猫じゃ猫じゃ
リスティは注意深く気配を殺し、目標の様子を窺っていた。
なにせ、今回の目標はさざなみ寮でも最大の強敵と言っていい相手だ。
勘の鋭さでは熟練の武道家にも引けを取らないだろう。
だが、目標のパラメータは目下急速に変化している。常に正確な値を測量し、記録せねばなるまい。
(どうだ、いけそうか?)
心の中で自問する。
距離は目測で4メートル。射程内だ。
障害物らしい障害物は中間には存在しない。
唯一、目標直前にソファの背もたれと言う要素は存在するが、襲撃方法の関係上今回は考えなくてもよい。
自分のダッシュ力、目標の反射神経、その他妨害要素まで考慮して、攻撃成功率を算出する。
約78パーセント。悪い数字ではない。
よし。作戦決行。
だっ、と床を蹴って一気に距離を詰める。途中のステップは“能力”を使って足音をキャンセル。
目標まであと半歩。ようやく気配に気付いてかこっちを振り返ろうとするが、もう遅い!
とった……!
そう確信した瞬間、背もたれの陰から何かが飛びかかってきた。
「ぶわぁっ!?」
見事に正面衝突。顔にしがみつかれて、目の前が真っ暗になる。
かと言って突進の勢いは止まらない。目標をそれた銀色の弾丸は背もたれに引っかかり、
盛大な音を立ててソファの向こう側にでんぐりがえった。
どたん、がたん、ばたんっ!
「だぁぁぁっ!」
がん!
「がふっ!」
とどめ。顔面をテーブルに強打。
「くぅっ……あぃたぁ〜〜〜……」
仰向けに床に転がるリスティ。鼻の頭を押さえて目を開けると、標的──美緒が楽しそうな顔でこっちを見下ろしていた。
「甘いのだリスティ。野生の力、ナメたらいけないのだ」
「にゃーん」
傍らでは、たった今顔面に飛び付いてきた物体……いや、銀次が得意げに勝ち鬨を上げる。
「うぅ、作戦失敗……」
上半身を起こすと、
たり。
「お、流血試合なのだ」
「なんだ、何があった!?」
「どうしたの、今の音?」
「大丈夫か!?」
どたどたどた。
今の物音で、寮の住人が居間に集まってきた。
「うわ、リスティ、鼻血!」
「いきなりテーブルに向かって特攻してきたんだから自業自得なのだ」
「駄目よリスティ。女の子はもっと顔を大事にしないと」
「あぅぅぅ……」
これは泣くに泣けない。
ちなみに美緒は、どさくさに紛れて野次馬にやってきた真雪さんにきっちり計測されたとか。
「83のB! まだまだ修行が足りんね」
「えーん、ししょぉ……」
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