Kannaduki kaidan

おやじ

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               今年の二月に院内異動があり、私は新しい病棟へと移った。
               移ってしばらくしてから、廊下に中年の男の人が立っているのに気付いた。
               ワンフロア―の病棟で、廊下に面しているところには、天井近くから腰くらいの高さまで窓になっていて、廊下からは病
               棟の中が一望できるようになっている。
               廊下のほうから病棟の中に入れない人達が、病棟の中を見られるようになっているのだ。
               (*NICUという特殊病棟なのである。入室できるのは両親のみと限られているため、その他の方たちは廊下からの面
               会となるのである)
               で、何故赤ん坊だけの病棟におやじがいるのかなぁ、と不思議に思っていたのだ。
               半年程経って、ふと気付くとおやじは廊下から、外に移動していたのである。
               勤め先はL字型になっている建造物で、廊下から外を見ると左側に本館が見られるのだ。
               本館の方の同じ階の私のいる病棟に近い位置には、検査室がある。
               その検査室の外に窓の下に1mほどの出っ張りがある。
               おやじはそのでっぱりの上に移動していたのである。
               何故にそこに?と思っていたが、直接関係ないので放っておいた。

               つい先日、話が妙な方へと進みおやじの正体が分かった。
               私が今の病棟へ異動する前、飛び降り事件があったそうだ。
               そして、飛び降りたのはおやじで、検査室の外のでっぱりの所に引っかかっていたそうだ。
               ようやく納得できたわけだった。
               ちなみにそのおやじは特には何もしてはこない。
               つか、何もできんだろうなぁ。



            



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