共通点 舌圧子 閉鎖 破裂音から 融合

  「シ」
    漸近 舌圧子 微調整 破擦音から 融合 前方にずれている場合

  「チ」
    「シ」との共通点 閉鎖 融合 漸近 前方音から 舌圧子 有声音から 前方にずれている場合

  ラ行子音
    舌尖位置・方向 発音意図

  「ニ」
    構音点 舌出し

  「イ」
    キー音節 舌圧子 「ヒ」から 

  拗音

  濁音

  微調整

   舌操作 噛み合せ 唇形 呼気 舌圧子 その他

  器具

   鏡 その他

  スペクトル

固定化

般化


(3)代表的構音異常のメカニズム                 平成16年1月山梨県言語障害児教育研究会講習資料

日本音調教育研究会

 1 サ行子音の異常

    A 歯擦弱化
      舌尖の浮き上がりと呼気通路のブロック (甘いサ行に聞こえる)

      イ 接歯性
       
      ロ 歯間性
       
 
    B 代替摩擦
      歯擦音以外の摩擦音 (ハ、ファ行に聞こえる)

      イ 歯唇音

      ロ 後方音


    C 口蓋化
      舌尖の下降と調音点後退 (シャ行に聞こえる)


    D 側音化
      前舌の硬直と呼気通路のブロック (歪み音)


    E 極少例
      鼻咽腔構音  など


 2 イ列音の異常(側音化構音)
    前舌の硬直と呼気通路のブロック、舌のねじれ

    A イ、キ、(ケ)、ヒ
 
    B シ、チ

    C ニ

    D リ


 3 ラ行音の異常

    A 弱化
 
    B 調音法異常

    C 置換




単音産生プロセス

 1 サ行子音

    舌尖下制  無声声門音  前舌前進  舌尖上昇

    歯茎硬口蓋音  舌尖上昇

    歯間音  漸近


 2 イ列音

    A イ、キ、(ケ)、ヒ

      エ段音  舌面保持  漸近
 
    B シ、チ

      歯茎音  硬口蓋音  中間音  漸近

      歯茎音  舌尖下制

    C ニ

      エ段音  中間音

    D リ

      エ段音  漸近

      歯茎破裂音  調音点後退


 3 ラ行音

    歯茎破裂音  調音点後退

    側面音


(附)

矯正音声学の概要

 生理的音声学の重要事項

  子音の作られ方

   調音点

   調音法



 矯正学の基礎

  不正音の原因

   舌

   代替摩擦
    
   調音法異常

  鑑別

   音色
   舌
   顎
   唇
   鼻渋面

  器官所見

   舌
    形状 偏位 麻痺 舌小体
   口蓋
   下顎
   歯列
   鼻咽腔閉鎖
   聴力
   

  音の産生法

   サ行

    s
    ts
    dz
  

   イ段

    イ
    キ
    シ
    チ
    ニ
    ヒ
    リ

   ラ行

   カ行

   タ行

   固定 般化

資料 成人の機能性構音障害

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