あのミュージアム・コレクションから、フェラーリF1-2000のとんでもないキットがリリースされました。素材はメタル。しかし、1/43ではありません、なんと1/12です。
もはや、F1キットの頻繁なリリースをタミヤに求めるのは無理で、それは、プラモデルの究極的なシリーズである同社1/12シリーズにおいてはなおさらのことです。言うまでもなくフェラーリに21年ぶりのドライバーズチャンピオンをもたらしたF1-2000は、以前であれば、タミヤの1/12シリーズにラインアップされ、そのフラッグシップ的存在になるべき車種でしょう。そのスタイリングは、画一的な近年のF1シーンにおいて、明らかに一線を画したデザインで、文句なしにカッコ良い模型栄えのするものです。幸いにも1/20で好キットがリリースされ、F1モデルのメインスケールである1/20で手軽にコレクションできるのは、昨今の状況を考えると恵まれているといえるでしょう。しかし、ビッグスケールのみが持つ、あの迫力、実車らしさを考えると、1/12スケールでのリリースを期待していたモデラーも多いはずです。
そんな状況で、フェラーリ412T2やメルセデスベンツ300SLトランスポーターなど通好みのアイテムを職人的なハイクオリティーでリリースしているミュージアムコレクションから、1/12のF1-2000がリリースされました。私の知る限り、同スケールのF1がメタルでリリースされるのは始めてです。レジンやプラなどに付きまとう事後変形などの問題を考えると、金属が模型としての究極的なマテリアルであることは間違いありませんが、ガレージキット・メーカーがこのサイズで商品化することには、多くの困難があったであろうことは容易に想像がつきます。まずは、商品化を決心、そして実際にリリースしたその勇気と信念を称えたいと思います。
キット概要

先に書いたように、このキット、ほとんどの部品がホワイトメタルです。モノコック、フロアプレート、ディフューザー、ウィング、フロント翼端板、フラップ、ホイール、ステアリング、サスアーム、その他小部品、以上がメタル製です。エンジンブロック、エグゾースト、シートなどはレジン。これにリヤ翼端板などのエッチングパーツ、ゴムタイヤ、シートベルト用サテンリボン、バキュームパーツ、ホイール固定用ボルト&ナット、車体保持用アクリルプレート、そしてニスが残らないハイテクデカールがセットされます。
各部品を眺めると、この大きさのメタルというのも初めてなので、その存在感に圧倒されます。レジンでつきものの間延びした感が全くなく、きりっとした緊張感のある仕上がりです。メタルの特性を生かして、シャープに薄く仕上がっている印象を受けます。これを生かしてエンジンカウルの着脱を可能とし、給油口も再現されています。さらに、続いて発売される予定のマレーシアGP、イタリアGP用パーツでは各GP用エンジンカウル、ノーズ〜フロントウィングなどがセットされ、完成品を‘着せ替える’ことも可能になっており、今までにない楽しみを味わうこともできます。ただし、後述のように、実際にこれらのギミックを行うためには、非常な努力がいるようです。また、これらメタルパーツは、ハンダによる組み立てを前提としており、ある程度のハンダ技術は必要と思われます。

シャシー

シャシーはモノコック、ノーズコーン、エンジンカウル、インダクションポッド、アンダートレイなどから構成されます。このレビューのため、とにかく、これらを仮組みしてみました。しかし、これらのパーツの合いは非常に悪いようです。特にアンダートレイの指定位置にモノコックが収まらないため、両者ともかなり削り込むことが必要でした。さらにカウルの高さと辻褄が合うように、モノコックの取り付けの高さを調整することも必要でした。これらはヤスリなどでは埒があかず、金属用のキサゲでガリガリと大胆に削ります。これにカウルを合わせますが、アンダートレイとの分割ラインが一致せず、かなりカウル側を削りました。将来、リヤサスが収まるか心配です。モノコックの合わせも一部削る必要がありました。また、分割線における面の不連続もあるようなので、カウル着脱をするにせよ、一度カウルを固定し、パテによる面の修正が必要でしょう。もっとも、メーカーに聞いたところ、これら、合いの悪さに関しては個々のキットのばらつきもあり、あまり修正の必要としない製品もあるようです。やはり、メタルとはいえ、ゴム型に注型するガレージキットの宿命のようです。いずれにせよ、カウルの着脱に際しては、塗料の厚みを考え、分割線に幾分のマージン(つまり、がたつき)をとることも必要です。また、もし先述の‘着せ替え’を予定しているのなら、すべてのオプションパーツを揃え、キットとともに同時に組み立てていくべきでしょう。このキットでは仮組みはタフですが非常に重要です。
これでようやくキットの全体形が見えてきました。

プロポーションはほぼ完璧です。素晴らしいです。仮組みに苦労した甲斐がありました。3次元的に複雑な面構成をよく1/12に再現したなという感じです。それでいて実車の持つ優美さをよく再現しています。この“味”は絶対CADなんかでは出ません。これはもう原型師の持つ感性によるものでしょう。43〜20ではごまかしも利きますが、さすがに12になると、もろに原型師の力量が出てきます。フェラーリ412T2でもそうでしたが、ミュージアムコレクションは、正確なスケールダウンと雰囲気の再現のバランスが非常にうまいです。
ウィング

