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奇人変人

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 八代松崎神社の大楠
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 3月27日。火。小雨。阿久根市。279/52キロ。

 

前日の宿泊地湯之元で、根元の直径が優に一メートルは超える大きな楠を見た。

盈泉寺というお寺の境内にあったのだが、ここは元は湯神社の境内だったそうで、遠い昔、湯そのものが神格化され、それを守る聖域に残された物だろう。だとすると弥生時代だから、樹齢は2000年(註)になんなんとするはずだ。当時日本列島の山は楠に覆われ、平地は葦が生い茂っていたという。

碁盤の原木「かや」も絶えて久しい。九州日向は言うにおよばず、四国でも神社仏閣に神木としてわずかに残るだけで、山には碁盤の材になる樹は一本も無い。

中国の雲南省には立派な樹が多いが、これも中国政府が保護に乗り出し、碁盤の材としての乱伐から守られている。最近ではなかなか手に入らない貴重品だ。

私の友人で、その「かや」に文字おり心血を注いでいる人が居る。高知の前川さん。本職は種苗会社の社長さんだが、「かや盤の権威として、日本一の「かや盤所有者として、知る人ぞ知る碁盤師である。

娘さんの名前が「かや」さんであることからも、その入れ込みようが窺える。碁盤の保管専門に建てられた鉄筋四階建てのビルには、2000面を越える銘盤が所狭しと整然と並んでいる。私が心打たれたのは、現在の乾燥プロセスが、克明に記されていたことだ。それは、毎朝五時に起きて記入されているものだ。

これだけなら只の碁盤マニアだが、彼が奇人変人である所以は、これからである。

彼は四国山脈の山中に七十町歩の原林を購入し、「かや」の植林をしているのだ。毎週末には、自分でブルドーザーを運転し、原野の開拓から自分でしている。

変人の私が変人と言うのだから、前川さんはまともなのか、変人の二乗なのか。それはともかく、五百年後の碁打ちは、この奇人変人に感謝しているだろう。

 

年輪に 汗と祈りを 刻み込み

 

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 註

 後日知ったのだが、この街道で一番古い湯治場は日奈久温泉で600年前。それと、八代の松崎神社で見た楠は、根元の直径は優に2メートルを越えていたが、それでも樹齢は約800年とのこと。ここの楠は大木ではあるが、松崎神社の巨木と比べたら苗木みたいな物。この二点から類推すると、ここの楠の推定樹齢は一桁落ちる。とても2000年はない。精々300年だろうか。謹んで訂正します。

 

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