の一仕事

晴れ渡った夏空の下、僕等は……。

 

初夏になると、里は本当に緑だらけになる。

森の真っ只中にあるんだから仕方がない、と言えばそうなんだけれど。

里に育成魔法の使い手が多いのは、森の木々を絶やさない為だとか聞いた事がある。


「『木を植えよ』、かあ」

「何だ、それ? マリト」


思わず呟いた言葉に、ガーヴェも手を止めて首を傾げる。


「じいちゃんの魔法書に載っていた一節。ここに里を初めに拓いた人が書いたんだって」


もっと小さな子供の頃、こっそり忍び込んだじいちゃん──長の部屋で見た本。

分厚くて、でも絵本みたいに色取り取りの絵と文字が書かれていた。

生憎とその本に書いてあった言葉は難しくて、

何の為に木を植えろなんて書いてあったのかわからなかったけども。


「もう、ガーヴェ、マリト! ちゃんと手を動かして。それじゃいつまで経っても終わらないよ?」

「そうだよ。今日はこの辺一帯を片付ける約束だったでしょ?」


サエナとリルーが手を休めて話し込んだ僕とガーヴェを叱咤(しった)する。

二人の手には丈夫な手袋、そして小さ目の鎌。

それと同じものを僕もガーヴェも持っている。

…夏に近付くと、里は緑だらけになる。

そう──木が青々と葉を茂らせるだけじゃなくて、畑や道端にわさわさと雑草も伸びまくる。

僕等はその雑草取りを命じられていた。

作業箇所は里を真っ直ぐ縦に走る道端だ。

詳しい事情はわからないけれど、道は出来るだけその幅とか変わらないようにしなければならないらしい。

毎年、里の人間が自分の畑の雑草を片付けるのと一緒にやるんだけど…今回は僕等にお鉢が回ってきた。


「約束ったってなあ。…いい加減、やってらんないって」


そう言ってガーヴェがうんざりしたように肩を落とす。

いくら光輝魔法の使い手でも、流石に夏の太陽の光には辟易(へきえき)するみたいだ。

横を見ると、元々暑さに弱いリルーがガーヴェに同意するようにため息をついている。

それを見て、サエナが苦笑混じりに言った。


「しょうがないでしょ? これはお仕置きなんだから」


…つい先日、僕等はちょっとした悪戯をして長にお小言を頂いていた。

今回のはその事に対する長からの罰なのだ。

四人じゃ一日では終わらないから、毎日少しずつ片付けているんだけどまだまだ終わる気配はない。

燦々(さんさん)と照りつける太陽の下、僕等は黙々と雑草と格闘する。

…夏はまだ、始まったばかりだ。