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 観測所の中に入り、階段を上がって2階へいくと大きな望遠鏡がドームの真ん中にデンとあります。

 105cmのシュミット望遠鏡です。この望遠鏡は少し変わった形をしています。筒の先が少し細くなり、反射鏡のある下側が太くなっています。反射鏡は直径150cmあります。球面反射鏡で光が1点に集まらないのを、筒の先にある直径105cmの補正板で修正します。
 変わっているのはこれだけではなく、焦点が望遠鏡の中にあるのです。そのため天体を、通常目で見ることができません。焦点のある場所(すなわち望遠鏡の中)に、写真の乾板やCCDを置いての観測になります。乾板の場合は光が勝手に当たるとまずいので、筒の先にあるシャッターを閉じておきます。そして必要なときに必要な時間だけシャッターをあけるのです。ちょうど望遠鏡自体がカメラのようになっているんですね。だからシュミットカメラとも呼ばれます。
 乾板はガラス板に感光剤を塗った36cm角の大きなものです。したがってイメージサークルは50cm以上にもなるんです。CCDは2Kと呼ばれる5cm角400万画素のものが使われています。市販のデジカメやビデオカメラに使われるCCDに比べたら巨大ですが、これでも乾板と比較すると、面積にして50分の1以下しか写せません。現在はこのCCDを複数使用して、乾板並みの撮影面積を持つモジュールを開発中とのことです。


 1階では複数の光ファイバを使って、一度に多くの天体を分析する方法を解説していました。また、CDを使って光線を分光する原理の説明と、実際の器具が展示されていました。分光というと何やらいかめしいですが、CDの表面に光が当たると、見る角度によって虹色に光が分かれる、あの現象のことですね。
 ここでクイズの解答用紙をもらいました。問題が7問、ドームと本館のあちこちに掲示されてて、全問正解だと何かがもらえるということで、見学に来た子供たちや大人まであちこちをうろうろ(私もですが)しておりました。答えも展示物の中にあるとのことで。
 私は苦労の甲斐あって全問正解、きれいな絵葉書セットをもらいました。すべてここのシュミット望遠鏡で撮影されたものでした。

 さて、夕方からはここで星空観望会です。・・待ち遠しいな。


この中の天体もクイズの1つ・・

 最後は本館です。ここは天体研究のための設備があります。そして、宿泊もできるようになっています。特別公開のため、玄関ロビーには宇宙や天体について解説した掲示物がパネルや壁一面に並べられていました。
 特に目を引いたのは、シュミット望遠鏡で撮影された天体を畳半分ぐらいにまで引き伸ばして、パネルにしたものでした。あんなに大きなサイズなのに、元が36cm角の乾板だけあってとても鮮明にできあがっていました。
 玄関前のピロティー(?)には受付けがあり、その隣りには天体写真やパネル、記念切手の販売コーナーがありました。また、休憩用にいすが並べられてあり、そこでは天体に関するものや天文台の紹介ビデオが上映されていました。
 そこでビデオを見ながらしばらく休んでいたのですが、からりとしたとてもさわやかな風が吹いていました。ここは標高1130m、30度を超す下界からみると天国のようです。


 観望会までには時間があるので、上松(木曽福島へ行ったほうが良かったのかも)まで足をのばし、ガソリンの補給と食料を買い、夕食を済ませました。
 おみやげには不自由なかったんですが、国道沿いや駅前あたりにはスーパーらしきものがなく、見つけたコンビニの弁当・おにぎりコーナーにも2、3個しかありませんでした。5時近いので店員さんに「弁当の入荷は何時ごろですか」と聞いたら、「朝だけです」との答え。ぶったまげました。しょうがないので店員さんのもくろみ通り、残っている弁当(そば寿しとそば弁当)を買いました。

 夕方7時をまわった頃、観測所に着きました。ドーム横の空き地には16cmのニュートン望遠鏡1台と双眼鏡2台があり、もう30〜40人ぐらいが集まっていました。昼間多かった雲も晴れてきて、空が暗くなるにつれて火星・アンタレスやアークトゥルス、夏の大三角などが見えてきました。

観測のため開いたドーム 天文台南東側の広場に集まった人たち

 ドームの中ではシュミット望遠鏡のセッティングが行われていました。シュミットカメラの場合、望遠鏡がとらえた天体をリアルタイムで見るにはCCDしかないんですが、そのかわり望遠鏡から離れたところで大勢が、モニタで見ることができます。

 最初は2階の制御室でモニタを見ていたんですが人数が限られるのと、制御室を明るくするとドームの中も明るくなるので1階に移ることになりました。1階からもモニタを見ながら望遠鏡をコントロールできるんです。
 1階では十数人くらいが係の人から説明を聞きながら、シュミット望遠鏡のCCDが捉えた天体画像を映しだすモニタに見入っていました。ここで使われたのは赤外線カメラで、前述の2KCCDより小型の100万画素のもの(らしい)です。係の人からは、CCDにセットされているフィルターを替えて同じ天体を違った赤外線の波長で撮影し、その違いから天体をより詳しく観測することができるとの説明がありました。

 外の広場に行くと、係の人たちが望遠鏡や双眼鏡をあちこちの天体にセットしては、順番を待っている見学者に見せていました。9時近くにもなると真っ暗です。気をつけないとたたずんでいる人にぶつかりそうになるんです。その分星がとてもよく見えました。天の川が浮き上がるように見え、星が近いという感覚です。ただ、上松か木曽福島の上空と思われるあたりの空が、うっすらと白んで見えました。夜天光観測所で聞いた人工光が増えているという話を思い出しました。
 その夜天光観測所のそばにスライドルーフのついた天体観測場があります。そこでは25cmから30cmくらいのシュミットカセグレンと思われる天体望遠鏡が動いていました。パソコンでコントロールされ、そのソフトは・・The Skyでした(!)。ここでも係の人があれこれと、いくつかの天体を見せてくれました。
 見学者の中には、望遠鏡を使えば星雲などが写真で見るようにはっきりと明るく見えるもの、と思っている人がいました。でも太陽系の主だった惑星やいくつかの天体を除いて、多くの星雲のようすはおぼろげながら見える程度です。それでもじっとがまんして視線を少しずらすなど工夫をしていると、しだいに見えてくるようになることがあります。これが望遠鏡をのぞく楽しみじゃないかと思います。

 観望会はまだまだ続きますが、帰路220kmが気になります。9時半過ぎ、後ろ髪を引かれる思いで駐車場に続く真っ暗な夜道を、そろりそろりと歩いて行きました。


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