童心思い起こす秋空
蒲原平野は稲刈りも終わり、どこからとおもなく藁の焼く臭いがただよってくる。澄みきった秋空を飛び交う赤とんぼはあきの草花に羽を休める。
草むらをあるくと突然無視が飛び立つ。遠くまで飛んでいった大きい虫はトノサマバッタか。ムラムラと童心が甦る。追いかけるとあわてて飛び立つ虫たち、バッタ、イナゴ、テング、イナゴもいた。捕らえてなつかしく見入る。小学生のころ全校生徒でイナゴ採りに行った。前日母親から手ぬぐいで竹筒の口のついたイナゴ採り袋を作ってもらって登校する。捕らえられては頭から入れる。逆に入れるとなかなか入らない。たまってくるとイナゴがひしめき合い袋がもぐもぐと動く。そして竹筒の口からおり重なって飛び出すのでときどき竹筒をポンポン叩いてふり落とす。
つかまったイナゴは口から茶褐色の汁を出す。これを醤油といった。袋んもところどころ醤油でよごれた。藪の草むらをよくみると思い出多い植物がたくさんあるではないか。背の高いススキ、ツキミソウ、ネコジャラシ、ママごとの材料のノギク、胸につけて兵隊ナンコ(ごっこ)をした金色の勲章草、水浴びのとき手で揉んで耳にいれた草餅のもち草。「ジコマコ」して遊んだオオバコこと、がえるっ葉。また赤い火事花もあった。
学校の帰り道、みんなで火事花をいっぱい摘んで他所(よそ)の庭先へ「火事になれ!」といって投げ込み一目散に逃げる。背中のランドセルの教科書や筆箱はガタガタ踊り弁当箱の中しきりはガチャガチャ音をたてる。この辺で大丈夫とみんなでフーフーいいながら振り返る。そのとき「どこの野郎めらだ!!」と怒鳴り声。それ!とまた逃げる。途中下駄の鼻緒が切れた。下駄をもって走る。ようやく安全圏にたどり着く。
みんなでワイワイ言いながら下駄の修理だ。腰の手ぬぐいを「糸切り歯」で切り裂くと「ぴー」と小気味よい音がする。両手のひらでより合わせ先端をなめて穴に通し、大きな結びこぶを作って完成。力を入れて引っ張り大丈夫か確認する。この辺りの加減は子供ながら見事だ。横緒の場合は切れた端を穴に入れ、道から小石を拾って穴にはさんで大きな石で叩き込み固定する。ちょうどよい大きさの石を探すのがこつだ。想いははせ、つきない。秋の日は短く夕日は西山にかかり長い影がのびる。遠い陰った麓から一筋の紫色の煙が美しく立ち昇っているのが見えた。(新潟日報掲載)