ウィングも繊細に仕上がってます。特にフロントウィングは、一体でありながら、その薄さと、ちゃんとフラップとの隙間があることに注目。メタルを素材とした強みが出ています。翼端板はエッチングパーツと組み合わせ、十分な再現。ディフューザー、バージーボードもメタル。メタルだから、各エッジは好きなだけ薄く仕上げられます。ただし、翼端板前縁は薄くしないこと。レギュレーションで厚さ決まってます。リヤウイング、フラップはメタル製。エッチングじゃなくて良かった。リヤ翼端板はエッチングとメタルパーツ両方セットされています。エッチングの方がシャープに仕上がりますが、フェラーリのリヤ翼端板もタイヤの下端にかけて結構3次元面があり、翼端板の下端は複雑に捩れています。これを再現するならメタルの方が良いでしょう。

サス関連

サスアームは薄く繊細に仕上がっています。サスの付け根は、つくり手の腕の見せ所でしょう。最近のマシンではアッパーアーム後ろは板バネとして直接モノコックに接続されており、この部分は非常に薄くなっております。再現は難しいでしょうが、結構ここは差をつけるポイントと思います。プッシュロッドのボディ側の端も凝りたいところです。リヤサスアームは、なんと言っても耐熱シートがポイント、キットには、金銀のシートがセットされ、切り出し用の型紙もセットされています。

エンジン関連

エンジンはレジンパーツの一体整形。エグゾーストもレジンパーツとなっています。これらのパーツこそメタルにして欲しかったところです。エグゾーストのような形状のメタル化は技術的に難しいそうです。これらを使用するなら、金属感の再現がポイントとなるでしょう。ラジエーター関連はメタルパーツですが、説明書にもあるようにエンジンカウルを閉じるためには、少々パーツを削って背を低くしなければなりません。また、パイプ、補器類は省略されているので、フルディテール化を望むなら、これらを自作する必要があります。

コクピット

シートまわりはレジンパーツで、うまく構成されています。シートベルト用のリボンもセットされています。ステアリングはメタル製で充分なディテールが再現されています。あとは、各部のプロテクターやモノコック内側、シートの質感にこだわれば、最高のコックピットが出来上がるでしょう。

タイヤ関連

タイヤは良質なゴム製パーツです。しかし、サイズなどに問題があります。まず、直径ですが99年よりフロント、リヤとも同サイズなのですが、キットではフロントがリヤより小さくなっています。また、リヤの径自体も少々小さいようです。このため、メーカーの完成写真を見る限り、フロントタイヤが一回り小さく、ウィングのクリアランスが少々大きすぎる印象を受けます。さらに最近のタイヤの特徴である溝についても、レギュレーションでその寸法は定められているのですが、キットのパーツでは、特にリヤの溝と溝の間隔が広すぎるようです。タイヤは、最も自作、修正が困難なパーツですので、これらの問題は非常に残念です。タイヤロゴはハイテクデカールにより、非常にリアルに再現できます。ホイールは出来の良いメタル製パーツです。

デカールその他

デカールは同社の特徴である、ハイテクデカールです。これは貼った後、ニス部のみをはがすことにより、マークのみを残すことができるデカールで、少々のコツは必要ですが、うまくすれば最高にリアルなマーキングに仕上げることができます。特に、1/12ほど大きくなれば、小スケールで流行りの、デカールごとコーティングし研ぎ出す方法よりも、カラーリング後にクリア仕上げを施し、ハイテクデカールで仕上げる方が、実感的だと思います。
組み立て説明書は、組み立て順を追ったものではなく、組み立てるにあたって難しいと思われるところのみ、写真で説明しています。単純なパーツ構成図よりも、実際に製作する時に必要となるコツや注意点を説明しようとする姿勢は良いのですが、これでも本キット完成には不十分であると思われます。(これを購入、製作する人は、上級者であろうことを考えても) やはり、一般的な製作者の立場からは、基本的なパーツの構成図、完成写真ぐらいは入れて欲しいところです。製作者は充分にパーツを見て、組み立てのシミュレーションを行うべきでしょう。

総括

このキット、大型のメタルキットということで、慣れない手法が必要な個所もありますが、1/12のレジンキットと比較して、特に難しいというわけではないようです。メタル素材を活かして各部をシャープに仕上げることが可能で、それにより、レジンに比べ格段にリアルなモデルとすることができます。ただし、その自重のためハンダ付けは不可欠で、ハンダ使用に慣れておく必要があるでしょう。前述した通り、カウルの着脱を可能とするには、細心の注意が必要です。塗装済みのカウルの角の塗料を剥げさせることなく脱着することは至難の技でしょう。現実的には、キットのプロポーションを生かして、美しいフォルムの再現を追求するか、カウルをオープンし、内部を徹底的に作りこむかを選択したほうがよいでしょう。もっとも、後者の場合、補器などを自作する必要がありますが。
いずれにせよ、それなりの腕を持ったビルダーが作れば、最高のF1-2000が出来上がるでしょう。キットとしての基本的なラインはしっかりと作られているので、手を入れれば入れるだけ、それに応じてくれるはずです。また、メタルという素材がモデラーの挑戦心を煽り、模型本来の作る楽しみを味わうことができるでしょう。
なんと言ってもフェラーリの記念すべきチャンピオンマシーン。それも1/12です。完成後は、モデルカーを越えた価値のある工芸品となることでしょう。

冒頭の完成写真はミュージアム・コレクションの許可を得て、同社サイトからの画像を使わせていただきました。

Museum collection ; http://www.museumcollection.co.jp/