ステレオパワーアンプ TA−N86の修理 2001.1.16



アンプを分解、パルスロック電源ユニットを外すと中はごらんの通りさみしい。

右はアンプの動作確認のために作った仮電源。トランスが2台、1次巻線90V、2次巻線20V6A、ダイオードブリッジはKBPC2502、ケミコンが100V15000uF×4本で±30V出力。
これでどうして、なかなかの音が出る。



パルスロック電源の内部。トランスからのリード線がごちゃごちゃとうっとうしい。
この電源で、モノアンプ動作時には200W出力の電力をまかなう。
電気を食うパーツの熱はすべてケースに伝えられる(密閉だからそれしかない)。



電源基板をダイキャストのケースに組み込むところ。右はそれをアンプに取り付けたところ。



左上はアンプの裏を見たところ。電源ユニットが底板からはみ出している。
左下は修理後の通電状態。薄型のアンプを床に置くと、まるで海底にへばりついたカレイみたいだな。



やはりグリーンのランプのほうが良い。2台を重ねてみるとなんだかチグハグ。ちなみに2台ぐらいは重ねて使えるんだとか。
 右は手前のCDプレーヤをつないで音出しの最中。M−10のようにメーターのないのがすっきりしているというか、寂しいというか。

どうしても赤いパイロットランプが目立つ。だから、これからは「赤目」と呼ぼう・・。

 去年(2000年)の夏ごろでした。電源スイッチを入れたんですが、パイロットランプが点かずスピーカーリレーが動作しません。同じコンセントにつながっているもう1台のTA−N86は電気が入っています。 うーむ、直せるんだろか疑問だ・・。

 電源が入らないというのは一番困ります。しかもこのアンプはメーカーの言う「パルスロック電源」というやつです。この電源でアンプに必要な直流±45V(A級動作時は±21V)を作っています。ちょっとアンプの中をあけて電源出力を見ましたが、やっぱり電圧がありません。
パルスロックとは良くわからない名前ですが、要するに中身はスイッチング電源です。

 発売当時(1978年3月)は、オーディオファンの間ではスイッチング電源やデジタル回路などにアレルギーを示す人が多かったので、スイッチング電源などという言葉をそのまま使うのには抵抗があったのでしょう。
スイッチング系電源を使ったヤマハのアンプでも「X電源」などとネーミングしてましたね。しかしスイッチングタイプの電源はその後、さらにハイグレードのパワーアンプにも採用されました。
スイッチングノイズさえ克服すれば、軽量でコンパクトなことやレギュレーションの良さはアンプにとって魅力のある長所です。

 このTA−N86では電源部は、アルミダイキャストの電源ケースにそっくりそのまま収められて密閉され、スイッチングノイズが出ないようになっています。スイッチング電源という複雑な回路で、また、140Vの高電圧で動作していて怖いということもあり、さらに他に使えるアンプがあるため特に不自由していなかったので、そのまま手付かずで置いてありました。それが、M−10の修理ができたのに気を良くして、修理しようという気になったんです。

 まず、何がどうなのか。アンプ基板の一部にパルスロック電源を動作させるためのパワーを供給する一次整流回路があります。100Vを直接整流、平滑して直流140Vを作り、電源回路の入力として電源ケースの中に取り込んでいます。スイッチを入れればちゃんと140Vぐらいが出来ているのでここはOKです。
では電源かアンプか? パルスロック電源をアンプから取り外し、代わりにバラックで急ごしらえの電源をアンプにつなぐと、パイロットランプが点きリレーが動作します。CDプレーヤーとスピーカーをつなげば音も出ます。ああ、やっぱりパルスロック電源の故障でした。


高電圧にからっきし弱いボク・・・
 アルミダイキャストのケースにダイキャストのフタ、それを12本のネジでしっかり閉じてあります。ネジをゆるめ中身を取り出します。
うーん、、どこかに焼けた部品とかは、なさそう・・。 では線をつないでちょっと電気を入れてみる・・・気にもなりません。回路全体が100Vじか整流の140Vで動作してるんで馬力満々、万一感電とか、あるいは何かの拍子に部品の破裂とかはとても恐いです。
スイッチング出力の高周波トランス周りのリード線やコアなど、ゴチャゴチャしたところで何か外れていないか手にとってジロジロ見回しているんですが、そんなことで故障が見つかるわけはありません。

 仮に作った電源でアンプが動いている・・・・ 「これでも結構いけるじゃないか。スマートな電源に作り直してコネクタ接続にでもしてアンプに電力供給するとか。ついでだからチョーク入力の電源にしよう、一度作りたかったんだ。 ん?ならば、この際アンプを作ろうか、そのためのキーパーツも残っている・・・」 ああー あらぬ方向に・・・。

 
・・・初段は2SK147/2SJ72、終段は2SK134/2SJ49の10〜15W A級オールFETアンプを作ってみようかなという気になりました。片チャンネルに使うトランジスタはこれだけ、わずか4石ですが。
 回路は「無線と実験(現MJ誌)」1983年8月の新井晃氏の製作記事が参考です。電源はチョークインプット、手持ちのチョークコイルは2.5mH、電流は10Aぐらいまで可能。電源を試験的に作ったところでは、45VACならブリーダー電流が1.5Aぐらい流れていれば、40V程度の十分なレギュレーションの電圧になります。これは製作記事よりもかなり多く流すことになります。
チョーク入力は何と言っても電源ON時のスロースタートが魅力です。製作記事の通り、単電源なので抵抗とコンデンサで中点電位をつくりましょう。もちろん純然たるACアンプ用です。

