春節祭にて
僕等の里にも春がやってきた。
今日は春の到来を祝う祭り──《春節祭》だ。
長い閉鎖的な冬から解放された春を祝って、里中の人間が今日という日を楽しむ。
「わあ、きれい!」
リルーが珍しくはしゃいだ声をあげた。
声の方を見ると、春の装いをしたサエナが微笑んで立っていた。
花のような薄ピンクのふわふわの衣装は、サエナにはすごくよく似合っている。
『育成魔法』の使い手は男女問わず柔らかな緑の瞳をしている。
サエナのそれは、今日は一段と誇らしげだった。
「ねえ。マリト、ガーヴェ、リルー。ちょっとお願いがあるんだ」
サエナが悪戯っぽく僕等を手招きする。
「何だよ?」
「いい事♪」
ガーヴェが照れ臭そうな顔で尋ねると、サエナはにっこりと笑って僕等に耳打ちした。
「ねえ。お祭りの最後に、花火を上げてみんなをびっくりさせよう?」
驚いた。
サエナはどちらかと言うとおとなしいタイプなのに。
でも、確かに僕とガーヴェが魔法の花火を、暗闇の召喚をリルーがすれば、昼間でも花火は見られる。
そして、多分それはサエナには出来ない事。
「どうかな?」
微笑むサエナに、僕等はにやりと笑って応える。
そんな面白い事、やるに決まってる。
でも、不思議なのはどうしてそんな事をサエナが言い出したのか、という事。
でも用意している間に、とても重要なある事を思い出した。
僕等は祭りの舞台で春の舞いを踊るサエナを見ながら、こっそりと話し合った。
僕もガーヴェもリルーも、来るべきその瞬間を思い浮かべて思わずにんまり笑ってしまう。
きっと、みんな驚くに違いないぞ!
そんな事を考えている間に、やがて舞いが終わった。
最後に長が祭りの終わりを告げれば、今年の春節祭はおしまいだ。
その直前を狙って、僕等は動いた。
「来たれ! 闇の帳よ!!」
まずリルーが、暗闇魔法を使って広場に闇を召喚する。
周囲が不意に闇に包まれ、里のみんなはびっくりしたように空を見上げた。
今だ!!
僕は用意していた、火種代わりの一握りの砂を空へと投げた。
「光よ、集え!!」
「炎よ、舞え!!」
僕とガーヴェが一斉に光と炎を砂を基点にして呼び集める。
砂にはあらかじめガーヴェが魔法をかけてあった。
闇に光と炎の花が咲く。
そして──。
『ハッピーバースディ! サエナ』
闇に光の文字が浮かび上がった時、僕等は舞台を降りてやってきたサエナに抱きつかれた。
「ありがとう!! 嬉しい!! …みんな、大好きだよ」
僕等は目論見が成功した事、そしてサエナが一つ大人に近付いた事を喜び合った。
──里の長から後でちょっとばかりお小言を言われたのは……また別の話だ。