装いの季節です(5)

 

 

 

註:黄色は三人称、緑色は一人称でザッピングしています

 

 

 

 新しい顔ぶれが増えた高町家の食卓。となれば、この家のことだから和気藹々とした雰囲気になりそうなものだが、さすがに今回ばかりはそういう暢気なことは言ってもいられない……わけはない。

「いやー、こんなに立派な娘ができて、かーさん鼻が高いわー♪」

「びっくりしたけど、楽しみだよね」

「はぁー。しかし、お師匠見れば見るほどえらい美人さんですなー」

「でしょ、でしょ? 恭子、可愛いよね〜♪」

「恭ちゃん、やっぱりずるいよ……」

「うーん……闇討ちはともかく、スタイルまで師匠に負けるってのは……なんかこう、複雑な気分です……」

「うぅ……責任感じてます……」

 「女三人寄れば姦しい」とは言うが、三人どころではないから話はさらにややこしい。桃子・フィアッセ・忍の三人は目を輝かせて恭子をいじりまわす算段を立てている。一方、複雑な表情の晶と美由希。落ち込むなのは。うっとりと魅入っているレン。その傍らで赤面しながらぼそぼそとひたすら食事を取る恭子と美沙斗さん。ゲスト二人はすっかり空気に飲まれてしまっている。

 大皿に盛られた特製蟹玉に鱈の辛味餡かけ。レンの手が込んだ夕食はどれも絶品……の筈なんだけど。

 こんな精神状態で味なんてわかるわけもなく。

 恭子はひたすら、内心に吹き荒れる冷たい風に耐えていた。

 

 

 

 一方その頃。さざなみ寮食堂。

「ぬぁにぃ〜っ!? 高町兄が女になったぁ!?」

「は、はぃぃぃ……」

 うっかり口が滑ったのが運の尽き。と言うか那美、いくらなんでもこれはマズ過ぎる滑りかたなんではなかろうか。

「……はー」

「なんとまぁ」

 こーすけくんや寮生その他、俄かには信じがたいと言った様子。

「しかもとんでもない巨乳だとぉ……ふふふ……ふふふふふ……」

 真雪さん、既にヤる気満々。

「真雪さん、またロクでもないこと考えてるでしょ。寮生はともかく、よその人にまでセクハラする気っすか?」

「えぇぃ、あたしのライフワークに茶々を入れるなっ」

「ふごっ!」

 チョップ一閃。

「くそ〜っ、なんでこんなときに限って〆切前の追い込みになるかなーっ」

(き、恭子さん、ごめんなさぃぃぃ……)

 どうする恭子、貞操の危機は一つや二つじゃおさまらないぞ!?

 

 

 

 今の俺の心理状態を一言で言い表すとしたら。

 木枯し吹きすさぶ冬の葦原。

 かーさんとフィアッセと忍。三人して悪巧みの真っ最中。そうとしか見えません。

「やっぱり、恭子にはきっちり女の子らしくロングスカートでお洒落に決めてもらいたいわ〜♪」

「うん、やっぱり長身だからワンピースとか映えそうだよね」

「でも、タイトなミニスカートで健康的に……ってのも似合うと思いません?」

「あ、それもいいわね〜」

「は〜、確かに似合いそうですー」

 ……いつのまにかレンまで話の輪に加わってるし。

「あ、でも外側だけ飾り付けてもダメよね。ちゃんと中身も魅力的にしなくちゃ」

「かーさん、俺は別に女になるつもりは……」

「あぁん、まずそこからよ〜」

「そうだよねぇ、恭子、いくらなんでも女の子が『俺』はないよー」

「俺は……師匠は別に『俺』でいいと思うんだけどなぁ」

『却下』

「はぅー」

 完璧に息の合った一言で、晶、撃沈。

 ……彼女も一人称は「俺」なんだが、その点については誰も指摘しないのか……?

「とにかくっ! 食事が終わったらきっちり立ち居振るまいも直してあげるからね♪」

 ……そろそろ、自分自身とサヨナラする準備しといたほうがいいのかな……

 

 

 

 そんなこんなで連れて来られた我が家の居間。かーさん、フィアッセ、忍の三人が真剣な顔で取り囲んでくれました。

 なんだか、これから警察で取り調べ受ける気分なんだけど。

「さぁってと!」

「それじゃ、恭子?」

「女の子としての暮らし方、しっかり覚えてもらうよ?」

 ……せめて精神くらい男のままでいるという選択肢は存在していないんでしょうか。

「まずは一人称よね。こんなに可愛いのに『俺』なんてもったいない言葉遣いじゃ、バチが当たっちゃうわよ」

「かーさん……俺がいつか元に戻る当てが残ってるの、忘れてない……?」

「でも、戻れる保証もないんでしょ? 万が一に備えなきゃダメだよ、恭子」

 ……フィアッセ。不吉なことを言わないように。

「それに、クロノくん達は当分こっちで用事があるんでしょ? しばらくは女の子で過ごすんだから、ちゃんとそれらしくしなくちゃね」

 ……と、そこに忍がトドメを刺してくれた。

 わかってる。わかっちゃいるんだ、この人たちが親心から言ってるってことくらいは。でも、それが実益も兼ねているってのは、なにかが間違ってる気がしてならない。

「と、ゆーわけで! 恭子、これからは人前での一人称は『私』くらいにしなきゃだめよ?」

 ついに宣告が出た。というか、一言ごとに自分のジェンダーが変質していってるような気がする……

「うーん、『あたし』ってのも可愛くていいと思うんだけどね」

 ……お願いです、忍さん。これ以上事態をエスカレートさせないでください。

「あー、それもいいわよねぇ。美由希はずいぶんとおとなしい子だったんだし、ちょっとやんちゃな感じに育ってくれたりしたら、最高なんだけどなー♪」

 かーさん……その流し目はなんですか。

「あら、恭子は俄かに女の子になったんだから、どんな女性になりたいかっていうのをいつもイメージしておかなきゃならないでしょ?」

「そうだよ恭子、イメージトレーニングって大事だよ?」

 ……いや、実際にステージに立ってる方のアドバイスだから説得力はあるんですが。

 別に女性になりたいとは思ってないんだけどなぁ。

「でも恭子、当分女の子でいる間も生活は普通に送らなきゃならないのよ? だったら、あんたがどう思っていようと、周りからは女の子として見られるわけだから、それなりの振舞い方をしなきゃいけないじゃない」

「見かけが恭子で中身が恭也だったら違和感あると思うなぁ」

「そんなの却下ー。面白くなーい」

 困ったことに、忍はともかくして、かーさんとフィアッセの言ってることは正論なんだよなぁ。まさか何年も引き篭もってるわけには行かないし、それなりに対応はしなくちゃいけない、のだけれど。

 この人たち、下心が丸出しで……

 

 

 



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