 悩むところが両チャンネル別電源か共通電源かということです。別電源なら片チャンネル50〜60Wを消費せねばなりません。終段は当然パラになります。共通電源なら片チャンネル30〜40Wで済み、放熱が十分なら終段はシングルでもOKです。
しかし共通電源ではクロストークが心配です。特に終段は電流が増えたときに出力インピーダンスが下がって、電源電圧の影響が無視できなくなるような気がします。それに単電源は中点電位が崩れると、両チャンネル間のグランドに電流が流れる危険があり、しっかりした正負2電源が必要です。そうなると、まともなトランスがない・・・。 ちなみに製作記事ではモノアンプでした・・・。


 さて修理に戻って、このアンプを買ったのは82年。発売から4年が過ぎ、手直しされているところがあり、アンプ部は回路図とは若干違います。回路図にはない半固定抵抗が付いていたり、パターンが一部変更されています。 アンプ製作の下調べに飽きた数日後、「トランジスタが故障した場合は、外見で見分けがつかないこと(サイレントデスとか)があるからなぁ・・」などと思いながら、電源部を手に取り回路図と見比べていました。


こんなふうに故障が見つかるとは・・・
 バラしたままでずっとほうってあるので、いいかげん片付けたくなってきました。ほんとにジャンクにしてしまおうかと、目の前の電源部をながめながらそんなことを思っていたのですが、そのうち、レジストの抜いてあるランドでハンダだけが乗り、部品の足が突き抜けていない箇所が目にとまりました。3個のランドが集まっているところで、そのうち2個は足にハンダが乗っているのが盛りあがりでわかるんですが、残る1つのランドは真平で何もありません。

 初めは付けるはずの部品を付けないように、設計変更したんだろうぐらいにしか思わなかったんですが、でも部品側をのぞくとコイルの足が見えるので、あれ?部品があるのだ、と思いました。ちょっと見には基板の穴に刺さっているようですが、これはと思い、ドライバの先で引っ掛けて持ち上げてみると抜けてきました。
足の先端が黒ずんで、部品を通す穴も黒くなっています。どうやら、ここのハンダ不良が原因のようです。コイルの足が十分に穴を通り抜けていなかったため、ハンダが乗らなかったのでしょう。しかも足の先端がハンダに触れていたため最初は導通していたものの、使っている間の大電流で、ハンダにピンチ効果(だったかな?)が起きて断線状態になったのでしょう。黒ずみはその際のスパークの跡ですね。ここは後につながるインバーター回路への電力が通過しています。

 足を十分基板に通し、ハンダあげをして、そのままで通電は恐いので、ダイキャストのケースに元のように収め、テスト通電することにしました。アンプの1次整流出力をクリップでパルスロック電源につなぎ出力を測ってみたところ、見事に電圧が出ました。負荷をかけてみないとわかりませんが、多分直ったでしょう。

 電源をしっかり組み立て、アンプに組み込んで電源スイッチを入れました。が、ランプが点きません。ヤバイ、と思ったすぐあと、スピーカーリレーがカチンと音を立てて働きました。単なる豆電球の断線でした。
 フロントパネルの小さな穴に緑のプラスチックが埋めこまれ、ランプの光がそれを通ってくるので緑色に見えるんですが、この際LEDにしたいところ。しかし光の通る穴は1mmぐらいしかないため、これに合うような緑のLEDがありません。先端が細くなった赤のLEDがあったので、やむなく使うことにしました。

 組み立てが終わり、電圧チェックをしました。異常なしです。B級時の電源電圧を規定の45Vより控えめの42Vに設定しました。そのせいかどうか、終段のバイアス電流が少なかった(25mA)ので120mAほどに増やしました。規定は60mAですが、それだとA級動作は115mWまで。120mAでは460mWまでA級動作になり、普通に聴くかなりの部分をカバーできます。長時間、気持ちよく聴ける平均音量は、電力にして100mWぐらいですから十分余裕です。片チャンネルあたり10Wぐらいの消費電力で、これぐらいなら放熱器がほんのり温まる程度なので心配はありません。音もまあまあ。

 アンプの天板も取りつけ、修理完了です、めでたしめでたし。 ・・しかしまあ、偶然目が行った先で故障を見つけるなど、めったにないこと。直せるかなと思ったものさえ直せないことがあるのに、修理の見当もつかなかったのが直ってしまうのだから。
ことしゃ春からラッキーだわい。
 ただ、自作アンプの件は のど元過ぎればなんとか で、目下のところ停止状態。

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 このアンプはどちらかというと、新しもの好き用の機械という感じがします。スイッチ1つでB級ステレオ80W×2、B級モノ200W、A級ステレオ18W×2を切り替えるなどは、保守的なマニアには論外かもしれません。さらに薄型のデザインのため、電源がスイッチング方式となっています。
 中身も、とくに音質にこだわる作りとは言えないようでちょっと「やっつけ」ぽく見えます。基板のサイズやアートワークを、もう少し煮詰めてほしい気がします。基板の裏(ハンダ側)をみるとぞっとします。

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