北大荒調査報告

       

20016

瀋陽軽工業品輸出入公司顧問

山崎 献

             
 「北大荒集団」は中国黒龍江省にある、国営農場「黒龍江省農墾総局」の企業名である。「集団」はグループ企業を意味し、傘下には、農場以外にも関連する農業製品畜産製品加工工場、更には鉱山、自動車部品製造、製薬、醸造、テレビ局、映画、電業、肥料、農機具、セメントなど各分野の18個の集団及び651個の企業を抱えている。

  中国でも最大規模のこの国営農場の概要を下記に箇条書きで紹介したい。

                         

1          黒龍江省概要 

2           中国東北部の一級行政区。省都はハルピン。3地区(綏化、松花江、大興安嶺)、29市、49県,1自治区からなる。
 北は黒龍江、東はウスリー江を境にロシアと国境を接し、西は内モンゴル自治区、南は吉林省と境する。中央部は広大な松花江、嫩江平原でその西、北、東の三面は大興安嶺、小興安嶺ならびに張広才嶺、老爺嶺など長白山地の一部によってとりかこまれ、その外側を黒竜江本流とウスリー江が流れる。
 黒竜江と松花江、ウスリー江の二大支流の合流する一帯は三江平原と呼ばれ、海抜50メートルの低湿地帯を構成する。この一帯は別名「北大荒」即ち北方の大荒野と呼ばれ、本農場命名の由来でもある。今は「北大倉」即ち北方の大穀倉とも呼ばれる。

2.1         面積 45万3000km2

2.2         人口 3701万人(1995年)

2.3         気候 寒温帯大陸性季節風気候

2.3.1    気温 

2.3.1.1   年間平均−0.9℃〜4

2.3.1.2   最高 7月20℃〜22

2.3.1.3   最低 北端の漠河で1月平均−30.9

2.3.1.4   ハルピンの1月平均−19.4

2.3.1.5   年間累積気温2600℃〜2900

2.3.2    降水量

2.3.2.1   年間平均540ミリ

2.3.2.2   西から東にかけ450ミリ〜600ミリに分布する

2.3.3    日照

2.3.3.1   全年日照数24002900時間

2.3.3.2   内4月〜9月にかけ15001700時間

2.4         交通

2.4.1    鉄道(全国鉄道地図参照)
 総延長は全国一位。密度もかなり高く、北大荒農場がある場所の殆どは鉄道を利用出来る。ハルピン〜大連約900キロメートル。2001年秋には全線電化予定。
 輸送料運賃トンあたり1000キロメートル(ハルピン〜大連)、約1500円。

2.4.2    道路
 大連までの高速道路は、長春、鉄嶺間で一部未開通だが、2001年秋には全線開通の予定。

2.4.3    空路
 新潟とハルピンが姉妹都市を締結している関係で、新潟との間に週二回直行便が飛んでいる。
 国内線は、北京、上海、成都、長沙、武漢、瀋陽等主要都市は飛んでいる。

2.4.4    水路
 ハルピン及び北大荒農場の主要部分が存在する三江平原を流域とする松花江は、水深8メートル。11月から3月までは凍結するが、4月〜10月まで7ヶ月間、1500トン以下の船が航行できる。途中本流の黒龍江(ロシア名アムール川)を通ってロシアの尼港まで約1500キロ、日本海まで直接つながっている。


3          北大荒集団 

3.1         沿革

3.1.1    1947613日、毛沢東の命令で公営の機械化農場を試験的に創設し開拓を始める。
 (時代背景、建国二年後)

3.1.2    1954年〜1958年、王震将軍率いる10万の復員将兵が開拓にあたる。当時は「軍墾」と呼ばれ、農民は北方の警備を兼ねた屯田兵だった。いまも各農場に数字がかぶせられ、例えば「850農場」と呼ばれるのは往時の部隊名である。
 (時代背景、19537月朝鮮戦争終結)

3.1.3    60年代に入り、周恩来首相の指導の下、更に機械化を推し進める。
 (時代背景、1961年〜1963年大飢饉)

3.1.4    1978年、先進諸国の技術と設備の導入を始める。
 (時代背景、文化大革命の収束)

3.1.5    1983年ケ小平と李鵬が視察。現在の農工商多角経営の体制を確立する。
 (時代背景、改革開放)

3.1.6    1997年、開拓50周年記念式典。江沢民総書記が提言。「発揚北大荒精神、継続開創農墾事業、発展的新局面」。現在に至る。

3.2         位置 東経123°40′〜134°40′  北緯40°10′〜50°20

3.3         面積 5万4000平方キロ(四国の3倍弱)
 管轄区域内には、国家及び省の重要自然保護区14地区が含まれる。
 また、500の河川が流れ、200を越える天然の湖沼がある。

