ステレオパワーアンプ M−10の修理 2001.1.2



修理後の音出し中、ケースを外した状態で上から見たところ。

左の写真、オレンジ色が目立つ部品(コンデンサー)が4個付いている基板が、アンプ部電圧増幅段。
それに直角に取り付けられているのは、メーターアンプ基板(青い半固定抵抗が2つ付いている)とその電源基板(小型放熱器が2個付いている)。



左上はパンチングメタルのカバーも外した、むき出しのまま。右上は化粧ケースに収まったようす。

購入時は、メーター照明は落ち着いたクリームイエローだった。
光源がガラス管ヒューズ型タングステンランプと言えば判るだろうか。
左右に2個ずつ、計4個使われていたが、とにかくしょっちゅう切れていた。

その度にケースを開け、ランプ基板を外して取り替えていたが、たまらず緑と橙のLEDに替えた。
91年当時、巷で簡単に手に入る色を使った。片方に緑20個・橙20個を交互に配置している。

黄緑色に近く、色彩的に不満といえば不満だが照明ムラもなく、なんといっても球切れのないのが気に入っている。



初段付近の拡大写真。左は2SK194、2SJ61が取り付けられている本来の姿。正負対称の回路構成だ。右が修理後のようす。右と左では撮影の向きが反対なので注意。



2SK194と2SJ61は、メーカーで特性のそろった2素子を選んで金属ケースに1パッケージしたもの。
手作業による製作なのでお値段が・・・、半導体は大量生産によってこそ安くなるもの。その点2SK147・J72は安く性能も良い。が、用途によってはユーザーが余分に購入し、選別しなくてはならない。
2SJ61の方がK194よりも少し大きく、底から見えるモールドがグレーだ。

 2000年暮、常用しているEXCLUSIVEのM−10が、電源を入れてもスピーカーリレーが働かない故障が起きました。1981年9月に購入、もう20年近くの間使用していますが、いままで元気に働いてくれていたのに、突然のことでびっくりしました。で、予想される故障部分がスピーカーリレー関係、つまり、リレー、リレードライブ、保護回路とその電源のどこかだろうと思い、早速中を開けてみました。

 ところがアンプ内部の電圧を測っているうち、Rチャンネルのパワー出力に3Vを超える直流電圧が出ているのを見つけました。しかも電圧がふらついています。ためしにDCバランスのボリュームを回していくと、回し切ったところで1ボルトぐらいに下がり、リレーが働いて出力端子につながりました。最初の予想は外れでした。スピーカーをつなぐと、「ジャー」というノイズが出ています。パワーにして0.1W以下ぐらいでしょう。直流も0.5〜1.5Vぐらいの変動幅でテスターの針がふらついています。

 次に、「DCバランスが崩れていてふらついている」、「故障にしてはノイズが小さい」ということから、とりあえず初段差動増幅の素子が劣化していると判断しました。銀メッキのリードだと、エレクトロマイグレーションで隣のリードと導通することがあります。今はその初期状態かなと思われます。回路をじゅうぶん理解できていないので、そのほかの部分の可能性もあるでしょうが、知り合いのアンプの修理の際、2段目の差動増幅で1素子がマイグレーションを起こしていたときはDCはなく、出力がフルスイングしていました。

 修理は、ヒマだった2001年1月1〜2日でおこないました。M−10の初段は、入力がJFETの2SK194と2SJ61で、コンプリメンタリ差動増幅回路です。基板を外して付いているFETを横からながめますが、リードが黒くなっているようでもないので、銀メッキじゃなさそうです。ほかにも銀メッキを使ったようなアヤシイ素子はなかったです。まずはジャンク箱から2SK194の付いた基板を探しだし、回路図からは、たまたまIDssがよく似ているのが分かったので、交換してみましたが効果なし、症状は以前のままでした。

 次に2SJ61にとりかかりました。外したJ61の足の付け根を虫眼鏡などで見たんですが、マイグレーションを起こしているようすがありません。足の付いているモールドの表面をカッターナイフで十分に削り、再度取り付けてみましたが結果はやはり同じでした。マイグレーションは表面だけとは限りません。樹脂モールドの微小なクラック中にも起こります。

 原因はともかく、結局J61を交換してみなければなんともいえないんですが、手持ちにはなかったので上下(+−)左右(差動)の特性をそろえるため、2SK194は2SK147を2個、2SJ61は2SJ72を2個に交換することにしました。これまたIDssがそこそこ似ていたのが幸運です。もっともソース抵抗でさらに回路図に近い電流になっていくようです。で、通電して調整するとバッチリ、DCもノイズもぴたりとなくなりました。初段の各部電圧も回路図と似通っています。(それにしても、こうもトントン拍子にことが進むものなんだろうか)

 結論的には初段が怪しいという判断は当たりでした。本来なら同じ型番の同じグレードの素子に替えるのが当たり前ですが、すでに生産中止で半導体メーカーにはありません。アンプメーカーに修理を出せばいいのでしょうが、古い機械だし補修部品もないかもしれない、修理可能期間を過ぎているでしょう。もし直せるとしても修理代や輸送費、日数など面倒なことを考えると、ここは自分でやったほうがオモシロイでしょう。そして、とりあえず直ったことでもあるし。

 つなぎこみをして音出しをしてみましたが調子が良さそうです。長時間入れっぱなしで出力の電圧チェックをしましたが、気になるドリフトもわずかです。修理は右チャンネルだけなので音は出ますが、初段の素子ということで左チャンネルとの音質のバランスが心配ですが、今のところ意外と違和感はない感じです。トシだから、音質の違いもわからんのでしょう。気になるようなら左も同じ素子に交換すればいいのです。

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 このM−10は、EXCLUSIVEでは最低価格の製品でしたが、デザインが一番良かったです。M−4などはメーター枠がただの黒プラスチックでやたらと貧弱でした。M−10は枠がないですが、その分すっきりしています。それにメーターガラスが10mmぐらいの厚みがあって張り出しており、重厚な感じが出ています。製造はパイオニアで、当時売り出していた「ノンスイッチングアンプ」方式が採り入れられています。

 基板も、それらをつなぐ配線の取りまわしも整然として気持ちの良い作りです。図体のわりに入力から出力まで短い配線になるレイアウトで、かつパーツ交換もやりやすいです。とは言っても、基板の電圧チェックなどは簡単にはできませんが。

 難点と言えば、何と言っても良く切れるメーターランプだったです。明るかったものが球切れで暗くなった姿は、ほんとにみすぼらしいものです。交換用に常に何本かのランプをストックしていましたが、わずらわしくてLEDにしてしまいました。

 あと、メーターアンプやリレーなどの付属回路用の定電圧電源がものすごく熱くなることです。小さなコの字型放熱器がついていましたが、すぐに大きい放熱器に交換しました。

 発売が1977年らしいので、4年も経ってから購入していることになります。そのため、回路図にはない部品や配線も見つかりました。目立つものに、電源OFF時に入力端子をグランドに落とすリレーがあります。ACプラグをコンセントにさしたままピンコードを抜き差しして、入力トランジスタを飛ばした人がいたんでしょうか。電源を落としていても、わずかな誘導電流が流れて機器を壊すことがあるので注意しましょう。メーカーは販売していくうち、起きたトラブルに対する対策を後に製造する機器に施していくので、最初の設計と違ってくることがあります。


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