実りの季節に
里の周辺の木が色付き出すと、そろそろ冬の気配を感じ始める。
収穫の季節はほんの一瞬で去ってしまう。
だからその時は、里中がまるで戦争のような忙しさになるんだ。
「今年、うちはカトがたくさんなったの」
「うちはスリンダ」
「俺のところはテルスの実かなあ」
「今年も大収穫だね」
…と、僕等の会話まで何だか変な具合になる。
というのも、僕等の里はそれぞれの家で作った作物を物々交換して
自給自足をしているからなんだ。
里全体が大きな家族みたいなものだから、
そういうのが当たり前になって今に至っている。
『外』から流れてきたリルーの所も、今ではすっかりそんな事にも慣れたようだ。
リルーのお母さんもリルーも暗闇魔法の使い手だから、
育てている作物も、どちらかというと少し薄暗い所で育つ薬草類がほとんどだ。
こちらは収穫以外の時期でも取れる事があって、
リルーの所は収穫の時期も普段のペースを保っている。
「この時期はみんな忙しいから、ちょっとつまんないな」
苦笑混じりにリルーが言う。
こればかりはどうしようもない。
僕もガーヴェもサエナも本当は遊びたいから、そんなリルーが羨ましく思ったりもするんだけど。
そんな状況を打開する為にも、僕等はせっせと収穫の手伝いに勤しむしかない。
そして…落ち葉が落ち始める頃。
それぞれ自慢の作物を手に、僕等はリルーのうちへ出かける。
冬になってしまう前、風邪封じの薬草を貰う為に。