3.4         農場内土壌分布
 マクロ的にみた土壌分布図によると、この一帯はポドゾル性土と呼ばれる。即ち湿潤寒冷気候帯の北方針葉樹林の下に典型的に発達する土壌。又の名を灰白土と呼ばれるこの土壌は強酸性を示し、養分が極度に欠乏しているため、肥沃度はきわめて低い。
 開拓はこの荒野の土壌を肥沃化することだった。いま耕地の殆どは、有機腐植を多量に含んだ、肥沃な黒土(有機質4〜6%)又は草原土である。
 他に赤褐色土、沼沢土がある。

3.5         人口 155.42万人

3.5.1    職員及び工員 73.1万人

3.6         規模

3.6.1    農場 国営農場109箇所

3.6.1.1   総面積 54000平方キロ(再掲)

3.6.1.1.1 耕地  20000平方キロ

3.6.1.1.2 荒地  12000平方キロ

3.6.1.1.3 自然林   1100平方キロ

3.6.1.1.4 植林   400平方キロ

3.6.1.1.5 湿原    500平方キロ 

3.6.1.1.6 水面   1000平方キロ 

3.6.1.1.7 その他 19000平方キロ

3.6.1.2   地下伏流水層
10
乃至200メートル

3.6.2    付帯設備

3.6.2.1   研究所等
農業開拓科学院、測量設計研究院、種苗研究センター他

3.6.2.2   教育設備

3.6.2.2.1  大学 八一農業大学他6校

3.6.2.2.2  専門学校  25

3.6.2.2.3  職業教育校 63

3.6.2.2.4  小中学校 1517

3.6.2.3   医療設備

3.6.2.3.1  農場医院 109ヶ所

3.6.2.3.2  分院    8ヶ所

3.6.2.3.3  衛生防疫 102ヶ所

3.6.2.3.4  保健所   96ヶ所

3.6.2.3.5  計画出産 127ヶ所

3.6.3    機械化 

3.6.3.1   重量運搬車    13000

3.6.3.2   大中型トラクター 29000

3.6.3.3   総合収穫機    10000

3.6.3.4    スプリンクラー   1400

3.6.3.5   農業用航空機     25
 農場内の機械化が進み(総動力300万キロワット、機械化率95%)地平線まで見渡せる広大な耕地に、殆ど人影が無い。
 「這是一片新奇的土地、人間天上難尋」
 「この不思議なる土地、人は天に上りたるか、地上に影無し」
 北大荒農場を紹介するパンフレットの、表紙の言葉である。

3.6.4    その他

3.6.4.1   雑穀処理センター 167

3.6.4.2   種苗加工場     46

3.6.4.3   大型市場     113

3.6.4.4   畜産品市場    109

3.6.5    自営設備

3.6.5.1   道路      10331キロメートル

3.6.5.2   配電線     28537キロメートル

3.6.5.3   衛星受信設備  883箇所

3.6.5.4   テレビ放送施設 367箇所

3.6.5.5   光ファイバー  2000キロメートル

3.6.5.6   区域内電話線  24千キロメートル

3.7         経済能力

3.7.1   総資産     600億元(9000億円)

3.7.2   年間総生産額  320億元(4800億円)

3.7.3   利潤       20億元(約 300億円)

3.7.4   納税額      25億元(約 420億円)

3.8         生産能力

3.8.1    米(水稲)一毛作晩生  
        500万トン

3.8.2    大豆、小麦、大麦、唐黍、小豆等雑穀
        850万トン  ヘクタール当たり平均 4700キロ

3.8.3    石炭、電気、セメント 67.1億元(1000億円)

3.8.4    トラクタ   10000

3.8.5    化学肥料   20万トン

3.8.6    農薬     1330トン

3.8.7    金      1000キログラム

3.8.8    食用油    3.5万トン

3.8.9    砂糖大根   76万トン

3.8.10        鶏卵     2.4万トン

3.8.11        肉類     10万トン

3.8.12        牛乳     28.6万トン

3.8.13        魚介類    1122万トン

3.9         対外貿易経緯(日本関係分のみ)

3.9.1    19803
 補償貿易方式(対中借款の一形式。機械諸設備を実物で借り入れその生産物で返済する)で日本と共同経営。借り入れ外資1350万$。米国及び日本の13企業から、200平方キロの農地耕作に必要な農業機械545システムを導入。洪河農場を建設。

3.9.2    1987822
北海道技術交流代表団と、測量設計院と技術交流を行う。

3.9.3    1989
 日本政府のODA基金152400万円により、先進技術応用農業水利施設185システムを導入。600平方キロ耕地に対応する大豆輸出基地を建設。

3.9.4    1995
 五光産業株式会社が共同出資(373万$)して、龍光糧油加工有限公司を設立。

3.9.5    1995
 丸紅が共同経営。補償貿易方式で円借款(263300万円)。日本、イタリア、カナダの農業システム、482式を導入。年間5万トンの玉蜀黍を輸出。

3.9.6    1996
 第4次日本政府借款を利用し(2億$)、2箇所のモデル地区、4箇所の現代化農場、その中に含まれる100箇所の水田、及び耕地の改良を進める。

3.9.7    1996
 日綿が補償貿易方式で共同経営。(借款1700万$)。農機具282台を更新。農地263平方キロと農機具を提供。大豆年間15000トンを輸出。

