4月4日。水。曇り時々小雨。岩国。827/79キロ。
徳山から柳井までの188号線は、歩道の幅といい平坦度といい理想に近い道路だった。鉄道沿線で海岸を走るから、少し遠回りだが、遠回りは厭わない。
周防灘の変化に富んだ小島を右手に見ながら、平坦な海岸線をご機嫌で走っていたら、田布施のあたりで、一見喫茶店のような民家のような、木組みの大きな家屋があった。何故かパトカーが停まっている不思議な家だ。
喫茶店なら入ろうと思って、前庭をうろうろしていたら、テラスにご主人が顔を出して、「よろしければ、お茶でも飲んでいきませんか」と誘って下さる。折りしも小雨もぱらついていたので、お言葉に甘えてご馳走になった。
ご主人は重田総一郎さんと言われ、国鉄を辞めて現在57歳。ここで悠々自適の生活をしている。ご当人の話によると、二勤三休。つまり二年仕事をして三年休むと屈託がない。
庭にウエットスーツが干してある。重田さんに言わせると、前の海は海の畑、裏山には自分で竹薮を切り開いた家庭菜園がある。まさに平成の海幸彦山幸彦を一人で自演している。
雨の日は、ここがそのまま仕事場。彫刻など造形美の追及をしている。今は羅漢さんの像を数多く作っている。
海辺の部屋は改築中。周防灘をそのまま借景に取り入れ、海辺へ大きな窓を向けた風呂、台所、便所と木造高級ワンルームマンションを、全部自分の手作りだ。
別の棟も紹介して貰ったのだが、洒落たパブの横にマイク、キーボード、ギターとちょっとした室内交響楽団が出来そうな部屋があった。奥さんがカラオケ好きだそうで、ご近所の友人も一緒に寄ってくる。
気になっていたパトカーのことを尋ねたら、「セキュリティー」とのこと。何の意味かと訝っていたら、これを置いていると、泥棒除けになるのだそうだ。廃車のパトカーで、道路運送法上は鉄屑。つまり、案山子の代わり。この浮世離れしたユートピアにも、浮世の風は吹いているようだ。
厄除けに 張子の虎の おまじない
|