3.9.8    1997
 日綿が共同出資。(63.9万$)。新綿精米加工有限公司を設立。

3.10     輸出入の展望

3.10.1        大豆
 黒龍江省一帯は元々大豆の原産地で、その品質は良い。また、いま話題になっている遺伝子組み替えの心配は全く無い。
 大豆は本来中国政府の輸出統制品だが、補償貿易方式なら、その枠が緩和される。

3.10.1.1                1999年大豆輸入状況(単位1000トン)

3.10.1.1.1                        合計   4,884

3.10.1.1.2                        米国   3,867

3.10.1.1.3                        ブラジル   585

3.10.1.1.4                        カナダ   163

3.10.1.1.5                        中国    144

3.10.1.1.6                        パラグァイ  88

3.10.1.1.7                        その他    44

3.10.1.2                輸入価格(トン当たりドル)

3.10.1.2.1                        米国   240.83

3.10.1.2.2                        ブラジル 206.69

3.10.1.2.3                        中国   385.33

3.10.2        ホップ
 雌花をビール醸造に利用するために栽培する、クワ科の多年草。野生種は冷涼な温帯北緯40°〜60°に分布する。
 肥沃な有機質土壌を好む。北大荒農場は以上の点で、ホップ栽培の適地と言える。
 ホップは世界的には供給過剰と言われるが、我が国では生産農家の高齢化で、輸入が増えることが予想される。
 当集団にはビール製造部門もあり、この方面を専門とする技術者が居り、栽培経験も知識も豊富である。
 現地に加工工場を作ることは可能である。
 平均輸入価格7,313$/トン。相手国によりかなり開きがある。

3.10.2.1                1999年ホップ輸入状況数量(トン) 金額(1000ドル)

3.10.2.1.1                        合計     7,039   51,473

3.10.2.1.2                        ドイツ    3,626   26,810

3.10.2.1.3                        チェコ    1,949   17,093

3.10.2.1.4                        中国      255    2,905

3.10.2.1.5                        米国      509    2,038

3.10.2.1.6                        スロベニア   217    1,194

3.10.2.1.7                        その他     247    1,433

3.10.3        麦芽
 麦芽は大麦を発芽させたものであり、多量のアミラーゼを含み、主にビール、ウイスキーの製造に用いられる他、麦芽エキス原料などの用途もある。
 1999年度の国内需要量は、843000トンと見込まれている。このうち国内生産による麦芽は5.4%で、残りは輸入により賄われる見通しである。
 主な輸入相手国はカナダで、中国から輸入の実績はこれまで殆どない。中国側が、我が国へ輸出拡大を期待している品目の一つである。
 ホップと共に、現地に加工工場を作ることは可能である。

3.10.3.1                1999年麦芽輸入状況(トン)

3.10.3.1.1                        合計      763,254

3.10.3.1.2                        カナダ     232,205

3.10.3.1.3                        オーストラリア 131,998

3.10.3.1.4                        英国      122,697

3.10.3.1.5                        ドイツ      77,894

3.10.3.1.6                        フランス     74,610

3.10.3.1.7                        その他     123,868

3.10.3.2                輸入価格総平均 388ドル/トン

3.10.4        農機具
 水稲耕作用の大型耕作機械は、いま先方が一番求めている物である。現地で共同経営の組み立て工場を作り、補償貿易の方式で大豆、麦芽、ホップ等を輸入するのは有力だと思う。

結び

この巨大企業の諸元を、出来るだけ幅広く定量的に現してみたつもりだが、勿論その全ては語り尽くせない。
 輸出入の展望もほんの一部である。
 むしろ、この数字の陰に隠された部分にビジネスチャンスはあるかもしれない。例えば、延べ2000キロにわたって張り巡らされた光ファイバーケーブル。それ自体が一つのマーケットだが、このケーブルの先には必ず端末機がある。それが構成するネットワークは、多様なソフトを求めているはずである。

花卉類も、物によっては空路で輸入しても採算性があるかもしれない。

中国側の日本に対する期待は熱い。このたび農業に全く門外漢の私に、「北大荒集団」は資料の提供は元より、宿舎、取材用の車、説明員に至るまで全て行き届いた手配をして下さった。ここに心からお礼申し上げるとともに、新たなビジネスが生まれ、日中の友好交流が更に深まることを念願する。

 

   後日談
  2011年、東北三省を黒竜江省、吉林省、遼寧省と自転車で回った。
  ここは満蒙開拓団の人達が辛酸を舐めた土地でもある。
  日本の稲田の北限を越えたところに、稲田が実っていた。
  麦畑が地平線まで広がる土地に、「退墾還土」の看板が有ったのは意外だった。 
  世界的に貴重な湿原が、開拓により失われようとしているのだ。。
  
  緑豊かな平原の片隅の小川は原色に濁った水が見られた。
  農薬の被害も大きいのだろう。

  中国政府は、今自然保護との板挟みになっている。